XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第10話

Last-modified: 2009-06-22 (月) 00:14:12

○前回までのあらすじ
アスラン「お前の妹の脳ををデバイスとして利用しているのさ!
      マユはお前には勿体無い女だなあ!」

 

では本編です。

 
 
 

《パトクロス》から発進した一隻の内火艇が《エル・クブレス》の港へと向かっている。
それをエスコートするように《インパルス》もどきと右肩だけ赤い《ダガーⅡ》が併走していた。

 

結局、《エル・クブレス》に入り代表者と会うことになったのは、
名指しで指名されたシンと、今回の調査隊の中で一番階級が上のイザークとなった。
他にもルナマリアとかシホとかディアッカが付いてこようとしたが、
パイロットをあまり引き抜くわけにも行かないと留守番を頼むことにした。
代わりに陸戦隊から護衛役が選抜されて、彼らには内火艇のキャビンに入ってもらっている。

 

(コロニーが動いている…何でわざわざ)
内火艇の操舵席からコロニーを見たシンは、シリンダー状の居留ユニットが
擬似重力を発生させるために回転していることに気が付く。
先程エルフ達と交戦状態になったときは停止していたはずなのに。
「誘導ビーコンを受信した。港に入るぞ」
「了解」
イザークの指示を受けて、シンは艇を港に収めていった。
外壁底面に全く船体を掠らせない、やわらかい接岸だった。

 

「意外だな」
とイザークが漏らす。
意識した言葉じゃなかったのかもしれない、思わずムッとしたシンに対して、取り繕うように言葉を繋げる。
「こうして顔をあわせることも無かったが…
 話に聞いていたイメージとは違ったからな、失礼した」
「誰から、どう聞いたんです?」
半ば答えが分かりながらも、シンはイザークに問いかける。
「アスランからだ。上官にも平気で噛み付くきかん坊。何をしでかすか分からん奴だとな
 …奴にも問題があることは、よくわかった」
「お友達なのに散々ないい様ですねえ」
どうしても、アスランの名前を出されるといい気はしない。
しかして二人の接点と言えるものもアスランだけだった。
「腕は認めるが優柔不断。その上私情を捨てようともしない。
 戦士としては兎も角、将兵としてこれほど使えん男も居ないだろう」
「本当によく見ていますね…」
「一応、同輩だからな。…何故か知らんが、奴にはお前のことを頼まれていたよ」
「ハァ?」
「奴なりにお前のことを心配しているのだろうな、シン。尤もありがた迷惑だろうがな?」
「違いないです」
二人とも苦い顔をして笑いあった。
『隊長、準備ができました。向こうからも迎えが来てます』
「わかった」キャビンに詰めていた護衛のリーダー役がイザークに伝える。
それを聞いて二人も船外に出る準備をした。

 
 

「《エル・クブレス》にようこそいらっしゃいました。イザーク・ジュール、シン・アスカ」
宇宙港の桟橋で一行を待ち構えていたのは二人だけだった。
片方は白いパイロットスーツに身を包み、もう片方はだぼついたノーマルスーツを着ている。
二人ともヘルメットの表面が金メッキされているせいで素顔は見えなかったが
背格好と声音から察するに、少年だと思えた。
「俺の事はアイン、と呼んでください。」
ノーマルスーツを着ているほうが自己紹介をする。
シンは何となく、その声音に聞き覚えがある気がした。
「イザーク・ジュールだ。早速でも話を聞かせてもらいたいものだが…」
「お気持ちは分かります。ですが先にコロニーの中を見てもらいたいのです。
 その方が話が早くなると思いますし」
「わかった、従おう…しかし、顔は見せないのが、お前達の流儀なのか?」
そういえばエルフも顔が見えないヘルメットをしていた。何か理由があるのだろうか。
「すみません、宇宙線が強いところではどうしても…ご容赦ください」
「フン、惰弱な事だ」

 

コーディネイターは先天的に宇宙線への抵抗力を与えられている。
故に逆説的に、被曝の影響について軽視される節がプラントにはあった。
では、彼らはコーディネイターでは無いのか?レイもナチュラルのクローンだったし…
単に身体が弱いだけなのかも。コーディだってピンキリだ。

 

「ついて来てください。コロニー内部は8割がた完成していますから、
 移動に不自由はしないはずです」
アインと名乗る少年に促されて、シンはイザークと共にコロニーの中へと進んだ。

 

エレベーターの中で身体が徐々に重くなっていくのを感じる。
内壁に近づいていくにつれて重力が増しているのだろう。
とはいえ、ザフトパトロールとして宇宙とコロニーをしょっちゅう行き来しているシンにとっては、
慣れた感覚であった。
しかし、内壁に降り立ったシンは扉が開けられて、目の前に広がった光景に絶句した。

 

「なんだ…これは、海か?」
イザークが呟くように漏らす。
鉄の箱を一歩外にでると、自分達の足場は小さな浮島のようで、
眼前には青く光る『水溜り』が広がっていたからだ…
水溜りは擬似重力によって内壁にへばりついている。
ご丁寧に波のように水が揺れている、
そして太陽光を取り入れるアクリルスレートの中も水で満たされているらしく、
そこから差し込む光は幻想的な色合いを見せた。

 

シンは昔家族で遊びにいった水族館のことを思い出した。
透明なトンネルが水槽の中に通されていて、まるで魚が遊ぶ海の中を歩いているような気分になる…
「お、おい、これって水が落ちてこないのか」
「何なんだ、見ているだけで溺れちまいそうだ…」
任務で地球に降りたこともあるシンやイザークと違い、
護衛役の陸戦隊の中には地球を知らないものも居るのだろう。
同じく閉鎖された空間のはずなのに、プラントのコロニーでは見られない威容に
圧倒される兵もちらほらいた。

 

「改めて自己紹介いたします。俺はマスター・アイン。
 《エル・クブレス》を任されている者です」
言いながら、アインと名乗った少年はヘルメットを脱ぐ。
閉じ込められていた金髪が流れ落ちる、コバルト色の瞳はくりくりとしていて、
シン・アスカが良く知る『戦友』とは違う顔立ちをしていたが、
「やっぱりか…レイ。いや、ラウ・ル・クルーゼのクローンなのか?」
少年の顔を見てシンは嘆息にも似た声を漏らし、想像していなかったイザークは驚きに顔が引きつる。
「レイ・ザ・バレル…隊長の生き写し…っ!貴様もか!」
パイロットスーツを着ていた、アハトと呼ばれた少年もヘルメットを脱ぐ。
コーディネイターにしては地味な顔立ちだと思えたが、鋭利な目線が印象に残る少年だった。
シンには心当たりがある顔ではなかったが、イザークにとってはそうではなかったらしい。

 

「ラスティ・マッケンジー…死者のクローンにまで何故手を出す!」
「お前は俺のオリジナルを知っているのか、イザーク・ジュール」
しかしアハトと呼ばれた少年はイザークの怒号には意を解さず、冷たい口調で話す、
まるで言葉を発することすら無駄なことだと言いたげな。
「俺は単に、有用だと思われた遺伝データを元に作られたに過ぎん。
 オリジナルの事など知らんし、知りたくもない」
「貴様あ!」
本気で殴りかかりに来たイザークを、シンは後ろから抱きつくように止める、
…流石エリートの中のエリート。本気で振り払われそうだ。シンも喧嘩にゃ自信がある方なのだが。
「ジュールさん落ちついて!彼だって個人なんですから、ラスティさんのことは気にしないで!
 アハト!アンタもそう言いたかったんだろ!?オリジナルが誰であろうと、俺は俺だって!」
「…ああ」
自分を庇うシンが意外だったのか、驚いたようにアハトは呟く。
「ジュールさんも!彼がどう作られようと彼の罪じゃないはずだ!
 罪があるとすれば……罪は…」
自分の言葉を反芻して、自分の力を失わせていくシンは、イザークに乱暴に振り払われる。

 

「貴方の想像通りだと思います、シン」
アインは地面に尻を付いたシンに手を差し伸べながら言った。
手を取ったシンはそのやわらかさに驚く…レイのクローンとは思えない、
ただ華奢なだけな手だった。
彼の手を取りシンが立ち上がったあと、アインは言葉を続ける。
「俺は…俺達は《エル・クブレス》を守るために、ギルバート・デュランダルによって
 作り出されたクローンモデルです。
 俺とアハト、島で待っているジーベンと、貴方達と会ったエルフ。
 以上四名が、今此処に住まう人間です」
「たった四人で!?それに、エルフは全部で11人いるって」
「それはあくまでも予定です。生み出され今日まで生き残ったモデルは、全部で4人です」
「貴様らの素性はわかった。だがな、俺が知りたいことはそれじゃない。
 このコロニーは何のために在るのか、それをお聞かせ願いたいものだな」
「そうですね…お答えしましょう」
イザークのいらついた声を受けて、マスター・アインは語りだす。
このコロニーに秘められた、デュランダルの真意を。

 

「《エル・クブレス》はナチュラルとコーディネイターの戦争が
 最悪の結末を向かえた場合に備えて用意された箱舟です。
 滅びた地球を捨てて、第二の故郷として、人類という種を残すための…」

 
 

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