Whitedoll-if_Q1:悪機蹂躙

Last-modified: 2014-10-18 (土) 21:29:43

 災厄の星はソラから降りてきたのだ。火を纏い、地面を抉り、其の頭を擦り付ける。
 起き上がった災厄の雄叫びは幾多の山をも越えて響き渡る。
 それは嗚咽、歓喜、後悔、感謝、筆舌尽くしがたいとはこういう時の言葉なのであろう。
 我々は恐怖した。彼の者は神の怒りの権化か、それとも暴虐な化け物の一匹か。
 しかし、災厄は何もしなかった。白い人形を作り、ただ眠っただけだ。

 

 では何故、災厄なのか?

 

 それは一目見てしまえば、誰もがそう思うからである。
 理で語る事も、身で体験する事もなく、自らを災厄であると其の存在は語っていたのだ。
 その災厄は一つの珠となり、その眼はじっとわれらを見つめ戒めている。
 故に決して彼の者を目覚めさせてはいけない。傷つけさせてはいけない。
 彼の者は寝ているのだ。我々は崇め奉り、彼の者を苦痛の現世へと戻してはならぬ……と
 そんな言い伝えから始まる祭りの夜だったと私は後にロランに聞かされた。

 
 

DEAD WONG'S Q[uestion]
  ―もし、ホワイトドールが偉大な彼だったら
                       Q1:悪機蹂躙

 
 

 それはアメリア大陸の田舎の町ヴィシニティの一員になる夜のことだった。2年遅れの成人の儀式。
 僕達ヴィシニティの若者は山に集まり、災厄の白い悪魔【ホワイトドール】の像の前で宵越しの祭りを行っていた。
 それと同時期に月の民ムーンレイスとは交渉は進めていたものの話し合いは進まず
 地球降下の先遣部隊と武力に寄る交渉の突破口を見出していた。
 正にその祭りの夜に全てが動き出し、白い悪魔は目覚めてしまったのだ。

 

「な、なんだあの機体!? モビルスーツか!? ディアナカウンターはデタラメばかりだ。
 あんなのが居るなんて私は聞いていない!」
「中尉どうしました!?」
「団子だ……空飛ぶ団子が迫ってくる!?」
「――はぃ?」

 

 どういう技術を使っているのか全く解らないが僕はこの球体に近い恐らくMSと思われる機体に乗っている。
 中に括りつけられていたウォン・ユンファと名乗る男性はこれを操っている……のだと思う。
 正直言ってしまうとよくわからない。
 操縦桿もスイッチも無いこのガンダムと呼ばれる機体はウォンさんの意思にしたがって動いている様に見える。
 機体を飛ばしながらも、モニター越しには急接近して狼狽する大型MSウォドムが映し出す。
 ウォンさんが操ったのか解らないが触手の様なコードが伸びたかと思えばそれはイスを形成して
 僕、ロラン・セアックとハイム家のソシエ御嬢様の席を作ってくれた。
 うねうねと動く触手が体を固定されるというか縛られているのかよくわからないが
 とりあえず、ウォンさは気遣いをしているのだと思う。悪い人ではないのかなだろうか。
 ただ、座り心地とか細かい感想は口には出せないが、あまりいい気分はしない。

 
 

「ふふ、女か! 全く、これは……ああ、すまない。二人とも、質問を良いですかね?」
「ええと、なんですかウォンさん」
「この時代、この地域に置いてもやはり、女を嬲り弄ぶのは悪い趣味なのだろうか?」
「さいてーよ!」
「うむ、解りやすい返答ありがとう、お嬢さん。いやぁ、気が進まないですねぇ」

 

 理屈は解らない。ハッキングか通信傍受をしているのか? 相手の機体のパイロットの声が聞こえてきた。
 ウォドムのビームもミサイルも軽々と避けてはこのガンダムと呼ばれた機体は接近すると
 ウォンさんの言う様に女性は段々と鮮明に聞こえてくる。
 接近とこちらの機影を確認すると同時の狼狽や焦りは手に取る様に解るほどだった。
 そう言うと同時に球体の機体の左右から何やら爪の様な手が生えて来たと思うと
 そのままウォドムの頭へと抱きつく様にする。
 同時に金属のけたたましい締め付ける音とともに根本へと絡みついたその手の先端は
 ウォドムの頭の付け根を……腐食させている? いや、なんなんだろうアレは。
 まるでカビが生えたかの様に根本から腐り落として、ねじ切っている。
 ウォドムは主に頭部に主兵装をまとめている。頭が無ければ、文字通り図体の大きいだけになる。
 無論、それでも単純なスペックは他のMSの追随を許さない。 
 それを赤子の手をひねるかの様にあっさりと組み伏せている。

 

「ウォドムの頭が!? な、なんなんだあいつは!?」
「ごきげんようお嬢さん。なぁに、命は取りません。機体だけ頂きましょう」
「通信に割り込んできた!? な、なんなんだ、なんなんだよぅ!?」

 

 同時にガンダムの機体が大口を開けて、コックピットの部分をむさぼる様に噛み付き引きちぎる。
 うん、本当に口があって牙があって噛み付いていく。金属はまるでローストチキンのもも肉の様に食いちぎられている。
 訳が解らない。MSというかそもそも機械に口と牙がある意味が解らない。
 当然相手方のムーンレイスの女性パイロットは狼狽する。恐らく僕も乗っていたら大方このリアクションになるだろう。
 むき出しになるコックピット。震える女性パイロット姿は映画さながらの光景だ。

 

「あのかかし! 中に人が居るわよ、ロラン!? あいつが操ってるの?」
「そ、そうみたいですねお嬢様」
「やぁやぁ、中々麗しいお嬢さんじゃないか。さっさと降り給え」
「貴様ら、地球人か!?……ひぃ!? なんだ、これは」

 

 ガンダムの口の中からうねうねと蠢く触手がパイロットへと組付き掛かる。
 金属の滑らかで冷たい触感は多分この椅子らしき構成物と同等なのだろう。
 あれで縛り上げられるというのはあんまし嬉しくないと僕は稚拙な想像力で想像する。
 ぬらついた金属の紐が太ももを縛り上げて引きずり寄せていく度に必至の抵抗を見せる。
 操縦桿や椅子にしがみつくが、抵抗も虚しくそのまま、右肩に絡みついた触手から吊るされ、晒されていく。

 
 

「なんだこの触手……はっ!? いやらしい事するつもりか!? エロ同人みたいに!(※1)」
「………………………………今のは無いな、少年」
「ないですね、ウォンさん」
「ぇ? ナニが?」

 

 女性パイロットの発したセリフに世界が凍りつく。
 長い沈黙、お嬢様は女性故かわからない様子でその空気感に戸惑いを覚えています。
 ウォンさんと僕は大きな溜息と蔑みの視線を女性に向ける事になりました。
 憐憫、どうしようもない脱力感と空虚感が視線を合わせることで共有する。
 眉間にシワを寄せて、それを人差し指と親指でつまむ様にしては苦悶に耐えている。
 サングラスがわずかにずらした際に見えた視線と目の険しさは元の目つきの悪さも相まってか
 緩やかなしゃべり方をしていたウォンさんの激情の片鱗を僕は垣間見ていた。

 

「別に見目は悪くないが、山田葵(※2)の可愛さと比べるとねぇ。あれはあの無邪気さあってこその台詞です」
「ですね。こう年甲斐とか自分のキャラとか考えてほしい所です、全く」
「お前ら、普通にドン引きするなぁ!!! 見えてないがその視線はやめろよぉぉぉっ!」
「……(ヤマダ・アオイってなんなのかしら? 人? 可愛いの?)」
「もぅやだぁ~! 私、帰るー! 月に帰るーー! 誰か私を助けろーーーー!」

 

 白けた空気の中、女性パイロットの痛々しい(発言の方が痛々しいが)絶叫を受け
 ガンダムは軽く口にパイロットを咥えた後、まるでというか言葉通り
 吐き捨てるかの様に中に乗っていた女性を口から吐き出しては小麦畑へと打ち捨てる。
 通信の最期の助けに応える声が僅かに消えたと同時、侵入していた触手が
 電気系統にでも接触したのだろう。巨大なカカシ、ウォドムは完全に沈黙した。

 

「あの人は大丈夫ですか、ウォンさん。Anotherなら死んでますよ?(※3)」
「富野作品の方こそ結構死ぬから問題ない(※4)と言いたい所だが加減はしていますよ。
 ま、もう一機が迎えに来るでしょう。通信で助けを呼んでましたし」
「(また、男二人で訳の分からない話をしているわ。けど、そのことに突っ込むと面倒そうね)
 町を焼いた奴なんだからあのまま、死んじゃえばいいのよ」
「お嬢様、そういうのはいけませんよ」
「はっはっはっ、中々過激ですね」

 
 

 押し黙っていたお嬢様が取り敢えず手癖の様に暴言を吐き出しているが
 なんだか、僕はお嬢様の空気を読むステータスが地味に上がってしまっている事に僅かな不安を覚える。
 空気の読めるソシエお嬢様はもうソシエお嬢様ではない気がする。
 この不安は後に的中してしまい、大きな騒動へのフラグにならないことを僕は祈っている。
 ガンダムはウォドムの頭部と胴体を抱えていた。町の広場へとふよふよと降り立っては
 頭部を足元に転がし、まるで最初から其処に鎮座していたかの様にウォドムの頭部へ着地する。

 

「さて、ガンダムのお色直しといこうか。さ、二人共降りて降りて」
「えーと、ウォンだったっけ。で、あんた一体なん――」
「ま、ここいらで一番エライ人を紹介願いますかね。
 村長なり領主なりが居るでしょう。その人と一緒に話しましょう」
「私達じゃ話にならないって訳! まぁ、いいわ」
「……白い人形」
「それならやっぱりグエン様かし……ぇ? ロランなにいっ……てぇ!?」

 

 お嬢様はまってましたと言わんばかりに機体から降りたと同時、ウォンさんに食ってかかろうとする。
 僕はさっきまで乗っていた機体、団子を2つに割って手足を生やした様な姿。
 それが今、現在進行形で形を変えている事に目が離せなかった。
 まるで糸を吐いているかの様に、雪に包まれているかの様に。
 口の部分から白い何かを吐き出してはキラキラと光り
 ウォドムの残骸と自らを包み込んでは一つの塊となっていく。
 それは白く、そして人の形に近い何かを為していた。
 再生とか復元とか自己修復とか多分、そんな類の何かなのだろうと
 僕は後に結論付けるのだが、今はただ目の前のソレに意識が奪われ理解してしまう。
 恐らく、クトゥルフの呼び声で言うSANチェック失敗とか
 クトゥルフ神話技能取得とかはこんな感覚なんだろう(※5)
 白い人形(ホワイトドール)。太古の人はコレを見て、そう呼んだのだと。

 
 

次回予告(※6)

 

言うなれば、運命共同体
互いに愛し、互いに尊重し、互いに助け合う
地球が月の為に、月が地球の為に
だからこそ人類は生き永らえる
ムーンレイスは兄弟
地球人は家族

 

   嘘  を  言  う  な  っ!

 

猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら嗤う

 

無 能
土 人
野 蛮
下 劣

 

どれ一つ取っても共感に値しない
それらを纏めて正義で括る
誰が望んだ地獄やら
人類兄弟が笑わせる

 

 お前もっ!

 

 お前もっ!

 

 お前もっ!

 

だからこそ

 

       悪魔の為に死ねっ!

 
 

次回、DEAD WONG'S Q[uestion]
                Q2「悪魔の嘲笑」

 

悪魔が嗤い狂っていく

 
 

作者注
※1:後述する山田葵の有名なセリフ。可愛い。絶対的に可愛い。
※2:ご存じないのですか!? 高津カリノ氏がヤングガンガンにて連載を開始したWORKING!!という漫画の
   (作者にとっての)メインヒロイン。可愛い、圧倒的に可愛い。そりゃグエン卿もロランもメロメロですよ!
   一見ガンダムとは無関係に見えるがガンダムAGE一期おいて、恒例の強化人間枠として登場。
   見た目の変装が甘かった分をカヴァーする為、声優を変えるという手段を用いている。
   実兄曰く「妹は怪盗の如く何者かに変装する」らしいのでこの程度楽勝である。
   続いて、ガンダムビルドファイターズでは少年の姿へと変装したり、ちょっと成長して性悪アイドルになったりと
   多方面的にガンダムに攻めてくるチャレンジャーガール。ビルドファイターズトライにて妹属性を備えて再登場かと思ったが
   なんか見た目がギャンっていうよりゲルググみたいな感じになっているので声優さんがどうなるか私、気になります!
   後、3話で頭食われて死なないか心配です。
※3:綾辻行人原作のアニメ「Another」でやたら簡単に人が死ぬので同作品の視点から見ると確実に死んでいたであろうシーンに使われる言葉
※4:戦争SFモノならばさくさく死ぬのは当然なのだがVガンダムを始め、敵味方問わずキャラが死んでるイメージが強い。
   漫画家の富樫氏の休載の様に実状や他との比較よりもイメージの印象
※5:クトゥルフの神話と呼ばれるコズミックホラー小説から派生した設定を用いたテーブルトークロールプレイングゲーム「クトゥルフの呼び声」
   そのゲームでプレイヤーの分身となるキャラクターが如何に正気を保てるかサイコロを振ってチェックするシステム「SANチェック」
   更にそれで宇宙の真理やら人智を超えた何かを理解すると常識と正気を引き換えに手に入る「クトゥルフ神話技能」
   ガンダムで言うとシャアやフル・フロンタル、カミーユ辺りが終盤で見た精神的境地やらその葛藤の様なモノ。
※6:むせる            出典「甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ」

 
 

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