XXXスレ360 氏_SEED DESTINY AFTER 龍宮の守人編_第2話

Last-modified: 2009-05-30 (土) 01:04:32

シン・アスカ達《パトクロス》のクルーが警備任務を完了して、
コロニー《アーモリー・ワン》に戻ってきてから30分後のことである。

 

「ああもう、皆上陸してるのに何で私たちだけこんなこと…」
「喋ってないで手動かそうぜ、ルナ」

 

シンとルナマリアの二人は、誰も居ない食堂で出撃報告書を書いていた。
ザフトでは要求されない性質の書類なのだが、詳細な報告を上げないとお金にならないのが
地球連合の体質だった。
「きっとこれもナチュラルの罠なのよ!こうやって優秀なパイロットをじわじわ疲弊させて」
「自分で言ってて恥ずかしくない?…よし、終わった」
ルナマリアよりも先に報告書を仕上げたシンは、書類をしまって席を立つ。
「待ってくれたっていいじゃないのよう、手伝ってよ」
「ごめんルナ、人に会う約束があるんだ。時間、間に合うかな」
腕時計を気にするシンを恨めしそうに見たルナマリアは、
「何、デート?浮気?」
などと見もふたも無いことを言うのだが、
「違うよ、ヤマトさんに用事があるんだ」
「ふーん、誰それ…

 

 って、まさかキラ・ヤマトぉ!?」

 
 

結局ルナマリアは義務を後回しにしてシンについていくことにした。
「しっかし驚きねえ、シンがあのキラ・ヤマトと仲良しになっているなんて」
「別に、仕事上の付き合いってだけだよ」
「ふうん…あの人って、ザフト辞めた後どうしたんだっけ」
「《セプテンベル・ツー》のソフトウェア会社に勤めてるよ」
「…ゴメン、サラリーマンやってるあの人の姿って想像できない」
雑談をしながら《アーモリー・ワン》のシャトル船着場まで並んで歩くシンとルナ、
私服に着替えた二人はカップルに見えなくも無かった。

 

《セプテンベル》行きのシャトルに乗って、目的のコロニーに着いた二人は
レンタカーを借りて、キラ・ヤマトが勤めているという会社のビルに向かった。
「そういえばさ、シン。あの人がザフト辞めた理由ってやっぱり、
 《フリーダム》を廃棄処分にされて拗ねたからなのかな」
「そんなわけ無いだろ…どこから言えばいいのかな」
運転しながらシン・アスカは、自分が知る限りの彼の話を始めた。

 
 
 

ラクス・クラインが議長の座に着いたと同時に、彼女を守る盾であり、剣であった
キラ・ヤマトも白服を着るザフトの重鎮になった。
しかし、自分達の信奉者ばかりだった歌姫の騎士団の時と違い、
ザフト将官として責務を果たすには、彼には経験も才覚も足りなかった。
内情も何も知らないザフトで指導者クラスになるというのも無茶な話だったし、
パイロットとしては最高の能力を持つ男も、ただそれだけという事だった。

 

「しかも、クライン議長就任直後って、一番テロが激しかった頃だろ?」
「うん…私もずっと掃討作戦とか護衛で、モビルスーツに乗りっぱなしだったし」
「ヤマトさんは誰よりも戦ったんだと思う。
 だけど四六時中戦闘しっぱなしで、クライン議長も暗殺されかけて…
 もしかしたらヤマトさんにとっては、俺達を相手に戦ったときよりも辛かったかもしれない」

 

不完全な軍組織、絶えないテロ、神経をすり減らしていったキラ・ヤマトに引退を勧めたのは
最愛の人ラクス・クラインとも、彼女の腹心アンドリュー・バルトフェルドとも聞いた。
優しすぎる彼には、内外の敵と戦い続けるということはできなかったのだ。

 

「それで、議員になってたジュールさんに責任を引き継いでもらう形で軍を退いた…
 って本人からは聞いた」
「そうなんだ…ジュールさんだったらきっと、『このキョシヌケがあ!』とか怒ってそうだね」
「違いない」
小さく、寂しそうに二人は笑った。

 

シンが車を止めたのは6階建てのビルの駐車場だった。
早速中に入り、受付係の女性に取り次いでもらう。
「シン・アスカです。キラ・ヤマト特別顧問と面会の約束をしていた者ですが」
「少々お待ちください」
機械的に対応した彼女は、アポイントを確認したあと内線電話をかける。
「受付です。ヤマト顧問はいらっしゃいますか?
 …はい、はい、分かりました、ではそのように伝えます」
電話を置いて受付嬢は
「死んだように眠っているそうなので、叩き起こして下さい、との事でした」
と機械的に伝えた。
「わかった、有難う」
そしてシンとルナマリアは開発室に向かっていった。

 

「うわ、きたな…」
「ソフトウェア関連なんてどこもこんな感じだよ。ってトライン艦長が言ってた」
オフィス全部がゴミ箱のように散らかっている開発室はオシャレ女子を自認する
ルナマリアにはキツかったかも知れない。シンの先導で二人は慎重に歩を進めて、
茶色の毛むくじゃらが机に突っ伏して寝ているところに辿り着いた。

 

「…誰コレ?」
「おーい、ヤマトさん起きてくれー」
ルナマリアの疑問には構わず、シンは茶色毛虫の身体を揺さぶって、起こした。
「何だよもう…って、アスカ君?」
振り向いた彼は寝ぼけ眼でこちらを見る。
口ひげも顎ひげも伸びるに任せて放置したような顔は、どう見たって。

 

「キラ・ヤマトさんって…嘘よね?」

 

二度の大戦の終局に導いた伝説のパイロットには見えなかった
「とりあえず…風呂に入ろう、な?」

 
 

シンとルナと、今しがたシャワーを浴びてきたキラの三人が社員食堂のテーブルにつく。
小奇麗になった彼を見れば、成る程茶色の髪の美少年の面影もあるように…

 

…見えるような…見えないような…
とりあえず、ヒゲもどうにかして欲しいとルナマリアは思った。

 

「忙しいところすみませんでした。また修羅場ってました?」
「いや…今日終わった所だったから、もう帰宅する予定だったし、 二 週 間 ぶ り に 」
どうやらキラはザフトもビックリのハードワークを強いられているようだった。
「とりあえず借りてた『試供品』の運用データです」
シンは言いながらポケットから取り出したデータディスクをキラに渡す。
「中は後で確かめさせてもらうよ。何時も協力してくれて、僕も助かるよ」
「いいんですよヤマトさん。持ちつ持たれつじゃないですか」
「ねえ…それ何のデータ?」
訝しげに聞くルナマリアに対して、キラは素直に答えた。

 

「アスカ君に貸しているモビルスーツ用OSの運用データ」

 

「バッ、ヤマトさん空気読めよ!」
「ちょっと!軽く機密漏洩じゃない!」
ルナマリアが大げさにリアクションする。嘗ての 英雄とはいえキラ・ヤマトはもう只の民間人だ。
そんな人間に軽々しく渡していいものでは、勿論無い。
「いいじゃんかよ、ヤマトさんの作ったOSだぜ?
 もう数ヶ月もすればザフト全軍に採用されるに決まってる。ちょっと先に使うくらい…」
「駄目にきまってるでしょー!」
「ハハ…元気な人ですね」
「ハハじゃないですよヤマトさんも!もう二人してなにしやがってるんですかー!」
社員食堂にルナマリアの怒号が空しく響いた。

 

モビルスーツパイロットとしての技量ばかりが注目されがちなキラ・ヤマトであったが、
彼がもう一つ、超人的な才能を発揮する分野がある。ソフトウェア開発である。
4年前に初めてモビルスーツ《ストライク》に乗った時、彼は不完全だったナチュラル製OSを
戦闘中に書き換え、ザフトのエリートパイロットとも互角以上に戦えるものを
即興で作ったという伝説が残されている。
伝説でもなんでもなく、事実だから困る。
それ以降も、戦闘中にビームの屈折率を計算してOSを補正する。
オーブでナチュラル用モビルスーツOSの基礎開発など、やりたい放題であった。
《フリーダム》に乗るようになってからは、プログラミング分野での武勇伝は聞かなくなったが…
「《ダガーⅡ》が支給されたときにさ?その話を思い出してヤマトさんに相談してみたんだ。
 ヤマトさんだったら連合系のモビルスーツにも詳しいだろうし、って」
「ふーん…ザフトじゃなかったら普通に二人ともブタ箱に詰められる所だけど…」
「それだけじゃないんだぜ?ヤマトさんは探査プローフのAIとか、
 お掃除ロボットの制御ソフトとか…色々作ってるんだ」
まるで自分の手柄のように話すシンの姿に、キラは気恥ずかしそうにはにかんだ。

 

キラも帰宅するということで、3人一緒に外に出ることになった。
宇宙港まではキラを乗せていくことになる。
「まあ…事を荒立ててもいいこと無いですから?私の心のうちに留めて置きますよ」
「そうしてくれると助かるよ、ルナ」
「一つ貸しだからね」
ハァ、とため息をつくシン・アスカ。
またこれで俺の給料の一部はルナの服やら食事に変わってしまうのだなあ…と思いながら。

 

シャトル港に着いたあと、3人は二手に分かれることになる。
シンとルナは《アーモリー・ワン》に。
キラはラクスが待つ《アプリリウス・ワン》に。
「忙しいところ、来てくれて助かったよ、アスカ君」
「いえ…あの、ヤマトさん」
「なんだい?」
「花は…植えられていますか」
キラがシンに、『花をまた植えるよ』と答えた日も、丁度こんな夕日が眩しい時だった。
「…わからない。僕は只逃げているだけかも知れない、
 だけど、今はこうして人の役に立つ事をしたいんだ」
「わかりました…俺は戦い続けてみます。花を散らそうとする奴から、守ってみせます。今度こそ」
「ありがとう、シン…」
そう言い残して、キラはシャトルに乗り込んでいった。

 

「何か…私の知らないところで、通じあっていたんだね、シン」
ルナマリアにそう言われても困るシンだった。何せ…
「どうかな、アスランほどじゃないけど、ヤマトさんの言うこと分からなくなる時あるから」
「アスランの友達だから?」
「かもな」
全く忌々しいことだと思いながら、二人は笑った。

 
 

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