W-DESTINY_第26話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:04:29

「……194、195、196……200!」
懸垂を終えて、両足を地面につけると、シンは大きく息を吐いた。そして呼吸を落ち着けながら、両腕に血液が循環しているのをイメージして回復を促す。動作中に筋肉の動きをイメージするだけで無く、回復中にもイメージした方が筋力が付きやすいと、これまでの経験で知っていた。
腕の痺れが取れてきたので、次のトレーニングを開始しようとした時、ミーアの怒った声が耳に入る。
「シン! リハビリで無茶しないの!」
「やべ! 見つかったか……」
「見つかったか。じゃ無いでしょ! もう、何考えてこんな無茶なリハビリしてんのよ!」
「だって、普通のメニューじゃ、なかなか元に戻んないって」
「だからって、そんなに焦る必要無いでしょ! 時間をかけて…」
「時間が無いんだよ!」
心配するミーアの声を大声で遮ると、シンは罪悪感から頭を下げる。
「ごめん……心配してくれるのは分かってるけど」
「良いよ。気にしないで……でも反省するなら無茶は止めてくれる?」
「悪いけど、それは出来ない」
「はぁ~……何で、急に元気になったのかなぁ? いや、元気になったのは良いけどさ」
「やらなきゃいけないこと出来たから」
「議長に何か命令されたの?」
ミーアの表情に険悪なものが浮かぶ。職業柄、いくら偉い人でも怪我人に無理をさせる人は、正直気に入らないと思ってる。
「いや、議長には失望された……だから、もう一度チャンスを貰いたいんだ」
「う~ん……じゃあ、やらなきゃいけないことって、命令じゃ無いの?」
「命令もあるけど、それ以上に俺の望みがあるんだ」
「望み?」
「助けたい人がいる」
「だからって、こんな無茶な事してたら、壊れちゃうよ」
「構わない。俺がどうなろうと……」
マユとステラを助け出せるのだったら、自分がどうなろうと構わないと考えていた。
そのためには、デスティニーが必要なのだ。のんびりしていたら他の人間の手に渡ってしまうだろう。
いや、すでに手遅れかもしれないのだ。そう考えると、こうして話している時間も惜しい。
「悪いけど、訓練をしたいから」
「ちょ~~っと待ったぁ! だからね。そんな無茶しても身体壊すだけだから! 段階ってのがあってね」
「壊れたって構わないさ!」

シンの気迫にミーアもどう言っていいか分からず、溜息を吐く。
「本当に悪いけど、時間が無いんだ」
「そのぉ~……シンは助けたい人がいるんだよね?」
「うん」
「もしかして恋人?」
「そ、そんなんじゃ!」
「その様子だと図星か」
「違うって」
ミーアは恋人と誤解してるようだが、ステラの事は好きだが恋人では無いし、マユにいたっては論外だ。
「じゃあ、何で助けたいのよ?」
「何でって……大切な人だから」
「ふ~ん……つまり片思いか」
「そんな事!……あるかも。俺は好きだけど、向うは俺の事を憎んでるだろうし」
「え?……複雑だね。で、確認はしたの? 憎んでるって」
「してないけど……俺のやった事を考えると憎まれて当然なんだよ。だから助けたいってのは罪滅ぼしでもあるんだ」
「だから、自分はどうなっても愛しい彼女を救いたいと?」
「……そんなとこかな」
まだ勘違いしてるようだが、一々否定するのも面倒だから頷いておく。
「やっぱり変だよ。それ」
「何でだよ?」
「シンはさ……その娘とエッチしたくないの?」
「何でそうなる!?」
「やっぱり、したいんだ?」
「あ、あのね……」
シンは否定しようとするが、ステラとそういった関係になるのを望んだ事が無いと言えば嘘になる。
それどころか、彼女を抱く妄想をした事も少なくは無い。
そんな自分に嫌気が差すが、ミーアは優しく微笑みながら告げる。
「それ、悪い事じゃ無いよ。むしろ良い事だと思うな」
「え?」
「自分はどうなっても良いなんて変だよ。だって、シンが頑張ってその娘を助けた後、シンは怪我したりもしかしたら死んじゃってたりして、それでその娘は別の男と仲良くなってその男に抱かれる……
 何かムカつかない?」
「え~~と……」

シンは、その状況を想像してみると、だんだんと腹立たしくなってきた。
「あ、やっぱりムカついた?」
表情に表れていたらしく、ミーアに指摘される。
「そ、それは……」
「大丈夫だって、普通の事だよ。私だって、この仕事してて患者さんが元気になれば、後はどうなっても構わないとは思えないもの。やっぱり喜んでほしいし、正直言うと感謝してほしいな」
「……そういうものなんだ」
「当たり前でしょ! こっちが頑張って看護したのに、仕事だからって何の感謝もされずに無視されたら
 やってられないわよ! それこそ、この仕事辞めちゃうかも」
「それは確かに……あ?」
シンは気付いた。すでに自分が挫折した経験がある事に。シンはステラを救うと誓っておきながら、マユの存在に混乱して投げ出してしまったのだ。
「俺……また目的を見失っていた。それどころか目的が定まって無い」
あの時はマユの存在に驚いたが、ステラから逃げ出す理由は無かった。例えマユが生きてても、ステラの救助とは無関係だ。それどころか、ステラが目覚めるのを待って、しっかりと彼女と話をしていたら状況は変わっていたかも知れない。
そこまでは無理でも、今の体たらくは無かったのではないかと思う。例えマユに怪我をさせられても、地球で負傷を癒し、次の機会を待てば良かったのだ。
何故、そうならなかったか、それはシンの目的がステラを救う事だったからだ。何度も言われた事だ。
目的とは状態で救うという行為は手段に他ならない。
現にデュランダルは10年近く研究したプランさえ、所詮は手段と割り切り、現在は自分を利用した新たな計画を進めていた。それは目的が定まっていたからだ。ここでデスティニープランの実行を目的にするような人間だったら、おそらく今頃は迷走していたであろう。
「そんな人から見たら、俺なんかに大事な務めは任せられないよな……」
「どうかしたの?」
「え~と、ちなみにミーアの目的って何かな?」
「は?……目的って言われても」
「ごめん、質問の仕方が悪かった。つまり、こうして俺を心配してくれてるけど、最終的にどんな形を
 望んでるかな?」
「最終的にって……別に元気になったシンにプロポーズして欲しいとは思ってないけど…あ、だからってシンが嫌いって事じゃ無いからね」
「な、何で、そんな発想になるか凄く疑問なんだけど?」
「え? 献身的な看護をする私がシンに惚れてると勘違いして口説いてるんじゃ無いの?」
シンはミーアの勘違いに脱力して頭を抱えてしまった。

「な、何でそうなるかな……違うから。そうじゃなくて、ミーアは一生懸命に看護してくれてるだろ?
 でも、アスランさんが言ったけど目的は状態で、手段は行動だろ。で、看護するのって行動だから手段じゃないか?」
「冗談だって♪ つまり、シンは私が看護して、どういう状態を望んでるかってっ聞きたいのね?」
「それ!」
「う~ん……基本的には元気な笑顔を見せてくれて、退院した後にお礼だって言いながらお菓子くれたら最高なんだけど」
かなり図々しい希望に流石に呆れる。
「流石にそれは無いだろ?」
「全くでは無いけどレアなケースよね……まあ、それでも退院する時に感謝してくれる人を見送るのは幸せだな」
その時の様子を思い出してるのか、本当に幸せそうな顔でミーアは微笑む。
「そうか……」
「ち、ちなみにね。え~と……」
言い辛そうにミーアが口篭っている。おそらく何か頼みがあるのだろうと続きを促す。
「俺に頼みがあるんだろ? 出来る事はするから」
「う、うん。実はね……シンってザラ大使のこと知ってるみたいだし、サイン貰うって……」
「アスランさんの?」
「や、やっぱり無理だよね。うん、ゴメンね」
「え? それくらいなら大丈夫だろ? 俺は、あの人の下へ戻るつもりだし、頼めばOKしてくれると思うけど」
「ウソ!? だって偉い人よ!?」
「でも、気さくな人だよ。ただ、サインなんか書いた事あるかな?」
「サインじゃ無くても何か書いてくれるだけで良いから!」
「わかった。伝える」
満面の笑みを浮かべて喜ぶミーアを見ながら、自分に足りないものはこれだと悟った。
望む未来を持たずに何が出来ると言うのか。シンはマユとステラを救うのが目的ではダメなのだ。
救った後、憎まれても良いなどウソに決まってる。和解する自信が無いから逃げていただけだ。本当は、マユには昔の様に自分を慕って甘えて欲しい。ステラとは恋人になりたい。
ミーアの様に望む未来を状態として具体的なイメージを浮かべる。まずはマユと兄妹で暮らす。昔と同じとはいかなくても、少しでも近づける。
そして、そこにステラも入れる。幸いマユはステラを慕っているから問題無い。
そうやって、2人との関係を望むものにしなければならない。その手段がキラを倒す事であり、このままでは死んでしまうマユとステラを救う事なのだ。

無論、そこには不確定要素が付きまとう。まず、マユとステラを救うにも彼女たちは戦士なのだ。
戦いの中で死ぬ可能性だって大いにある。
だが、現状ではそこまで気を回せない。運に頼むしか無いのだ。
そして、自分に出来る手段を模索する。まずは、あの2人には戦場でしか再会の当ては無い。ならば一刻も早くミネルバに戻らねばならないが、焦って戻ったところで万全の状態で無ければ、マユは勿論、ステラにだって生け捕りどころか、こちらが負けてしまうだろう。そうなったらエンドだ。
それに戻ったところで次の戦闘が何時あるのか? やはりデュランダルにもう一度会わねばならない。
それを聞いた後で、間に合う様に身体を調整する。生け捕りの方法は、戦闘状況しだいだから、今考える
べきでな無い。
次に、2人の治療に関してはデュランダルが約束を守ってくれる保障がいる。しかし、これは大丈夫だ。
デュランダルの人柄以上に、彼がシンを利用したい以上は言う事を聞かせる道具になるのだ。さらに、英雄とやらに成れば、無下には出来ない。
そのためにもキラを倒さねばならない。強大な敵だが、それをやらねば2人の治療さえもしてもらえないだろう。マユとステラがやってきたことを考えるとデュランダルに頼み込んだところで無理なのは分かってる。こちらも、相応のものを返す必要があった。
キラがどれほど強いかは不明だが、幸いアスランなら知っているし、殺すのでは無く、殺さずに倒すのが任務だから友人だというアスランも望む事だろう。よって、助言も貰えるはずだ。
そこまで考えると、思わず苦笑してしまう。あれほど困難だと思っていた英雄という生贄になることもキラを倒す行為も何とかなる気がしてきた。
「まずは議長に面会を申し込まなくちゃ……ミーア、ありがとう。お陰で目的が見つかった」
「え~と……そうなの?」
「ああ、俺はマユとステラと一緒に暮らす。大変なことだけど」
「シン、そんな……」
彼女もシンの目的の達成が困難だと察したのか不安そうな顔をする。
「心配しないで。俺、頑張れるから」
「でも……やっぱり二股は良くないよ」
「違うって……1人は妹だから」

デュランダルはシンが面会を希望してると聞くと、本来なら一兵士如きが最高議長に面会など許されないのだが、時間が空いた時に会うと伝え長時間待たせていた。
そして、連絡を受けて5時間が経過した頃に、ようやくシンの待つ部屋へと向かった。
「すまない……待たせたかね?」
待たせている間、何の連絡も寄越さず行き成りドアを開けたのだが、シンが腹筋をしているのを見て苦笑を浮かべる。
「あ?……いえ、こちらこそ突然の面会希望を認めていただき有難うございます!」
慌てて立ち上がり敬礼をするシンに着座を薦めると、デュランダルは腰を下ろし、シンを観察する。
デュランダルの本心は、シンが面会を求めてきた時点で、直ぐにでも会ってシンの話を聞きたかったが、あえて待たせる事でシンの反応を伺おうとしたのだ。
結果は、腹筋運動は以外だったが、随分と落ち着いている。顔つきも頬のキズを消していない所為か、大人びて見えた。
「それで、話は何かね?」
「はい、まずは次の戦闘が何時あるのか? それと、その戦闘で私にデスティニーを使わせて頂きたいと願いに来ました」
「ふむ……向うから攻めて来ないという前提だが、次の戦闘は約半月後にヘブンズベースに侵攻する作戦がある。それにデスティニーだが……病み上がりの君に使いこなせるかね?」
「アレは俺の機体です。最初に見た時、そう感じました」
「好き勝手言ってくれる。だが、確かにアレは君の機体だ。そう作ったのだからね。だからと言って、私の質問の答えにはなっていないな」
「次の戦闘までに、時間があります。それから逆算して身体を戻します。多少の無茶はしますが、俺がこれからやろうとしてる事に比べれば大した事じゃありません」
「これからやることか……英雄になる決心はついたかね?」
「その程度のことは」
「その程度とは大きく出たな……では、君の言う大した事とはキラ・ヤマトに勝つ事か?」
「それも含みますけど違います。俺の目的はマユとステラと一緒に暮らすことです。そのためになら英雄にだって成りますし、キラだって倒します」
「ほう共に暮らすか……だが、分かっているのかね? それは非常に困難なことだと。君の手の及ばない所で彼女等は死ぬかもしれんのだぞ?」
「そうならないために、俺に出来る事をしたいのです。確かに運任せな部分もありますが、自分に出来る事をやらずに後悔する真似だけはしたくありません」
「なるほど……良い覚悟だ」
そう良いながらデュランダルは席を立つと部屋に設置してあるパソコンの前に移動し、操作する。
「だが、これを扱うのは大変だと思うがね」
そう言って、シンを招くと、そこに出されたデスティニーの能力値をシンに見せる。
「これは核融合! それに」
シンはデスティニーのデーターを見て驚愕する。予想より遥かに上回る能力。
「見ての通り、本来はインパルスの強化型だった。当初はシルエットの換装だけで済ませる予定だったがこちらの望み通りの能力を出せなかった為の新型機だ。結果的には望んだ能力以上のものになったがね。
 それだけでは無く、試験的な意味合いを持つ武器もを搭載され、非常に扱い辛い機体に仕上がった」
シンが黙ったままなのを見ても、仕方が無いと思う。デスティニーは新時代の象徴にするために、必ず活躍させる必要と、さらには生きて戦争を終えてもらわねばならないのだから、当然、高い能力を与えられている。
シンが事前情報で知っているガンダニュウム合金製の剣抜きでも高いスペックを持っているのだ。
「すごい……」
シンは、憑かれたようにデスティニーのスペックを見つめる。時折、ページを操作して詳細なデーターを目に入れていく。
「ああ、一種の化け物と思ってもらおう。どうだね? これを見て自信の程は?」
デュランダルは、これが扱えるのかと挑発的な言葉を発する。しかし、シンは違う捉え方をしていた。
「出来ます! これならマユとステラを殺す事無く、生け捕りにしてみせる」
何があったかは分からないが、シンの目には前日の様な悲壮感は無く、確かな未来を見据えていた。
新時代を担う若者とは、こうでなくてはと、デュランダルは思う。
そして、自分が運に任せた賭けに勝ったのだと知った。これで自分も未来を信じて戦える。
「……なるほど。では君にデスティニーを預ける」
「有難うございます!」
「良い顔をするようになった」
「先日は申し訳ありませんでした」
「構わんよ。だが、デスティニーを預けるからには、身体を確実に戻してもらわねばならん。出発は追って連絡する」
「了解です!」

アスランはヘブンズベース侵攻の最終段取りをウィラードと話し合っていた。
「では、デストロイの件は解決したと思って良いのですね?」
ウィラードにとって最大の頭痛の種は、こちらの攻撃が効かないと予測される連合の新型MSの存在だった。それはアスランも同様だが、デュランダルと連絡を取り合い、シンの復帰とデスティニーの存在を知らされた。
それに、いざと言う時はカトルたちが力を貸すという事も決まっていた。
「取り敢えずは……かな。まあ、PS装甲が間に合っていない可能性もあるから、出てきた時点でミサイル攻撃はしてもらいたい。それがダメなときに初めて彼等が降下してくる」
「はい。それは、分かっております」
アスランは、デュランダルからの吉報に喜んだが、それでも自分の気を引き締めるためと、ウィラードにも甘えを許したく無いため、あえて厳しい言葉を続ける。
「デスティニーは兎も角、彼等の力は強大だが、それゆえに出来るだけ手は借りたく無い。
 この世界の事は俺達の手でやる。いくら連合に異世界の技術が流れたとしても、その気概だけは忘れないでもらいたい」
「はい。忘れないようにします。また、そう在るべきだと私も思っております」
この世界の事は自分たちの手でやる。それがアスランの最初からの信念だった。それが崩れれば、当初の自分が間違っていたら自然と滅ぶという世間に対する審判の意味合いが失われてしまうのだ。
「それで、もう1つの手に負えない相手の事ですが?」
「あの後、増援は完全に断ち切っている。流石に無理はしないと思うが……いや、来るか」
「大使は来るとお思いで?」
「彼女は決めた事は、まず投げ出さない。これは長所でもあるんだが……実際は自分の弱さを隠す鎧のようなものだからな」
アスランは溜息を吐く。一緒にいる時は気付いてやれなかった事が今になって分かってきた。
「まあ、彼女が来たらそれこそ彼等の出番だ。幸い彼女が出せる犠牲は高が知れてる」
「ですが、存在そのものに動揺する者が現れるのでは?」
「フン! 一瞬で敗れる部隊を率いる彼女を本物だと思う人間は少ないさ」
アスランの吐き捨てる態度にウィラードは苦笑する。ラクスの現在の取り巻きは、現状を知っているが、ザフトに居る潜在的な信者はラクスを神聖視するあまり、出てきた所で、直ぐに退散するようなラクスはラクスでは無いと思うだろう。
「考えてみれば憐れではありますな」
しかめっ面のアスランに苦笑を浮かべながら、ウィラードは準備をすると言って退席した。

アスランはウィラードが退席すると、彼の最後の言葉を思い返す。
「憐れか……確かに」
ウィラードは古風な男ゆえ、女の不始末は男の責任と思ってる節がある。ラクスはすでにアスランの女では無いが、彼女が力に目覚めた時は、まだアスランの女だったと言えた。
まだ2人が婚約者として、ぎこちない恋人同士だった頃、戦争を嫌うラクスに背を向けたのはアスランだった。彼女の言葉を甘い世間知らずのお嬢様の戯言と切り捨て、先の事など何も考えずに戦う事でプラントを守り、母の復讐を達成できると考えた子供の自分。
「振られるのも当然か」
アスランは苦笑を浮かべる。ナチュラルへの復讐に酔ってた自分に比べ、コーディネーターでありながらナチュラルの友人と過ごしていたキラは遥かに魅力的に見えたであろう。
もう少し早く気付いていたら、彼女と共に共存への道を歩んでいたのかもしれない。
そこまで考えて、自分がラクスを愛していたのかと疑問に思う。結果は嫌いでは無い。そもそも恋愛など不慣れだし、愛情というものなど上手く言葉で説明できるものでは無いだろう。
ラクスとは男女の関係には成ってないが、それは自分に度胸が無かっただけで、決してラクスに魅力が無かった訳ではない。
「それも今更だな」
アスランは未練がましいと苦笑する。失った後に気付いても遅いのだ。ラクスはアスランでは無く、キラを選んだ。そこには今のアスランのように打算など微塵も無い純粋な好意しかなかった。
「純粋すぎるんだよ……君たちは」
ラクスだけでは無い。キラも同様に純粋すぎる。彼等の望む未来は、さぞや明るく希望に溢れているのだろう。しかし、それは目的では無い。単なる夢だ。
「目指す状態があっても、実現出来る手段があれば目的になるが、実現不可能なそれは夢でしか無い。
 その辺を分からずに、ただ戦ってはダメなんだよ」
そして、別の2人を思い浮かべる。彼等は分かっているのかと。
シンが何を見つけたのか今のアスランには分からないが、困難すぎる目的は自分を傷付けかねない。
だが、アスランが何かを言う事でもないから黙って見守るしか無いだろう。
そして、もう1人の方も。今の自分には何も出来ないのだ。
アスランは、その視線を遠くにあるオーブの方角へと移した。
「カガリ、君は俺を憎んでいるのか?」