W-DESTINY_第05話

Last-modified: 2009-08-28 (金) 02:53:05

何故、ただ連絡するだけで、こんな憂鬱な気持ちにさせるのか、嫌な仕事だと思う。
最初はラクス・クラインを誘拐の指示を伝えるだけだった。それでも、殺人に生き甲斐を持ってるような少女は不満を漏らした。それを何とか宥めて了承させたというのに……
核ミサイルで、アプリリウスを落とした後、プラントは頭を失い混乱するはずだった。そこで、ラクスを上手くいけば傀儡として使い、もし拒絶してもラクスを人質に使うことで、その後に起きるであろうザフト残党のテロに備える予定だった。
しかし、プラントへの攻撃が失敗して作戦は中止を余儀なくされていた。
だから、任務の一時中断、それを伝えるだけで良いのだが、相手はまともな神経を無くした狂人だ。
下手したらこちらに被害が及ぶことがある。だから、出来るだけ刺激しないよう、伝えたのだが…

「ふざけないでよ!何で作戦中止になるの!」
「仕方無いだろ、プラントへの攻撃が失敗したのだから」
「悪いのは失敗した連中じゃない!」

思ったとおり、癇癪を起こして手にしていた精密ドライバーを投げ捨てる。さっきまでテーブルの上にあった道具のメンテナンスに使用していたものだ。
テーブルの上には、見るからに金属製で、歪な形の円柱状のものから細長い筒が4本出ていた。長さは1㍍余りで、ガトリング銃に見えるが、それにしては持つ所が見当たらない。
それを見ていた連絡員が怒りを逸らすためと好奇心から、癇癪を起こした少女に質問する。

「ところで、テーブルにある物は?」
「へ?これ?……『右腕』の一つだけど」
「……それを今付けている右腕と交換するのか?」
「うん、こうやって……」

そう呟くと『右腕』の肘から上の部分を弄ると『右腕』がはずれ、代わりにテーブルの上にあった物を取り付ける。
肘から先を巨大な銃器に変えて、嬉しそうに腕を振り回す。真っ直ぐに腕を伸ばせば床に届くサイズだが、長さを把握してるのか床にか掠めることさえなかった。
そして、銃口をこちらに向けて微笑む。

「カッコイイでしょ♪」
「……何なんだ?それは?」
「何って……重機関銃…マシンキャノンとも言うけど…」
「お、重くないのか?」
「ん~重さは40㌔くらいかな~見た目ほどは重くないよ。科学の進歩を感じるね♪」
「充分重いさ……よく、そんな物を片手で振り回せるな……」
「何、言ってんだか……そんな事が出来る体にしたのは誰よ?」
「私じゃない事は確かだ」
「うん、アンタを使って命令してくる人だね」
「まあ、それより、そんな物を何に使うんだ?」
「何って……色々かな?弾丸は20㍉だから戦車あたりだとキツイけど……装甲車程度なら…」
「20㍉って…MSのCIWSと同じサイズだろ…」
「は?20㍉の重機関銃は旧世紀からあったよ。つーか普通」
「……それより今回の君の任務は誘拐だったはずだが?そんな物が必要なのか?」

当然の疑問だと思う。何で誘拐するのに、そんな重火器が必要になるか理解できなかった。
相手が、どこかの要塞で暮らしているならともかく、ラクス・クラインが生活しているのは何の変哲もない孤児院のはずだった。

「それなのよ~ラクス・クラインを誘拐したら後は好きにして良いって聞いてたからぁ、折角さぁ孤児院って事でハンバーグを用意しようかと思ったのに…」
「……話が見えないんだが?」
「だから~、子供ってハンバーグ好きじゃない、だからコレで挽肉を作ってやろうかと…」
「………たしかに、それで撃たれたら人間の体などミンチになるな……」
「でしょ~!あ~あ、作りたかったなぁ~キラ・ヤマトのハンバーグ!」
「……良い趣味とは言えんな……」
「ハンバ~グ~~♪」

傷だらけの顔に狂気を滲ませた眼で歌う少女を見ながら、連絡員は早く担当が代わらないかと切実に願っていた。


アスランがアプリリウスに到着したのは、戦闘が終結して半日後のことだった。到着前に面会の申込みをしていたが、予定時刻より1時間経過してもデュランダルは現れなかった。気は急いていたがデュランダルの事情も理解しており、黙って待ち続けた。それから30分が経過すると、ようやくデュランダルがアスランの前に姿をみせ、アスランの向かいの椅子に腰を掛けた。

「すまなかったね。随分と待たせて」
「いえ、そちらの事情も理解しています。それより本当ですか核攻撃を受けたという話は?」
「ああ」
「そんな…まさか…」
「と言いたいところだがね、私も…だが事実は事実だ」

アスランの耳に核攻撃を受けたとの噂が届いた時、アスランは直感的には信じた。だが冷静になると、信じられない気持ちの方が勝っていた。先の大戦で核とジェネシスの不毛な撃ちあいをしておきながら何の学習もしていないとは思えなかったからだ。

「君もかけたまえ、アレックス君。ひとまずは終わったことだ。落ち着いて」
「…は、はい…」
「しかし…想定していなかったわけではないが、やはりショックなものだよ。こうまで強引に開戦されいきなり核まで撃たれるとはね」
「そうですね……私も同じ気持ちです」

そうは答えたが、アスランの本音はショックより呆れる気持ちの方が大きかった。何も得られない撃ち合いに何の意味があるのだろう?

「この状況で開戦するということ自体、常軌を逸しているというのに。その上これでは……これはもうまともな戦争ですらない」
「はい…」

デュランダルの言葉どおりだと思う。これは戦争ではない、戦争とは国と国が相容れぬ目的を持ち、他に手段が見つからない場合、または最も効果的と認められた場合に行う手段のことだ。
だが、これは違う。たしかに戦争でも行き過ぎた行為で大量虐殺『ジェノサイド』が起こる。しかし今回の核は旧世紀の『民族浄化』の類だ。戦争における大量虐殺のレベルでは無かった。

「連合は一旦軍を引きはしたが、これで終わりにするとは思えんし。逆に今度はこちらが大騒ぎだ。
 防げたとはいえ、またいきなり核を撃たれたのだからね」
「それはそうでしょうが、……この攻撃、宣戦布告を受けてプラントは、今後どうしていくおつもりなのでしょうか?」
「我々がこれに報復で応じれば、世界はまた泥沼の戦場となりかねない。
 解っているさ。無論私だってそんなことにはしたくない。だが、自体を隠しておけるはずもなく、知れば市民は皆怒りに燃えて叫ぶだろう。許せない、と」

アスランの脳裏に血のバレンタインの悲劇が蘇える。自分も激しく感じた怒り。母を奪った者への憎悪に戦場に身を投じたこと、今プラントには、かつての自分と同じ思いをしている者に溢れているだろう。

「それをどうしろという。今また先の大戦のように進もうとする針を、どうすれば止められるというんだね。既に再び我々は撃たれてしまったんだぞ、核を」
「……それで、ラクスが必要だったんですね?」
「そうだよ……だが、彼女は来なかった……」

落胆を隠せずデュランダルが俯く、アスランは罪悪感を感じた。今、デュランダルは泥沼の戦いに突入するのを防ごうと必死なのだろう。
怒りと憎しみだけでただ討ち合ってしまったら駄目だ。これで討ち合ってしまったら世界は再び何も得るもののない戦うばかりのものになってしまうだろう。そんなことはデュランダルも充分に承知している。
今、アスランがするべきことは、戦争の回避を訴えることでは無い。同じ目的を持つこの人物に出来るかぎり協力することだと思った。

「俺はアスラン・ザラです」
「ん?」
「二年前、どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らした、あのパトリックの息子です。
 父の言葉が正しいと信じ、戦場を駈け、敵の命を奪い、友と殺し合い、間違いと気付いても何一つ止められず、全てを失いました」
「アスラン…」
「そして、今回の発端となった事件、ユニウス7の犯人達ちのことはお聞きですか?」
「そのことは聞いている。シンの方からね。君もまた、辛い目に遭ってしまったな」
「いえ違います。俺はむしろ知って良かった。でなければ俺はまた、何も知らないままでした」
「アスラン。君が彼等のことを気に病む必要はない」
「ありがとうございます。ですが、やはり受け止めるべきとは思います。未だに父の言葉を信じている者がいることを」
「そんなことはないさ、ユニウス7の犯人達は行き場のない自分達の想いを正当化するためにザラ議長の言葉を利用しただけだ。だから、君が気にすることではない」
「はい…気にしない、と言えば嘘になりますが、押しつぶされないようにはしたいと思ってます。
 そして、アスラン・ザラとして出来る事をしたいのです」
「うむ……」

デュランダルはアスランを見つめた。今回の事件は彼に精神的な負担を与えていると思っていたのだが意外としっかりしている。それどころか、以前の足が地に付いていない様な不安定さが身を潜めているように見えた。

「それに、自分なりに父やユニウス7の犯人達のことを考えたのですが……」

アスランの話を聞きながら、デュランダルは驚きを覚えていた。これだけ世界の事を見ているとは思っていなかった。
2年前の大戦後、デュランダルはアスラン等の弁護をしたが、それでも彼等の軽率な行動には不快な思いもしていた。確かに仕方が無い面もあったし、彼等の正義感は尊重するが、後の事を考えずに反旗を翻し、後始末を他人に委ねるなど、押し付けられた立場の一員でもあるデュランダルにとっては笑えない出来事だったのだ。
そのためデュランダルにとって、アスランとは思慮の足りない他人の意見に流されやすい脆弱な心の持ち主というのが彼の人物評であり、先日の再会でその評価はより強いものとなっていた。
しかし、今の彼と話して、その認識を改めざるを得なくなっていた。ブレイク・ザ・ワールドの後、何かあったのだろうか?いや、それだけでは無さそうだ。オーブで代表の側近を務めるうちに政治のことも身に付けていたのだろう。
そして、デュランダルに希望が見えてきた。ラクスの影響が大きすぎて自分たちが言っても民衆に届かないが彼なら……いや、パトリックの息子で穏健派と過激派の双方に影響のある彼の方が…

「アスラン、君は先程アスラン・ザラとして出来る事をしたいと言ったね?」
「は?はい、言いましたが?」
「では、頼みがあるのだが……」




連日の会議続きで、カガリは流石に疲労を感じていた。別に何かをするわけでも意見を言うのでも無かったが、体を動かさずにジッとしているのは性に合わないのだ。
そして、私室でストレッチをしていると部屋をノックする音が聞こえ身を正す。

「入れ」
「失礼します。代表」
「ユウナか……どうした?」
「ええ、最近、会議で全く意見を述べられないので心配しまして」
「そのことか……私よりお前の方が良い判断をする。それだけだよ」
「……ミネルバでの事を気に病んでおいでで?」
「……アスランに聞いたのか?」
「流石に気になりましたので……あまり気になさらないように」
「そうもいかんだろ……あれは私の罪だ」
「代表……」
「あのとき私は父を失い、自分が不幸だと思っていた……だが、私より辛い目にあってる人間がいる事に目を逸らしていたんだ。本当は私の所為なのに……」
「ですが、過去を変える事は出来ません。今は…」
「判ってる。だから下手な意見を言わずに自重してるんだ」
「……そうだったのですか」
「すまない…私は本当にバカだから……すぐにカッとなるし、迷惑かける」
「いえ、そういうことなら何も言いません。ただ、お辛いでしょうが公務には必ず出席してください」
「うん、わかってるさ。悪事を働かないように見張るぐらいは私にも出来る」
「そうして下さい」

ユウナは笑みを漏らした。良い方向に成長していると思う。自分を過信するのもいけないが、自分を低くみる者は投げやりになって、何事にも真面目に取り組まなくなる傾向が多い。
しかし、カガリは自分に出来ないことは任せるが、自分に出来ることは着実にこなそうとしている。
人の上に立つ者として大事な事だと素直に思えた。

「ところでユウナ」
「はい?」
「お前、私の事を怒ってるのか?」
「は?…何故そのように?」
「それだよ。お前、私と二人のときは敬語なんか使わなかっただろ?」
「ああ……これは、何と言うか…男の約束です」
「…は?……何だ?それは……」
「行き過ぎかなとは自分でも思いますが……代表は、お気になさらないで下さい」
「……まあ、お前がそう言うなら……」
「そんな事より、もうすぐ時間です」

ユウナが時計を指差すと、プラントでの議長の演説の時間が近づいているのに気付いた。
先の核攻撃に対し評議会の考えをプラント国民に伝えるのが名目だが、全世界で見られるようになってる事から、おそらくプラントの姿勢を各国に伝える役目もあるのだろう。

「議長は何と言うだろうな…」
「……デュランダル議長は穏健派で知られてますが、国民は納得しないでしょう」
「……やはり、徹底抗戦を叫ぶか」
「そりゃあ、核を撃たれてますからね……そうしないと議長の首が代わる事になります」
「うん…そうだな……」

沈みがちな気持ちを奮わせ、TVのスイッチを入れる。内容の想像は付くが、見なくてはいけない。
やがて、時間になり、演説用のテーブルの前に1人の男が立った。しかし、それは議長のデュランダルでは無く、カガリとユウナの良く知る人物だった。

「は!?…何で!?」
「ア、アスラン!?」

そこにはプラントの評議会議員の服を着たアスラン・ザラが立っていた。

『みなさん、突然、私のような者がこの場にいるのを驚きとは思いますが、今日はデュランダル議長に代わり、このアスラン・ザラがプラント評議会の見解を述べさせていただきます』

「何で、あの人が?」
「え!プラントに戻ってきたの?」

カーペンタリア基地で停泊中のミネルバでも放送は流れており、シンはルナマリア等と共に放送を見ていた。

『もう、お気づきとは思いますが、私は先の大戦中に最高評議会議長を務めたパトリック・ザラの不肖の息子で、同時に父に逆らいラクス・クラインと共に戦った。あのアスラン・ザラです』

「アスランは何を言う気なんだ?」
「僕に聞かれても……」

あまりの驚きにユウナは『男の約束』を忘れ、素が出てしまっていた。

『そして、今日、私は皆様の前でパトリック・ザラの意志を継ぐことを表明します!』

「――!……ア、アスラン?」

カガリは自分の耳を疑った。だが、聞き間違えでは無い。たしかに戦争は覚悟していた。
しかし、これは?よりによってパトリックの意思を継ぐなんて…

(……何考えてるんだよ)

今すぐアスランの元へ駆けつけ殴りつけたい気分だった。

『では、父の意思とは何か?、不肖の息子なりに父の考えを知ろうと思いました。
 そもそも父、パトリックが歴史の表舞台に現れたのはCE50年にシーゲル・クラインと共に自治権や貿易自由権の獲得を訴え「黄道同盟」を設立したときです。

 これは反コーディネイターを訴える組織によるテロ事件が発生しても、自治権がなく、非武装が徹底されているプラント側には対抗手段はなく、コーディネイターの間に不満が高まったからであります。

 しかし、これに対し理事国は、黄道同盟の活動を圧殺することで、先の要求に聞く耳を持ちませんでした。それだけでは無く、大西洋連邦宇宙軍(FSF)、ユーラシア宇宙軍、東アジア共和国航空宇宙軍の合同軍、つまり後の地球連合軍の前身がプラント宙域に駐留開始し、プラントの、地球へのエネルギー・工業製品供給地化を進め、プラントに重いノルマを化すような政策を進めたのです!

 さらには!プラントのエネルギー生産部門が、ブルーコスモスのテロにより破壊されたおりも、評議会の理事会に一時的な輸出停止を申し入れに対し理事国側は拒否!プラントは深刻なエネルギー危機に陥ったのです。
 まるで家畜!いえ、それ以下の扱いです!
 この扱いに不満を持ったプラント技術者が一斉サポタージュをしても何の不思議がありましょうか?
 しかし、それにさえも理事国はモビルアーマー部隊でプラントを威嚇するという、姿勢なのです!』

その後も、パトリックがブルーコスモスのテロに殺されそうになったこと。食料の輸出制限を行いプラントを圧迫し続けたことを訴え続け、聞くものに連合への憎しみを増幅させる演説が続いた。

「ほんと、改めて聞くと、ひでぇ話だぜ」
「まったくだよ!」

シンの耳に周りの会話が入ってくる。確かに酷い話だ。オーブで生活していたシンには実感が湧きにくいが、アスランの演説を聞いてると、沸々と怒りが込みあがってきていた。
シン以外の者に至っては自分の経験や両親等の話で知っているため、よりアスランに同調していた。

アスランは更にプラントに対する連合の行いを言い募った。

『……マンデルブロー号事件、南アメリカから食料輸入を行おうとしたプラント籍の貨物船団を理事国側が撃沈した事件を機に父はZAFTを解体・再編成しプラント内の警察的保安組織と合併、モビルスーツを装備した軍事的組織へと変えて行きました。これが今のザフト軍です!
 これはプラントの民を守るための当然の行為だと確信しています。

 現にシーゲル・クラインがプラント内での食料生産のため、ユニウス市の7~10区が穀物生産プラントに改装し、プラントの食料生産開始した際も、理事国側は実力を行使してもこれを排除すると勧告してきてるのです!

 ですが、理事国側がプラントに対し威嚇行動に出たとき、ザフト軍のMSジンで宙域に駐留していた理事国の宇宙軍を排除する事に成功しました。
 私はこの事を誇りに思います!

 ここに至っても理事国側は、プラント側の完全自治権の獲得及び対等貿易の要求を拒絶し、プラント側が物資の輸出を停止すると、宣戦布告し、月面のプトレマイオス基地より侵攻開始しました。

 そして、あの「血のバレンタイン」の惨劇が起こります。

 ……私は、あの事件で母を……つまり父は妻を失ったのです』

 

カガリはモニターを見つめながら、血の気の引く思いだった。この演説を聞いたプラントの民は怒りに震えているだろう。そして、その怒りは連合と、それに組するオーブにも向く事になるのだ。

「アスランは何で、こんなことを……」
「わからないね。ただ、プラントでは彼に同調している人間で溢れているだろうさ」

『そこで、皆さんにお尋ねしたい……父の目的は何であったのか?……』

突然の質問にシンは戸惑った。急に目的はと問われてもすぐには出てこない。
横にいるルナマリアに聞いてみるが…

「何だろ?」
「え?私に聞かれても……」

『先日のブレイク・ザ・ワールド事件のおり、私はユニウス7の破砕作業に参加しました。
 そして、事件の犯人がこう言ったのです。『我等コーディネーターにとってパトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきもの』と……では彼の言うパトリック・ザラの執った道とは何でしょう?……これはナチュラルを滅ぼそうとした行為を意味するものと思います。事実、父は生前、私に対しナチュラルを滅ぼすのだと明言しています。

 では父の目的とはナチュラルを滅ぼす事でしょうか?……違います。滅ぼすという行動は手段であって、目的ではありません。目的とは状態のことです。

 では父の目指した状態とはナチュラルの存在しない世界でしょうか?……確かに、まったくそのつもりが無いといえば嘘でしょうが、それでは矛盾があります。

 矛盾とは父の行動です……ニュートロン・ジャマー・キャンセラー、これの登場により、再び核が使えるようになったのは皆さんも、ご存知の事と思います。
 そして、アレはザフトが開発したものです。

 ……お気づきでしょうか?…父は一度も核ミサイルを撃っていないということに。

 確かに、代わりにジェネシスを撃ちました。
 しかし、これも核攻撃を受けた後で、率先して使ったのではありません!

本当にナチュラルを滅ぼそうとする人間が、何故核を撃たず、ジェネシスの使用に躊躇うのですか?
 これは、明らかな矛盾です!』

『そこで、改めて問います……パトリック・ザラの目的は何であったか?

 ……実は簡単なことです。私が最初に言ってるのですから。

 そう!父の目的とは後のザフトとなる黄道同盟を作った理由から明らかなのです!

 すなわち、プラントの自治権や貿易自由権を獲得すること!

 何故、それらを獲得する必要があったのか!?

 それはプラントの民の生活を良くするため!

 つまり、プラントで圧政に苦しんでいた民が当たり前の権利を持ち、平和に暮らせる状態にする!

 それこそが目的だったのです!

 皆さんは私が父の目的を問うたとき、すぐに答えられたでしょうか?
 ……おそらく多くの方が、連合の非道に憤り、私が最初に言っていた答えを忘れていたのではないでしょうか?
 父も同じです。最初に掲げていた目的を見失い、連合への憎しみへ囚われてしまったのです。

 その典型がニュートロンジャマーの投下です。これは連合に核攻撃をさせないとの名目が有りましたが、かつてプラントがエネルギー不足に苦しんだ事への報復も含んでいるのです。

 その行為はプラントの民が当たり前の権利を持ち、平和に暮らせる状態にするという目的に沿ったものでしょうか?
 残念ながら違います。ニュートロンジャマーを投下したことで、地上では多くの人が餓死や凍死するなどコーディネーターへの憎しみの温床になったのです。

 その結果、後は、血で血を洗う、泥沼の戦いに突入していくのです。これは、明らかに目的を見失ってると言えます!』

『人は容易く道を見失います。これは父に限ったことでは、ありません。先の大戦で争った連合軍、そして、ラクス・クラインの率いた私たちもそうなのです。

 元々、連合は理事国として、プラントとの外交の利益を守るため戦ったのです。これでコーディネーターを滅ぼしては、意味がありません。

 そして、私たちはナチュラルとコーディネーターの共存のために戦いました。その為には争いを止める必要があったのです。しかし、争いを止めることに目が行きすぎ、その後のことにまで考えが及びませんせした。

 情けないことに、まるで子供のケンカのようです。頭にきたから殴り合いを始め、やがてはケンカの理由さえ忘れて殴り続け、ついにはケンカを止めろと別の者が殴って止めた……これが2年前の大戦の実情です。

 もう、こんな愚かな争いは止めなくてはなりません!

 そのためにも私は父の本当の意思!プラントの民が幸せに暮らせる状態を目指すためにザフトに戻ってきたのです!

 それが私が父の意思を継ぐという意味です!』


キラはラクスとバルドフェルトと共に演説のTVをジッと見ていた。二人が悩み続けて未だに見つけられない答え……アスランは見つけたのだろうか?
隣で演説を見ていたバルドフェルトは苦笑しながら呟いた。

「子供のケンカか……悲しい事に反論できんな…」
「……ですが!」
「今は彼の話を最後まで聞きましょう」

ラクスは不服そうに声を上げるが、バルドフェルトに制され沈黙している。キラにはその姿がとても非しげに見えた。

『皆さん、お分かりでしょうか? 最初、民の幸せを願いながら、何故に父は道を見失ったかを!

 それは、今の皆さんと同じ思いだったからでは無いでしょうか?

 先の戦いで我々は再び核を撃たれました。信じられない事です!許せない事です!

 それでは、自分が核に撃たれようとも、相手に同じ思いをさせることを望んでいるのですか!?

 そして、父と同じように泥沼への争いに身を投じることを、お望みですか?いえ!違うはずです!

 我々の望みは核で命を脅かされないようにする事ではないのですか!?

 ご安心ください!評議会はすでに、その問題は解決済みです!こちらを、ご覧下さい!』

モニターの画面が変わると、宇宙空間に核のマークが印された物体が並んでいた。

『これは、核動力の発電機です。このままミサイルにすることも可能ですが、意味が無いので止めています。そして、向うに見えるナスカ級戦艦に取り付けられた物体をニュートロンスタンビーターと呼ばれる物です。その効果は名称通り』

アスランが言うと、ニュートロンスタンビーターが稼動し、核動力の発電機を爆発させていった。

『これは、核攻撃を受ける事を想定し、ザフトで開発したものです。もし、敵が核ミサイルや核動力の武器を使用したら、自らの力で地獄へ行くことになります』

再び画面がアスランを映すとアスランは自身に満ちた表情で断言する。

『今回は使うまでもありませんでしたが、すでに対策はされていたのです。核を撃たれたからといって慌てる必要はどこにも無いのです。
 お分かりですか?評議会は皆さんの安全を考え、最善を尽くしています。決して自棄になって復讐を望んだりしないようにお願いします』

「たしかに用意はしてたようですが…」
「ああ、充分にテストもしていなかったがね。だが嘘は言っておらんよ」
「まあ、市民の怒りは収まったようですな」
「ああ、上手くいったようだ」

落ち着いて話を聞く市民を見ながら話すゼクスの声に、デュランダルは嬉しそうに答えた。だが、すぐに表情を引き締める。

「だが、これからだよ。今は怒りを静めたにすぎん。このままでは一寸した切欠で爆発するだろうさ」
「……だからこそ、敵がいると?」

『ここで全世界の皆様に宣言する件があります。一つは先の説明で判る様に我がプラントに核を撃つ者は死を迎えるということ。そして、もう一つは、ニュートロン・ジャマー・キャンセラーの設計を公開するということです。
 理由は、すでにプラントに核は脅威で無いということ、そして、先の大戦で我々が使ったNJの影響で、今もなお、地上ではエネルギー不足に苦しんでいる地域があるからです。
 我々は、その苦しみを知っています。我々も同じ目に理事国から合わされたのですから……
 これは、本来ならザフトから流出したNJCの技術を持つ、大西洋連邦が行うと思っていたのですが、何故か、その技術を独占して、苦しんでいる地域の人に手を差し伸べようとしないからであります』



「そうだ、連合にも言い分があることくらい分かってるさ、ブルーコスモスにもね……それでも、我々と相容れぬならば、戦わねばなるまい」
「……それで、私が話したOZの戦略を応用して……」
「……嫌いかね?私の…いや、私達のやりかたは?」
「……正直、好きではありませんが理解はしてます」
「それで充分さ、私たちも同じなのだから……それより、君に頼みがあるのだが……」

『ユニウス条約以降、プラント評議会では地球の各国と友好な関係を築かんと日夜努力を続けてきましたが、互いの怨恨は深く、話し合いさえ出来ない状態が続いています。
 何故なら、皆さんも知っての通り、連合の各国の首脳にブルーコスモスの信者が蔓延しているからです。
 彼等はコーディネーターを認めないばかりか、そうでないナチュラルにもコーディネーターを憎ませるために様々な手段を講じてきます。
 この、NJCの技術独占もその一つなのです。
 我々は、これを許して良いのでしょうか?我々は知ってるはずです。エネルギー不足から来る苦しさを……
 我々は、これを容認して良いのでしょうか?同じ苦しみを持つ者が私たちを憎むように誘導されていることを?
 そして、誘導しているのは私たちを苦しめた者なのに!?

 彼等は卑劣にも自らは前に出ず、後ろから普通の人を戦わせ!盾にし!我々を苦しめながら、同時に我々を憎む人々を増やそうと画策しているのです!

 その典型が先日の核攻撃です!一般の兵士を矢面に立たせ囮にし、自らは安全な場所から近づき核を撃つ!
 我々コーディネーターにはナチュラルを憎むように!そして囮にされた者の生き残りや、囮にされ死んでいった者の家族や友人にはコーディネーターを憎むように仕向けているのです!

 そんな姑息な手に引っ掛かって、互いを憎みあうなど愚なマネはできるはずが無い!

 ……では、どうやって敵を見つけるか?……それが非常に難しいのです。何しろ敵は後ろに隠れている卑怯者なのですから……』

「……子供扱いの次は卑怯者か……言ってくれる!」

ロード・ジブリールは口元を歪めながら吐き捨てる。自分たちの都合の良い話だけしておいて、こっちは悪役にする。腹立たしいが同時に感心もしていた。

「口惜しいが認めよう上手い手だと、明らかに君たちは優位に立った……だが、こちらにも手はある」

『先程私は、議長から直々にプラントの親善大使となるよう使命されました。
 ですから、私は地上に降ります。そこで、ブレイク・ザ・ワールド事件の復興の手伝いと共に、望む国にはNJCだけでなくMSを含めた武器を提供し、和平を結んで行きます。

 そして、それを邪魔する者を敵と認識します!

 ……困難な闘いになるでしょう。何時終わるかも判らない長い戦いになるやも知れません……ですから、皆さんは冷静に対処していただきたい!

 我々コーディネーター…いえ、ナチュラルも含めた全ての人類の未来のために!』

「信じられないわね……これが、アスラン・ザラなの?…ミネルバにいた時はあんなにヘタレだったのに」
「これが本性かもしれんぞ。何しろ英雄と称されたほどの人物だ」

レイはそう言うが、ルナには納得出来なかった。ルナにとってアスラン・ザラとは髪の毛の薄い、足手まといで、お邪魔虫の人間だ。

「シンはどう思う?」
「……どっちでも良いよ」
「……何で?アンタ仲良かったじゃない、気にならないの?」
「別に仲良くなんか……」

シンは演説を終えようとするアスランを見ながら、オーブで最後に会ったときの事を思い出していた。
あの時、自分と同様、これからの事に悩んでいた男が今は皆を導く立場になってしまった。それに比べ自分は……何故だか、自分が置いていかれた様な寂しい気分だった。


演説の終了を見て、カガリはふっと溜息を漏らした。一時はどうなるかと思ったが、アスランがナチュラルとの共存を訴えているので安心していた。
何とか全面戦争は避けられそうだ。だが、オーブはどうすれば良いのだろう?

「ユウナ…!」
「………………………」

ユウナに話しかけようと振り向くと、今まで見たことも無い程、険しい顔のユウナがそこにいた。
どういうことだろう?ユウナの表情から、自分の気付いていない大変な事態が待ち受けている予感がしていた。

(お、終わった……)

アスランは慣れない役目を終えると、ふらつく足取りで歩いていた。喉が痛い、胃も痛い、自分のしたことが信じられない気分だ。まるで、夢を見ている気分だ。何て偉そうなことを言ってしまったのか…
こんなのは絶対に自分の性に合っていないと、空しい自信だけはある。

「水をどうぞ」
「あ、ありがとう」

ちょうど、喉が渇いていた。差し出された水を一気に飲む。すると、どっと汗が吹き出してきた。額の汗を拭いながら、髪をかき上げると指先に抜け毛が付いていた。

(また、カガリに笑われてしまう)

そして、冷静になってくるとカガリの事を思い出した。今回の自分の決断が彼女を苦しめると知りながら、あえて下した決断。もうユウナとの男の約束も破棄だろう。

(ごめんよ、カガリ…君を苦しめることになった……ユウナは気付いているだろ?俺がオーブを見捨てプラントの利益を選んだことに……でも、そちらの方が、より多くの地球上の人類を救えると思ったんだ。分かってくれとは言わないけど……)

落ち込んでいると、先程水をくれた男がタオルを差し出す。礼を言いながら汗を拭うと男が笑っているのに気付いた。赤服を身に纏った背の高い男だ。初めて見る顔だが、美しい金髪を背中まで伸ばした威厳のある雰囲気の男だった……あれだけ伸ばして髪が痛まないのだろうか?
男は、何やら困ったような笑顔で話しかけてきた。

「知らない人間から貰った物を口にするのは感心しませんな」
「は?」
「貴方は今後、毒殺などにも気を使わなければならない立場なのです。それでは護衛の人間として心許ない」
「え?…では?」
「私の名はゼクス・マーキス。貴方の護衛としてミネルバへ同行させていただく事になりました」