XXXⅧスレ198 氏_Raison d'etre_第3話

Last-modified: 2010-10-02 (土) 02:56:56
 

ザフトが壊滅した。プラントのコロニーが破壊され、何十万という罪のない人間が死んだ。

 

「そのために……?そのために生まれてきただって……?」

 

デスティニーの光の翼が膨れ上がり、機体の全長を優に越えるほどになった。
左手にかかったまただったビーム砲を素早く引き伸ばし、撃つ。
シンの不意打ちに再びビームシールドを張ったストライクフリーダムだが、
高出力のビームに機体が押され、弾き飛ばされた。

 

「何を言ってんだお前はぁ!!」

 

ビーム砲を手早く畳み、背中のウェポンラックに戻す。と同時に加速して距離を詰めつつ、
ビームライフルを抜いて続けざまに発砲。すぐに体勢を立て直したストライクフリーダムが回避に回るも、
かわしきれずに一発をビームサーベルで弾いた。
両肩のフラッシュエッジを抜いたデスティニーが、その間隙を縫って最大加速。

 

「人を殺すために生まれてくる奴なんているか!」
「いるのだよ!この体の前の持ち主がそう運命付けられ、私がその運命を引き継いだのだ!」
「意味がわからないんだよ!」

 

フラッシュエッジの光刃が伸び、ビームサーベル大の長さになる。
右腕を振り上げ、加速のエネルギーごと大上段からフラッシュエッジを叩きつけた。
ストライクフリーダムは同じく右手のビームサーベルで受け、
空いた左手でがら空きの胴を狙おうとサーベルを抜く。

 

「甘いな。それでは私を倒すことは……」

 

その時、ユーレンは違和感を抱いた。デスティニーは確かに両肩のフラッシュエッジを抜いたはずだが、
デスティニーが持っているフラッシュエッジは右手の一本のみ。

 

(もう一本は?)

 

すると、デスティニーの機体が若干相対的下方に下がった。

 

「何っ?!」

 

突如として、デスティニーの背後からフラッシュエッジが現れる。
ユーレンがシンの射撃をビームサーベルで弾いている隙を突いて、
シンは左手のフラッシュエッジを投擲していた。
そして、それを驚異的な加速で追い抜いたデスティニーの体で隠し、
タイミングを見計らって避けたのである。
さすがに反応が間に合わず、ストライクフリーダムの右肩に突き刺さったフラッシュエッジ。
それは、建造されて以来の初めての被弾だった。

 

「おおおおっ!!」
「食らえぇぇぇぇぇっ!!」

 

右手のフラッシュエッジを捨て、空いた右の掌にエネルギーが集中し、突き出す。
対するストライクフリーダムは、両手のビームサーベルをデスティニー目掛けて突き込む。
パルマフィオキーナと二本のビームサーベルはぶつかり合い、一瞬拮抗したが、
出力で上回る二本のビームサーベルがすぐに押し勝ち、デスティニーの右手を貫き、
行き場を失ったエネルギーと共に大きく爆発した。

 

「この私に、スーパーコーディネイターに勝てると思うな!」

 

勝ち誇るユーレンの視界を覆う爆煙から、突然腕が現れる。
デスティニーの残って左腕がストライクフリーダムに突き刺さったままのフラッシュエッジを抜き取り、
光刃が伸びる。

 

「くっ?!」

 

爆発で溶解し、濁ったツインアイが爆煙の中で鈍く輝く。
全身をバネのように躍動させたデスティニーが左手一本で斬りかかり、
反応が僅かに遅れたストライクフリーダムの左肩から腕を切り落とした。

 

「ええい!」

 

ストライクフリーダムが前蹴りを放って距離を取る。
気付いた時には息が上がっていたシンは、乱暴にヘルメットを脱ぎ捨てた。
ダメージレポートに斜め読みで目を通し、まだ余裕がある、と踏んだシンは、
ユーレンの言葉の理解できなかった部分を問い質した。

 

「さっき人を殺すために生まれてきた、とか言ったな」
「……」
「どういう意味だ。人類の滅亡でも目論んでんのか」
「……馬鹿め」

 

お互い機体を静止させた状態で、しかしいつでも反応できるよう身構えて、
両者はこの質疑応答の隙に体力を回復させることに努めた。
何しろ凄まじい高機動戦闘である。体力の消耗は著しい。

 

「スーパーコーディネーター・キラ・ヤマトが生み出された目的はたった一つ。
 …………コーディネイター共が武力を持ってナチュラルに対抗しようとした時に、
 コーディネイター共を始末するためだ。
 そしてそのために、私はキラ・ヤマトの中に私の人格因子を埋め込んだのだ」

 

一瞬、シンは呼吸することすら忘れた。

 

「化け物を倒せるのは更なる化け物。コーディネイターを殲滅するのはスーパーコーディネイター。
 キラ・ヤマトはプラントが武力を持ったその時には、親友であるアスラン・ザラを含む
 全ての軍事に携わるコーディネイターを殺す定めだったのだ」
「…………そんな」

 

あまりの衝撃に、その言葉だけを絞り出すのが精一杯だった。
シンの動揺した隙を突いて、ストライクフリーダムが突進する。
降り下ろされるビームサーベルに慌ててフラッシュエッジを合わせるが、
そちらに気を取られて他への注意が疎かになる。
ストライクフリーダムの腹部の砲腔が輝き、発射体勢。
気付くのが遅れたシンのデスティニーが何とかかわそうとするが、左の脇腹を抉られ、
深紅の翼も左翼の下半分を失う。しかし、シンはそれでもまだ戦闘に集中できていなかった。

 
 

(キラさん……あんた、ステラと同じだ。コーディネイターと戦うことを強要されて、
 おまけに自分じゃ自分の酷い運命にこれっぽっちも気付かない。
 あんまりだ……酷いよ。そんなの、酷い)

 

光の翼を再度広げたデスティニーが、相対的下方に落ちていく。
それを追いつつ、ストライクフリーダムが雨のように砲撃を降らせる。
振り返ったデスティニーが構えた長大なビーム砲はストライクフリーダムのライフルに撃ち抜かれ、
爆発する寸前に切り離された。

 

(ステラを苦しめていたのは連合だった。だから、俺は連合を倒すって決めて、戦ったんだ。
 じゃあ今、キラさんを苦しめてるのは?)

 

目の前のモニターに映るのは、躍動する自由の天使。コズミック・イラ最強のMS、ストライクフリーダム。
キラが操縦していた時とは違う、生き生きとした、まるで獣がその攻撃性をあらわにしたような姿に、
シンは悲しみすら感じた。

 

(わかりました、キラさん。そのMSと、あんたの中にいる「そいつ」を殺せばあんたを守れるんですね)

 

コクピットをライフルで殴りつけられ、シンの視界が一瞬真っ暗になる。
しかしすぐに持ち直し、同じようにライフルで殴りつけようとして、ライフルを捨てた
ストライクフリーダムのビームサーベルに切り払われ、デスティニーのライフルが爆発した。

 

(だから、)

 

爆煙に乗じて後退し、右手を無くしたために抜けなくなったアロンダイトをパージ。
振り返ってアロンダイトの柄を握り、乱暴に振って伸ばす。

 
 

(キラさん、あんたを殺します。殺して、あんたを守ります)

 
 

「逃げるのか、シン・アスカ?」

 

爆煙を突き抜けて、ストライクフリーダムがビームサーベルを振り上げる。
そこへ、低く腰だめにアロンダイトを構えたデスティニーが突っ込んだ。
ストライクフリーダムが跳ねるように右足を振り上げ、アロンダイトの実剣部分を力強く踏みつける。
上からの強い衝撃に、デスティニーがアロンダイトを取り落とした。

 

「終わりだ!」

 

ユーレンが叫び、サーベルを降り下ろす。しかし、デスティニーは更に加速。
袈裟懸けに降り下ろされたビームサーベルを胴体に食い込ませながらストライクフリーダムに激突し、
ビームサーベルがデスティニーに食い込んだまま両者が離れる。

 

(ステラ、君と「同じ」人を助けたいんだ。力を貸してくれ!)

 

ストライクフリーダムがカリドゥスをチャージし、デスティニーは掌のパルマフィオキーナに
エネルギーを集束させる。ユーレンはカリドゥスを確実に命中させるために、
シンは近付かなければパルマフィオキーナを命中させられないために、両者は再び突進した。

 

「死ね、化け物!!」
「ステラ!!」

 

デスティニーの手がストライクフリーダムのコクピットに押し当てられた瞬間、両者がトリガーを引く。
光が溢れ、シンの視界は真っ白になった。

 
 
 
 
 

(ステラ、俺は守れたかな?君と「同じ」、あの人を……)
(ううん、シンは守れなかったよ)
(ステラ?……そっか、また守れなかったのか、俺は……)
(うん。でも、守れなかったのはシンのせいじゃないよ。
 シンはステラのことも守れなかったけど、ステラを救ってくれた。
 だからステラ、すっごく安心して眠れたんだよ)
(ステラ……)
(あの人も同じ。守られなかったけど、シンが救ってくれた。だから、安心して眠れたと思う)
(……うん。ありがとう……ありがとう、ステラ……)
(お礼を言うのは、ステラの方……ありがとう、シン。またね)
(ステラ?もう行っちゃうのか?)
(ううん、行っちゃうのはシンの方。でも、また会えるよ。シンとは、いつでも会えるから……)

 

ふわりと金色の髪が揺れ、今度こそ何も見えなくなった。

 
 
 
 
 

ぬくもりを感じる。
真っ暗な宇宙に星々と信号弾が輝き、帰るべき場所へ帰って行くMSの光の尾が幾筋も見える。
ふと、自分を優しく包み込むぬくもりの主が誰か気になった。

 

「……ステラ……?」
「……馬鹿」

 

ヘルメットの中いっぱいに涙を浮かべたルナマリア・ホーク。
ふと周りを見ると、そこがインパルスのコクピットだとわかった。
デスティニーはどこだろう、とぼんやりと目線を泳がせると、武装のほとんどと四肢の半分を失い、
コクピットのすぐ横を抉られ、灰銀色の装甲を焼け焦げさせたデスティニーの姿があった。
そのすぐ近くには、デスティニーほどではないが全身に傷を負い、
コクピットを撃ち抜かれたストライクフリーダムが漂っている。

 

「……ルナ……」
「そうよ。……二度も間違えないで」
「……ごめん」
「次間違えたら、インパルスで踏み潰すわよ」
「……はは……名前、呼ぶのも……命懸けだ……」

 

動けないシンの体を優しく抱いて、ルナマリアはインパルスをヘルダーリンへ向かわせる。
ヘルダーリンに戻って、プラントに帰って、怪我を直して、復興のための作業を手伝って……と、
この先やることは山積みである。けれど、その前に。

 

「……ごめん、俺、疲れたからちょっと寝るよ……」

 

優しく頷いたルナマリアに笑いかけて、目を閉じる。

 

「おやすみ……」

 

ルナマリアに、ステラに、キラに、ストライクフリーダムに、デスティニーにそう告げて、
シンは優しい眠りの世界に落ちた。

 
 

 
 
 

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