X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第33話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:58:01

第33話「運命を切り開いてくれ」

ユウナがバルトフェルドを言い包めた頃、アークエンジェルの格納庫ではシンとレイの救助活動が行なわれていた。

「テクスを早く連れて来てくれ!シンもレイもやべえんだ!早く!」

デスティニーのコックピットからシンを、肩を担いで連れ出してきたガロードの叫び声が響き渡った。
シンのパイロットスーツは元から赤い部分が多かったものの、赤くない所がないほど赤く染まっている。

間もなく格納庫に、キッドに手を引かれたテクスがやって来るが、シンの様子を見ると、
即座に医務室へと連れて行くよう指示をしたのだった。

そしてシンに少し遅れて、レジェンドの中からレイが救い出される。

「おいしっかりしろレイ、レイ!」

レイが聞き覚えのある声に目を開けると、見慣れたアークエンジェルの格納庫、そしてガロードとハイネの姿があった。

「ガロード…ハイネ…ここは…アークエンジェルか?」
「ああそうだ、安心しろ、今お前もテクスのとこに連れてってやる!」
「議長は…メサイアはどうなった?」
「そ、それは…」
「…そうか」

その時、レイの視界にボロボロになったデスティニーの姿が目に入る。

「デスティニー…シンは…無事なのか?」
「ああ、今、テクスが手術してくれてる。次はお前の番だからな!」
「そうか……いや、俺はいい。おそらくもう手遅れだ」

老化を抑制する薬を服用することを欠かせないレイは、普段から人の何倍も自分の体には気を使っていた。
それゆえ、今の自分の状態がどのようなものであるのかは大体はわかっていた。
だとすれば、医者達はシンの治療に専念させた方がいいのだろう、と考えたのである。
「おい、何言ってんだよ!」
「…本当のことを言っただけだ」
「レイ、その言葉に嘘はないか?」

それまで黙っていたハイネが静かに口を開いた。

「はい。ヴェステンフルス隊の誇りにかけて」
「そうか…」

そういうとハイネは、マイクレコーダーを取り出してレイに手渡す。

「仲間達に言い残すことはあるか?」
「…ありがとうございます、ハイネ」

ハイネはシンやレイよりも軍というものに所属していた時間が長い。
故に彼は軍人の宿命の1つとして、多くの仲間、部下や上官そして僚の死に立ち会ってきた。
そんな彼らに仲間として最後にしてやれることは、
その意思を伝えたいと望む人間に伝えてやることであると考えるようになっていたのである。

「おいハイネ!何を言ってんだ!レイはまだ助かるかもしれねーじゃねえかよ!」
「…いや、いいんだガロード。その気持ちだけで俺は嬉しい…」
「お前もふざけたこといってんな!もう少し頑張れよ!」
「…ガロード、シンのことを頼む。あいつにはまだ危ういところがある…
 ギルがしてきたことを無駄にしないでくれ…俺達の世界を守ってくれ」
「レイ、お前はまだ…」
「ガロード、そろそろレイにシンへの言葉を残させてやれ。
 もし気に喰わなきゃあとで気の済むまで俺を殴れ。今はレイの意思を尊重してやるんだ」

レイにとってシンはクルーゼ、デュランダルに次いで自分に手を差し伸べてくれた人間であり、
幾度にも渡る激しい戦闘を共に潜り抜け、戦ってきたかけがえのない仲間であった。
そしてキラ・ヤマトを論破する力を自分に与え、デュランダルに依存しないレイ・ザ・バレルという人間を確立できたのは、
ガロードらアークエンジェルの仲間達とシン・アスカという親友のおかげである。
その親友に、レイは自分の最後の言葉を託したかった。

レイは、使い終えたボイスレコーダーをハイネに託して間もなくしてから、ガロードとハイネに看取られて息を引き取った。
だがその表情は安らかなものであった。
最高のコーディネーターを生み出すという人類の欲望の産物という呪われた生まれでありながら、
世界を滅亡させることを企み、フリーダムのサーベルに貫かれて世界を去ったクルーゼと異なり、
自分の信じる暖かい仲間達に囲まれて息を引き取ることになった最後は、彼には幸せなものであったと言えよう。

そしてシンが意識を取り戻したのは、それからしばらくしてのことであった。
「シン、大丈夫か?」

目覚めたシンの周りには、ガロードだけでなく、いつの間にやって来たのかわからないが、ハイネやウィッツ、キッド、アーサー、ヨウラン、ヴィーノにテクスそしてティファがいる。
自分の周りにいる見慣れた面々と体中に走る痛みに、シンは自分が生きていることを感じた。

「ガロード…ここは…」
「アークエンジェルの医務室だよ。デュランダルのオッサンがやられちまったんだ…」
「……キラ・ヤマトを倒すことはできなかったのか…そうだ、レイは!?あいつは大丈夫なのか!?」

ストライクフリーダムとの決着を託した仲間の姿が見えないことにシンが気付く。
そして周囲の人間の表情が一気に曇って行ったのを見て、シンの中に嫌な予感が走る。
するとハイネが前に出てきて、レイの遺言が録音されたボイスレコーダーを手渡した。

「レイの遺言だ。あいつはこれを俺に託して逝ったよ。あいつの最後の言葉だ、聞いてやれ」

そう言って、ハイネは周囲の面々を連れて医務室から出て行った。

突然に突きつけられた、レイが死んだという事実。そして手渡されたレイの遺言。
シンには何が何だかわからなくなっていた。わかっているのは、自分がオーブで被災してプラントで出会った
大切な仲間であるレイがその命を失ったということと、そしてレイが自分に遺言を残したということだけである。

シンはしばらく黙って、手渡されたボイスレコーダーを見ていたが、やがておそるおそるそのスイッチに手を掛けた。

「シン、これを聞いている、ということはお前は助かったのだな、よかった。
 アカデミーでお前達に出会う前の俺は、自分の宿命を呪いながら暗闇の中にいるに等しかった。
 そんな中から俺を連れ出してくれたのはお前だったな。正直、嬉しかったよ、
 お前のおかげで俺は日の当たる世界で生きていくことが出来るようになった気がする。
 そしてギル…いやデュランダル議長や兄ともいうべきもう1人の俺から独立した、
 1人の人間としての俺を最後に確立することができたのは、まぎれもなくガロード達、そしてお前のおかげだ。ありがとう…
 最後に1つだけ言わせてくれ…お前のデスティニーは、最初は、議長のデスティニープランに迫り来る敵を倒すための力だった。
だが、議長は段々とデスティニーにそうした役割を期待することをやめていった。
 所詮、力は力に過ぎない。結局は使う者次第なんだ。
 ガロードがダブルエックスという強大な力を持っているのに、それを使おうとしないのは、あいつが力の使い方を自分ではっきりと決めているからだ…
 お前はデスティニーという力で、人に苦しみや死という運命を強いることができる。
 だが…少なからずお前ももうわかっているだろうし、もはや俺が言うまでもないのかもしれないが、それと同時に、人が誰かから押し付けられる死や苦しみを跳ね除けて、
 皆の、そして自身の運命というものを自ら切り開くこともできるんだ…
 シン、運命を切り開いてくれ…ラクス・クラインやキラ・ヤマト達から人々が押し付けられる運命を…お前自身の運命を…そして人間の可能性を…」

録音されていた音声はそこで終わっていた。
気付くとシンの目からは涙がボロボロと零れ落ちていた。

「レイ…」

大切な仲間が命をかけてまで示してくれたことの喜びと、その仲間がこの世を去ったことの悲しみ、
これらの感情によって涙が流れていた。

そしてレイの最後の言葉は、シンが徐々に、おぼろげながら見つけつつあり、
もう少しではっきりするところまで来ていた、シン自身が戦う理由を、
シンにはっきりと見つけさせることとなったのであった。

「俺は…俺は今度こそ…デスティニーでキラ・ヤマト達が押し付けようとするもの全てをなぎ払う!だから…見ていてくれ、レイ!」