X-Seed_双星の軌跡_第03話_2

Last-modified: 2007-11-11 (日) 16:53:16

 第三話 『わたし……死ぬの?』中編

 連結形態の対艦刀を振りかざし、シンのインパルスはガイアへと切り込む。ガイアもMS形態のまま、ビームサーベルを抜いてそれに応じる。
 斬撃が交差するたびにレーザーとビームが干渉し、プラズマのスパークが周囲を照らす。
 不意に四足形態に変形したガイアが、背転跳躍で大きく後方に身を翻す。その背後に隠れていたアビスが、再び全門斉射を放った。慌てて飛び退くインパルスに、側面からカオスがビームライフルを放つ。
「くそっ!」
 舌打ちしたシンはスロットルを押し込む。跳躍したインパルスはスラスターを吹かし、上空に逃れた。
 本来、ソードインパルスは重力下での飛行能力を持たない。だが上方、すなわち回転軸に近づくほど人工重力が弱まるコロニー内では、飛行が可能なのだ。
「逃がすかよ」
 空間戦闘用MAに変形したカオスが、インパルスを追って飛び上がる。強襲型であるカオスの推力は凄まじい。本体のそれに背部ポッドのスラスターを加え、強烈な加速で一気にインパルスを追い抜く。
 鋭く旋回し、上空から逆落としに襲いかかるカオス。その脚部から格闘専用のビームクローが伸びた。同時に飛び上がったガイアが機を合わせて下方からインパルスに切り込み、さらに地上のアビスが三度、その砲門を開く。
 完璧な連携、逃れられぬ死の運命――だがそれこそが、シンの狙った瞬間だった。
「今だ、メイリン!」
「了解」
 インパルスが背部のソードシルエットをパージし、同時にミネルバからの無人管制で飛来したシルエットフライヤーが新たなるシルエットを投下する。装着。四枚の翼を広げたインパルスは、今までとは比較にならない速度で死の顎から逃れた。
 クローもサーベルも砲撃も、全て虚しく空を切る。
「何いっ!?」
 愕然と振り返った三機のモニターに映ったのは、紅白二色から青・白・赤の鮮やかなトリコロールに機体の色を変化させた、インパルスの姿だった。左腕のシールドが、上下左右に伸張する。
 インパルスの高機動戦闘形態、フォースインパルスである。
 その時、インパルスの左方からビームが続けざまに飛来し、アビスの肩シールドで弾けた。
「来たか、レイ、ルナ!」
 モニターに映った紅白二機のMSを見て、シンは思わず頬を緩めた。
 赤い機体は、ルナマリアの乗るZGMF-1000ザクウォーリア。そして白い機体は、レイの乗るZGMF-1001ザクファントム。ニューミレニアムシリーズの名で開発された、ザフトの次世代量産型MSだ。
「遅くなった。ごめん、シン」
「今から援護に回る。」
 僚友の声に、シンは頷く。さあ、反撃の時間だ――

「畜生!」
 遊びすぎた――カオスのコクピットで、スティングは罵声を上げた。
 インパルスに加え、造園に現れた二機のザクも中々の腕前だ。加えて、もう時間を大幅に割り込んでしまっている。
「スティング、切りが無い! こいつだってパワーが――」
 焦りを含んだアウルの声に、スティングは決断した。今もインパルスと戦闘を続けるステラのガイアに通信を繋ぐ。
「ええい、離脱するぞ! ステラ、そいつを振り切れるか!?」
 だが、完全に頭に血が上っているらしいステラは、殺気立った声で怒鳴り返した。
「直ぐに沈める」
 そう言い棄て、遮二無二にインパルスへ切りかかるガイア。二機のMSが空中で交差し、互いにビームを放つ。
「離脱だ! やめろステラ!」
 スティングの再度の呼びかけも、ステラまで届かない。
「わたしがこんなぁっ!」
 血走り、瞳孔が開いた目でモニター上のインパルスを睨んでいたステラの耳に、アウルの皮肉気な声が突き刺さった。
「じゃあ、お前はここで『死』ねよ」
 ブロックワード発動――ステラの全身が、凍りついた様に停止した。その体が、小刻みに震えだす。
「シャギアやオルバには僕が言っといてやる! 『さよなら』ってな!」
 ステラたちエクステンデッドには暴走を制御するため、ブロックワードと呼ばれる特殊な身体の停止方法が設けられている。暗示で深層心理に焼き付けられた特定の言葉を耳にすると、激しい恐慌状態に陥ってしまうのだ。
 ステラのブロックワードは、今アウルが口にした『死』だった。
「アウル、お前!」
「だって、ああでもしないと止まんないじゃん。仕方ないだろう!?」
 通信機越しに言い争うスティングとアウル。と、棒立ちになった無防備なガイアに、赤いMSが襲いかかる。
「あ、やべ」
「馬鹿野郎!!」

「ちゃ~んす」
 突如として硬直したガイアに、ルナマリアのザクは踊りかかった。機体のトラブルだか何だか知らないが、この絶好の機会を見逃すほどザフトレッドは甘くない!
「ルナマリア、命令は捕獲だぞ」
「分かってる!」
 ガイアを援護しようとするアビスとカオスを、ビーム突撃銃の弾幕で巧みに牽制するレイ。
その指示に、ルナマリアは頷いた。
 肩のシールドに内臓されていたビームトマホークを引き抜くザクウォーリア。このままコクピットに叩き込み、パイロットだけを仕留める。
 その時、コクピットに警報が響いた。
「上!」
 咄嗟に見上げたルナマリアの目に映ったのは、真上から突っ込んでくるMAだった。
「か、蟹ぃっ!?」
 凄まじい衝撃が、ルナマリアを揺さぶる。突撃してきたMA――アシュタロンが、アトミックシザースでザクを捉えたのだ。
「きゃぁぁぁっ!!」
 突撃の勢いのまま、アシュタロンはザクウォーリアを投げ飛ばした。赤い機体が大地に叩きつけられ、朦々と粉塵が舞う。
 それを見向きもせずMS形態に変形したアシュタロンが、ガイアに接触して通信回線を開いた。
「大丈夫かい、ステラ?」
 モニターの向こうで自分の肩を抱き、小さく震えていたステラが、怯えた目ですがる様にオルバを見詰める。
「おる、ば……わたし……死ぬの?」
「そんな事は無いよ」
 整った顔に蠱惑的な笑みを浮かべ、オルバは少女をなだめる。だがその目には、一片の温かみも無かった。
「大丈夫、僕がいるだろう。恐い事なんて何も無いんだよ、ステラ」
 囁きかける――毒の様に甘い声で。
「さあ帰ろう、僕たちのフネへ」
「う、うん――分かったよ、オルバ」
 ようやく落ち着いたステラにオルバはもう一度、微笑みかけると、スティングとアウルに通信を繋ぐ。
「ブロックワードを使ったのかい? 減点だよ、二人とも」
「すまない、こちらの不手際だ」
「いーじゃん、結果オーライだろ」
 それぞれの態度で答える二人の少年。
『さて、そろそろいいかね、オルバよ』
『頼むよ』
 次の瞬間、外部から放たれた極太のビームがアーモリーワンの外壁の自己修復ガラスを貫き、巨大な風穴を開けた。

 ぽっかりと空いた穴の向こうから、漆黒の宇宙と煌く星が見えた。
「しまった!」
「艦砲射撃か? いや、しかし――」
 歯軋りするシンと、疑問の声を上げるレイ。
 付近は急速に減圧され、突如として発生した乱気流に、インパルスとザクファントムは翻弄される。シンたちを尻目に、四機のMSは外壁の穴から脱出する。
「くっそおっ!」
 叫んだシンの駆り立てるまま、インパルスもその後を追う」
「シン、また無茶を!」
 ようやく身を起こしたルナマリアのザクに、レイから通信が入る。
「あいつのフォローは俺がする。お前はミネルバに戻れ」
「えっ? でも――」
 心外そうなルナマリアに、レイは冷静に続けた。
「その損傷では無理だ。後は任せろ」
「分かった。あいつの事、お願い」
「了解だ」
 二機のザクは、二手に分かれた。
 一方、シンは全速力で強奪部隊を追っていた。ただひたすら前だけを睨み、限界までインパルスを加速する。
「絶対に逃がさない!!」
 だから、気づかなかった――
『今だよ、兄さん』
『ああ』
 アーモリーワンから飛び出したのと同時に、横合いから叩きつけられた莫大なエネルギーの奔流が、インパルスを直撃した。
「うわぁぁぁっ!?」