X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第24話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:08:37

機動新世紀ガンダムXSEED 第二十四話「逃げろ ! 」

カリスはアスランに銃を突きつけたまま静かに続ける。
「そこを退いて下さい。この者の処分は司令官の次に僕がどうするか権限があります。レッドとはいえ貴方に彼をどうこうする権利はありませんよ。」
それは確かな事だった。
いかにアスランが友人を討たれたとか、僚艦をやられたとか個人的な恨みを持っているとはいえ、このジブラルタルでは他にもごまんといるレッドの一人に過ぎないのだ。
アスランは苦々しい表情をしてそこから数歩後ろに下がる。
そしてカリスは銃を降ろした後、ガロードの元へやって来てベルトを外した。
ベッドから降り、肩を2~3回叩いた後彼はカリスに向かって握手を希望する様に手を差し出す。
「サンキュー、マジで助かったぜ、カリス。流石の俺ももうやべえって思っちまったぜ。」
そういう割には結講明るめに話すガロードを見て、カリスはふっと微笑んで握手に応じる。
「君がここいる事は先程目にした資料で知りました。中の様子は分からなかったのですが、今一度の力を使いました。」
「そうだ !! ティファの居場所は分かるのか ?! 」
「……その話に関してはこの部屋を出た後で……僕自身あまりこの先の事については力を使うのは止しておきたいので……」
その後彼はくるりと振り向き、呆然としているアスランとニコルに対してぴしゃりと言い放った。
「このガロード・ランと別室にいるティファ・アディールの両名に関しては今のところは司令官の代わりに僕が待遇に関しての詳細を決定します !
アスラン・ザラは今すぐ医務室に向かい然るべき処置を受けた後、南方にいる連合軍の新造戦艦の調査をするように ! ニコル・アマルフィは……アスラン・ザラがここまで帰投するのに使った戦闘機の調査及び自機のメンテナンスに向かうように ! 良いですね ? 」
そこまで言い切った時、ガロードがこっそりと二人に聞こえない様に耳打ちを始める。
「チョイ待ち !! 間違いねえとは思うけどさあ……俺その連合軍の新造戦艦にいるんだわ、今。乗ってたジンもそこで改造を受けたんだよ。」
「本当ですか ?!! 弱りましたね……おまけにそのジンはフレームの芯まで破損が見られたのでどの道廃棄処分だとは思うのですが……」
「げっ……」
ガロードがショックで固まるのを余所にカリスは目を伏せてしばし沈思黙考する。
連合軍が極秘開発した新型MSとそれを運用する為に作られた新型戦艦の話は、ここジブラルタルでもそれがあるといわれていたヘリオポリスへの襲撃関係者や、本部との繋がりのあるトップ陣営の間で話され半月ほど前から騒がれていた事だ。
現在あてにしている司令官はビクトリア陥落直前に一足先にここに戻っていたが、ガロード達の乗っていたジンが地中海に落着したとの報告を受けるほんの一時間ほど前に、急用が出来た為ビクトリアの方に十数機のMSを連れて出てしまっていた。
なんでも本人から直に聞いた話では地元のレジスタンスが急激に力を付け始め、陥落に伴ってビクトリア周辺が喧しくなってきているとの事だった。
ここであまり不審がられてしまうのは得策ではない。
そう思っていた時、アスランが鋭い声でカリスに問いかける。
「副司令殿……まさか、とは思いますが、その傭兵と内通していたという事はありませんよね ? 先程から会話の口調や内容に関してそういった事を伺わせる物があるのですが……」

その言葉に二人は一瞬ひやりとさせられた。
そこで咄嗟にカリスは頭の中で既に用意していた上手い言い逃れの台詞を口にする。
「この者が傭兵であるというのは完全に虚偽の報告です。このガロード・ラン並びにティファ・アディールはザフトが連合側に民間人を装って潜入させたスパイなのです。」
そう言った時、ガロードは息をヒュッと吸い込むようにして驚いてしまう。
カリスは知らないのかもしれない……自分が既にそんな言い訳が通じないほどに、ジンを討ったり、アスランの仲間を窮地に陥らせたかを……
ジンに乗っていたという報告を鑑みれば多少は、或いは……
そして案の定、その嫌な予感は的中してしまった。
アスランが更にきつい口調になって続ける。
「スパイですか……では何故彼は私の、いえ、私達の同胞を討ったのですか ? 私が出て捕虜になった戦闘では戦艦まで討とうという雰囲気でしたよ ?
……敵を欺くには先ず味方からです、などという突拍子もない発言は幾ら私でも賛成致しかねますが…… ? 二重スパイであったのなら尚更です。」
カリスの表情は慌てふためいてはいなかったものの、その感情を押し殺したかのような硬いものだった。
恐らく彼としては二人が何事も無く戦闘に参加する事も無しにスパイの任務を終え、ザフト艦に戻ったとたんにその宙域で戦闘が始まり、着替える間も無くMSで戦闘に出てしまった後、そのまま大気圏降下に臨んだと思っていたのだろう。
そしてアスランは飛ばされた銃が転がっている方向に少しずつ足を動かしていく。
もう何の言い訳も効きはしない。
「逃げろ ! 」
アスランが銃を拾おうとしたのと、ガロードがカリスの手を引っ張って部屋の出入り口に向かったのはほぼ同時だった。
二人は出入り口のドアがスライドして自分達が部屋から出た後に、閉まったドアの向こう側から銃弾の当たった鋭い音が聞く。
その後はもう後ろを振り返ること無く、迷路の様な通路を右へ左へ追手を撹乱する様に走り続けた。
そう走り続けながら、ガロードは一番気になっている事をカリスに訊く。
「カリス ! ティファは……ティファは何処にいるんだ ? 」
「この基地の最下層、地下三階にある独房に収容されています ! そこに行くには先ずエレベーターホールまで行かなくては ! 」
「エレベーターホールって……何処にあるんだそれ ?! 」
「待ってください。ここからの最短ルートは……」
カリスは走りながら壁に表示されているプレート等を読み取りつつ、組み上げられたルートを必死で整理する
「この道を真っ直ぐ行って二つ目の角を右に曲がった後、地下一階に通じる階段を下って目の前です ! 」
「オッケー !! そこまで全速力で行くぜ !! 」
二人は通路を一陣の風の如く疾走し続ける。
息が上がってくるのも、人とぶつかりそうになるのももう気に留めたくなかった。

そしてカリスが言った通りの順路を辿ると、急に視界が開ける。
そこはエレベーターホールと言うだけあって、高さや広さだけで言うならさながら大きな教会の礼拝堂くらいはあった。
そして目の前には五基のエレベーターシャフトがあり、制服に身を包んだ人々が忙しなく歩き回っている。
その場で立ち止まっていると、不意にカリスの声が横から響く。
「最下層の地下三階に直通しているエレベーターは中央にあるやつです。着いたら目の前にある道を真っ直ぐ進んで『A-33』という独房に行って下さい !
今は交代の時間で警備は手薄な筈です !! 急いで下さい !! 」
「でもお前は……ッ ?!! 」
「君に加担したとばれた以上ここにいる事は出来ません。独房のキーを解除する為にここのホストコンピューターをクラッキングさせてきます !!
それに、君の手でティファを救い出した方が良いでしょう。彼女もそれを望んでいるようですし……上手くいったら同じエレベーターで一階まで来てください。その時に僕がMSで助けにも行きます。
その時はこのレーザー通信機で外にある格納庫に来るよう呼び出します。さあ、早く !! 」
「すまねえ !! 恩に着るぜ !! 」
言うが早いか、ガロードはカリスが投げた通信機を空中で受け取りながら、扇状になった十段ほどの階段を下り始める。
その時、中央のエレベーターに何人かが乗り込もうとしていた。
いちいち途中で止まっていれば、アスランが追手を何人もこちらにさし向ける。
無駄に出来る時間はなかった。
「そいつに誰も乗るんじゃねえーっ !!! 」
いきなり聞こえて来た大声に、中央エレベーターに乗ろうとしていた全員は数秒の間ぎょっとしてその場に立ちすくしてしまう。
その数秒があれば十分だった。
集まっている人々を掻き分け、最後は滑り込むようにしてエレベーターの中に乗り込む。
それと同時にエレベーターの扉はゆっくりと閉まった。
それを見届けたカリスはホストコンピューターのある中央制御室に向けて再び走り出す。
「ガロード……無事にまた会いましょう…… !! 」

鉄格子の外の天井にある弱々しい蛍光灯の光以外存在し得ない独房に彼女、ティファ・アディールはいた。
目を覚ましたのは今から三十分程前のこと。
着ていたパイロットスーツは誰がそうしたのかは分からないが、今は元着ていた落ち着いた色の服になっていた。
また両腕には彼女の力では絶対に外す事の出来ない頑丈な手錠がかけられている。
足音が聞こえてきたので外を見ると、ひょろりとした保安要員が少しばかり驚いた様な目をしながらこちらに向かって歩いてきていた。
こんな少女が一体何をやらかしたのだろうかといわんばかりに。
今は人が替わったものの、つい先程までは銃を持った厳つい保安要員がこちらを胡散臭そうにじろじろと見ながら警戒に当たっていた。
普通こんな所にいれば誰とて感じる物は絶望感ぐらいしかない。
正直な事を言えば、彼女自身大気圏突入前の戦闘に参加する段で自分がこうなる事は分かってはいた。
だが彼女は強く信じていた。
自分がそうなるというのと同時に、自分を助けに来てくれる存在がもう間も無く目の前に現れる事を……
ニュータイプという形である事を否定された力……ガロードがそう謳われた彼女の力による予見を覆した事は多かったが、今彼女が予見した物は彼以外のほかの誰にも覆されたくなかった。
その予見が間違いでなければ、保安要員がこの人物に替わって間もなくして事態は好転するはずだったからだ。
そしてそれはそう思った瞬間に的中した。
遠い方向からチン ! とエレベーターで誰かが来た事を示す音がなる。
保安要員がその方向を見てSMGを構えて走り出すが、直ぐに彼はティファのいる独房の前まで殴られた音付きで飛ばされる。
低い声で暫く呻いた後、眠ったような表情になった所を見ると、どうやら気絶しただけの様だ。
そして鉄格子の外に待ち焦がれていた顔が、荒い息と共にひょっこりと出た。
「ティファ !! 大丈夫か ?!! 」
「私は大丈夫。ガロードは……怪我とかは無い ? 」
「ああ、俺も大丈夫だよ。」
その時、鉄格子の電子ロックがカシャッと軽い音をたてて外れる。上にいるカリスが上手くやったようだった。
ティファは自分から牢の外へ出る。
その時クスリと笑って彼女はガロードに聞き覚えのある言葉を言った。
「待って……いました。」
紛れも無い。彼女が彼に初めて会った時に彼女から言った最初の言葉。
それにガロードは若干照れた調子で頭を掻きつつ答える。
「二度目だなぁ……それ聞くのさ。」
しかしその時、ガロードはティファの手元を見て表情を一瞬で曇らせた。
「ティファにこんな事……酷い事しやがるなあ……」
かけられていた手錠が金属の鍵を使って開錠する型の物だった為に、いつも手元にあるはずの便利道具が無いのは非常にもどかしい気がした。
だが今はそれに拘ってグズグズしている暇は無い。一刻も早くカリスと合流してこの基地から脱出しなければ。

「こっちだ !! 」
ガロードがティファの身をかばうような姿勢になった後、二人は必死で走り、エレベーターに乗り込む。
しかしその時、気絶していた保安要員が目を覚まし、SMGを構えて直ぐにエレベーターの方向にそれを乱射しながら猛然と走ってきていた。
ガロードは自分の身とティファを、外とエレベーターの死角に入れた後『閉』のボタンを押し、同時に『1』のボタンも押す。
軍配はガロードの方に上がった。
保安要員がエレベーターのボタンに辿り着く前に扉は閉まり、二人を乗せたそれは移動を開始し始めたからだ。
自分達の後ろにある壁が穴だらけのエレベーター内で、二人は束の間の一息を入れる。
「怖かった ? 」
「ううん……ガロードなら絶対、大丈夫だと信じていたから……」
ガロードの何気ない一言にティファの頬がぽおっと赤くなる。ガロードも半瞬遅れて顔が真っ赤になった。
しかしそんな雰囲気は次の瞬間、目的の階に着いたエレベーター特有の現象で終わりを告げる。
扉が開くと目の前に現れるロビーと思しき場所は騒然としていた。
職員らしき者達が重そうな書類を腕にしつつ、顔に殺気を顕にしながらあちこち走り回り、その他の兵士達はレッドもグリーンも関係なく大声で何かを話し合っている。
「ホストコンピューターがコントロール不能になってどれぐらいだ ?! 」
「最新型のウィルス駆除システムがどれも効かないだと ? そんな馬鹿な話がある物か !! 」
「副司令殿の居場所はまだ掴めんのか ?!! 」
切迫したやり取りの雰囲気はその場では明らかに場違いな格好をした二人を隠すのには十分すぎるほどだった。
だがボーッとしていれば捕まるのは時間の問題だ。
その時丁度通信機が振動を始める。外に出ろという合図だ。
「行くぞっ、ティファ !! 」
「ええ !! 」
二人はそこから外へ続く玄関口に向かって走り出す。

しかし、その時後ろからそれを阻害せんと兵士達を「退けっ ! 」と突き飛ばしながら、走ってロビーに出てきた一つの影があった。アスランである。
息も絶え絶えに後ろからは多くの兵士がついて来ていた。
そしてアスランはその場でオートマチックを構え、「止まれ」といった警告も無しに躊躇い無く引き金を三回引く。
「ガロード !!!! 」
その直前にティファがガロードを押し倒す様に倒れ掛かる。
その為に銃弾は二人をほぼ逸れたが、内一発はティファの髪を縛っている紐を千切り飛ばし、更に彼女の頬辺りの髪を幾筋か吹き飛ばし地面に散らせた。
狙いとしてはどちらでも良かったが、結局しとめる事が出来なかった彼はその場で銃を構えたまま、チッと小さく舌打ちをする。
その場に倒れたままになっている二人にアスランは早歩きで近づくが、それがいけなかった。
倒れて気絶していたと思われていたガロードが、信じられないスピードと低姿勢さでこちらに向かって走り出し、アスランの腹に一発のパンチを決めようかという体勢になる。
「このヤロォーッ !! よくもティファをっ !!!! 」
「……女一人ぐらいでギャアギャアと甘ったれがっ !! 」
そう叫んで突っ込んでくるガロードをアスランは軽くひらりひらりとかわす。
しかし、ガロードの狙いはそれではない。
何度かかわされた後アスランの銃を持っている右手に捕まり、そこに下に向かって全体重をかける。
そこにあるのはアスランの右足の甲。
「やめろぉーッ !!! 」
有無を言わさず、ガロードはしがみついている右手の銃のトリガーをアスランの指がかけられたまま引く。
至近距離から足を撃たれたアスランは短く低く呻きその場に倒れた。
彼がもうあまり動けない事を確認したガロードはその場から猛然とダッシュする。
しかし彼等二人を地獄へ引きずり込まんとする声は、苦しさを交えながら周りの人間に命令した。
「何をぼさっとしてるんだ !!! 奴等は連合に買われた傭兵だ !! 躊躇う必要は無い !!! さっさと撃たないかっ !!! 」
明らかに上官とも言える者もいたが、今は気にしているわけにはいかない。
一方、一斉に銃の構えられた音が耳に入り、ガロードはティファに近づこうとする兵士達を押し退け、蹴り退け、踏み退けながら彼女を姫様抱えで抱え上げた後、更に走るスピードを上げる。
そしてガロードが玄関口を出るのと爆発が起こったかのように背後の窓ガラスが自分達に向かって砕け散るのはほぼ同時だった。
その時、抱えられていたティファが目を覚まし、ガロードの服の袖をぐいぐいと引っ張る。
「んあ ? どうしたんだ、ティファ ?!! 」
「あそこに……向かってください。」
ティファはすっとある方向に向けて指を指す。
走ってなら行けなくもない遠めに見えたその場所はMSの格納庫だった。
そしてそこには、今まで使っていたジンがオダブツになったとカリスに聞かされたガロードにとって願ってもいない物があった。
奪取されたXナンバーの機体の一つがあるパイロットの整備下にあったのだ。