W-Seed_WEED_第00話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 12:54:28

ヒイロとその少女が出会ったのは2年前、連合のオーブ侵略の最中だった。
いや、出会った、というのは正確ではないのかもしれない。
実際のところは救出した、だ。
そもそもヒイロはカトルの、自分達のガンダムを太陽に投下するという話を飲みカトルの元へ向かう途中だった。
しかし、気付けばヒイロがいたのは彼の知らない地球。
ウイングゼロを隠し情報を得るために世界中を周った。
やがて、辿り着いたのはサンクキングダムとよく似た思想を持つ国、オーブだった。
そしてその頃だ。
連合によるオーブ侵攻があったのは。
この頃、ヒイロにはこの世界に関わる気持ちが薄かった。
この世界は自分の世界ではない。
だからこそ関わるべきではない。
しかし戦火に燃えるオーブ、そこでヒイロは出会った。

少女の姿は悲惨なものだった。
片腕は千切れ飛び、大量の出血をし、誰が見ても死んでると判断できるものだった。
案の定、このあたりの救助も終わり、救出隊も彼女を死んだとみなし放置したのだろう。
しかし、ヒイロは見た。
彼女の胸が僅かに上下したのを。
すぐに止血などの応急処置を施した後、野戦病院へと向かった。

本来この世界と関わるつもりのないヒイロが、この少女を助けたのは、もしかしたら代償行為なのかもしれない。
彼が殺してしまった少女と子犬の。
少女、マユ・アスカの治療には1年の時を要した。

マユが回復した頃。
プラント周辺宙域で謎のMSが漂流していたところ発見された。
その機体はザフトでも連合でも確認された事のないMSだった。
ザフトはそのMSを拘束、搭乗者は素直に従った。
その後の調べにより搭乗者の名はトレーズ・クシュリナーダ、機体名はトールギスという事が発覚。
しかしそれ以外のことは不明だった。
正確にいうならばトールギスに存在していたデータは、プラント議長、ギルバート・デュランダルにより隠匿された。
その内容があまりにも突拍子がなかったため、あるいは危険だったため。
様々な諸説が流れたが表に出る事がなかった。
デュランダルはトレーズを客人として向い入れ、
その後、プラントでの戸籍を作り自らの側近とした。
トレーズは自らの能力を有用に活用し驚くほどの短期間でザフトの中心部まで辿りつく。
彼の能力を見た誰もが、彼がコーディネーターだと疑いもしなかった。
そんなある日の事だった。

「やれやれ、困ったものだな」

デュランダルは自らの執務室で一枚の企画書に目を通すとやれやれと首を振った。
そしてそれをトレーズに渡す。

「これを見てくれ」
「ディスティニープラン要項?ギルバート、これは?」

「一部の議員が提出してきた、それなりに賛同者もいるらしい、君の意見を聞かせてくれ」

トレーズはしばらくそれに目を通すと一笑に付した。

「彼等はこんな事を本気でできると思っているのか?これは社会が人を支配するシステムの構築だ、
これが施工された世界は確かに一時的に平和になるだろう、だが、人が人である以上、このシステムの破綻は目に見えている。
人は社会に依存する事はあってもそれに支配される事を良しとはしない。
歴史を紐解いてもあらゆる社会主義国家が成功を収める事が出来なかったのはそれゆえの事だ。
もしこのような究極の社会主義体制をつくるなら、それこそ遺伝子レベルでの抑制をしなければならないだろう、
あらゆる欲求、好奇心の抑制だ、欲求を無くした人間に進歩はない、あるのは緩やかな破滅だろう」

確かに、自分の才能が使われる場所を定められているのは楽な事だ。
しかし誰もがそうではない。
自分の道は自分で決めたい人間はいくらでもいるだろう。
そういった彼等を従わせるには生まれた時からそうなるように仕向けるしかない。
あらゆる欲求を消せば、従う事に疑問を抱かなくなる。

「他にもいくつか否定要素はあるが、例えばこのプランには決定的な要素がかけている、後天的な要素だ」

人は生まれつきで完全に能力値が決まっているわけではない。
生まれついての資質より後天的な物の方がその人生において遥かに重要な役割を果たす。

「そう、ナンセンスな事だ、人が人である以上、そして人に~をしたい、という欲求がある以上、このプランは意味をなさない・・・・・・少し考えれば分かる事だが、このプランは一部のものにとって非常に都合がいい」

「つまり、コーディネーター至上主義、旧ザラ派、そして一部の支配者か」

旧ザラ派の者たちは今現在も確実にこのプラントに残っている。
彼等は今でこそ表立ってその姿勢を見せないが機会は狙っている。
ディスティニープランは人類総コーディネーター化への布石、そういう事だろう。

「やれやれ、私の任期中は色々大変そうだよ」

そう言うと、デュランダルは再び深いため息をついた。

どうやらこの世界の医術はACの世界よりも上のようだ。
しかし、義手を付け、傷跡がある程度消えた後も、マユの心は死んでいるといえるような状態だった。
無理もない、爆発の衝撃で覚えてないとはいえ片腕を失い、そして家族を失ったのだ。
ちょうどマユの体が回復した頃だ。
アメノミハシラ付近でピースミリオンが発見されたのは。
ヒイロはオーブ上層部、そしてピースミリオンのハワードに独自にコンタクトを取った。
ハワードとヒイロ、そしてオーブ上層部の協議の結果、
ピースミリオンはジャンク屋の船としてオーブに登録される事となる。
宇宙に向かうというヒイロにマユは自分もついていくと主張した。
彼女なりに判ったのだろう。
ヒイロが普通でないと。
彼女は力を欲した。
自らの兄と同じように。
もしかしたらそれは、守る為の力ではなく復讐するための力だったのかもしれない。
しかし、ヒイロは拒まなかった。
このままマユを置いておいては彼女が何をするか判らなかったのだ。
ならば自分の目の届くところに置いた方がいいという判断だった。
流石はコーディネーターというべきか、マユは腕を上げた。
ザフトで赤を纏うまでになった兄のように。
ある意味では、兄以上かもしれない。
まずは機体が違った。
生まれて始めて乗り操縦したMSがウイングゼロ。
無論ゼロシステムは外してあったが。
場所が宇宙空間でなければとんでもない事になっていたかも知れない。
そして、模擬戦の相手が常にヒイロだったことが大きかった。
この世界でヒイロ以上の相手を探すのは難しい。
キラ・ヤマト、アスラン・ザラが匹敵するぐらいか。
プログラムではなく生きた最高の教材がそこにいる。
それがマユの才能を引き出し育てた。
しかし、彼女はそれだけでは納得しなかった。
ゼロシステム。
それは、ピースミリオンにあったデータとガンダニュウム合金で造られたMSウイングガンダムセラフィムの完成後、マユの初めての実戦での事だった。

アメノミハシラ、つまりロンド・ミナ・サハクの依頼での海賊退治をしばしばヒイロは行っていた。
ピースミリオンの保護の代償としてだが問題はない、
それほどヒイロとウイングゼロはこの世界では圧倒的な存在だった。
ヒイロはセラフィムの完成を機に実戦訓練としてマユを連れて行った。
しかし、彼が思いもしない誤算がそこにあった。
マユがセラフィムにゼロシステムをセットアップしていたのだ。
元々セラフィムはゼロシステム搭載機。
コーディネーターのマユにとっては容易な事だったのだろう。
そして案の定マユは暴走した。
もしもヒイロがいなければ大惨事になっていたかも知れない。
かつてのカトルの時と同じように。

「お前にはゼロシステムの使用は無理だ、これは封印する」

ヒイロの言葉に、マユは反発する。

「でも!私にはそれが必要なの!」
「分かっているのか、もし俺がいなければお前とセラフィムは確実にピースミリオンを襲っていたぞ」
「そんな事分かってる!でも!私には力が必要なの!」
「何のためにだ、力を持って何をする、お前には力を手に入れる理由はないはずだ」
「力がなければ無くしちゃう!また大切なものを!」

ヒイロは迷っていた、思えば彼女に戦う力を与えたのは間違いだったのかもしれない。
しかし、全てを失った少女にそれはより所でもあった。
そんな彼女の全てを否定する言葉を、ヒイロは突きつけた。

「お前にまだ、守るべきものがあるのか」
「あ・・・・・・・・・」

そう、マユには何もなかった、家族も友人も生活の場、彼女の世界はあの時壊れてしまったのだ。

「でも・・・だって・・・・・・、またできるかもしれないし・・・」
「ゼロシステムはその大切なものを、今度はお前の手で壊させるかもしれない。
アメノミハシラで暮らせ、元々お前はオーブの人間だ、サハクも悪いようにはしないだろう」

ヒイロの言葉に反論できないマユはその日のうちにアメノミハシラへと、移されていった。