W-SEED_赤頭巾氏_英雄の種と次世代への翼(Re)_00話

Last-modified: 2009-09-25 (金) 21:00:14
 

英雄の種と次世代への翼
エピローグにしてプロローグ「枯れた英雄と憂鬱な死神」

 
 

「なー、シーン。反逆してラクス様ぶっ倒そうぜ」
「ああ、ヨウラン。ちょっと左足の関節が動き鈍かったぞ?」
「ん? 此処のパーツはいい加減変えんとあかんな。
 ま、それはそれとしてな逆襲のシン・アスカとしてだな」
「んー、このシステムは良く解んないな? なんで、こんなの積んでるんだ?」
「ああ、それはなんか火星から来た新技術用に組んでるらしーんだわ。
 でさぁー、此処はすげー、改造されたデスティニーでさ」
「あっちは規格がちょっと違うんだっけか。なんか、旧ホワイトファングとアストレイタイプが主流って聞いてたけど」
「何せ、すげー高性能なガンダムの機体と開発者が亡命してるからな。
 で、シン、此処は男の見せ場としてな、キラ・ヤマトもラクス・クラインもちぎっては投げちぎっては投げの逆転劇をだな!」
「しつこいし あ り え ん(笑)。無しだろ常識的に考えて」
「えーーーー、どうしてよ?」

 

 まだ二十歳にも満たない褐色肌の少年ヨウラン・ケントに対して、光の速さを超えるツッコミを返す事無くスルーを続けていた中、ようやく温めのツッコミの言葉が返ってくる。
 その言葉の主、ザフトの”元”エースパイロット・シン・アスカは、ため息を吐きながらしつこい反逆話に疲労の色を滲ませつつも苦笑いと怒気を孕んだ口調で気持ちを伝えていた。
 ヨウランは前から時々発言が遠慮が無い事もあったのは解っていたが流石に今回はしつこ過ぎた様だ。

 

 此処は月軌道を演習している艦隊、俗にジュール隊と呼ばれるMS部隊の駐留する衛星基地。
 アーモリーワン襲撃から始まり雪崩れ込んだ戦争から一年後、この二人は当初ミネルバが就航する予定だった月軌道を巡航・駐留する部隊へと合流する事に相成った。
 連合とプラントとの関係も表立っての戦争は無くなり、彼等達軍属は平和なら平和なりの仕事として、演習に終始する毎日を過ごしていた。

 

「大体なぁ。お前反逆罪で捕まりたいのか? あの二人を倒すってどうやるんだよ。
 デスティニーは廃棄。俺の機体も今じゃザクに逆戻りだぞ?
 普段はSPをぞろぞろはべらせてるし外遊もしてるから、今いる月の軌道上から相手に気付かれずに追っかけるなんて無理。まして、その間に月で色々あったらどうするんだよ?
 今のプラント政治を皆諸手を上げて受け入れてる訳じゃない。月だって重要な要所なんだぞ?」
「なんだか、お前其処まで考えると結構乗り気か一度考えたこと無かったか?」
「無いと言ったら嘘になるって事にしといてくれ。ほら、あんまし遅れてるとイザーク隊長に怒られるぞ?」
「あの人が怒ってない時は無いと思うんだが」
「いや……んー、それは、なぁ? ま、今の話は無かった事にしてくれ」

 

 まるで長寿ドラマ番組の様な長台詞を噛まずに言い終えた後、それを律儀に返す自分に絶望し頭を抱えているシン。
 ヨウランの言葉をはいはいと適当に受け流す事が何故出来ないか自問する。
 シンを含め、周りの状況はその位、この一年で色々な事が変わっていた。
 ラクス・クラインがプラントの統治を掻っ攫い議長へと就任。これが民主主義的な投票での就任なのか、軍事的恫喝なのか、詳細は彼らにとってアンタッチャブルなので気にしなかったが、それでも色々な影響が出ていた。
 ロゴス解体から地球各地は経済が混乱し、厭戦感情と各国政府への不満が爆発。
 プラントからも独立が認められた後、連合に対して軍縮決議が出されており、正に踏んだり蹴ったりな地球だったり、オーブも戦争からの再建でアスハの姫様は走り回ったりと”此処”の外は目まぐるしく、人と時間が動いていた。
 此処で誰かが歌姫に反逆の意を示せば、再びプラントと地球連合との戦争になってしまうだろう。
 その懸念も含めて、考えの明示を保留させた。自分自身を納得させる様な言葉にヨウランは少し食って掛かったがそれも鉄板の隊長のネタへ誘導して黙らせる事に成功する。

 

「つーかさ? あの歌姫様が議長になったとはいえ、シン! このままじゃ情けなさ過ぎるぞ。
 此処は男を上げる為に反逆のシンで要塞の一つ位占拠してだ 『人類は変わらねばならんのだ!』とか言ってだな?」
「逆襲じゃなかったか? さっきの」
「気にするな。俺は気にしない」
「懐かしいなレイの口癖。俺はそういうのはいいよ。世界は平和ってのは言い難いけどさ。
 少なくとも何かを倒す戦争から、戦争を起こさない為の戦いをしてる訳だし」
「完全に燃え尽き症候群だな。いっそ、白髪になりやがれ」
「此処ではそれ位が丁度良いさ。けど、この年で白髪はやだなぁ」

 

 ヨウランは立ち上がり、シンの肩を手でそれぞれ左右を持ちながらも叱咤激励したいのか疲労困憊している相手を揺さぶって気分を悪くさせたいのか解らないまま言葉を続けるが、シンはそれを右の耳で聞いて、左の耳で吐き出しているかの様に無関心な様子だった。
 途中今は亡きレイ・ザ・バレルの台詞を真似たりと彼なりに色々と気を遣っている様子ではあったのだが、至って効果は無く、むしろ逆にセンチメンタルな空気を作ってしまう。
 更に言葉を返して髪の毛を引っ張ろうとするが当人のリアクションは薄かった。
 シン・アスカは戦争時の気性の荒さはすっかりと見る影を失せていた。
 まるで牙を抜かれた獣の様に、惰性と共に繰り返す演習と食事と睡眠と言う名の日常を過ごした。
 それでも給料をを貯めて、オーブで花屋でも始めると決めたらしく、植物の育て方を学び始めたらしい。
 が、それは知り合いから見れば、この間まで部活動に精を出していた熱血少年が、急に老人になって盆栽弄りをし始めたかの様に感じていた。
 職場が同じヨウランはそれを心底心配していたのは、シンにもある程度は理解出来ていた。

 

「爺にしか見えないぞほんとさぁ。あの後、世界を平和を守る為に一緒に頑張るって言ってたろ、この赤服エリート!」
「守ってるだろ。月の軌道を」
「シンーー! お前、完全に飼い殺されてるの自覚してるか?」
「うん。ま、こういうゆっくりした時間も良いんじゃないか?」
「お、シーン。居た居たぁー、ちょっと来てくれー」
「ん? 艦長が呼んでる。なんだろ? 通信じゃなくてわざわざ探すなんて。取り合えず行って来る」
「シン! まだ、話は終わってないから!」
「解ってるよ。また、後でなぁ」

 

 突如、二人の会話を割り込むかの様に、彼らの直属の上司であるアーサー・トラインは、内線も使わずに散歩がてらなのだろうか。直接シン達が休んでいたロビーへと足を運んできた。
 それに応じたシンはまるで息子の嫁からお昼が出来た事を告げられて、リビングへと向かう。
 老人の様な友の背中を何も出来ない自分を悔しさを感じたまま、ヨウラン・ケントはその様子を見送っていた。
 シンが見えなくなった後、壁を殴る音、その拳の痛みに絶叫する悲鳴などがシンの耳に届く事は無かった。

 

 * * *

 

――宇宙のとある航路、ピースミリオン内にて

 

「……はぁ、やだやだ」
「どうした?」
「いや、今回の任務さぁ。トロワも大変だよなぁ」
「そうか? ミッションレベルはそんなに高くないが」
「やー、ヒイロは兎も角、お前と俺は大変だろ?」

 

 宇宙要塞と言われても遜色ない巨大な戦艦ピースミリオン。その巨大な半月上の艦影を宇宙に漂わせている中、ガンダムデスサイズヘルカスタムのパイロット、デュオ・マックスウェルは、ロビーに置いてあるソファーに寝転がりながらもお凸に手を当てて、左右へと何度も寝返りを繰り返してた。
 その様子に特に感知する事をもそもそもする発想の無かったガンダムヘビーアームズ改のパイロット、トロワ・バートンに声だけぶつけていく。
 トロワからすれば、デュオの言葉が非常に不可解だった。
 今、彼らはあるミッションを遂行中なのだが、彼らからして見れば、それは今までの激戦とは比べ物にならない位難易度の低いミッションではある。端的に言えば楽勝だ。
 ただ、問題はミッションの難しさではなく、デュオにとって精神的な負担が大きい事を意味している。
 おかげで今はこうやってソファーに齧り付いて全身でグロッキーさを表現している事にトロワは気付かない。

 

「そんな事は無い。確かに、あまりやった事の無い任務だが項垂れるほどではない」
「そもそも、お前項垂れる事あるのかよ?」
「少し待て。……該当する記憶は無かった」
「そうだな。それじゃ、そもそもお前に愚痴った俺が馬鹿だったよ」
「理解は出来ていないが、カウンセリングを受ける事を勧める」

 

 猫の様に背を丸めながらも拗ねたままソファーで寝転がるデュオにトロワは一言告げただけで、瞑想だが何を思っているかわからない状態へと戻る。
 あまりの生真面目なトロワの一言に大きくため息を吐いてる最中、デュオは鬱憤がたまり過ぎて、頭をかきむしりそうになる衝動を溜め込んでいた。
 だが、そんなことしたらほんとに精神科医のカウンセリングルームに連れて行かれそうな事が長い付き合いから解っていたのでそれをじっと我慢する。
 そして、その片方はギスギス、もう一人は無の境地と言う全く異なった空気に一瞬、首を傾げたままロビーに入り、歩み寄ってきたルクレツィア・ノインは普段の冷静な顔つきから僅かに訝しげな雰囲気を滲ませながらも二人に話しかけてくる。 

 

「デュオ、トロワ、どうした? というか任務中だろう?」
「あぁー。俺は即効で追っ払われたよ。流石に艦の中じゃ安全だろうし」
「俺も同じだ。レディーのプライベートと言う奴らしい」
「ま、まぁそれはそうだが、大丈夫か?」

 

 デュオはソファーに突っ伏したまま片手だけを上げて宙を掻き混ぜる様に返事を返す。
 トロワはその様子が理解出来ないのか肩を僅かに竦めながらもノインの方を見つめていた。
 その視線に応えたのか、デュオの昏倒っぷりが流石に目に余っているのか解らないが心配そうに言葉を向けると、待ってましたと言わんばかりに起き上がってノインにすがる様に顔を近づけさせる。
 げっそりというほどではないが、ノインからは中々体調の悪そうな顔色は見て取れた。
 また、その危機迫った表情と行動からは何事かと深刻そうな顔つきへと変わっていく。
 確かにここ数年は平和になっていた事とデュオがコロニー出身だったとは言え慣れない任務と合わせて、艦での長旅というのは堪えているということだろうか?と言う懸念が彼女にはあった。

 

「大丈夫に見えないだろ?」
「ん? まぁ、そうだな。体調でも崩したのか?
 確かに地球圏に向けて出航して、一週間は経っているが」
「だろおぉぉっ。俺はもう限界だ。いやだいやだ。あんなの柄じゃないから嫌なんだよ!」
「って、体調は良いのか。じゃあ、あれか何か意地悪でもされたのか?」
「いや、あいつ苦手なんだよぉ。俺りゃヒイロやカトルと違って、ああいうタイプには免疫無いし」
「情けない。プロなら任務に文句をいうな。しかも、その次元の我侭を」

 

 デュオのあまりにもあっけない理由と態度からどっと疲れが増したのか、ノインは腰に手を当てたまま、少し怒気を滲ませた声色で言葉を返している。
 あまりにも情けない理由と言うか、ヘタレ過ぎて心配して損を感じたと同時に危機も感じていた。
 確かに何か相性的な問題は憂慮をされてはいたのだが、本来そういう空気を和ませるカトル・ラバーバ・ウィナーが居ない中、ムードメーカーのデュオが此処までダメージを負っているのは予想外だった。
 窘める言葉をぶつけながらも、内心は少し困っていた。
 そんな心配は露知らず、プロ意識を指摘されては反論出来ないのか、うーーっと唸っているのを見て、トロワも表情には出さないが困惑している様子であった。

 

「じゃぁあーーさーあぁ、何で俺な訳? レディさんとかサリィさんとか色々いるじゃん」
「聞くか? 後悔しても知らんぞ」
「うーー、そういうのはやだねぇ。だが、いいか。 訳があるなら聞かせてくれ」
「”こそこそと逃げ隠れるのが得意な貴方なら一々気にしなくて済むから”だ、そうだ」
「確かにデュオは隠密任務が得意だし、気配は消すのは俺やヒイロより上かも知れん。適任か」

 

 眉尻を下げながらも事情を話すノインとそれに同意するトロワ。そして、そのリアクションを見てやはり言うべきでは無かったと後悔を重く感じていた。
 その言葉を聴いたデュオは一瞬固まった後、体のストレッチを始める。
 足の屈伸と腕の筋を伸ばした後、軽く体を温めて一通り終わった後、大きく深呼吸をした後にノインへと向き直る。
 トロワはデュオの急な気候に若干の動揺を覚えたが、傍目からみればそれは認識出来ないレベルであった。
 びしっと 手を垂直に縦に伸ばす行動にびくっとトロワは一瞬反応した後、まるで小学生が先生に何かを尋ねるかの様な口調と声でノインに一言尋ねた。
 流石に発言は発言だったので一瞬眉を顰めるリアクションを取るが事情を察し切れないほどノインはトロワほどクールもといKYではないので困った様子のまま、突っ込みを返す。

 

「今から殴りに行っちゃ駄目かぁ?」
「女に手を上げるとは関心せんな。男として最低だ」
「そうだよなぁ。けど、あいつは女なんてもんじゃないだろ! 宇宙人だ! 宇宙人!」
「デュオ。お前がコロニー出身なのに人種差別者とは初耳だ。後、彼女はコロニー民ではないはずだったが」
「違うわ! そういう意味じゃねぇぇよ! あーー、胸糞わりぃっ!」
「「……これは重症だな」」

 

 トロワの冗談……ではなく、確実な天然発言に苛立ちを隠せないまま、デュオはいよいよ本気頭をかきむしったまま後頭部についているお下げをぶんぶんと振り回している。
 範囲こそ狭いものの時折自分へと向かってくるお下げを片手で振り払いつつも、トロワとノインは顔を見合わせたまま肩を竦める。お互いの認識は全く違っていたが、その重なった言葉から結論は一致していた。
 ノインはお凸に手を当てながらもどうするか考え込んでいる最中、デュオは獣の様に唸り声を上げたまま再びソファーへと突っ伏していく。
 ぼふっと大きく体を預け丁度良い反発を体に伝えてくれるソファーにぐてぇっと、死体の様に覆いかぶさったままピクリとも動かない。

 

「まぁ、我慢しろ。久しぶりにカトルや五飛にも逢えるだろうし、年単位で滞在する訳じゃない」
「そりゃ、そうだけどよぉ……畜生! 月と地球行ったら美味いもんたらふく食ってやる!」
「空腹で機嫌が悪かったのか? 夕餉にはまだ時間があるが」
「違うわ! 今まで何を聞いてたんだ!」
「すまなかった」
「いーや、お前はわかってないだろ! 言葉だけで適当に返すな!」
「……といわれてもだな」
「こっちも別の意味で重症だな。先が思いやられるよ。全く」

 

 トロワがやはり事態が飲み込めないまま謝罪の言葉を述べたことがすぐにバレてしまい、起き上がったまま因縁をつけ始めるデュオ。
 デュオの洞察力はそこまで鋭かったのかと誤った再認識をしている中、ノインはその二人をやり取りを見たまま、どうなる事かと不安を感じる一方で、何か少し楽しい気持ちが心の中に混じっていた。
 よくよく考えたら彼らも昔の基準で言えば、学生か大人に成り立てと言う年齢だろう。
 そういう”らしさ”が何時の間にか戻っている事に今まで付き添ってきた一人の人間として、嬉しさを感じ取っていたのだろう。ノインは心の中でそう結論付けていた。

 
 

 ―――本編第一幕「ツキミアイと炒飯一番」へと続く―――

 
 

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