W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第18話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:06:10

 ミネルバがカーペンタリア基地を出航し、ユーラシア西側地域へと向かう情
報は早い段階でファントムペインの知るところとなった。この時期、ファント
ムペインは情報収集に力を入れており、反対にザフトの情報管理が甘いことも
あってか、まずまずの成果を上げることが出来ていた。
 しかし、情報を手に入れたとしても、それをどう処理するかでそれまでの努
力が無に帰すことは多々ある。ファントムペイントしては、早急に対応を決め
ねばならなかった。
「艦隊を派遣しようにも、現在我々はヘブンズベースの立て直し、スエズ基地
の維持、戦力の再編に追われている。とてもそのような余裕はない」
 ただでさえ、大規模な遠征の後である。将兵にも疲れが溜まっており、今は
その回復に努めるべきとの意見が相次いだ。が、元々血の気が多く、コーディ
ネイターというだけで嫌悪感を示すものも多いため、
「このまま負け続けるというのは兵の士気にも関わる。何が何でも倒すべし」
 という意見もあるにはあった。無論、その意見にも一理あることはあるが、
ネオ・ロアノーク大佐などに言わせれば、
「たかが戦艦一隻、放っておけばいい。奴らがユーラシアに着いた後、ガルナ
ハンやスエズの地上戦力で迎え撃つという手もあるだろうに」
 何も海上で仕留める必要など、どこにもないのだ。それに海戦で負けたと言
うことは、敵は海戦に長けているという見方も出来る。何も相手の得意分野で
戦ってやることもない。
 だが、そうしたネオの意見を無視するかのように、二人のモビルスーツパイ
ロットがミネルバ討伐を買って出た。
「コーディネイターは殲滅する。それが我々の使命だ」
「で、あるかして、エースパイロットの俺らが出向いてやるってわけさ」
 エミリオ・ブロデリックと、ダナ・スニップの二人だった。
 エミリオは、ホアキン隊に所属するスウェン・カル・バヤンらと同じく、ブ
ルーコスモスの養護施設で兵士として育てられた反コーディネイター思想の塊
のような男で、機械のようにコーディネイターの殺戮を行う。
 ダナは、奔放かつ軽い性格をしているものの、重度の戦闘狂であり、戦闘の
興奮、破壊と殺戮を楽しむためだけにファントムペインに所属している。
 互いに一癖も二癖もある二人だったが、モビルスーツパイロットとしての腕
は確かであり、ファントムペイン内での評価も高かった。
「艦隊なんて必要ない。少数精鋭、本当に実力あるものの前に、ミネルバは海
の藻屑となるさ」
 この高言に、ネオは一抹の不安を覚えた。しかし、この出撃要請を受けた
ロード・ジブリールが、
「小さくとも、勝利を増やすこと自体は問題ではない」
 と、発言したため、出撃が許可されたのだ。もっとも、ジブリール自身は出
撃を促したつもりなど無かったが、部下たちがそれに過剰反応した結果だっ
た。こうなってしまうと、ネオなどには口の出しようが無く、とりあえずは勝
利を祈ってやるしかなかった。

             18話「決断の時」

 ファントムペインインド洋基地。旧連合によって建設が始められ、ファント
ムペインによって引き継がれたこの基地は、完成すればザフト軍カーペンタリ
ア基地への前線基地となるだけでなく、赤道連合含め中東勢力への抑止力とな
るはずだった。
 そしてその基地司令官は、元々連合軍士官だった男がファントムペインによ
るクーデターの際、立場を鞍替えしたものであり、正規のファントムペインに
対しての発言力に乏しかった。
「つまり、簡単に言うと、俺達はヘブンズベースから遠路遙々、そのミネル
バってのを倒しに来たわけだ」
 しかしそれでも、突然、機体の整備と補給注文し、基地へと乗り込んできた
相手、エミリオとダナの二人に対して、基地司令官は好印象を持つことが出来
なかった。
「協定によってお前らは我々に協力する義務がある」
 言っていることは正論なのだが、両者の態度のでかさが年配の基地指令の癇
に障った。
「それと補給とは別にもう一つばかし頼みを聞いて貰うぜ?」
「頼み?」
 基地司令官は嫌なものを感じた。旧連合から転向したものは何かと立場が弱
い。命令されればただ従うだけという、明確な格差が生まれつつあるという。
これは今まで逆に命令される立場であったファントムペインの、謂わば反動か
ら生じた結果であった。
「俺達はエースパイロット。腕にも覚えがあるし、自他ともに認める実力者
だ」
 ダナの言ってることは自慢以外の何物でもないが、事実でもあった。
「そんな強い俺達だからこそ、たった二機で挑むのが無謀であることも知って
いる」
「この基地の兵力を貸して貰おう」
 エミリオがサラリと言ってのけた注文に、基地司令官は驚きを持って返すこ
としかできなかった。
「兵力だと? この基地は建設中だぞ。武装すら侭ならぬのに兵力など」
「おいおい、なに言ってるんだ。あるだろ? ウィンダムが三十機も」
「あ、あれはこの基地の護衛用だぞ!」
 インド洋基地唯一の兵力として、ジェットストライカー装備のウィンダムが
三十機配備されている。基地司令官の言うとおり、建設中の基地を守る守備部
隊であり、完成後もそのまま配属となるであろうモビルスーツたちだった。
「護衛用ねぇ……いいか? ミネルバとやらがこの付近を通るのは確実なん
だ。この基地を見つけられたら、カーペンタリアから建設阻止のための部隊が
押し寄せてくるんだぜ?」
「そんな結果を招きたくなければ、我々に従え」
 一見すると正論その物に思える二人の意見だったが、実は大きな穴がある。
仮にミネルバを撃沈し、基地の存在を隠すことに成功したとしても、ミネルバ
が撃沈されたことに対して不審を憶えたザフトは必ず調査を開始するだろう。
そうなればどちらにしろ基地は発見され、建設どころではなくなる。
 また、根本的な問題として、ミネルバが基地を発見しない場合も考えられ
る。近くを通ると言っても、距離がないわけではないし、ユーラシアへと急ぐ
彼らが気付かず通り過ぎる可能性とてなくはないのだ。
 その部分を指摘して粘れば、基地指令官にも部はあった。しかし、彼はそん
な簡単なことにすら、気付くことはなかった。
「判った……出撃させる。絶対ミネルバを沈めてくれ」
 あっさりとこちらの口車に乗った司令官を内心小馬鹿にし、表面上は満足し
たダナは笑みを浮かべる。
「あぁ、当然だ。如何なる犠牲を払っても、な」

 その頃、海路マハムールへと目指すミネルバは一隻で行動する以上、周囲の
警戒こそ怠っていなかったが、インド洋基地の存在には気付いてはいなかっ
た。
「結局、カーペンタリアは一隻の護衛も付けてくれませんでしたね」
 士官室にて今後の行動を詰めるアーサーは、苦笑気味にタリアに言った。
「我々がいなければカーペンタリアは落ちていたというのに。全く酷い仕打ち
です」
「仕方がないわ。ただでさえあの戦闘の後だもの。余剰兵力がないと言われれ
ばね、嘘を言ってるわけではないし」
 本来、このような任務の際には護衛艦の一つでも付けるのが普通なのだが、
損害の酷いカーペンタリア基地にはその余裕が全くなかった。国防委員会の命
令でもあれば違ったのだろうが、国防委員会もまた、その必要無しとの決定を
したのだ。
「これはあれですね。汚名返上をしたいのならば、一隻で頑張れ、ということ
ですかね?」
「そんなとこでしょうね。ミネルバを敢えて混乱が続く地域に向かわせるの
も、ファントムペインの圧政からの解放者としての印象を強めたいんでしょ
う。我々にとってはイメージ回復にもなるし、良いチャンスだわ」
 そうすれば、自分はまた名誉を取り戻すことが出来る。自分に取り巻く噂
も、消えるだろう。タリアがこの時、自己保身に近い考えをしていた。

 アスラン・ザラは、艦長と副官が行っている会議に出席することもなく、射
撃場にいた。このミネルバにおいて、最大の権力を持っているのは特務隊に所
属しているアスランである。誰であっても、彼に命令権はない。アスラン自
身、それを誇示するような性格ではなかったが、強い力を持つものは他者を萎
縮させてしまう。彼は早くも、艦内で孤立していた。
「今後、動きやすいと思ってこの艦に乗ってみたが……これは少しやりにくい
な」
 苦笑しながら、アスランは的に向かって射撃をした。彼は射撃や白兵戦にお
いても無類の強さを誇る男であり、銃弾は的の急所を確実に撃ち抜いていた。
思えば射撃訓練など久しくしていなかったが、腕は鈍っていないようだ。
「こんなものか」
 続けて斉射すると、的は音を立てて崩れた。決まった動きしかしない標的な
ど、所詮はこの程度だろう。アスランはそう思いながら、消音用の耳当てを外
すと、
「上手ですね~」
 背後から、賞賛の声が聞こえた。
「君は……」
 振り返ると、そこにザフト軍の緑服を着た少女が立っていた。赤い髪を両側
で縛り、顔にはまだあどけなさが残っている。確か、艦橋のオペレーターだっ
たはずだが。
「あ、申し遅れました。私、ミネルバのブリッジクルー、オペレーターのメイ
リン・ホークです。えっと、自己紹介はまだでしたよね?」
「あ、ああ。でも、ホークって性はルナマリアと……」
「ルナマリアは私の姉です。姉とはもう、話したんですか?」
「色々とな。さっきも、ジャスティスについて散々聞かれたよ」
 実際は、ミネルバに来る前、ユニウス事件の時においても何回か話をしたこ
とはあるのだが、あの時と違って随分有効的だった気がする。単純にジャス
ティスのことを知りたくて下手に出たということも考えられなくはないが、そ
れにしても随分な変化だと思った。
「へぇ……お姉ちゃんが……」
「君は何でまたこんなところに?」
 一瞬素が出ていたことは気にせず、アスランは尋ねた。年下の女の子であろ
うと異性と積極的に話す方ではないアスランだったが、流石にこうも孤立して
いると話し相手の一人も欲しいところだった。
「たまたま近くを通りかかって。射撃、お上手なんですね」
「ん、まあ苦手ではないけど」
 アスランという男であっても褒められること自体に悪い気はしない。もっと
も、内容はとても褒められたものではないはずなのだが。
「きっとミネルバ一の腕前ですよ。シンやレイより凄いかも」
「あいつ等、白兵戦も得意なのか?」
「シンはアカデミーで白兵戦はトップの成績でした。唯一、レイが勝てなかっ
た分野なんです」
「へぇ……」
 裏を返せば、それ以外はレイのほうが勝っているということなのだろう。ま
あ、シンもザフトレッドであるからして僅差だとは思うが……
「私は見てないんですけど、白兵戦の教官とナイフの一騎打ちをしたこともあ
るそうです。レイが言ってました」
「ナイフ……まさか、ナイフのフレッドと!?」
「は、はい、そういってましたけど」
 思わず声を大きくしたアスランと、それに驚くメイリンだったが、驚くのも
無理はなかった。ナイフのフレッドはザフト軍アカデミーの白兵戦の教官だ
が、ナイフ使いとしてはコーディネイター最強と言われ、彼が直接実技をする
相手はその年で一番強いと彼が認めた相手のみである。
「アイツとナイフ戦をやるなんて……そりゃ確かに凄いな」
「随分、詳しいですね。あ、アスランさんの年は誰が戦ったんですか?」
 当然の疑問だったが、アスランとしては何とも答えがたい質問だった。だか
ら彼は、訓練用の銃を片付けながら、あくまでさりげなく言った。
「……俺だよ」
 もっとも、受け取る側は全然さりげなく聞こえなかったが。
「えぇっ!? ア、アスランさんが?」
「指名されてね。戦う羽目になった」
 あの緊迫した状況は今でも覚えている。殺るか、殺られるかの瀬戸際。ナイ
フとナイフがぶつかる金属音。一瞬でも気を抜いたら、自分は確実に死ぬ。
「でも、モビルスーツパイロットが白兵戦なんて行うのは最後の手段だ。機体
を失ったときとかな……それじゃ、パイロットとして失格だと思わないか?」
 苦笑気味に、アスランは片付けを終えると訓練室を出ようとする。道を空け
るメイリンは、その背に最後の質問を投げかけた。
「アスランさんは、勝ったんですか? ナイフのフレッドに」
 振り向いたアスランの顔を見て、メイリンはハッとした。そこには今までの
アスランになかった、明確な自信があった。
「あぁ、勝ったよ。勝ったけど、あんな目に合うのは二度とゴメンだ」

 出撃前、エミリオとダナは建設中の基地で働く労働者を見た。
「あれは一般市民か?」
「そうみたいだな。人員不足で付近の住民が駆り出されてるんだろうぜ」
「強制労働、という奴か」
 別に同情も哀れみも浮かばなかった。気になったから尋ねただけ、エミリオ
はコーディネイターを殺すこと以外に興味がないのだ。同僚のダナもまた、戦
闘以外に興味は無いのである意味でこの二人は良いコンビだった。
「さて、それじゃ行くか。女神様を沈めによ」
「女神もコーディネイターなどに名前を使われては、いい迷惑だろう」
 この二人がエースパイロットと呼ばれ、無類の強さを誇るのにはそれぞれの
能力の高さもさることながら、彼らの乗る機体も影響している。
「エミリオ・ブロデリック、ロッソイージス出撃する」
 エミリオの愛機、ロッソイージスはファントムペインが複数の企業の技術協
力を元に作られたエース用にカスタマイズされた特別なモビルスーツである。
かつて、ザフトに強奪さえ、今では英雄とあだ名されるアスラン・ザラが愛機
としたX303イージスの強化発展機として開発されたのだが、ベース機以上の鮮
烈さを持つ真紅のPS装甲を特徴としている。
「ダナ・スニップ、ネロブリッツ出るぞ」
 ダナの愛機、ネロブリッツもまたファントムペインが複数の企業の技術協力
を得てX207ブリッツの強化発展機として開発した機体である。ベース機以上に
近接戦闘の向上を目指し、背部の可変アームユニットは物理兵器でありながら
PS装甲にも通用する破壊力を持っている。
 二人の機体に続いて、インド洋基地のウィンダムが続々と飛び立つ。旧連合
兵の多くで構成されたパイロットたち。一体彼らのうちどれだけ、この基地に
帰り着くことが出来るのだろうか。
 それは、誰にも判らないことだった。

 周囲の警戒を行っていたミネルバが、モビルスーツ群を確認したのは正午を
少し過ぎた頃であった。軍隊に昼休みなどありはしないが、突然だったのは確
かだった。
「機影確認、ウィンダム三十機、及び先行する未確認機一」
「未確認機? 新型かしら」
 しかし、この大海原のどこからこんな数のモビルスーツが……。
 タリアは索敵班に母艦の確認を急がせた。
「あれですかね、宇宙の時と同じでミラージュコロイドとか」
「地上で? 不可能とは思わないけど、可能性として低いわね」
「じゃあ、どこかに基地でもあるんですよ」
「それこそありえないわ。カーペンタリアの目と鼻の先じゃない」
 そんなものがあるとすれば、それはザフト軍の情報収集能力があまりにも低
いこととなってしまう。しかもタリア自身、心の底ではそれを否定できないの
だから質が悪い。
「モビルスーツ隊緊急発進、敵モビルスーツを迎撃。それと……フェイスへの
連絡も」
 例え艦長であっても、フェイス相手に命令は出来ない。実力主義のザフトと
はいえ、タリアとしては複雑極まりない気分だった。
 しかも、アスラン・ザラのほうはそれを気にしていないように見えるのだか
ら、本当に嫌な話だ。

 そのアスランは、手早く出撃準備を整え、いつでも出られる体勢を取ってい
た。
「三十機の大軍相手に、ミネルバを庇いつつ戦う……果たしてそれが可能だろ
うか?」
 単なるモビルスーツでの戦闘ならば、アスランは三十機程度ならば勝てる自
信があった。だが、母艦であるミネルバを守るとなると話は変わってくる。ミ
ネルバの武装は確かに強力だが、モビルスーツ迎撃用にはあまり向いていない
し、艦載機のザクも砲台程度の役割しかできないだろう。
「加えてインパルスがあれでは……」
 インパルスは、ジャスティスと同じく、ミネルバに無くてはならない航空戦
力だが、パイロットであるシン・アスカは精神面での不調が続いている。先日
の戦闘で負けた影響もあるのだろうし、若い新兵ならば仕方のないことだと思
うが、それでこちらが負けたのでは話にならない。
 アスランはモビルスーツデッキへと如何にも気力なさげに入ってきたシンを
見て、溜息を付く。平手打ちの一つでもして、渇を入れてやるべきなのかも知
れないが、そんなの自分の柄じゃあない。
「自分で乗り越えてみろ……それが出来ない奴は、戦場には向いてない」
 かつての自分や、その同僚たち、そしてあのキラ・ヤマトも通ってきた道な
のだ。他人の助言や行動がどうであれ、最終的には自分の問題のはずだ。
 それに……
「あんまり強くなられると、後々厄介なことになるかもしれないしな」
 アスランは意地の悪そうな笑みを浮かべ、コクピットを閉めた。

 そのシンは、アスランの見立て通り、確かに気力がなかった。覇気に欠け
る、という表現が相応しいぐらいである。
(アスラン・ザラが俺を見ていた気がする……呆れられてかな? まあ、無理
もないか)
 シン自身もそんなことは判っているのだが、どうにもテンションが上がらな
い。彼にとっては先日の敗北も、現れたアスランの強さも、積もり積もった自
身への苦悩全てが重荷なのだ。元々、家族を失ったという精神的負荷を背負っ
ているだけあって、彼の心はボロボロだった。
 しかし、だからといって彼が軍人としての責務を全うしていないわけではな
い。彼は職務に精励することでそんな現実から目を背けようとしており、気力
がないとはいえ真面目ではあった。
「死ぬなら……戦場で死ぬさ」

 それぞれの陣営が、それぞれ戦いの準備をする中で、ファントムペインイン
ド洋基地の近くに一機のモビルスーツが潜んでいた。
 全体に暗色の塗装が施され、基本的な武装を装備しているその機体は、イン
パルスやジャスティスと似た形をしていた。
「基地からモビルスーツが発進した……戦闘が行われるのか?」
 機体のパイロットは、冷静に状況を分析していく。彼自身、厄介ごとに巻き
込まれるのは避けたいと思っていたが、インド洋基地では武器を持たぬ一般市
民が強制労働を軍によって強要されている。それを見過ごしてこの地を去るの
は、彼には出来そうもなかった。
「仮面の一つでもあれば、仮面の男として戦えるんだがな」
 自分の苦い過去を思い出しながら、男は苦笑する。彼もまた決断しなければ
行けなかった。異世界の住人である自分が、この世界の戦闘に介入すること
に。
 インド洋の死闘が、今始まろうとしている。