XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第11話

Last-modified: 2009-06-24 (水) 18:32:32

○前回までのあらすじ
イライジャは萌えキャラ、異論は認めない。

 

では本編です。

 
 
 

シンとイザーク、二人の護衛役数名と《エル・クブレス》の子供二人は
場所をモーターボートに移して話を続けた。
海を模した水溜りを渡り、その先にある島にクローンモデルの一人ジーベンが待つ
居住区に移動することになった。
弱い波と潮臭い風に揺られるボートの上で、アインは話を続けた。

 

「デュランダル議長は地球圏の状況を非常に憂いていました。
 コーディネイターとナチュラルの確執は年を追う毎に凶暴な攻撃性を伴って、報復が報復を生み、
 億単位の虐殺すらにも大義名分があるようにまで、思い込むようになった…」
シンもイザークも黙って話を聞いていた。そこまでは誰もが知る事実だからだ。
「議長が性急にも思えるほどにデスティニープランの実行を急いだのは、
 たとえ悪政だとしても人類を自由にしてはこのまま互いを食い尽くすまで殺しあうのではないか、
 自分が死ぬ前に地球圏に平和を与えられるシステムを作れないかという…焦りからだったと思います」

 

「焦り、か…」
反芻するようにシンは呟く。1年前まで自分も焦っていた。
戦争の無い世界が欲しかったがために。
デュランダルも俺と同じように、焦っていたのだろうか?

 

「しかし議長は確実なカウンターとなる存在の排除に失敗しました。
 ラクス・クラインの一派は彼女の『理解者』達から支援を得て、巨大な戦力を持っていました。
 核エンジン搭載機に、スーパーコーディネイター…
 あの時点で得られうる最強の戦力を彼女は揃えていました。
 核エンジン搭載機のノウハウも、殆ど向こうに持っていかれたままでしたし…
 そして、議長は逝ってしまった」

 

「それが、どうこのコロニーに繋がるんだ」
イザークは苛立ちを隠さない声で話を促す。
「ラクス・クラインで無くとも、議長の計画を邪魔する存在は出るでしょう。
 そして彼らが議長を排除して、結局自由に殺しあう時代がまた繰り返される…」
「あまり舐めるなよ。現在の状況を知らないのだろうが、ナチュラルとの交流も進んで…」
「結局プラントの立場は、独立以前と変わらなくなるでしょうね。
 地球連合との融和策というのは、彼らの巨大な財力国力に飲まれるだけではないのですか?
 ロゴスを排除したとしても、首だけ挿げ替えて経済活動を行っていたのが彼らのやり方ですから…
 内部の毒を排除できた現在の地球は、強いですよ?
 何せコーディネイター殺しに感けている時間と労力が無駄にならないのですから。
 それにもう、モビルスーツによる優位性も消えうせています。
 しかしプラントは連合に飲み込まれることを是としないでしょう。
 プラントとナチュラルは、決して相容れない」
「そうならないように、ラクス・クラインや俺達がいる」
「…議長はそうは考えませんでした。
 地球圏が人類の生存できない状態になるシミュレーションより生まれたのが、
 この《エル・クブレス》です」
「戦争じゃなくてもいいんだもんな、
 ブレイクザワールドの影響で異常気象が多発して、食糧生産が覚束なくなっている。
 新種の疫病、ウィルスが後進国で蔓延する。
 状況を打破するためにプラントの技術を買おうとしているのが今の連合だからな。
 それに地球が滅べばコーディネイターだって生きていけない。食料も資源も、どうしても地球に
 依存しなきゃいけないから」

 

「お前達、何処で其処まで情報を…」
イザークは、アインもシンも十分に状況を理解していることに驚いた。
方や知られざるコロニーの引きこもり。方や一介のパイロットだと言うのに。
「俺は地球生まれですからね。地球の友達とか、《ダガーⅡ》を持ち込んだ企業の人とか、
 気になるから聞いちゃうんですよ」
「何も俺達だけで作っているわけではありませんから。
 ナチュラル、コーディネイターにも《エル・クブレス》の協力者は居ます。
 その目的も、一部の人間には好ましいものに映るでしょうから」
「地球の代わりに、このコロニーを作ったって言うのか?」
若しそうだとしても、《エル・クブレス》である必要は無い。
乱暴な政策だが、地球人類全てを宇宙に移民させられれば事足りるはずだ。

 

「それは正解の半分です、シン・アスカ。
 《エル・クブレス》の完成形は、地球圏を脱出し人類の新天地を探すための移民船です」

 

「移民船だと?地球を捨てて逃げ出すための船を、デュランダルは作っていたというのか!」
「それは違います、イザーク・ジュール。逃げ出すのは議長ではなく、人類という種の情報です。
 それを守り抜くことが出来るなら、何時かまた地球圏に返り咲くこともできるであろうと」
「議長…デュランダルはそんなことまで考えていたのか」
シン・アスカは呻くように言う。
真意がつかめなかったデュランダルの心を垣間見えたような気がして…
「デュランダル議長は本気で人類の未来を案じていました。
 その方策を否定されたとしても、その思いは本物でした…
 だから俺達は《エル・クブレス》を守るために存在している。
 これが貴方達への答えです」
アインは、それが当然だという風に二人に告げた。

 
 
 

『艦長。調査は滞りなくってところだ』
「うん、バレないようにできそう?」
『ガードロボットはちらほら見えるが…連中、俺達を見逃してるんじゃないか?』
「油断はしないでくれ。向こうに有利な口実を与えるわけにもいかないからね」
『アイアイサー艦長。通信切るぜ』
トライン艦長が先程まで連絡していたのは調査隊の隊長である。
彼らにはこっそり《エル・クブレス》の内部の調査を頼んだのだ。
勿論向こうに気づかれない程度に、ということで。
彼らを信用しないわけではないのだが、やはりこの手の情報は自分達の手で得たい所だった。
現時点までで得たデータは送信してもらった。
構造物自体は通常のコロニーと大差は無いが、人間が入れるブロックが少ないこと…
つまりメンテナンスも極力オートメントされていること、
シリンダーの端部に何かユニットを接続する端子があることなどが判明したが、
「あんまり普通のコロニーと変わらないよなあ…」
独り言をトラインは呟いた。

 

「艦長。まだ任務は始まったばかりですよ。これから何が出てくるか…」
「分かってます、分かってますともアビー君」
オペレイターのアビーに咎められてトラインは深くベレー帽を被りなおす仕草を取る。
確かに核エンジン搭載機なんて並の組織が持つような代物ではない。
デュランダル前議長が隠していたコロニーなのだから、何が出てきても可笑しくは無いだろう…
先ずは穏便に事を進めてもいいだろう。
そういう意味では、シン・アスカが居てくれたことは助かった。
向こうにしても彼の存在は、やはり特別に映るのだろう。

 

終戦後もザフトに残った《ミネルバ》クルーが集められた《パトクロス》に、
シン・アスカは遅れて参加した。
キラ・ヤマト、アスラン・ザラに個人的な恨みを持つ(と見なされていた)ために、
査問会が彼の復帰を遅らせたのだ。
今でもトラインは、シン・アスカの監視を命じられている。
いつクライン派に牙を剥くか分からない存在として…
(そんなことを考えるのは、頭でっかちか本当の裏切り者だけだよなあ)
少なくとも《パトクロス》では、シン・アスカは模範的な勤務をしている。
後輩の面倒を良く見て、自分が真っ先に前にでて、味方も民間人も守ろうとしているのだがら。
現状、彼以上に『ザフトのために』戦っているパイロットなんて、数えるほうが難しいだろう。

 

そんな彼が、デュランダルの遺産とも呼べる物に接触することに不安が無いわけでも無かったが、
相手も別にプラントに害を為そうという存在ではなさそうだ。
情報を得られるだけ得て、後は評議会の判断を仰ぐ…
ザフト将兵たるアーサー・トラインに出来ることは、其処までだった。

 

『ちょっとアンタ!大人しくしてなさいよ!』
突然ブリッジにルナマリアのよく通る声が響く。オープンチャンネルを使ったのだろうか。
『少しは立場をわきまえたらどうなの!監視してるこっちの身にもなりなさいよ!』
『イヤだねー。シン・アスカは兎も角、お前を信用したわけじゃないんだからな』
ブリッジの外では、まるでドッグファイトに興じるような軌道を描く《インパルス》もどきと
ルナマリアの《ダガーⅡ》の姿が見える。
エルフと名乗った少女が乗る《インパルス》もどきはシンとイザークをエスコートした後も
宙域に残っていた。
彼らに妙な真似をしたなら、只じゃ置かないという意思表示なのだろう。
対するルナマリアも、エルフの監視のために外に出ていた。
『にしてもさ?シン・アスカの恋人がその程度の腕でいいのかな?』
『べっ、別に付き合ってるわけじゃ…って!じゃなくて!
 アンタこそ機体の持ち腐れじゃない、このヘタクソ!』
『ふん、機体のせいにするのは三流のやることだってアインは言ってたぞ?』
『こんのー!言わせておけば!』
オープンチャンネルでだだ漏れる会話の内容に、ブリッジクルー一同は脱力してしまった。
「ガキの喧嘩かよ…ルナもいい年してさ」
「それに、付き合ってるわけじゃないですって、どの口で言えるのかしら」
ま、平和で何より…とトラインが心の中でオチをつけようとした時、警報が響き渡った。

 

『報告!当宙域に急速接近する艦影アリ!数4!』
耳朶を打ったのは偵察用装備を背負った《ザク》で監視をしていたシホ・ハーネンフースの声だった。

 

「な、なんだってえ!」
「プローフよりの映像出します!」
派手に驚くトラインを無視して、アビーの手によりディスプレイに映される画像には、
確かに4隻の大型船が映っていた、しかもあの特徴的な艦影は…
『ナスカ級2、ドレイク級2…モビルスーツ、モビルアーマーも展開しています!』
シホの報告により、相手はすでにやる気満々であることもわかった。もたもたしては、居られない。
「総員戦闘用意!コロニーの中にも連絡とって!早くシンを呼び戻さないと…」
『それには及ばんさ、艦長殿?』
エルフから通信が入る。彼女は早速《インパルス》もどきを艦隊が来ている方向に差し向ける。
『奴らの狙いは《エル・クブレス》だろ。だったら私達が撃退してやる…
 海賊ごときに、遅れは取らない』
「待つんだ!単騎じゃ流石に…って、もう行っちゃったか。早いなあ」
『艦長!感心してる場合じゃ!』
「分かってますとも!先ずはシンと調査隊を拾わないと。艦をコロニーに寄せてくれ…」
襲撃を前に、トラインはもう一度ベレーを被り直した。
以前遭遇した賊といい、連中はこのコロニーを知っているのだろうか…

 
 

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