X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第3話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:04:30

機動戦士ガンダムXSEED  第三話「驚く事ばかりね」

襲って来るのは尽きない焦燥感。
さっきから背面のバーニアを一杯にふかしているのにそれは少しも収まりを見せる事は無い。
無理も無い。もうすぐ自分が守ると堅く自身が誓った相手に会えるのだから。
そして、この世で最も愛しい存在。
加速に伴う体全体にかかるG も彼の前では障害ではなかった。
そして、彼に齎された様々な新たな真実も。

あの後プロトジンでダブルエックスを曳航する手筈を、教官なる男に脅しをかけて整えさせたガロードはそれが終わった後、この世界についての情報を男から出来るだけ聞き出した。
この世界では普通に生まれてきた者、ナチュラルと、遺伝子調整を受けて生まれてきたコーディネーターの二つの人類がいる事。
ナチュラル側の軍、地球連合軍がコーディネーター達が暮らすスペースコロニーの1つ、ユニウスセブンを核攻撃した事が切欠で戦争が起きた事。
そしてその戦争自体が硬直状態に陥って10ヶ月経っている事が主だった。
全部呑み込むまでには流石に時間がかかりそうだったが、今はそんな事に構っていられない。
目の前にある、ヘリオポリスだとかいったコロニーに行けば、全て解決する。
因みに、教官と言った男はあの時丁度、生徒達を別の場所に居させていたので彼一人しか居なかったとのこと。
それから止むを得ないとは言え、そのまま彼を宇宙空間にほったらかしにしていては後味が悪い。
ガロードは彼の寮機のコードを彼自身から聞きだし、その寮機に通信電文を送っておいた。
これで、あそこに彼の仲間が現れ、彼を救出してくれるだろう。
そうこうしている内に、目の前にヘリオポリスが近づいてきた。
ガロードは自分以外誰も居ないコクピットで、一人ごちる。
「こいつの操縦何とかしねぇかぎりにゃ、あのコロニーに入っても上手い事ティファを見つけだせるかどうかわからねぇが……
おまけにさっきあいつが言ってた事も本当に本当の事かわかんねーし……
あー、くそっ ! ああだこうだ考えてても埒が開かねえ ! とにかく急がなきゃ、ティファに万一の事があってからじゃ間に合わねぇ ! 」
やがてヘリオポリスコロニーがはっきりと視界に捉えられる様になったその時だった。
「接近中のザフト軍MSに通告する ! そちらの行動は我が国との条約に大きく違反するものである。直ちに停止するように ! 」
通信機から軽いノイズ混じりに通信が入る。
発信元は目の前にある当のヘリオポリスコロニーだった。
またもザフトという聞いた事も無い名前を持ち出され、ガロードは少しイラっとして通信に返答する。
「俺はザフトなんて組織の人間じゃねえよ。そこのコロニーに探している人間がいるから、ちょっと立ち寄らせて貰いてえだけだ。」
「しかし、そちらが乗っているのは明らかにザフト軍のMSだ。安易に入港を許可する訳には……。」
ガロードが入港を渋る管制官に怒鳴りかけようとした時、幸運にも相手の方から思わぬ助け舟の様な意見が出る。
「待て、見た所あれは6年前の機体だな。
今でも確かにザフトじゃパイロット養成用の練習機として使用されてはいるが、民間に払い下げられた機体も多数存在し、作業用重機として使われている物もあるそうだ。
そちらは、本当にザフトでも連合でもないのかね ? 」
駄目の一点張りしか言わない人間しかいないかと思ったら中々話のわかる人間もいたものである。
へえという感じでガロードは続ける。
「そうだ。さっきも言ったけどこっちはザフトでもなけりゃ連合なんてのにも関わりは無い。
敢えて言うなら……」
ちょっと考えてガロードが出した自分にぴったりそうで、入港にも差し支えなさそうな仕事。
「ジャンク屋、かな ? 」
自分達と同じMSがある世界だから、この仕事を言っても差し支えはないと信じたい。
最も、そういった仕事があると判断だったから、相手の出方による所は大きかった訳だが。しばしの沈黙が続いた。アウトか ? とガロードは思う。
しかし、返事は十分安心出来る物だった。
「宜しい。入港を許可する。但し、幾つか記入を要する書類を済ましてからだが、それでも良いか ? 」
「良いぜ。それじゃそっちに向かう。」
ガロードは停止していたバックパックのバーニアを吹かす。

一方こちらはヘリオポリスの入港管制室。
管制係の若い士官はこちらに接近しているザフト製MSの入港を許可した、彼より一回り年上の上官の顔を覗き込み、堪らず一つの質問をぶつける。
「あの、何故入港を許可したのですか ? ザフトのカモフラージュだったら洒落になりませんよ ? 」
「さっき私が言ったのを聞いてなかったのか。ザフト製のMSと言ってもあれはパイロット養成用の練習機だと。
ナチュラルの民間人が作業用の重機として使用している所も一度見た事はあるが、使っている人間の話では民間に出回っている物で転売が許可されているのはせいぜいペイント弾式機銃と模擬戦用の重斬刀を装備できる代物だそうだ。
逆立ちしようがドンパチなんてできゃせんよ。特殊部隊が後続に控えているというなら話は別だがな。」
「は、はぁ……。」
上官はそれだけ告げると管制室を後にした。
それ以上言っても無駄だと分かった下士官は接近しつつあるプロトジンの入港シークエンスを開始する。
彼は信じていた。
そうだ。ここは中立のコロニーだから戦闘も起きやしない。
あのMSの入港を確認し、一通りの書類事務を済ませたら、またいつもの様に割りと暇な一日が続く事だろう、と。
その一時間もしないうちにその日常はあっさりと崩壊してしまう事を彼は微塵も疑う事はしなかった。

入港したガロードは先ず全作業員の視線がフックに引っ掛けていたダブルエックスに集中しているのに気付く。
確かにこのC.E世界では物珍しい機体なんだろうと思って好奇の目も仕方ないとは思っていたが、あまり気に喰わなかった。
かけられる質問も「このMSはどうしたんだ ? 」とか「ジャンク屋が今時こんな宙域で何やってたんだ ? 」という物が大半を占めていた。
あまりにも多くの作業員が尋ねてくるので、ガロードはそういった質問に一括して、
「仲間と一緒にジャンクパーツ探しをしていて、良いパーツは見つけたものの仲間と逸れてしまい、暫くしているとヘリオポリスコロニーにいるとの通信が入ったので、ここに来た。」
とだけ答えておいた。
こんな所で自分の素性や、A.Wがどうのとか、クラウド9がどうのとか言い出したら余計な尋問とかを受けざるをえない状況になるのは目に見えて明らかだったからだ。
こんな所で捕まって余計な時間を喰っている暇なんて無い。
ガロードが待合室の様な部屋に通され待つ事数十分。
待たされるばかりで何の進展もない事にガロードは落ち着かない感覚を覚えていたが、焦った所でどうにもならない事はいい加減分かっていた。
と、ある下士官が部屋に入ってきて、一揃いの書類をガロードに渡す。
そこには入港許可のサインがあった。
喜び勇んでガロードがプロトジンのあるMS格納スペースに行こうとした時だった。
「ちょっと待て。」
「んあ ? 」
ドア近くで急停止したガロードは、呼び止めた下士官の方を素早く見返る。
下士官は慎重な面持ちでガロードの目の前につかつかと歩み寄り、一言告げる。
「君が曳航していたあのMSの残骸らしい物なんだが、いろいろと不明な点が多い。明らかにザフトの物でも連合の物でもない。
多少調査がしたいので、こちらで引き取らせてもらえないか ? 」
「何ィ ?! 」
好事魔多しとはまさにこの事であった。
最初からダブルエックスの事について何がしかあると思っていたガロードはやっぱりと言う表情で相手の顔を見てしまう。
「あれは……俺も仲間に見せてやろうと思ってたんだよ。何か珍しそうだったし。
それにせっかく命張って見つけたお宝を宇宙空間に置いたままここまで来れねえよ。」
「珍しそう……ねぇ。」
下士官は手に持った電子パネルをタッチペンで軽快に操作していく。
そして、ダブルエックスが映し出されている項目の所でその操作は止まり、同時にパネルとガロードを交互に数回見る。
ガロードはその目を見て直感した。状況は自分にとって明らかに不味いと。
これ以上ダブルエックスのことでゴチャゴチャと尋ねられていたら、出来る事も出来なくなってしまう。
下士官は電子パネルの電源を切り、ガロードの方をじっと見据え言い放つ。
「はっきり言おう。君が珍しいジャンクパーツだと言っているあの機体。あの機体に使われている科学技術は連合の物でも、ましてやザフトの物でもない。
MSの基本的構造から使用されている金属、操縦系統に至るまで、我々が把握している如何なる物とも違っている。
確かに君の言ったとおり、もう第一線の活躍なぞ望めそうにも無いが、あの状態でもあの機体がその内奥に持っている物は世界にとって大きな脅威と成り得るだろう。
そういう理由であの機体をこちらに引き取らせて欲しいと言っているのだ。」
「ぐっ…… ! 」
ガロードは思わず歯噛みしてしまう。
ダブルエックスがこちらの世界の技術系統とは異質の存在である事は、あのプロトジンというMSを操縦しようと試した時点でもう分かっていた事だし、
積荷の検査はこういった施設に入る時には避けては通れない事だとは分かってはいたが、それでも事態はガロードが考えたくない方向へ進んでしまっている。
どうする ? やはり実力行使しか他に道はないのか ?
しかし、これだけの施設だ。強行突破してコロニー内部に入り、このコロニーの何処にいるか分からないティファを、短時間で首尾良く見つけ出す事は不可能に近かった。
おまけに万が一上手くティファを助け出す事がで来たとしても、宇宙空間に出る為にはもう一度ここを通らなくてはいけない事になる。
さっきから言われているザフトだか連合だかの軍が、大勢で自分達を検挙しようとやって来たらそれこそ万事休すである。
だとしても、このコロニーの壁を打ち抜いて外に出るなどという暴挙は自分自身が許さない。
追い詰められた以上そうするしかないかもしれないが、そんな事をすれば多少なりともこのコロニーに損害は出るだろうし、何より民間人が犠牲になってしまう。
自分達と全く違う世界でまで不可抗力にしろそんな事はしたくは無かった。
しかし、唯考えているだけでも事態は進展しない。
どうする…… ?
そんな時だった。
ピピピピピッ、ピピピピピッ !
下士官が腰にぶら下げている通信機に連絡が入る。
彼はガロードに向けていた視線を少し反らし、通信機の連絡に応対する。
「私だ。……何 ? ザフト艦が通告も無しにこちらに接近中 ?! 」
降って沸いたチャンスか。下士官はガロードとは反対側の方向を向いて通信機にかかりきりになっている。
その時に生まれた隙をガロードは見逃さなかった。
虚を突いてガロードは部屋の入り口まで猛然とダッシュし、外の通路に出る。
後はもう何も考えずに走るのみだった。
後ろから「待て ! 」とか「貴様やはりザフトの手の者かあっ ! 」とか聞こえてきたが、気にしていられない。
先程居た部屋から格納庫までの道程はきちんと頭に入れていたから、迷う事はない。
脱兎の如く階段を駆け上り、下り、キャットウォークを走り抜ける。
自分の応対をした下士官からの連絡を受けた者でもいたのか、自分に「止まれ ! 」と言って銃を向けてくる人間もいたが、
全体的に見ればそういった人間はかなり少数で、多くは先程通告無しに接近しつつあるザフト艦の対処に当たっていた。
視界が開き格納庫に辿り着くと、自分がここまで乗ってきたプロトジンと、クローラーに載せられたダブルエックスがあり、
その周りを大勢の者達、そして彼等が発する怒号が行ったり来たりを繰り返していた。
「電波干渉が出ているんだったら戦闘行為だろう !! 」
「敵のMSの数は ?! 分からんなどと言う答えは聞いてないぞ ! 」
「モルゲンレーテに連絡しろ ! 繋がらない ?! 非常用の奴かけろ、非常用 ! 」
今しかない !
ガロードは一目散にプロトジンの方に駆け寄りコクピットまで行く。
電源は入ってはいなかったものの、バッテリーの電力が抜かれている等の処置はされていなかったから、起動するには起動できる。
前面のモニターを点けると、機銃を持った者が5~6人自分の前にいた。
外部マイクをONにしていなかったから、相手が何を言っているかは聞こえてこなかったが、恐らくは、下りて来いとか、そこから出なさいとか言っているのだろう。
しかし、一旦MSに乗ってしまえばこちらのものである。
「お前らに構ってやってる暇はねーんだ。悪ィけど俺は逃げるぜ ! 」
ガロード操るプロトジンがクローラーにワイヤーで固定されていたダブルエックスを引き剥がし、立とうとする。
が、さっきはバーニアを吹かして慣性でヘリオポリスまで来ればそれで良かったのに対し、今度は一から操作しなければならない。
操作手順が違う為にあっという間に地面に派手に転倒してしまう。
「どうにか……どうにかしねぇと ! 」
勝手の違うMSを操るのがこんなにきつい事とは、正直嫌になる。
動くと信じてダブルエックスに乗り換えてみても、こんな状況じゃなければ良いかもしれないが。
と、その時、くぐもった振動音と共にあちこちから炎が噴出し、格納庫のあちこちが崩壊し始める
遂に……
「うっ、うわぁぁぁぁっっっっ !!!!!! 」
爆風と豪火、の勢いでガロードは一気に施設の奥に吹き飛ばされる。それと同時にヘリオポリスには目立った損害は無いものの、
格納庫の一部、丁度ガロードがいた辺りが内部に向かって崩壊し始める。
多くの瓦礫、人が一斉にだまの様になってヘリオポリスに内部に吹き飛ばされた。

尺に収まらなかった分

彼女はあまりの出来事に外を見やっていた。
突然の異常事態でモルゲンレーテの試験場から彼女は外に飛び出していたのだ。
見ると港の辺りから黒煙が上がっている。
先程ザフトのパイロット養成の練習用ジンが見慣れぬ機体と共にヘリオポリスに入ってきたというのに、次はこれか !
G計画がやっと完遂できそうだというこの時に !
「予定を早める ! ハマナ、ブライアン ! 私と共に試験場へ ! 」
彼女はその場から猛然と試験場まで駆ける。
誰も聞いてはいなかったが彼女は小声で悪態を吐いた。
「全く……驚く事ばかりね ! 」