X-Seed_双星の軌跡_第03話_1

Last-modified: 2007-11-11 (日) 16:53:01

 第三話 『わたし……死ぬの?』前編

「おおおおっ!」
 対艦刀を振りかざし、突撃するインパルス。水平に奔った斬撃を、ステラのガイアはシールドで受け止める。
 衝撃を殺すため後方に飛びすさり、反転。着地と同時にガイアの姿は、四足獣型のMA形態へと変形していた。
「ステラ、パターンC-3だ、いけるな!」
「分かった! このおっ!」
 スティングからの通信に答え、ステラはスロットルを押し込んだ。ガイアは四肢で大地を蹴って突撃する。四足歩行による柔軟な機動性を誇るMA形態、そして人型本来の高い汎用性を有するMS形態を併せ持つガイアは、こと陸戦においてはセカンドシリーズMSで最高の性能を持つ。
 背部のビーム突撃砲と右脇にマウントしたビームライフルを乱射しながら踊りかかるガイア。その背のグリフォン2ビームブレイドが鈍く光る。インパルスもまた対艦刀を構え、カウンターの一撃を狙う。
 剣光一閃――すれ違いざまに放った互いの斬撃は、共に空を切った。その瞬間を狙い、アウルとスティングも動く。
「もらった!」
 アウルの操るアビスの砲撃が火を噴く。
 水陸両用MSとして開発されたアビスは、ガイアやカオスに比べれば水中以外での機動性が劣る。そのためアビスは陸上では機動性をあまり重視されない火力支援用の機体として運用される事を想定し、実に十三門にもおよぶ火砲(魚雷発射管と近接機関砲は除く)を備えていた。
 両肩のシールドに内蔵された三連ビーム砲と背部のバラエーナ改連装ビーム砲、そして胸部のカリドゥス複相ビーム砲――計九本の火線を、だがインパルスは辛うじて回避する。同時にシールドをかざし、上空から降り注ぐビームとミサイルを防いだ。スティングのカオスが射出した、機動兵装ポッドの攻撃だ。
「こいつ……」
 一瞬の攻防に、ステラは唸った。
 今のコンビネーションは、シャギアとオルバから叩き込まれたものだ。慣れない機体のため連携のタイミングに若干のズレが生じていたとはいえ、まさか一機のMSに捌かれるとは――
「こいつ、強い!」

  ○   ●   ○   ●

「インパルス、押されています」
「そう」
 メイリンの報告に、タリアは低い声で答えた。
 既に他のMS隊がほぼ壊滅し、1対3の戦闘を強いられている現状では当然だろう。いやここはむしろ、三機を相手に持ちこたえているシンの技量を賞賛するべきだろう。
(やるじゃない、あの坊や)
 状況を打破すべく高速で回転する頭脳の片隅で、ふとタリアはそう思った。その耳に、メイリンの報告が届く。
「艦長! お姉ちゃ――失礼! ルナマリア・ホークおよびレイ・ザ・バレルから通信が!」
「こちらに回して!」
 正面のモニターの一画に、長い金髪を肩まで流した秀麗な顔立ちの少年、そしてショートカットの赤毛の快活そうな少女の姿が映る。
 レイ・ザ・バレルにルナマリア・ホーク、共にミネルバ所属のパイロットであり、ルーキーながら赤色軍服を与えられたエリートだ。
「艦長、ようやく機体の確保に成功しました!」
「既に司令部は壊滅状態です。命令を」
 二人の言葉に、タリアはてきぱきと指示を出す。
「急いでエスバス地区へ向かって。シンのインパルスが強奪された三機を押さえているから、その援護を。それとメイリン、フォースシルエットの準備を」
「了解!」
「了解」
「了解です!」
 その時、ブリッジの扉が開いた。入ってきた人物に、クルーが驚きの声を上げる。
「議長!?」
 そこにあったのは、随員を伴ったデュランダル議長の姿だった。

  ○   ●   ○   ●

「ナスカ級撃沈!」
「左舷後方よりゲイツ、新たに三機!」
「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%で十秒、発射管一番から四番スレッジハマー装填! ダガーLを呼び戻せ!」
 戦闘の渦中にあるガーティ・ルーの艦橋に、クルーたちの鋭い声が交差する。その中でシャギア一人が、無言で超然と佇んでいた。
「港を潰したといっても、あれは軍事工廠です。長引くと持ちませんよ」
 隣席のリーが、指示の合間を縫って進言する。
 実際、内部に潜入した子供たちとの合流予定時刻をかなり過ぎている。これ以上この宙域に留まり続けるならば、一秒ごとに危険は増大するだろう。
「分かっている。だがベットが上がればリスクも上がる――そういうものだろう、艦長」
「……自分は、ギャンブルの類は嗜みませんので」
「そうかね。あれはあれで面白いものだが」
 軽口を叩くと、シャギアは立ち上がる。
「出て時間を稼ぐ。艦は任せた」
「はっ」
 短く答えたリーは、傍らのインターフォンを取った。
「格納庫、ヴァサーゴが出るぞ!」

 ガーティ・ルーの左舷ハッチが開き、一機のMSが射出される。暗赤色と黒の二色に塗り分けられた機体は、落日の空を思わせた。シャギアの愛機、GAT-X213ヴァサーゴRである。
 ヴァサーゴは最大加速で、新たに接近しつつある三機のMSに迫る。ZGMF-601RゲイツR。前大戦末期に投入されたZGMF-600ゲイツの改修型で、ザフトの現主力MSだ。
 中々の手練れらしく、三機の連携でダガーLを撃破すると、ヴァサーゴにビームライフルの銃口を向ける。
「ほう、少々愉しめそうだな」
 弾道を見切るかのようにビームや砲弾を掻い潜ったヴァサーゴの両腕が、突如として伸びた。肩部に折り畳まれていたインナーフレームが伸長し、フレシキブルアームが展開、さらに手甲部に装備されたストライククローが鎌首をもたげる。ヴァサーゴを特徴づける兵装であり、柔軟なその挙動はまるで鋼鉄の大蛇のようだ。
 クローに内蔵されたビーム砲を放つ。変幻自在の動きに翻弄され、たちまちのうちに二機のゲイツが被弾し、火を吹いた。残る一機に近接し、右のクローを振り上げる。
 敵機も慌ててシールドに内蔵されたビームクローを展開するが、反応が遅い。
 ストライククローは攻撃時にフェイズシフトを起こす事により、PS装甲にすらダメージを与え得る。いわんや通常装甲など、紙屑同然――
「引き裂く、止めてみたまえ」
 振り下ろされたストライククローは、シールドごとゲイツの機体を逆袈裟に切り裂いた。左手で抜いたビームサーベルで、トドメとばかりにコクピットを貫く。
「この程度か、つまらんな」
 瞬く間に三機のゲイツを葬ったシャギアは、むしろ失望したように呟くと、次の獲物を目指した。