W-DESTINY_第09話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:55:47

模擬戦を終えると、シンたち3人はカーペンタリア基地の整備工場にMSを預け、徒歩でミネルバへ戻っていた。
ミネルバより、基地の整備工場の方が充分な修理が出来るからだ。つまり模擬戦とは言え、3人の機体はそれだけのダメージを負っていた。

「何なんだよ!クソッ!」
「……完敗ね……結局、あれから何度やってもダメだったし……」

鬱憤を晴らす様に叫ぶシンに、落ち込むルナマリア、レイは先程から一言も喋らない。3人ともこれほどプライドを傷付けられた事は無かった。3人がかりで1人を倒せなかったのだ。
特にシンの怒りは大きかった。

「何でだよ! あそこまで手が出ないなんて、絶対におかしいって!」

シンはゼクスのセイバーを強いとは思ったが、絶対に勝てない相手とは思えなかった。その思いは今でも変わっていない。
だが、現実は手も足も出ずに完敗である。まるでキツネに摘まれたようだ。

「でも、現実は認めないと……強いわよ、あの人」
「強いのは分かっ……あ?……アスランさん?」
「え!?」

ルナの言葉に反発しかけた時、シンの目にアスランの姿が入った。その呟きにルナも反応し、シンの視線を追う。
そこには人目の付かない所に一人佇むアスランがいた。そして、彼もシンの存在に気付き二人の視線が合う。

――困るな。だが、俺に何が出来るというんだ?――
――人質だよ、オーブは仕方なく連合に参加したって、議長に訴えるためのね――

シンの脳裏に最後に会ったときの言葉が蘇る。あの時は互いに無力に嘆くもの同士だったのが、今やアスラン・ザラはザフトのヒーローで、シンには手の届かない人間になっていた。そして、そのヒーローは、シンの方に一歩近付くと……

「シィィィィィィンンン!!!」
「何なんだ!?アンタはぁぁぁぁぁ!!!」

……泣きながら抱きついて来た。そしてその気持悪さにシンは心の底から突っ込みをいれた。

ミネルバのブリッジではゼクスとタリアが今日の模擬戦について語り合っていた。

「本当に大したものね。正直言って、うちの子たち…もう少しやれると思ってたけど」
「いえ、実際に彼等の腕は優れていますよ。ただ、実戦の…特に乱戦の経験が足りないだけです」
「実戦?」

その言葉にタリアは眉をひそめる。確かに言ってる事は正しいのだろうが、それでは目の前の男はどうなのかと疑問に思う。
タリアの目から見て、確かにこの男は歴戦の戦士の風格が漂っているし、現に自分の部下が先程完敗したばかりだ。
だが、疑問なのは何故そのような人間の存在が、自分の耳に入らなかったのか、だ。資料には先のプラントでの戦闘以外は目立った戦歴は無かった。
これが資料通り、才能は有っても戦いに恵まれずに埋もれていたが、先の戦いでその能力が開花した者と言うなら分かる。実際にタリアはそういう人物だと思っていた。
しかし今の台詞はそれを覆した。敏感なタリアは彼の戦歴は、おそらく自分以上だと感じた。

「貴方は…」
「それに、レイは私の意図に気付いてくれた様です」
「……貴方の意図?」

話の腰を折られたが、タリアは気にしない振りをして聞き返す。彼が言外に聞くなと言っていると感じたからだ。

「我々の任務……それゆえの今後の戦いの内容をです」
「……なるほどね」

タリアの隣で、アーサーが内容の意味を聞こうと目配せする。彼以外のブリッジのクルーも聞き耳をたてるが、それを無視して愚痴を呟く。

「でも、もう少し部隊を増やせなかったのかしら?護衛がミネルバと潜水艦2隻だなんて……」
「それに関してはザラ大使の意思です」
「彼の?…どういうこと?」

タリアの質問にゼクスはブリッジのクルーにも聞こえる様に答えた。

「最初はミネルバ一隻で良いというザラ大使に、反対の声が出ました。当然でしょう危険極まりないですから……ですが、あの方は自分の目的は、地上の各国との友好であり、戦争では無い。甘いかもしれないが、行った先で武力で開放したというイメージを作りたく無い。と」
「……本気で甘いわね……でも彼らしいわ」
「それに、ミネルバのパイロットを歴戦の兵、例えばジュール隊のメンバーと入れ替える意見も出ました。あそこのメンバーはザラ大使とは懇意ですから……しかし、それにも今回の行動では若い、それも2年前の戦いで手を汚していない人間の方が良いと仰られました。さらにミネルバのパイロット、いえ、パイロット以外のクルーも彼は信頼出来る人間だ。安心して身を任せられると」

それを耳にしたブリッジクルーが感激しているのをタリアは感じた。

(上手いものね)

目配せするが、ゼクスは平然としている。

(本気で何者なの?……この男)

再び疑問が湧き上がる。戦闘力だけでなく、人身の掌握術まで身に付けている。それは本来アスランのような立場の人間に必要なものだ。
おそらくデュランダルは、そういった腹芸の出来ないアスランをフォローするべく、彼を付けたのだろう。

「ところでお願いしたい事があるのですが」
「……何かしら?」

タリアは自分が彼の正体に悩むたびに、タイミング良く口を挟む事に内心驚いていた。

「その……ここでは」
「わかったわ。移動しましょう」

そう言うと、後のことをアーサーに指示するとブリッジを後にした。そしてドアを出た途端に中から、歓声が起こり、アスランの事を話す声が聞こえてきた。

(本当に上手いものだわ……この男)

自分をブリッジから引き離し、気を緩ませてアスランの事を互いに話させる。おそらくミネルバのクルーはアスランのために喜んで働くだろうとタリアは感じていた。

ゼクスとタリアはしばらく黙って歩いていたが、やがてタリアが口を開く。

「ところで、用は終わったのではなくて?」

ゼクスは苦笑する。自分の狙いの一つ、ミネルバのクルーにアスランを尊敬させて、心から彼のために働かせるという目論見を彼女は読んでいた事に気付く。
さらに会話の流れから自分の正体に疑問を持っている事にも感づいていた。聡明な女性だと思う。頼もしくは有るが、同時に注意せねばならない存在と思った。
だが、今は聡明さを頼る時だった。事実、彼女に頼みたい事があるのだ。

「いえ、別に本当にお願いもあるのですよ」
「何かしら?」
「ザラ大使の事です。艦長は大使の人なりをご存知ですよね?」
「ええ、ある程度は」
「では、今の彼の心境は?」
「……無理してるわね……それもかなり」
「その通りです。さらに……」

ゼクスが現在アスランに課してる特訓の事を告げるとタリアは笑い出した。

「それは彼には辛いでしょうね……胃に穴が開かないか心配だわ」
「はい……ですが必要な事です。それに今後は本当のお偉いさんとの交渉が待っているのですから」
「それもそうね……で、お願いとは?」
「出港してからはミネルバで、あの方が安らげる場所を用意して欲しいのです」
「……なるほどね」

タリアはゼクスを意外と優しい男だと見直した。得体の知れない人間ではあるが、悪い男では無いし信用しても良いと思っていた。
そして、依頼の内容を検討する。単純に安らげる場所と言っても愛人でも用意して、部屋を宛がうわけにもいかない。むしろアスランにそんな事をしたら、余計にストレスを溜め込むだろう……すると、タリアの目に食堂の中の光景が目に入った。

「……でも、心配はいらないみたいよ」
「え?……―!」

ゼクスはタリアの視線を追い、食堂の中の光景を見ると絶句した。

シンは先程アスランと会ってから、急にうどんが食べたいと言われたのでミネルバの食堂に連れて来ていた。そして、ついでにアスランの愚痴に付き合わされていた。
ちなみにうどんはシンの要望で入ったが、実際はインスタントで粉末スープを溶かしたものに、冷凍の麺を解凍して入れただけだが、それでもアスランは満足らしい。

「へぇ~、政治家になるって大変なんですね」
「そうなんだよ。もう毎日毎日……周りはお偉いさんで、後ろからはゼクスがプレッシャーかけるし……」
「それで、胃に優しいうどんを食べたいと……」
「そうなんだ……ところで、ワカメをトッピング出来ないか?」
「ええと聞いてきますけど……ワカメって胃に優しかったですか?」
「大丈夫、ワカメは別腹だから」
「変な別腹ですね……じゃあ聞いてきますよ」

シンが食堂のカウンターへ向かうとルナマリアが話し掛ける。

「でも、随分と変わったって思ってたけど……実際は変わってないんですね」
「そんな急に変わるわけないだろ……無理してるんだよ」
「ご愁傷さまです……それにしても新しい隊長さん、怖い人ですよね」
「普段は優しいけど……」
「ワカメ頼んできましたよ……それより隊長ってどんな人なんです?」
「う~~ん……どうと言われても……」
「何か、時代がかってるって言うか……MSより甲冑の方が似合いそうよね」
「言葉使いも、サムライっぽいし……」
「サムライってより騎士って方じゃない?」
「ああ、そんな感じ」
「実際は王子様なんだけど……」
「へ?」
「いや、何でも無い……それよりうどんは?」
「ちょっと行ってきますね」

シンが一度カウンターへ行くと今度はどんぶりを持って戻ってくる。そしてアスランが嬉しそうに受け取ろうとすると直前で立ち止まった。

「シン?……どうした?」

立ち止まったシンに訝しげに尋ねると、シンは視線を泳がせながら変わった質問をしてくる。

「……その……普段、後ろから感じるプレッシャーって、どんな感じです?」
「は?……え~と、そうだな……背中がちりちりする…ていうか、今感じている……」

アスランは、そっと後ろを振り返ると、そこには今、最も会いたくない人物が仁王立ちしていた。

「これはザラ大使、この様なところでお食事とは」
「あ………ど、どうも」
「お腹がお空きなら、そう言ってくだされば良いものを……すぐに用意させます」

ゼクスはそう言うとアスランの腕を取り、外へ連れて行きだした。

「……うどん……ワカメ……」
「そうですな、基地指令に時間が空いているか確認しましょう。出来れば、ご一緒して頂ましょう」

アスランはシンたちに助けを求める視線を送るが、見事に目を逸らされてしまう。
そして、ゼクスは泣きそうな顔のアスランを連れながらドアの前まで来るとレイに声を掛ける。

「それで、今後はどうする?」
「はい、まずはシンのシルエット換装時に敵に攻撃をされない様フォローする訓練を、同時に私とルナマリア機は、どのウィザードを装備している時でもビーム突撃銃とビームトマホークを使える訓練をします。次に一機で敵を複数引き付ける戦術と複数で一機を出来るだけ短時間に倒せる戦術を検討しながら…」
「今回の模擬戦の意味は分かったようだな」
「はい」
「では、基本的な指示は貴様に任せる」
「え?」
「私は面倒を見ねばならぬ人間が他にもいてな……」

ゼクスはそう呟くとアスランに目を移す。

「……だから、貴様が訓練の指揮を取れ。出港前に再び報告に来い」

それだけ言うとゼクスは再び歩き出し、アスランを連れて去って行った。

去って行くゼクスにレイは敬礼を送る。それを見ていたシンはレイに質問してきた。

「なあ、今回の模擬戦の意味って何だよ?」
「ごめん、私も分からなかった」

続けてルナマリアも聞いてきたので、レイは二人に向き直ると、椅子に座りシンとルナもそれに倣う。

「そうだな、今回ので分かったが……シン、お前はあの人と戦えば、絶対に勝てないと思うか?」
「それは無い!……けど、実際は…」
「いや、俺が思うに1対1なら勝つこともあるはずだ」
「でも今回は3対1で1回も……」
「それは、俺とルナマリアが足を引っ張ったからだ。厳密に言うなら、お前も俺達の足を引っ張った」
「はぁ?」
「俺達は自分では、息が合ってるつもりだったが、今回は違った。俺は最初ルナマリアの攻撃でやられかけた」
「それは……」

ルナマリアが落ち込んだ声を出して俯く。

「気にするな。済んだことだ。むしろ、隊長に教えられた。俺達の欠点をな」
「欠点?」
「俺はナチュラルを見下していないつもりだったが、実際は違った」

レイが最初に考えたフォーメーションはシンが1人で複数を引き付け、残りの2人で撃つというものだった。つまりはシンが1人で戦える前提の作戦だったのだ。

「でも、あれは見下したってより、冷静に戦力を計算してのことでしょ?」
「そうなんだが……そうだな、連合にとって今番恐ろしいのは誰だ?」
「そうね……実感が湧きにくいけど、さっきここからドナドナの小牛の様に連れて行かれた人?」
「……ドナドナの小牛かどうかは置いておくがアスラン・ザラだ」
「…それで?」
「連合としては、あの人が搭乗するこの艦を沈めたいだろうな……で、シンだったら?」
「……俺が連合の指揮官なら、大艦隊を派遣するのが、手っ取り早いと思うけど……そしたらザフトも増援を呼んでくる事ぐらい検討が付く……だったら………少数精鋭の部隊を当てる」
「そうだ、連合の最強の兵が俺達の相手だ」
「なるほど……連合の最強の兵……アイツ等ね」

ルナマリアの呟きに、全員の心に共通の敵が描かれる。アーモリーワンからセカンドシリーズを奪った相手、シンたちは突然の事件に戸惑いながら初めての実戦を経験した。無我夢中で戦い、そこで感じた苦い経
験……そして敵は自分たち3人と互角以上に戦ったのだ。

「だけど、今度やったら勝てるさ!俺たちは以前の俺たちじゃ無い!」

シンが実戦を、それも大規模な戦闘を経験したアドバンテージを上げるがレイはあっさりと否定する。

「向うは奪った機体だった。それに比べ俺達は訓練とは言え、何度も乗り込んだ機体だった」
「……それは……」
「それにだ。敵が奴等とは限らん、もし奴等以上の敵がいれば、そいつも来るぞ」

レイはそう言うが彼等……ファントムペイン……以上の敵がいるとはレイも本気では思っていなかった。

「だから、俺達は自分以上の敵と戦うための訓練しなければ……今回の模擬戦の様に振り回された時に冷静に対処出来ないと死ぬことになる」
「それで、今回の模擬戦か……」
「私たち以上の腕を持つパイロットにどう対応するかを見たかった…いえ、出来ないと知ってて見せ付けたのね、私たちの欠点を……だったら!」
「訓練に行くぞ。ザラ大使の出港まで時間が無い」
「ああ……そして、今度こそ奴等を倒してやる!」

そして、出港を翌日に迎えて、レイはゼクスに報告に向かっていた。

「すまなかったな、任せっきりで」
「いえ、それで私たちの訓練はどうでしょうか?」
「……すぐに良くなるとは思ってなかったが……驚いたよ。予想以上の伸びだ」
「ありがとうございます!」

ゼクスは本気で感心していた。彼等の伸びは想像以上だったのである。もう一度3対1でやり合ったら確実に負けると実感した。

「ですが、やはり現状ですと奴等には……」
「例の強奪犯か?……確かに厳しいな。特にアビスに対抗するには……」
「護衛のアッシュが、どれだけやるかによりますが、PS装甲を持つ相手だと決め手が有りません」
「そうだな、自分が劣ることを理解して、牽制に徹してくれれば良いのだが……コーディネーターというのは、我が強すぎる」

そこまで言ってレイが眉を顰めるのを見た。タリアもそうだが彼も感が良い事に気付く、要注意人物の1人と認識しながら、慌てて言い加える。

「それに私も無理だな。セイバーはビーム兵器が主体だ」
「やはりシンでしょう。PS装甲の機体ですから互いに決め手を欠きます。水中では向こうが有利ですが、こっちにはデュートリオンビームがあります。あとはソードでバズーカーを持たせて…」
「ジワジワと削りあいか……シンは納得したか?」
「最初は嫌がっていましたが納得してもらいました」
「良く言い聞かせたな」
「付き合いが長いだけです……それで隊長にはカオスを警戒して貰えますか」
「妥当だな……分かった」
「お願いします」
「ところで…………仲が良いのだな貴様等は」
「……はい」
「だが、これから私達がやるのは戦争だ。人は死ぬ」
「……分かってます。ですが出来るだけ彼等を死なさない様にします」
「フッ…ここで、貴様等は私が死なさん…とでも言えば良いのだろうが、生憎と私は、そんな人間では無い」
「………………………………」
「実際、戦争とは人と人の殺し合いだ。それなのに相手を殺す気でいながら、自分が死ぬ事を考えないなど虫が良すぎる。言うなれば死ぬ覚悟の無い奴は戦場に立つな!……違うか?」
「……違いません」
「無論、死なない努力をするのは当然だ。むしろそんな当たり前の事を一々口に出して言う奴は馬鹿と思っていい。だから貴様は戦場に立つ以上、死ぬことも、仲間を失う事も覚悟しておけ」
「………………はい」
「だから言っておく、死ぬからには無駄死にをするな。後の兵士が少しでも楽になる様に、相手の戦力を殺げ、少なくとも相手の情報を引き出すのだ。後の兵士のために」
「……後の兵士?」
「人は何時か死ぬ、だが残された者に何かを残せば、それを受け取った者の中で生きることが出来る」
「!……」
「説教臭くなってスマンな。それに死に急げと言ってる訳では無いから誤解するなよ……それともう一つ、今後も貴様が指揮を取れ」
「え?」
「前にも言ったが、私は貴様等以外に面倒を見ねばならぬ人間がいてな……だから私が貴様の指揮に合わせる。明日からはパイロットスーツを白に戻せ、貴様にはその資格がある。以上だ!」
「……はい!ありがとうございます!」

退室するレイを見ながら首を傾げる。何故あんなに嬉しそうだったのだろうと、白に戻った程度で、あんなに喜ぶ人間では無いと思っている。
自分は異世界の人間ゆえに、あまり出張りたいと思っていなかったが、ここに来てレイという優秀な人材に出会えた。
ゼクスはレイの聡明さが気に入り、逆に厳しいことを言ったつもりだった。嫌われるだろうが、その方が彼のためになると思っての事だ。

「分からん男だ」

閉められたドアを見ながら、ポツリと呟いた。

「レイ!どうしたんだ?」
「?…シンか……どうかしたのか?」
「いや、こっちが聞いてるんだけど……何か良い事でもあったのか?」
「何故、そう思う?」
「……らしく無えぞ!まったく……聞いてるのはこっちなのに……」
「いや、すまなかった」
「まあ、良いけど……何か嬉しそうに見えたからさ…」
「……そう見えるか?」
「ああ見える」

レイは自分が喜びを隠せていない事を悟った。

「いや、さっき隊長に今後も指揮を任すと言われて……それに白に戻った」
「ホントかよ?」

レイは自分の事のように喜んでるシンを見て、嬉しくもあり、同時に罪悪感を覚えた。
嬉しい本当の理由は、そんな事では無い、ゼクスに言われた言葉がレイを力付けていたのだ。
例え死ぬことになっても、何かを残せば、その人の中で生きる事が出来る。それは体に爆弾を抱えたレイにとって、確かな光明となっていた。

「やはり、お前に頼もう」
「は?…何が?」
「いや気にするな。ただの独り言だ」
「……まあ良いや」

レイはゼクスに言われずとも死ぬ覚悟など、とっくに出来ている。それも戦場に立つ前にだ。
しかし自分は死に対して本気で向き合っていなかった事に気付いた。今までのそれは達観の諦めでしか無いのだ。
だが、今は違う。何をすれば良いかまでは分からないが、目標は出来た。死ぬまでに何かを残そうと、それもシンに残しておきたいと願っていた。

(隊長には悪いが、やはりお前とルナマリアは死なせない……)

その翌日、太平洋上を運行する空母、JPジョーンズのブリッジでは指揮官のネオ・ロアノーク大佐が標的の動きを察知し部下のスティングとアウルに声を掛ける。

「ミネルバが出港したとの情報が入った。というわけで行きますかね。ザラ大使殿へご挨拶に……」
「砲弾のプレゼントを添えてな」
「そういうこと……ところでお前ら、ステラはどうした?」
「外で海を見てるってさ」

ステラ・ルーシェは甲板に座り海を眺めていた。ただ、その美しさを楽しむために……彼女の視線の先にミネルバがいる事も、そこで待ち受ける少年との戦いと出会いの運命など知りもせずに……