W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第04話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:01:50

月軌道に配備予定だったミネルバに、ブルーコスモス総会制圧の命が下ったのは最高評
議会の作戦決定から僅か14時間後のことだった。ただ降下部隊を降ろすよりも戦艦による
奇襲攻撃をかけ、敵の抵抗力を一気に殺ぐ、というのが国防委員会と軍部の狙いであっり、
ミネルバは大気圏突入が可能な最新鋭艦だ。
「グラディス艦長、君の艦のクルーは新進気鋭の若者たちが多いが、だからといって失敗
が許される任務ではない。心して作戦を実行してくれたまえ」
「わかっております。クルー一同、最善を尽くします」
 国防委員長から直接指令を受けたとき、タリアは彼が自分に余りよくない印象を持って
いるということに気付いた。面白くないのであろう、国防委員会と軍部が威信をかけて作
り上げた最新鋭艦の艦長を、女の自分に取られたのだから。取られた、と言うのは正確な
言い方ではないが、タリアが艦長になった裏には、ギルバート・デュランダル最高評議会
議長の後押しと推薦があったと言われ、事情を知る一部の者、国防委員長クラスともなれ
ば、余りいい気はしないのだ。
 しかし、迅速さが求められる今回の作戦に、足自慢でもある快速戦艦のミネルバは絶対
に必要であり、また能力も決して低いわけではないので、渋々の決断、といったころか。
「というわけで、ミネルバはこれより地球に向けて出発。衛星軌道上から艦を降下させ、
連合軍基地制圧の任務に当たります。何か質問は?」
 艦に戻ったタリアは、ブリーフィングルームにクルーを集め、今回の作戦内容を説明した。
「よろしいですか、艦長?」
「なに? レイ」
 モビルスーツパイロット、レイ・ザ・バレルが質疑の挙手をあげた。
「この度の作戦の重要性は理解できました。しかし、何故ミネルバだけなのですか?」
 レイの隣に座るシンは、もっともな質問だと思った。自分たちの力が足りないとは思わ
ないがこの作戦は絶対に失敗が許されないものだ。それをミネルバ一隻で、というのはい
ささか心細いのではないか?
「基地を制圧するにしても、もっと大部隊を投入すれば、より早く、確実に済むと思うの
ですが?」
「えぇ、確かにそうね。でもね、今回のブルーコスモスの総会はかなり極秘裏に進められ
ている物なの。それに対して大部隊を動かせば、向こうに察知される可能性がある、少な
くとも上はそう考えたようよ」
 隠密にことを進めろ、つまりはそう言いたいのだろう。
「ですが、艦長」
 同じくモビルスーツパイロット、ルナマリア・ホークが挙手と共に発言する。
「ミネルバは先の戦いで、その、モビルスーツパイロットを二人、失いました。補充員も
ないままでは、戦艦一隻にモビルスーツ3機で基地制圧をすることになります」
 レイの言いぐさではないが、戦いは数だとルナマリアは思っている。エースなどと呼ば
れてはいるが、自分たちは未だ実戦経験の少ない青二才の集団に過ぎない。

「基地の規模がどれほどかはわかりませんが、基地である以上それなりの兵力を有してい
るはずでは?」
 プラントの命運が掛かった作戦である以上、多少のリスクを背負ってでも兵力を増強す
るべきだとルナマリアは言いたいのだ。
「それについては心配いらないわ」
 タリアはクルーの不安を取り払うべく、国防委員長より渡された制圧目標である基地の
資料を提示する。
「さすがに連中も極秘にことをすすめているだけあって、この通り基地は小さな物だし、
配備されているモビルスーツは微々たるものよ。我が隊だけでも十分に攻略できるわ」
 国防委員会も軍部も、実現不可能な作戦など立案しない。勝算があるからこそミネルバ
による単艦制圧にしているのだ。
「……上層部の認識はわかりました。しかし、この作戦項目に書かれている『ブルーコス
モスメンバー逃亡時の措置』については?」
 ルナマリアは、一応の納得をすると質問を変えた。この項目は、資料を読んでいた際に
シンと共に驚いた、驚愕とも言って良い内容だ。
「本項目には『ブルーコスモスのメンバーの逮捕に失敗し、逃亡の可能性が出た場合これ
の抹殺も許可する』とありますが?」
「えぇ、確かにそう書いてあるわね」
「しかし、ブルーコスモスは軍属も含めてはいますが基本的には民間団体です。裁判にも
かけず他国の軍隊である我々が、これを処刑する、と言うのは?」
 テロリストである以上、それも止むえないのかも知れないが、ルナマリアにはこの項目
が乱暴にも思えた。
「それに……」
 それまで機を見計らっていたシンが、ここで口を開いた。
「かえってこの事が、奴らに戦争の口実を与えるんじゃ?」
 シンの意外と当をえている意見に、クルーたちは静まりかえった。シンがまともな発言
をしたからではない。戦争という、嫌な響きに反応したのだ。
「奴らが口実を探して、今回のテロ騒動を利用してるって言うのなら、不用意に攻撃何か
したらそれこそ……」
「シン」
 言いかけのシンを、タリアが遮った。それ以上は無用な議論になるとわかっていたからだ。
「残念だけどこの作戦は、最高評議会で可決され、国防委員会から軍上層部へ直接下され
たものよ。今更撤回はあり得ないし、我々にその権利もない。事は政治の問題よ、何か意
見を言いたいのであれば、政治家でも目指す事ね」
「…………」
 シンは何も言わず、そのまま押し黙った。その後、作戦の事細かな詳細に移り、具体的
な実働作戦は衛星軌道上から降下したミネルバが、まず基地に一撃を与え、それをモビル
スーツ部隊で制圧するという、妥当な物になった。

「ほらっ、シン」
「……ありがと」
 ブリーフィング終了後、休憩スペースでつまらなそうに座っているシンを見つけたルナ
マリアは、彼にドリンク渡し、隣に腰掛けた。
「珍しいじゃない。アンタがあそこまで積極的に艦長に意見するなんて」
 少々意地悪そうに彼の顔をのぞき込むルナマリア。その小悪魔的表情は、普通の男性で
あれば魅了されてしまうほどのものだったが、生憎とシンはその手のことに興味がなかった。
「別に。ただ思ったことをいっただけだよ……」
「ふーん」
「軍人なんて所詮は人殺しの職業、判ってはいるんだけど、どうもな」
 今回は、あの悪名高きブルーコスモスが相手ではあるが、彼らは一応は民間人だ。それ
を軍人である自分が攻撃し、場合によっては抹殺するというのは、気分の良い物ではない。
「でも、ブルーコスモスって言ったら、その……シンの」
「あぁ、仇の一つだ。前の戦争で地球連合がオーブに進行した際、その指揮を執っていた
のはブルーコスモスの前盟主だからな」
 ムルタ・アズラエル。シンがその存在を知ったのは彼が死んだ戦後だった。彼は地球連
合への強力を拒み続けるオーブに対し、幾度となく交渉を持ちかけたが、オーブの前代表
であるウズミ・ナラ・アスハは彼と語る舌を持ち合わせはしないとして、これを断固拒否。
遂に痺れを切らしたアズラエルは連合軍を動かし、オーブに進行した。これが前大戦のオ
ーブ解放作戦の真相である。そしてシンは、その作戦時にオーブにおり、両親と愛する妹
を失っていた。
「だけど、個人としての私怨を理由にして戦ったら、奴らと同レベルじゃないか」
「シン……」
「俺は軍人だ。軍人になった以上、個人的感情じゃなくて組織のために動く」
 シンが軍人の道に入ったのは、何も彼が戦災孤児で食うにも困る身分だったからではな
い。戦中も戦後も、シンの心は常に憎悪と復讐心が支配していた。妹を奪った戦争、オー
ブに攻めてきた連合、無謀な戦いをしたオーブ、妹と家族を撃ったモビルスーツ、彼の精
神はそれらに対する思いに蝕まれていた。このままではいけないと思った。このまま自制
心が崩壊すれば、自分は連合やオーブに対するテロリストか、よくてレジスタンスになっ
てしまうだろう。こんな自分に歯止めをかける方法はないか……あった。
 それがザフトへの志願という道だった。規律の厳しい軍隊に身を置くことで、自己の精
神を縛り、自己の意見や主張よりも、組織について常に考える。シンにとって、手っ取り
早く憎悪や復讐心を忘れるにはそれしかなかったのである。
 故にシンのアカデミー時代はとにかく凄かった。自分が戦闘向き、軍人向きのコーディ
ネイターでないことをシンはよく理解していたから、人の三倍は常に努力したし、三倍で
ダメなら五倍、五倍でもダメなら十倍努力するようにした。結果、彼はアカデミーを次席
卒業、文句なしでザフトレッド、赤服を着ることが出来るようになった。
「確かに俺は今回の作戦に不満を持ってる。それもルナが心配してたような作戦の成功と
かそういった類の物じゃない」
 相手が妹の仇であったとしても、民間人を手にかけるというのは、彼の理念に反した。

しかし、これもまた軍隊という組織に身を置いた物の運命なのだろう。軍人は命令に従う
義務があるのだ。そして、その命令に意味を考えるのは、必ずしも軍人ではない。
「ねぇ、シン。この任務が終わったらさ……」
 深刻な顔で考え込むシンを見て、ルナマリアはニヤリと笑いかける。
「デートしない? 二人で、どっか遊びに行こうよ」
「デート!? ル、ルナ、い、いきなりなにを……」
 突然の、しかも『妹以外』の女の子から始めて誘われたデートの申し込みに、シンは面
食らったように赤面する。
「作戦が成功すれば休暇ぐらい出るでしょ?」
「そりゃ、出るだろうけど……」
「パーッとさ、嫌なこととか忘れて、遊べばいいのよ。シンはさ、少し物事を考え込む癖
があるわよ。それが悪い癖だとまでは言わないけど、それじゃ人生楽しくないって」
 ルナマリアの言っていることは正しかった。シンは、常に物事を一歩引いた立ち位置で、
客観的に見ようとしている。それはプラントのことだけではなく、地球やオーブといった、
仰々しくいえば宇宙全体についてとも思えた。彼の祖国はプラントではない。でも、今や
オーブでもない。そんなこともあってか、彼は親プラントとか、そう言った一部に偏った
思考とは無縁だった。そして、そんなシンの考え方を、ルナマリアは嫌いでなかった。
「それに何か目標があったほうが作戦もはかどるわよ? アタシみたいな可愛い娘とデー
トできるなんて、凄い励みにならない?」
「自分で可愛いとか言うなよ……」
「そう? 結構自信あるんだけど」
 そりゃ、アカデミー時代はそれなりに人気あったけど……とシンは思う。
 ルナマリアは、席次こそ首席のレイや次席のシンに劣るものの、ザフトレットになるだ
けの優秀さを持っており、学生時代はその容姿と共にかなりの人気であったことをシンは
記憶している。レイが女子人気を一手に集めていたのならば、ルナは本人の意思とは無関
係に男子人気を掌握していた。それがなんだって自分なんかと仲良くし、連むようになっ
たのかをシンは思い出せないが、ルナは彼にとって大切な友人だった。
「まあ、考えといてよ。勿論、返事は良いのを期待するけど」
「……あぁ、考えておくよ」
「アタシね、行ってみたいとこがあるんだぁー」
 楽しそうに笑うルナマリアを見て、シンも微笑んだ。こうやって、自分と一緒に笑える
友人を、俺は守っていかなきゃいけないんだ、と。

 その日、地球連合軍の基地で行われていたのは、大西洋連邦ジョゼフ・コープランドを
議長とするプラントとの和平について協議する、平和に向けての総会だった。出席者は主
に連合加盟国を中心とした反戦を唱える穏健派の政治家たちと軍人たちであり、ブルーコ
スモスの盟主など、もっともこの場に似つかわしくないと誰もが思っていた。
 しかし、いざ会議が始まってみると、ジョゼフ・コープランドは今まで暗黙の了解とし
てきた部分にズバズバと斬り込んでいくではないか。
「――このことからも、私は連合規模での軍備を見直し、それを最小限に縮小していきた
いと思っております。その為にはまず、連合軍をもっと透明性のある軍隊にする必要があ
り、かのファントムペインなる部隊も例外ではありません」

ファントムペイン。その名を聞いた政治家たちは一様に顔をしかめ、軍人たちは目を背
けようとした。近年、連合軍内部に台頭してきたこの部隊は、あのブルーコスモスの息が
掛かっており、ブルーコスモスのバックにいるといわれる軍需産業複合体ロゴスの資金力
を背景に、独自の指揮系統を持つ大規模な独立部隊になっていた。
「しかし、ジョゼフ大統領は軍備縮小を声高に唱えられるが、その為にはプラントにもザ
フトの規模縮小を求める必要があるのでは?」
 出席者の一人が当然のことである質問をする。
「無論私は、プラントにも同様の考えを提示するつもりだ。だからこそ我々がまず手本と
なり、軍備の縮小及び解体を進めねばならんのだ」
 そしてやがては兵力や兵器といったものを全廃できれば……と、ジョゼフは思っている。
私が生きているうちは無理でも、私の跡を継ぐ者が、私の志を継いでさえくれれば、公約
に掲げた『プラントも含めた地球圏統一政府の樹立』は可能になるはずだ。
 その為にも、ここ踏ん張りどころなのだ。今日を乗り切れば、世界はとりあえず連合だ
けでも軍備縮小、和平への道に加速するはずだ。
「しかしですなぁ、大統領閣下」
 ここで今まで黙って静観を決め込んでいたかに見える、ブルーコスモス盟主ロード・ジ
ブリールが口を開いた。その顔は、ジョゼフに対して幾分かの侮蔑と失笑を含んでいる。
「未だ我々はコーディネイターどもと手を取り合えるわけではないはずですよ。失敗に終
わったとはいえ、過日もコーディネイターによる地球に対するテロ行為があったではあり
ませんか。あのユニウス・セブンが落下していた場合の被害規模を計算したのですがね、
まったく途方ない結果でしたよ」
 ジブリールはコーディネイターという部分を強調しながら、コンソールを操作し、スク
リーンに予測計算された被害状況を提示して見せた。確かにそれは酷いものであり、仮に
欠片一つ落ちていたとしても、無視できない被害であった。
 総会出席者は息を呑むものもいれば、目を疑うものもいたが、壇上に上るジョゼフは冷
静だった。
「過ぎ去った事件に対して悲観的な過程を見せられても困るなジブリール。今現在地球に
ユニウス・セブンは欠片一つ落ちていない、これは紛れもない事実だ。ザフトが責任を持
ってテロリストを撃退してくれたというな」
「ですが、現実にコーディネイターどもに未だ我らに牙を剥く連中がいるのも事実。未だ
逮捕されていないのでそう? コーディネイターのテロリストどもは」
 確かにプラントは未だにテロリストの逮捕には至っていなかった。ザフトが派遣したジ
ュール隊は寝る間も惜しんで日夜捜索を続けているのだが、一向に成果が得られてはいないらしい。

「プラントの市民や、ザフトの中に我々に不満を持つものがいるのは当然だろう」
 突然、ジョゼフはそう切り出した。
「いきなり何を言われるのです? まさかまた血のバレンタインを引き合いに出すのでは
ないでしょうな? あの一件はこちらもエイプリルフールクライシスで相応の……」
 反論するジブリールをジョゼフは手で制した。その顔には決意の色があった。
「これは一昨日、プラント側が極秘裏に公開したプラントの軍事工廠アーモリーワンで起
きたある事件に付いての映像だ」
 映像では、ザフトの最新鋭機がアーモリーワンを破壊して回る映像があった。
「この後、ザフトは機体を奪って逃走したテロリストに追っ手をだし、これと戦闘を行っ
たそうだ。これがその時の映像だ」
 議場に動揺が走った。ザフトのモビルスーツが戦っていたのは、紛れもない連合製モビ
ルスーツ、ダガーだったからである。
「つまり、この事件は連合軍が起こした物である可能性が非常に高い。しかも、その部隊
は一般の指揮系統には左右されず、戦艦とモビルスーツを持ち出すことが出来る、とても
優遇された存在だ」
 ジョゼフの目がいっそう鋭くなり、ジブリールを睨み付けた。
「フン、プラントの自作自演ということもあり得る」
「ほぅ、連合のダガーLをザフトが? それこそあり得ない話だろう」
 如何にも苦し紛れといった感じで毒づくジブリールと、冷静に彼を圧倒していくジョゼ
フ。議場にいる人間は、ジブリールの敗北と、ジョゼフの勝利を悟った。

 一方、基地の外ではファントムペインのネオ・ロアノーク大佐による作戦の最終チェッ
クが行われていた。
「シャトルの配置は全て完了しているな? あぁ、そうだ、その配置で良い」
 ネオはきびきびと指示を出しながら、今回の作戦に気乗りしない自分の心を紛らわせて
いる。
「ロアノーク大佐、パナマ派遣部隊から通信が入っております」
「スティングから? よし、繋いでくれ」
 恐らく作戦開始前の挨拶であろうが、もしかすれば部隊で何か問題が起こったのかも知
れない。決して仲の悪い三人ではないが、自分が居ないとまとまりを欠くこともある。
『よぅ、ネオ! そっちはどうだよ?』
 しかし、そんな心配は無用だったようで、通信機越しのスティングの声は至って気楽な
物だった。

「こっちは滞りなく進んでいるよ。そっちはどうだ? 俺が居ないからって喧嘩でもして
るんじゃないだろうな?」
『ばーか、俺達だってもうガキじゃねぇんだ。そんなことしねぇよ。……まあでも強いて
言えば』
「何かあったのか?」
 ネオの仮面に隠れた表情が一瞬険しい物になるが、スティングは軽く笑って、
『ステラがお前に会えなくて寂しがってるぜ。ネオー、ネオー、ってな。帰ったらタップ
リ構ってやれよ?』
「フフ、ハハハッ! なんだ、そんなことか。判ってるよ、帰ってきたらステラをタップ
リ可愛がってやる。お前とアウルにもメシでも奢って」
『いっとくが、ステラにイヤらしいことはすんなよ、おっさん』
「おっさんじゃない! お前、なんてこといいやがる!」
『構ってやれっといったのに、可愛がってやると返すところが、おっさん臭いんだよ。し
かもエロ親父の部類だな』
「お、お前なぁ!」
 そんなやりとりが少し続いたが、決してこの二人の仲は悪くない。むしろ、ファントム
ペインの中でも良好な部類に入り、スティングたちはネオを慕っている。
『まあ、そういうわけでこっちは俺に任せろ。おっさんも、そっちで頑張れよ?』
「だから、おっさんじゃないと何度言えば――」
『じゃーなー、アウルが呼んでるわ』
 一方的にスティングに通信を切られ、ネオは少しの間憮然とした表情をしていた。まっ
たく自分は仮面を付けていたよかった。おっさんと連呼されて、結構傷ついているという
事実を、周りに悟られないのだから。
「さて……後は、ザフトの皆さんの到着を待つばかりだ。上手く餌は流したんだ、精々派
手に食らいついてくれないと困るぜ?」

「皆さん、今度の事件を私は良い機会だと思っております」
 総会はいよいよ終盤を迎えていた。ジョゼフは最後の締めとして、熱弁を振るう。
「これからは地球もプラントも武器を捨て、対話による解決を目指す。それこそが平和へ
の大いなる一歩だと、私は確信しております!」
 議場から盛大な拍手が巻き起こる。あのジブリールでさえ拍手をしている。
 ジョゼフは満足しきっていた。時代は変わる、自分の理想、平和への道へと。時間は掛
かるかも知れない、しかし、それがなんだというのだ。時間をかけてえられる平和ほどあ
りがたい物はないではないか。
「皆さん、私は賛同してくださる皆さんを心から――」
 この時、ジョゼフはたった一つだけ、考え違いをしていた。
 確かに時代を変えることは可能だ。長い目で見て平和を作っていくことも、不可能では
ない。だが、世界を動かすにはもっと単純で、変革させるにはとても有効な手段があった。
それは、武力によるクーデターという物だった。

「……来たか!」
 宇宙より降下し、真っ直ぐとこちら向かってくる戦艦を確認したネオは、それが見知っ
た戦艦であることを知り苦笑した。
「つくづく縁があるらしいな……奴らとは」
「大佐、すぐに警報を出しますか?」
「いや、ギリギリまで待て……奴らに先に仕掛けされるんだ」
 その上で警報を流す。総会出席者は面食らって肝を冷やすだろう。
「ここまでは計画通り……後は時代が俺達を受け入れるかということだけだ」
 C.E73年10月末日。歴史は今、新たな時代を迎えようとしている。