X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第25話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:08:47

機動新世紀XSEED   第二十五話「仕方ありませんね……」

基地内に警報が鳴り響いた時、ニコルは格納庫のメンテナンスベッドにある自分の機体に向かっている途中だった。
あの傭兵が捕えられている部屋でアスランが銃を撃った直後、傭兵と副指令……だった人を追おうと出入り口に向かって走る彼から、直ぐに自分の機体に向かうように直接言われたのだ。
理由は訊く前に相手が言ってくる。曰く、『MSを使って逃亡されたら洒落にもならない』との事。
野暮な事をしてあの状況で彼をあれ以上怒らせれば、間違いなく冗談抜きで脅しの矛先は自分に向いていたのではないかと思うと、ニコルは背筋に僅かばかりの悪寒を感じた。
今彼は正直な事を言えば、アスランに対して良い感情を抱けないでいる。
確かにあの傭兵が乗った機体によって多くの仲間達が散っていき、アスラン自身も先の戦闘に於いて彼等に当たったせいで捕虜となった事は事実だ。
だが、だからと言って問答無用で射殺して良いという事ではない。
尋問くらいは許されているので訊くべき事……あの超能力じみた戦闘能力は一体何なのかと……は訊いておかねばならない。彼らの仕事上自分達が知っていない事を知っていそうだったからだ。
だから出来るだけ人払いをさせて簡単な事を訊こうとしたその時にアスランが来た為にそれは頓挫してしまった。
そうこう考えている内に自分の機体の前にやって来る。
格納庫の中は地球のあちこちに回される数多くのMSの周りを、やはり多くのスタッフがあちこちに忙しなく動き回り、起きている事の重大さを鮮やかに物語っていた。
ニコルはすぐに近くにいたスタッフの一人を捕まえて、自分の機体の状態について訊こうとする。
だがその時、格納庫の出入り口から凄まじい轟音と爆風が襲い掛かってきた。
背後に気を配っていなかった者達は一瞬にして方々に吹き飛ばされる。
彼もやはり同じ様に吹き飛ばされるが、床に身が当たる直前にとった受身の姿勢で何とか手負いにはならずに済んだ。
ふと2~3m程右隣を見ると、先程自分に応対しようとしていたスタッフがその場に転がっている。
ピクリとも動かない所を見ると、どうやら気絶しているか、打ち所が悪くてこと切れたかのどちらかのようだった。
次に意識が朦朧とした中で濛々と煙のたちこめる入り口付近に彼が見たのは、ノーティラス副司令官が数多の戦場で駆っていたとされているMSだった。
真っ白な色で流線型且つシャープな形のパーツが多く使われている、時代の先鋭を走ったようなデザイン。
正規のザフト製MSではなく極秘開発されていたと噂されていた、そのMSの名前を彼は一度だけ周りの人間から聞いた事があった……ヴェルティゴ、と。
それはゆっくりと中に入って来た後、外部スピーカーを通じて大声を上げる。
『ガロード、ティファ ! 今です ! 』
すると次の瞬間、爆煙の中からあの傭兵二人の影がこちらに向かって走ってくるのが見えてきた。
こちらに向かってくるのを確認したニコルは、その場に立ち込める煙と塵に軽く咽ながらすかさず銃を構え威嚇射撃をするが、全く応えないかのように走り続ける。
威嚇が用を成さないと思った後、次に本気で二人の内少年の方に狙いをすまして撃ってみる。
しかしその一発は少女の方が少年と繋がれている方の手を引っ張った為に、すんでの所でかわされてしまう。

やっぱり、とニコルは思った。
戦場でどうしてあんな敵の動きを悉く先読み出来る様な動きが出来たのか、鍵を握っているのはあの少女の方だと。
とはいえ銃弾という物を避けるには距離にも方向にも、そして数にも限度がある筈だ。
そう思って試しに二人に向けて4発ほぼ同時に撃ってみる。
一発目は少年の方の頬を、二発目は少女と繋がれている手の真上を掠めていく。
しかし三発目と四発目はやはり少女の方が先に動き、弾をかわす絶妙のタイミングで咄嗟に少年の方に体を寄せつつ、横っ飛びに跳躍する。
そして若干スピードを落としたものの、自分の目の前にあるブリッツまであと5~6mという所にまで迫った。
その時になって漸く周りから保安要員や兵士等が銃を構える音が聞こえ始める。その数は一瞬聞こえただけでざっと20くらいだった。
だが全ては遅かった。こんな距離になっては彼にまで当たってしまうかもしれないし、煙と塵のせいで余計に照準が定まらないだろう。
かくなるうえは徒手格闘しかないと思い、ニコルは銃を捨て少年を気絶させるべく下腹の辺りに一撃を喰らわそうと拳を勢い良く前に出す。
だがその時、少女の方が先に半歩程少年の前に躍り出て、真正面からそれを下腹辺りに自ら受け止めた。
次の瞬間、「あうぅっ !! 」という高く小さな呻き声と共に少女はその場に崩折れ、そのまま気を失ってしまう。
まさかの出来事にニコルは刹那の間その場に固まってしまう。
少年はニコルが最初からティファを狙っていた様にでも見えたのだろうか、烈火の如く大声で怒鳴る。
「てめぇっ !!! よくもティファをっ !!! 」
「待って、ふか…… !!! 」
不可抗力だと言おうとしたが最後まで言い切る事が出来なかった。
信じられないほど素早く少年が前に向かって駆け出し、ハイキックで拳を握り締めたままの自分の顔の右側に蹴りを入れてきたからだ。
いつものニコルなら避けられない事も無い、所詮は全く脅威になりえないナチュラルの繰り出す蹴り。
しかし何故か彼はそれをまともに受けてよろめいてしまう。
それはどういった立場にしろ、女性に対してはあまり手を上げる様な乱暴な真似をしたくないというニコルの意識の裏打ちか。
ともかく少年にとってはその一瞬があれば十分だった。
彼は少女を抱え上げ近くにあったブリッツのコクピットに乗り込むべく、幸運にも下に降りていたワイヤーに足をかけ上に昇る。
やがて意識が薄れていき、そしていきなり強く床に叩きつけられたせいか体の節々が上手く動かないニコルが気を失う直前に見た物……それは調整中と言われた愛機のコクピットに吸い込まれていく二人の人影だった。

ガロードは頬と右手から流れる血を拭き取りながらブリッツのコクピットに座る。
気絶しているティファは自分の膝元に寝かせた状態にした。
その時、あのアークエンジェルから脱出したザフト兵ことアスランの仲間はつくづく碌な人間がいないのではと思わされる。
当の彼は言うまでも無く、ニコルだとかいった坊ちゃん育ちそうなやつも、理解力がありそうな顔をしてティファの体を思いっきり殴りつけた。
事態が事態だけに一発だけキックをお見舞いするだけにしたが、本当だったらコーディネーターだろうがなんだろうが関係無くボッコボコにしているところだった。
さて奪取されたXナンバーの機体の一つを奪いかえしたはいいものの、ガロードにとってこれは当たり前だが未知の機体だった。
ザフト製のMSしか動かした事のないガロードにとって、イージスのコクピットをちらとも見なかったので連合のMSはどうすれば動きだすのか皆目見当がつかない。
また二人が乗った時にコクピットハッチが閉まったとはいえ早く起動させなければ、敵が無理矢理乗り込んできてあっという間にホールドアップになってしまう。
「ちくしょう ! どれだ ? どれが起動スイッチなんだよ ?!! 」
様々なボタンを押していると、外から短機関銃の音が止む事無しに鳴り始める。
早く何とかしなければ……
そしてそれは恐らく色々なボタンを50回近くは押した後だったろうか、不意にブンという駆動音がして様々な箇所に光が灯りだす。
それに伴いモニターも外の様子を映し出し始めた。
その直後自分の視界の左から右に多数の銃弾が流れて行き、右側でMSにでも当たったのか多くの爆発が起こる。
MSの頭部メインモニターをレバーで動かすと、ヴェルティゴが内蔵ビームライフルを構えていた。
更に外部スピーカーからカリスの声が聞こえてくる。
「ここは一旦僕がくい止めます !! 」
ガロードは無言で頷き、ゆっくりと目の前にあるレバーを動かしだす。
次にエンジンが低く唸るような音を立て始め、両足がぎこちなく動き出した。
全くといって良いほど整備を受けていない様なぎくしゃくとしたその動きに、どこかおかしいと思っていたガロードははっとする。
連合が開発したMSとはいえ、これのOSはコーディネーター用の調整が成されているのだ。
ナチュラルのガロードが動かした所で幼児並みの動きしか出来ないのは仕方がない。
と言った所で、こんな状況で直ぐにOSの書き換えなんか出来る訳が無い。
そんな事が出来るのは彼が知っている人物で思いつく限り、今はアークエンジェルにいるキラぐらいしかいない。
しかし、今は出来るだけの事をしなければ命の保証は無い。
自分でも出来るだけ精一杯の速さで色々なスロットルを動かすが、それでもかなり鈍い動きだ。
コーディネーター達が見れば鈍重とかそう言う前に不器用な方だと断じ切っているだろう。
2~3歩歩みだすと直ぐによろめいてしまう。
と、その様子を見ていたヴェルティゴが側まで駆けつけて両脇を抱える。カリスにもガロードが機体を上手く動かす事が出来ないと分かったらしい。
それから直ぐに通信が入った。
『ガロード !! 君達の仲間が居る場所はこちらでもある程度掴んでいます。機体の調整はそこに向かうまでに出来るだけの範囲で済ませられますか ? 』
「……やってみる !! 」
それ以上ガロードは答えないようにした。
OSの調整なんてこの世界に来てから片手の指を折って数えるぐらいしかやった事がないし、キラがそれをやっているであろう光景も感心しながら数秒目に留めている程度でしかない。
完全に勘の範疇で調整するしかなかった。
その間にもヴェルティゴはブリッツをその場から引き離し、スラスターを全開にして格納庫から出ようとする。

しかしそんな時、目の前に立ち塞がる者がいる。
格納庫の外に出たヴェルティゴとブリッツの視界の前に現れたのは後方に何十機ものジンやディン、シグーやザウート、バクゥを引き連れたバスターとデュエルだった。
多くの味方を引き連れているあたり、恐らく待ち伏せでもしていたのだろう。さすがに敵の地上一大拠点というあたり半端ではない。
そこから逃げる為に間合いを取るカリスと必死になって機体の調整を行うガロードに、耳を劈くような大声が音声通信で入ってくる。
『しれいか……いや、違うっ ! 貴様っ !! よくもニコルを人質にしたな ?!! 』
当然の事だが、バスターとデュエルに乗っているであろうニコルという人物の同僚は、先程の格納庫の顛末を見ていないので、ブリッツには違う人物がいるという事を知らないのだろう。
ガロードがそれは違うと言おうとしたが、それより先にカリスの方が相手に向かって通信を入れる。
『そこから一歩でも動いたり、こちらに向かって発砲したりするような事があればこのMSを破壊します。僕の力は良くご存知でしょう ? 簡単に同僚を失う事になってもいいのですか ? 』
その言葉の後に、ヴェルティゴは内蔵ビームライフルをブリッツのコクピット近くに突きつける。
成程ね……とガロードは納得した。
つまり傭兵である自分達はヴェルティゴにカリスと共に乗っている事にして、このブリッツにニコルという人物を乗せたまま人質にした状態でここから逃亡しようというのである。
それなら下手に相手は手を出す事は出来ない。
カリスの目論見は当たったらしく、敵は武器を構えたままその場に立ちつくす。
それを確認したヴェルティゴはスラスターを吹かして滑走路の方へ向かう。
相手が撃ってくる気配が無い事からガロードは一瞬上手くいったと思った。
ところがその場から飛び立つ直前、一発の砲弾がヴェルティゴの機体の横を掠めた。
ガロードとカリスがぎょっとしてその方向を見ると、一機のディンが空中に上がった状態でこちらに狙いをすましていた。
そしてそのディンから一つの怒号が聞こえてくる。銃で足を撃ち抜かれたはずのアスランのものだった。
『それに本当にニコルが乗っているのか ? なら通信の一つでもこちらに入れてくるはずじゃないのか ? 』
『僕は彼がこの機体の中で気絶しているだけだと思いますが、それが何か ? 』
それにはカリスが凛とした声で反論する。
実際、彼は本当に気絶していた。カリスとガロードのいる所から150m程背後にある格納庫の中でだが。
また、その場にアスランがいる事にやはり味方内も驚いたらしく、心配した同僚と、怒鳴る様なそれへの応対の様子がその場に駄々漏れになる。
『アスラン、お前銃で撃ちぬかれたって……』
『撃たれたのは足の甲だけだ ! それに片足だけででもMSの操縦くらいは出来る ! それと、聞こえなかったのか ! 敵に買われた傭兵と共に副指令殿が逃走したんだぞ ! 』
いや、そうだとしても……
イザーク達はそう思ってその場で判断を鈍らせてしまう。
だが、そんな風にしている者達に対し焚きつける様なアスランの声が再び響く。
『気絶していなければニコルだって伊達に赤を着ている訳じゃないんだぞ ! 反抗できない訳は無いだろう ! ……元副指令殿の乗った機体を落とせ ! 』
しかし、その場に居る全員にとってはいかに彼が赤を纏っているとはいえ、一介の兵士にしか過ぎない彼がどれだけ喚いたとてそこにいる兵が動きはしない。
だがその様子に業を煮やしたディンはその方向に向かって飛び立ち、MMI-M7S 76mm重突撃機銃、MMI-M1001 90mm対空散弾銃、6連装多目的ランチャーの全てを乱れ打ちしてヴェルティゴに迫った。

それと同時にアスランは再び全周波で全員に再び挑発する様な通信を入れる。
『人質を取っている敵というのはな……その間にほぼ無防備になる。人質に当たらない様に撃つ事が出来ないほどお前達の射撃の腕は下手なのか ?! 』
『なっ ! 何をーっ ?! アスラン貴様よくも言ったなァーッ !! 』
『落ち着け、二人とも !! ……チィッ !! 言われなくたってやってやるよ !! 』
先ず挑発に反応したのはイザークで高エネルギービームライフルを撃ち出し、続く様にバスターが遅れて高エネルギー収束火線ライフルと6連装ミサイルポッド、更にジンとシグーが重突撃機銃、
ターレットオプション武装を施したバクゥが2連装レールガンか13連装ミサイルポッド、ディンがアスランと同じ武装で、挙句にザウートが全ての砲を乱れ打ちしてヴェルティゴとブリッツを襲い始める。
ブリッツを抱えている為にヴェルティゴは上手いこと素早く動く事が出来ないので、必死で避け続けてはいるもののあちこち被弾していく。
これでは反撃するどころの話ではない。
ガロード達のいた世界では軽く頑丈な事で知られるルナ・チタニウム装甲で守られているとはいえ、このままでは墜とされてしまう。
その時ガロードは通信機越しにカリスの低く小さな、しかし苦々しげな声を聞いた。
『仕方ありませんね……これはあの戦闘の時既に修理は出来ていましたが、体の事もあってこっちに来てから使うのを憚っていました。でも……今また使わせて頂きます !! 』
その直後ヴェルティゴの腕部アーマーの辺りから小さい粒の様な機械が射出される。
それを見た瞬間ガロードはあっと小さく叫んでしまう。
かつて彼自身をA.W世界でカリスと初めて対峙した際、大いに苦しめた小型無人ビーム砲台、ビット。
死角という物が存在せず、全方位の敵に対し、その敵機を中心に全方位から攻撃できる兵器をカリスは使うのだから。
片方の腕から6基ずつ、計12基放たれたビットは非常に正確な攻撃で数多くの敵を撃墜していく。
それは突然前後左右から発射されたビームと言ってもいい。
なす術も無く四散した機体のパイロットは、何が起こったかも分からないまま機体と運命を共にしたことだろう。
目にした事も無い異様な攻撃の様子に敵兵達は一瞬たじろぐが恐れる事無く砲撃を再開する。
そしてあと僅かで真下は滑走路の端だという時、ビットを操っていたカリスは息を飲んでしまう。
味方の砲撃、ビットの攻撃を避け続けたアスランの乗ったディンがビームを発射する寸前のビットの一基を、エネルギーの逆流を利用したのか一発の砲弾で撃ち落としたからだ。
しかし残ったビットも負けんとばかりにディンの武装や装甲を次々に撃ち落していく。
そしてそれが最後と言わんばかりにヴェルティゴは一つ欠けた全てのビットを再び機体の中に格納し、その場から飛び去って行った。

ヴェルティゴとブリッツの二機が水平線の彼方に消えたのを見たアスランは、ディンを地上に降ろしコクピットから降りた。
その時になって自分の右足の甲を疼痛が襲い始める。
パイロットスーツの下に着ていたシャツの一部を無理に破って作った、足に巻いた止血用の布は真っ赤に染まっていた。
気づけば顔にもじっとりとした脂汗が浮かんでいる。
よくこんな状態でMSを操縦し、あんな動きをしたものだと自分でも感心してしまう。
元々このディンは足をやられた彼が、ブリッツ等があるところとは別の格納庫で整備員を怒鳴りつけて殆ど無理矢理借りてきた物だ。
整備員は手負いの彼を乗せる事は丁重に拒否したかったが、鬼気迫る彼には無駄であった。
だが冷静になって考えれば、それも含めかなりの無茶をしたと言える。
捕虜の殺害未遂、人質がいる状況でそれの命を無視した敵機への攻撃。
激情に駆られた行動でレッド降格は免れないか……と、ぼんやりと思う。
後ろではヴェルティゴの正体不明とも言える攻撃でやられた機体への消火活動が続いている。
撃墜された機体は全部で20から30、損傷を負わされた機体に至ってはそれ以上に及ぶだろう。
あの攻撃が再びこのジブラルタルになされたらと考えると彼ですら身震いがしてくる。
そうなれば言うまでも無く壊滅は間違いないからだ。
そう考えてふと10m程先を見ると自分が破壊した謎に包まれたヴェルティゴの攻撃端末の破片が転がっていた。
他の破片は海にでも落ちたのだろうかそこにあるのはその一片きりである。
負傷した足を無理矢理動かしてそこまで来たアスランは、その破片に指先で数回触れてみた。
既に熱くはなってない事を確認して拾い上げる。
大きさはCD-R程、厚さは一般的な電話帳くらいあった。
それにも拘らず重さはとてつもない軽さ。同じ形の物で例えてみるならアルミニウムと良い勝負をしているかもしれない。
しかしアルミだとすればMSの装甲に使える訳が無い。使っていたならヴェルティゴは跡形も無く破壊されていた筈だ。
だがあれは大量に被弾しても碌に傷つく事無く飛行し続けていた。ますます不思議な事だ。
そう思いアスランはポケットに手を突っ込んである物を出す。
それは基地の出入り口近くで傭兵を狙撃した際に、散らばった少女の方の毛髪の一筋。
別に彼女に対して危ない趣味が出た訳ではない。自身そういった物を持っている訳でもない。
彼はあの直後少しだけ冷静になって頭をフル回転させていた。
以前ナチュラルが、こちらから鹵獲したジンを戦場にそのまま流用しているのを見た事があった。
だがその動きは敵なりの整備を受けていたとはいえあまりにも鈍重で唯の的だと言ってもおかしくはなかった。
だからナチュラルが自分達と同程度にMSを操るなど出来はしない。
しかしキラというコーディネーターが連合についているという例があるのだから、MSを使って自分達を苦しめた二人の内どちらかがコーディネーターかもしれないという疑念があった。
どちらかといえば少年の方からは言動からあまりそういった雰囲気はしなかったが、少女の方がその雰囲気が感じられた。
その結果として今自分の手の中にその手懸かりがある訳なのだが。
遺伝子を調整していれば必ず痕跡が専門家によって見つかる筈……
アスランは二機の去った方向を忌々しげに見つめた後、再びディンに乗って格納庫に向かって行った。