ザフトの軍工廠、アーモリーワンは戦火に包まれていた。
何者かによるアビス、カオス、ガイアのセカンドシリーズ強奪。
それは、ヤキンドゥーエでの戦闘以来平和だった地球圏での新たなる戦乱の狼煙でもあった。
プラント議長、ギルバート・デュランダルは傍らに立つ白服の男に楽しそうに語りかける。
他の者に聞かれないように。
「さて、ここまでは私の予定通りだが、君の言う者も現れるかな?」
まるでこうなる事を知っていたかのように。
インパルスのコックピットで、シン・アスカは叫んだ。
「また戦争がしたいのかよ!あんた達は!」
家族を戦争で失った少年の悲痛な叫びだった。
ザクのコックピットで、アスラン・ザラは焦っていた。
「クソッ!何でこんな事に!」
頭から血を流すカガリをはやくミネルバに運ばなければいけない。
ザフト側は突然の襲撃に浮き足立っていた。
しかし、焦燥を感じているのはザフトの人間だけではない。
カオスに乗るむスティング・オークレーもその一人だった。
「チッ!なんなんだよ!こいつは!」
ある程度の抵抗は予想していたが、インパルスと2機のザクは想像を超えていた。
さらにかなりの数のディンやジンにも次第に追い詰められている。
あげくの果てにはアウルが迂闊にもステラのブロックワードを吐いてしまった。
戦況は悪い。
「ネオは援軍を出したって言うけどまだかよ!その援軍は!」
ジンのパイロット、クロードはどうにか落ち着きを取り戻す。
どうやら戦況はこちら有利のようだ。
損害はかなり出たがまだ10機以上のMSが残っている。
「赤服ってのはたいしたものだぜ、なぁリカルド」
僚機に声をかける。
しかし返答がない、いつも陽気なリカルドの声が聞こえない。
「おい!どうしたんだ!リカルド!ジョン!テリー!フランク!」
他の小隊のメンバーにも声をかける。
気がつくとレーダーから味方を表す光点が次々と消えていく。v
「おい!クロード!聞こえるか!皆やられた!リカルドも!フランクも!ライトもだ!
気をつけろクロード!死神だ!死神がいる!皆やられた!俺もやばい!」
いつも冷静さを失わないリーダーであるテリーの取り乱したの声が聞こえる。
(皆やられたって?何を言ってるんだ?死神だって?)
「落ち着けよテリー、どうしたんだ?」
「逃げろ!死神がいる!姿は見えないがいるんだ!逃げ・・・・・・」
そこでテリーの声が途絶えた。
「へ、へへ・・・何言ってんだよテリー、脅かすなよ」
口ではそう言うが警戒する。テリーはあのヤキンドゥーエを生き残った猛者だ。
その彼が言うんだ、死神はいるのだろう。
上空で戦いながら、シンは見た、ザフト機が両断されるのを。
アビスでもカオスでもガイアでも無いMS、しかしどこか似ている。
「なんだよ、あれ・・・・・・」
最新機体のテストパイロットであるシンも見たことの無い、黒いMSがそこにあった。
両断される直前、クロードは見た、そのMSを。
黒い羽を纏い、巨大なサイズを振り上げる黒いMSの姿を。
「死に・・・神・・・・・・」
そして爆発の中、その意識を永遠に断った。
死神の中で、少年は言う、いつもの台詞を。
ここにいるはずの無い少年が、ここにあるはずの無いMSの中で。
「死ぬぜぇ、俺の姿を見ちまった奴は、皆死んじまうぜぇ!」
死神の名を持つガンダム、デスサイズ・ヘルは確かにここに在った。