Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第01話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 08:40:04

CE73、二年前のヤキン・ドゥーエの決戦から世界はようやく活気を取り戻しつつあった。
しかし、そんな中オーブ連合首長国代表カガリ=ユラ=アスハが訪れるプラントのコロニー"アーモリー・ワン"にて新型MSの強奪事件が起こってしまう。
その混乱の中、アレックスという偽名でカガリの護衛についていた前大戦の英雄の一人アスラン=ザラも、現地にて進水式を行う予定であったザフトの戦艦"ミネルバ"の戦力と共にこれを阻止しようと試みる。しかし、相手の素早い撤収に敢え無 くMSの奪還は失敗に終わってしまう。
奪取された三機のMSを追う為に外の宙域にミネルバと共に出るが、そこで意外な拾い物をすることになる。

 

「こんな所に戦闘機?何故…」

 

視界の先にはトリコロールカラーの派手な塗装が施された未知なる戦闘機らしき物 体がカメラに捉えられていた。そんな宇宙を漂う謎の戦闘機を見て、ブリッジでカガリに付き添うアスランは不思議に思っていた。

 

「見たことのないタイプね。あれも議長の造らせた新型で?」

 

ザフトの軍帽をかぶった金髪のショートヘアの女性が顔を少し上に向けて長い黒髪の男性に尋ねる。

 

「まさか…あんな物を造らせた覚えはないよ、タリア」
「デュランダル議長、それは本当か?ザフトの物でないのなら、あれは一体何なのだ?」

 

デュランダルの側に居たカガリは、少し疑念のこもった声で問う。

 

「さぁ…私には何とも…。あぁ、連合の新型という線がありますね」
「本当に知らないんだな?」
「勿論です、姫。今の時代MAは流行りませんからね。あんな物を造るなど、MAの製作技術が盛んであった連合以外に考えられません」
「そうか、だとしたら……」

 

カガリは謎の戦闘機を見つめたまま物思いに耽る。
その横顔を見てデュランダルが口を開く。

 

「もし、姫がお気になさるようでしたら回収させますが…?」
「そんな時間があるのか?こんな所で時間をかけて、奪取されたMSを見失ったらどうする?」

 

カガリの懸念にデュランダルは少し考え込む。そして、タリアの方に顔を向けて訊ねる。

 

「そうですね…、タリア艦長出来るか?」
「索敵班に追跡をやらせております。作戦時間に多少の誤差が生じますが、可能です」
「姫…?」
「わかった。頼む、やってくれ」

 

何故か分からないがカガリは謎の戦闘機が気になった。
それが、今後の世界の運命を少しづつ動かしていく事になろうとは、この時点では誰も予想だにしなかった……

 
 

ミネルバのとある個人部屋。
わずかな光が灯る暗い部屋で、少年シン=アスカは自分のベッドに横たわり、本人にはとても似つかわしくないピンク色の携帯電話を握り締めていた。それを見つめる彼の瞳は悲しみに満ちている。
前大戦時、彼はオーブに住んでいた。
戦時下にあっても中立を標榜するオーブで両親と妹と幸せな生活を送っていたが、ある日その全てを失うことになる。
激しくなる連合・ザフトの戦いは拡大を続け、ついには中立国であるオーブまでもがその炎に焼かれることになってしまったのだ。
オーブの本土でも繰り広げられる戦闘。そして、広がっていく炎の中では一般人だろうが何だろうが関係なかった。皆、生きたいが為に必死に逃げた。

 

その避難の中、彼が妹の落とした携帯電話を拾いに行ったほんの一瞬の出来事である。流れ弾による爆風が彼を襲い、その衝撃で彼は吹き飛ばされた。
体中が痛かったが、何とか立ち上がった彼は家族の無事を確かめるため、先ほどの場所へ向かう。

 

しかし、そこで彼が見たものは死臭たちこめる凄惨な光景と……

 

「シン、起きろ。出撃命令が出ている。」

 

ブロンドのやや長めの髪の美しい顔立ちをした少年が部屋へ入ってくる。シンの同僚であり、ルームメイトでもあるレイ=ザ=バレルである。

 

「…もう敵と接触したのか?」

 

シンは少し体を起こしてレイに訊ねる。

 

「違う、正体不明機の確保だ」
「正体不明機の確保?奪われたMSに追い着いたんじゃないのか?」

 

ベッドから立ち上がってシンは怪訝そうにレイに再び問う。

 

「正体不明機だ」

 

そう言うとレイは部屋を出る。
それに続くように赤服を着ながらシンも部屋を出る。

 

「なんだってそんなことを?随分余裕なんだな?」

 

釈然としない状況にシンは不思議に思う。そんな事している暇があれば、さっさと奪われたMSを取り返した方が建設的だと思った。

 

そんなシンの心境を察したのか、レイが応える。

 

「これはデュランダル議長の意向ではない。オーブのカガリ=ユラ=アスハ代表によるものだ」
「はぁ?なんであいつがそんな事を!?」
「シン、口を慎め。お前の気持ちも解らんでもないが、俺たちはザフトの軍人だ。命令には従わなければならない」
「そ、それはわかってるけど…」
「なら、やってもらうぞ」

 

シンはカガリの事が許せなかった。
あの時、何故オーブで戦闘を行ったのか、どうして自分の家族が巻き込まれなければならなかったのか……オーブを焼いたウズミ前代表の娘がのうのうと現代表として自分の目の前に現れたことがその気持ちに拍車をかける。

 

(なんで俺があんな奴の言うこと聞かなきゃなんないんだ…!)

 

不満を感じつつもシンはザフトの新型MSインパルスに乗り込み、正体不明の戦闘機の回収に向かう。

 

「それにしてもなんだってこんな所に戦闘機が…?それに正体不明って…」

 

不満を誤魔化す様にシンは呟く。

 

「いや、こんな所で時間を喰う訳にはいかないな、さっさと済ませよう」

 

そう言い、回収のためにインパルスで戦闘機に接触する。
しかしその時、シンを不思議な感覚が襲う。

 

「……!な、何だ!?」

 

瞬間何かが自分の体を駆け巡る気持ち悪さを感じた。しかし、それはすぐに消え、シンは呆気にとられる。

 

「い、今のは…一体…?」
『シン、どうしたの?大丈夫?すごい汗かいてるみたいだけど』

 

通信回線からミネルバのCIC担当のメイリン=ホークが心配そうに聞いてくる。
インパルスのコックピットの様子をモニターしていた彼女がシンの異変に気付き、心配して通信回線を開いたのだ。

 

「い、いや、何でもない…」
『そう…なるべく早くしてね。時間ぎりぎりだから』
「了解、直ちに帰還する」

 

通信を終えた後、シンは謎の戦闘機を伴ってミネルバに向かう。

 

(さっきの感覚…ただの幻覚だったのか…?)

 

気味の悪さを感じ、謎の戦闘機を見つめるシン。それは、シンと謎の戦闘機の男とのファーストコンタクトだった。
シンは取り敢えずミネルバへと着艦する。

 

「よーし、こっちだ!…そう、そこ!ゆっくり降ろしてくれ!」

 

ミネルバのデッキに整備士ヨウランの声が響く。
シンはインパルスで丁寧に謎の戦闘機を降ろす。

 

「おし、OKだ!」

 

シンは作業を終え、インパルスから降りた。

 

「おつかれ、シン。敵と接触するまでもう少しあるみたいだから部屋で休んでなさいよ」
そう言って一人の少女がシンにタオルを渡す。赤毛のショートカットに飛び出した"アホ毛"が特徴的な髪型。丈の短いスカートを履きこなし、メリハリのある体型がスタイルの良さを覗わせる。
レイと同じく同僚のルナマリア=ホークである。彼女は先ほどのCIC担当のメイリンの姉である。

 

「別に、ただ戦闘機を回収しただけだ、疲れてなんかない。俺はここで待機してるよ」

 

気遣うルナマリアを余所に、シンは淡白に返事をする。
それが気に入らなかったのか、ルナマリアは眉を吊り上げて表情を強張らせる。

 

「あっそ、折角メイリンが気に掛けてたから心配してやったのにさ?それは失礼しました。それじゃ、好きにすれば!」

 

シンの素っ気ない態度にルナマリアは少しふてくされた様子で離れていった。
しかし、シンはそんなルナマリアを気にも止めずじっと謎の戦闘機を見つめる。

 

「おい、これどーやって開けるんだ?」
「この辺にスイッチかなんかないのか?」
「お…?これそーじゃねぇのか?」

 

早速調査に取り掛かったメカニック達が謎の戦闘機を弄る。
初めて見る特異なMAに苦戦していたが、やがて整備士の一人がそれらしいボタンを見つけて押す。そしてゆっくりとハッチが開いていく。

 

「ん……?パイロットが乗ってるぞ?」
「見たことのないパイロットスーツだが…おい、お前は誰だ?所属と名前言えるか?」

 

シンの見つめる先でメカニック達が何事か騒いでいるのが見えた。
その様子を見て、シンは戦闘機に近づいて行く。先ほどの感覚の正体を確かめたかったのだ。

 

「俺にもちょっと見せてくれ」
「お、おいシン!」

 

シンは整備士達を押しのけ、コックピットの中を覗き込む。

 

そこには白地に青のラインの入ったパイロットスーツに身を包んだ少年が呆然とした様子で座っていた。
年は自分と同じか少し上だろう。癖のある青髪になんとなく中性的な顔立ちをしている。

 

「あんた、なんであんなとこにいたんだ?」

 

シンはその少年に向かって質問を一つ投げかけてみる。しかし、反応がない。
少年は焦点の定まらない瞳でただ一点を見つめていた。彼の脇にはバイザーの割れたヘルメットが転がっていた。