X-seed_Exceed4000 ◆mGmRyCfjPw氏_第29話

Last-modified: 2008-01-21 (月) 21:58:09

機動新世紀ガンダムXSEED 第二十八話「俺たちもいるぜ !! 」

 

ストライクのコクピット内でキラは、常人には考えられないスピードで手足を動かし、必死に機体を駆っていた。
戦闘は何回か経験済みだという事を考慮しても、それはあくまで宇宙空間内に於いてという条件がついている。
カタパルトから発進するまで、重力がある地表での戦闘がどうなるものかあれやこれやと考えてはいたが、そんな物は全て無駄に終わった。
計算していた以上に機動性が良くないのがそれの代表とも言える。
ムウが発進直後に届けてくれたエールパックにはスラスターが付いていたが、バッテリーの関係上機体をずっと飛ばし続けておく事は出来ない。
だが敵は大多数で攻めて来ているので、ヒットアンドアウェイの要領で応対しなければ直ぐにアークエンジェルは蜂の巣となってしまう。
それが頭の中で分かっているだけにさっさと対処出来ないこのもどかしさは言いようも無かった。
「くっ !! 皆頑張っているっていうのに……僕もやらなくちゃ !!! 」
戦闘が始まって六分。
キラにエールパックを渡したムウはすぐさま母艦に戻り、モーターレースのピット顔負けの速さでランチャーパックを換装して出撃したが、
やはり大量の機体を相手にせねばならない事からか上手く動けないでいる。
ガロードもレーザーライフルで対応しているが、いかんせんブリッツは近接戦に特化しているだけに苦戦しており、
ザフトから来たというカリスという少年も奮戦はしているが、同じ空を飛んでいるムウとの連係という形は少し、いやかなりぎこちない。
キラも不自由する状況の中でビームライフルを使って既に戦闘ヘリを二機ほど墜としてはいたが、焼け石に水もいいところである。
その隙を突いてそれらの後方から大量のMS群がアークエンジェルに取り付き始める。
「させるかっ !! 」
キラは身近にいたジンオーカーにライフルの狙いを定めトリガーを引く。
しかし相手はそれを鮮やかに避け、逆に極超高初速ライフルを撃ってくる。
とはいえフェイズシフト装甲が施されているストライクには実体弾は効果が無い。
無論、当たり続けていればあっという間にダウンを迎えるものだが。
その時になってやっと機体の調整が終わる。
レバーやペダルを使っての一挙手一投足が確実に反応するのは僅かばかりの安堵を齎した。
その時前方から強力な衝撃が襲ってきた。
撃ってきたのはザウート。敵は二手に別れ、アークエンジェルとMSを迎撃する組に分かれたらしく、正面から来た時の半数の機体がキラに攻撃の牙を向ける。
「アークエンジェルは、沈めさせはしないッ !!! 」
その次の瞬間、急激に視界がクリアになる。
まるで脳内の神経回路が戦闘という行為に対し能率的な行動をとる為に置き換わったかのようだった。
と同時に、大量の弾丸がストライクに厚すぎる弾幕となって襲い掛かる。
だがキラはそれを無言で一睨みし、上に向かってバーニアを吹かして上空に舞い上がると同時にペダルを踏んでザウートが場所をとっている右方向に突っ込む。
それまで鈍重にしか動いておらず、まともな反攻も見せていなかったストライクが急に目の冷める様な動きをとった事に、ザウートのパイロットは一瞬戸惑い動きを止めるがそれが命取りとなった。
キラはその機を逃さず、即座にコクピットをターゲットロックしライフルを撃ち込む。
光の槍に貫かれたザウートは一瞬機体をスパークさせた後爆散した。
敵のMSはストライクの機動の変わりように警戒したのか、一旦散開しフォーメーションを組みなおそうとする。
だがそういった瞬間もキラは見逃さない。
粉塵と爆煙の中から姿を現したストライクは次に近い位置にいたジンオーカーに向けてロックを定める。
しかし相手も軍人だけに戦闘に関しては相当な手練の様で、次々に素早く位置を変えながらライフルを撃ってくる。
それも撃ちっ放しなど野暮な事はせずに何十発かずつ区切りながら。

 

更に側面から撃墜されたザウートの敵といわんばかりに別のザウートが4門のキャノン砲を銃身が焼けつかんばかりに撃ってくる。
キラはそれらの何発かに当たりながらも相手二機のスピードと動き方を分析し頭の中で自分の力とそれを秤にかける。
弾き出された答えは……遅い。
ジンオーカーは通常のジンと違ってバーニアが無い事、ザウートはそれをやや下回るスピードで動いていた事がその結果に繋がっていた。
その時ジンオーカーは弾切れを起こしたらしく、ライフルを捨て重斬斧を構えてストライクに襲い掛かる。
キラはザウートの放つ砲弾を極力かわしつつ接近し、残り数10mというところでバーニアを吹かす。
相手は止めと言わんばかりに重斬斧をストライクのコクピット付近に向け振り下ろすものの、ストライクはその直前に姿勢を滑空出来得る極限にまで下げ、
構えたビームサーベルを敵機のコクピットへ下から上に斬りつける。
ジンオーカーは真っ二つに破断され爆発するが、ストライクはそれには目もくれず直ぐに右手にビームライフルを構え、側面にいたザウートに向けて数発撃つ。
始めはキャタピラを駆使し上手く避けていたザウートだが、徐々にそれが追いつかなくなり7発目で遂に爆散した。
だが新たに三機のジンオーカーがストライクの死角となる場所からフォーメーションを組んで集中的に攻撃を仕掛けてくる。
キラは銃弾を避けながらとにかくMSの移動の要の脚部か、悪くてメインカメラのある頭部を打ち抜こうとライフルを構える。
が、次の瞬間通信機から割れんばかりの大声が聞こえてきた。
「キラ !! そこを退いてくれぇっ !!! 」
その声にキラは反射的に反応し、アークエンジェルの船体の陰へと移った。
ストライクのメインカメラはジンオーカーを追う様にしていたが、それらの機体は後方から来た貫通弾によって一機が破壊される。
ガロードだった。
バーニアを最大に吹かし、ランサーダートで敵機の内一体をしとめたのだ。
「おっしゃあ !! これでイーブンってやつ ? 」
ガロードの快活な声が響くが敵はそんな事などお構い無しに一機ずつ銃撃を行う。
「キラ ! 俺は左の奴、お前は右の奴を頼む。」
「分かった !! 」
戦術的に二対二ならインチキではないだろうと踏んだガロード。
攻盾システムからビームサーベルを繰り出し、前方に向かって猛然とダッシュする。
キラもまた船影から身を躍らせビームサーベルを構えて突進する。
ジンオーカーのパイロットはフェイズシフトシステムの事は知らないのか、出来るだけ移動を繰り返しながらライフルを撃ち続けるが、彼らにとってモニターが死んだであろうその時決着はついた。
ガロードは相手機を袈裟切り、キラは先程と同じ切り結び方でしとめる。
お互いに息を合わせたかのような一撃には少しの無駄も無かった。
だが、今度は上空から後方より合流したディンとジンがアークエンジェルに向けて一斉砲撃を行い始める。
また、残されたジンオーカーが地上戦に特化されたバクゥと再度編隊を組みなおしてアークエンジェルの右翼側から攻めてくる。
あまりの状況にキラは低く呻いてしまう。
「ちぃっ !! ……これ以上ダメージを受け続けたらマズいっていうのに !! 」
『落ち着きな ! 俺達もいるぜ !! 』
と、再び通信機から入る頼もしい大人の風格あるムウの声。
それと同時に戦闘ヘリの一つが、スカイグラスパーから放たれたガンランチャーをまともに喰らい、唐突に火を噴出し空中で四散する。
他機は空中で散開し攻撃をやり過ごそうとするものの、その後方から突然現れたベルティゴのマシンキャノンによって次々に屠られていった。
『空は僕達がカバーします !! 』
カリスが少々荒い息を混じらせてムウに追随するように言う。
『お前一人で戦ってるわけじゃあねえんだぜ ? さあ、皆で協力して早いトコ終わらせちまおうぜ !! 』
最後に聞こえてきたのはガロード。
丁度、こちらに向けて始めに撃ってきたザウートをランサーダートでしとめていた。
そうだった。次々に襲い掛かってくる敵との戦闘に必死になってキラはすっかり忘れていた。
頼もしい味方……背中を預けて戦う事の出来る仲間がいる事を。
その時、地を震わす轟音が辺りに轟く。
相手と対峙した状態で睨み合っていた四人ははっと息を飲む。
敵の攻撃が遂にアークエンジェルの機関部を捉えたのか、左舷後方部から赤々と燃え盛る炎と黒煙があがっていた。
次いで同じく左舷側のゴッドフリートも被弾し、爆発に因る大音響が周囲に木霊する。
『って、カッコつけてる場合でもねえか…… ! 俺は連中の近くまで行ってビームサーベルで切りこみをやる。墜としきれなかった機体はそっちがビームライフルで対処してくれねえか ?! 』
「分かった !! 」
その返事を聞くや否やガロードはバーニアを全開にし、驚くべき敏捷さを見せるバクゥの群れの中に突っ込んで行った。

 

「エンジン被弾 !! 48から55ブロック、125ブロックから144ブロックまで隔壁閉鎖 !! 」
「1番、5番、6番イーゲルシュテルン被弾 !! ゴッドフリート1番、バリアント1番沈黙 ! 艦の損害率、30パーセントを突破します !! 」
「推力……50パーセントに低下 !! 高度維持できませんッ !!! 」
戦闘が始まって十分近くが経とうとしている。
アークエンジェルの艦橋では矢継ぎ早に絶望的な報告がなされ、あちこちのコンソールからはワーニングランプが引っ切り無しに明滅していた。
悲鳴にも程近いその声は、敵がじっくりと大天使を空から引き摺り下ろし完膚なきまでに叩きのめすまでの質の悪いカウントダウンのようにも聞こえてくる。
「生きている火器は全て敵機の迎撃に合わせろ ! ヘルダート、スレッジハマー装填 ! 撃ぇーッ !!! 」
ナタルがブリッジクルーの不安を打ち消すように叫ぶ。
だが、マリューにはその言葉の端々に見られる本人の焦りがはっきりと読み取れた。
メインモニターにはミサイルに気づくのに遅れたヘリが一機回避出来ず着弾する様子が映し出される。
だがまだ敵はヘリが計7機、MSが半数近く残っている。
出撃している者達が確実に敵機を迎撃している事は間違い無い。
マリューもその点に関しては彼等の尽力ぶりを良く分かっているつもりだ。
だが決着を早めにつけなければ、敵陣であるこの場で身動きが出来なくなる等の取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
完全撃破などという贅沢は言わない。せめて撤退させるだけでもこの状況なら上出来だ。
その時、ディンの放った対空ミサイルが残っていたイーゲルシュテルンを襲う。
至近距離で爆発が起こった為に艦橋が衝撃でビリビリと震えた。
「イーゲルシュテルン被弾 !! 完全に沈黙 !! 」
「何ですって ?!! 」
チャンドラの報告にマリューは思わず唇を噛んでしまう。
頼みの綱とも言えるメインの火器はもう右舷側にしか残っていない。
致命的なダメージを与えたディンはベルティゴの放ったビームライフルを胸部に二発喰らって爆散するものの、
更にアークエンジェルの死角から別のディンが二機、艦前方部に躍り出て再び対空ミサイルを放つ。
「ミサイル、来ます !! 」
「回避ーっ !! 」
だがノイマンの必死の操縦を嘲笑するかのようにミサイルは両舷蹄部で炸裂する。
「両舷フライトデッキ、被弾ッ !! 」
再びチャンドラの報告が入る。
彼もナタルと同じ様に冷静でいるよう努めようとして……失敗していた。
「高度現在5m !! 両舷バランス、著しく不安定です !! 」
敵の攻撃をかわしつつも、高度計から地面すれすれを航行している事に気づいたノイマンが警告する。
「艦長 !! この陣容では対処しきれませんよ !! 」
パルがマリューの方をちらと見やり抗議するかのような口調で叫ぶ。
言われなくても…… ! と怒鳴りつけようとしてマリューはそれを必死で抑えた。
だが戦闘が始まってから今この時までそれを通し続け、やっと相手の戦力の三分の一ほどを削ぐほどに至ったのだ。
今更文句を言ったとて始まるまい。
すると、丘陵地帯の向こうから敵の戦艦が二隻のっそりとした動きで現れる。
恐らく王手(チェック)は近いと踏んで自ら出てきたのであろう。
モニターに映し出される相手の巨体にとめどない恐怖感がブリッジクルーを襲う。
マリューは思う。長い死闘はまだ続くのだと。

 
 
 

【前】 【戻】 【次】