Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第13話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:31:16

「フリーダム!?キラ……なのか……?」

 

フリーダムを確認したアスランは驚愕する。カガリを連れ去って行方不明の筈のキラが何故か
戦場にいるのだ。その後方から近づいてくる戦艦アークエンジェルを見て更に驚く。

 

「アークエンジェルまで…!どうなっている!?」

 

混乱するアスランは状況を何とか把握しようと試みる。しかし、結果を出すのには判断材料
が少なすぎる為、余計に混乱する。
そして、その混乱するアスランから離れた場所でカオスと交戦するシンは、その状況に込み
上げてくる感情を抑えられずにいた。

 

「あ……アイツは……アイツは……!」

 

シンの脳裏に二年前のオノゴロ島での悲劇が映し出される。
あの時、流れ弾がシンの家族を奪った時、目に飛び込んできたのはビームを乱射する
フリーダムとそれを弾くフォビドゥンの姿であった。

 

「よくも抜け抜けと俺の前に出て来れたな……!」
『ん…?テメエ、何処行くんだよ!』

 

その場で戦っていたカオスを無視して、フリーダムへとインパルスを向ける。

 

「お前に殺された父さんや母さん、マユの仇だ!俺がこの手で落としてやる……!」
『待てっつってんだろうがこの野郎!』

 

スティングの言葉を無視してインパルスが飛んでいく。
レバーを握る手にも力が入る。この時、シンの心は復讐に満たされていた。

 
 

タンホイザーを無力化されたミネルバは大騒ぎになっていた。
チャージ中の爆発でタンホイザーの周りの被害が大きくなっていた。

 

「負傷者の手当てが先だぁー!動ける奴は手を貸せ!」
「火の出ているブロックは隔壁を下ろせ!他に火をやるなよ!」
「くそっ!いきなり何だってんだ!?消化剤、まだか!」

 

クルー達は必死になって被害を食い止めようとしている。
そして、ブリッジでは更なる情報が入ってくる。

 

「よ、四時の方向に新たな機影です!これは…戦艦クラスです!」
「何ですって!?」
「識別…そ、そんな……アーク…エンジェル……!?」

 

索敵のバートからの報告にブリッジがざわめく。

 

「あのフリーダムと言い、アークエンジェルと言いどうしてこんな接近されるまで気付かなかっ
たの!?」
「そ、それが…強力なジャミングがかかっていたみたいで……ニュートロンジャマーの濃度
が……」
「目の前の敵に集中しすぎたわね…こんなのいつもなら気付く事なのに……!」

 

不注意が招いた思わぬ損害にタリアは唇を噛み締める。これまでどんな戦闘も乗り越えて
きたと言う自信が、今回に限っては驕りという形で姿を見せたのだ。
この事にタリアは怒りを露わにした。

 

「し、しかし、あんな物二年前の骨董品ですよ!我々の最新鋭の兵器なら何でもないです
よ!」

 

後ろからアーサーが軽口を叩く。そんな生温い相手ではない事を分かっているタリアに、
アーサーの言葉は癇に障った。

 

「冗談じゃないわよ!そんな目で見てたらあっという間に沈められるわよ!」

 

普段は余り見せないタリアあの凄まじい剣幕に、アーサーは少したじろぐ。

 

「艦長、アークエンジェルより新たなMSが発進されました!」
「!?」
「これは…ピンク色ですがストライクです!」

 

アークエンジェルより出撃したストライクはピンク色の派手な見た目と、その右肩にはオーブ
国家元首の証である獅子のエンブレムが刻印されていた。
ピンクのストライク……ストライク・ルージュにはカガリ=ユラ=アスハ本人が乗っていた。

 

オーブの空母タケミカヅチのブリッジでそれを確認したユウナは何一つ変わらない表情で
見つめていた。

 

(やっぱり来たんだね、カガリ…さぁ、今の君にどの程度の事が出来るのか見せて貰うよ)

 

ユウナがカガリに期待の目を向けた時、ルージュから全周波通信による呼びかけが聞こえ
てきた。

 
 

『オーブ国家元首、カガリ=ユラ=アスハの名に於いて勧告する!オーブ軍は直ちに
戦闘行為を停止しろ!この戦闘はオーブの理念より外れた行為だ!』

 

この声明に戦場は騒然とした雰囲気が包み込む。特にオーブの部隊はこの声明に混乱した。

 

『我々オーブは中立の為の三つの理念がある!お前達はその理念を違えているんだぞ!
オーブに対する裏切りじゃないか!』

 

タケミカヅチのブリッジでそれを聞いていたユウナは不愉快な顔をする。
理想だけを掲げた言葉でこの場を収めようとしているカガリに怒りを露わにしているのだ。

 

『これはどういうことですかな、ユウナ司令?』

 

事態の不透明さに疑問を感じたネオが通信で語りかけてくる。

 

「どういうことも何も、我々にもさっぱりですよ。ですがあなた方を裏切ったりはしませんので
ご心配なく……」

 

(がっかりだよ、カガリ。今更この程度の茶番で何とかできると思っているのなら、君は何も
成長していない証拠じゃないか?せっかくオーブから出て世界を周っていると言うのに……)

 

「おい、ミサイルをあの所属不明の一団に撃ち込め」

 

ユウナの発言にブリッジが騒然とする。

 

「う、討つのでありますか!?」
「そうだよ?それ以外に何があると言うんだい?」
「し、しかし、あれは間違いなくカガリ様のストライク・ルージュです!先程の声もカガリ様の
ものに似ていますし……何よりあの肩のエンブレムがそれを証明しています!」
「馬鹿を言っちゃいけないよ、君?何処の世界に国家元首自らがMSに乗って出てくる国が
あるんだい?あのMSだってよく出来た模造品かも知れないし、声だって機械が代わりに
しゃべっているだけなのかも知れないじゃないか。確たる証拠もないのに信じるわけには
いかないよ。撃ちたまえ」
「その通りですが、攻撃を加えると言うのは……。せめて真偽の確認が取れるまでは……」
「君、あのMSが見えているかい?」

 

中々命令に従おうとしない艦長に、業を煮やしたユウナはフリーダムを指差す。

 

「あれは"ヤキンのフリーダム"だ。二年前のあれの活躍を君も知っているだろう?あれはね、
核って言うとんでもない代物を動力にして動いているんだ。その気になれば僕らの戦力ぐら
い簡単に全滅させる事が出来る力を持っている。ユニウス条約を堂々と無視する連中のする
事だ、そんなのがすぐそこに居るんだよ。先手を打たれたら僕らもただじゃすまないかもしれ
ないよ?それでもいいのかい?」
「そ…それは……」
「あんな脅迫に屈するわけにもいくまい。分かったら、さっさと全軍に攻撃命令を出したまえ。
今ならミネルバの戦力を気にせずに戦える」
「……分かりました」

 

観念したように艦長は攻撃命令を出す。
無数のミサイルがカガリのルージュに向かって襲い掛かる。そしてムラサメの部隊も動き
出し、それと連動するようにネオが命令を下したウインダム部隊も同じ方向に向かった。

 

「なっ!?」

 

突如襲い来るミサイルの雨にカガリは硬直してしまった。まさかオーブが自分に向けて攻撃
してくるとは思わなかったのだ。

 

(君は甘すぎるよ、カガリ……色んな意味で…ね……)

 

MS越しでも伝わってくるカガリの動揺にユウナは心の中で呟く。

 

「カガリ!」

 

動かないルージュの前にキラのフリーダムが躍り出る。
そして、腰のクスィアフィス・レールガン、肩のバラエーナ、携行武器のビームライフルを全て
前面に構え、ミサイル群をロックオンする。
フリーダム必殺のフルバーストアタックが火を噴いた。その攻撃は全てのミサイルを叩き落す。

 

「何てMSだ……あれじゃ、戦略級じゃないか……!」

 

ミネルバへ戻っているカミーユはその凄まじいフリーダムの火力に目を見張る。

 

「ど、どういうことなんだ、これは……」
『カガリ、戻って!このままここに居たんじゃ君が危険だ!』

 

いまだオーブが自分に仕掛けてきた事に信じられない、といった心境のカガリを、キラが
アークエンジェルに戻す。
カガリがアークエンジェルに帰還した後、続けて襲い来るウインダムやムラサメを、キラは
武器やバックパックを破壊するだけで次々に無力化させていく。

 
 

「あのMS、敵の戦闘能力だけを間引こうってのか!?こっちは戦争をやってるってのに
子供の遊びをするつもりかよ!」

 

ようやくミネルバの近くまで戻ったカミーユは、タンホイザーに消化剤を吹きつけながらもその
様子を見ていた。まるでシューティングゲームを楽しむかのようなフリーダムの行為にカミーユ
は憤りを示す。
そのすぐ横をインパルスがフリーダムに向かって駆け抜けていく。
さらに後ろからカオスがそれを追うようにミネルバを無視して通過していく。

 

「シン!カオスも!?あれに仕掛けるのか!?」
『カミーユ!タンホイザーは鎮火した!シンに加勢するぞ!』

 

ハイネが接触回線でカミーユに話しかける。

 

「了解!アスランは!?」
『アスランはアイツに因縁がある!ほっとけ!』
「えぇっ!?」
『レイとルナマリアは引き続きミネルバの護衛だ!』
『『了解!』』

 

急を要する為、吐き捨てるようにそう言ったハイネはグフをフリーダムの方向へ向ける。
カミーユもそれに続く。

 

フリーダムはウインダムやムラサメを何もさせない内に次々といなして行く。
その手の付けられない動きに他のMS達は浮き足立つ。

 

「あなた方は、カガリの声が聞こえなかったんですか!?
オーブを戦争に介入させるなんて……」

 

憤るキラがウインダム狙ったその瞬間、後方からのアラームが警告する。
キラはフリーダムを上昇させ、後方からの攻撃をかわした。

 

「避けたな……!当たって落ちろよ!」
『テメェ!俺の事無視すんじゃねーよ!』

 

キラがビームの飛んできた方向に目をやると、インパルスとカオスがこちらへ向かって来て
いるのが見えた。
スティングは自分の相手をしないシンに憤り、インパルスに攻撃する。しかし、インパルスは
相手にしてられないとばかりに、あっさりその攻撃をかわす。
すぐ目の前に迫ったフリーダムを確認したシンは、インパルスにライフルを捨てさせ、
ビームサーベルを構えさせた。

 

「おぉちろおおぉぉぉー!」

 

獣のような本能剥き出しの叫びを上げ、シンはフリーダムに切りかかった。しかし、その
攻撃もフリーダムはあっさりとかわし、ビームライフルでインパルスの腕を破壊した。

 

「こいつぅ!」

 

尚もチェーンガンでフリーダムを撃つが、それも全く無意味な事だった。
フリーダムはついでといわんばかりにカオスのバーニアを破壊して飛び去っていく。
カオスはそのまま海へと落ち、インパルスはフリーダムを追撃して行った。

 

「くそっ、何だあいつはよ!……飛べなくなっちまったか…
…アウルでも呼んで運ばせるか……」

 

戦闘の継続が不可能だと判断したスティングは、味方の救助がやって来るのを待つ事に
した。

 

「まだやるつもりなのか!?」

 

後方から付いて来るインパルスにキラは半ば呆れる。このまま仕掛けてくるようなら徹底的に
やるしかない、とキラは決心した。
インパルスはシールドを前面に構え、体当たりしようとしていた。

 

「相打ちでもお前は俺が落とす!」

 

シンがスロットルを最大にして加速を掛けた時、フリーダムの横から新手の攻撃が飛んで
くる。これもフリーダムは当たり前のようにかわしたが、それが誰の仕業であるのかをシン
は分かっていた。

 

「ハイネ!ジャマをするな!」
『何言ってんだ、シン!お前じゃ奴には勝てない!冷静になれよ!』
「勝てなくてもいい!アイツを落とせるなら……!」 

 

完全に頭に血が上っているシンにハイネの言葉は届かなかった。
何とかシンを止めようと四連重突撃銃でフリーダムを牽制していると、フリーダムの矛先は
ついにハイネの方へ向けられた。

 

「あなたも邪魔をするのなら!」

 

フリーダムの正確な射撃がグフの右腕、右足を破壊する。

 

「な、何ぃー!?」

 

バランスの崩されたグフはそのまま下へと落下していく。
そこへ容赦なくフリーダムがライフルの照準をつけた時だった。再びフリーダムを別方向から
のビームが襲った。
今度の攻撃は射撃の時の一瞬の硬直を狙われたらしく、キラはそれをシールドで何とか防ぐ。
ハイネのグフはそのまま岩場に叩きつけられてしまった。

 

「まだ新手が居るの!?」

 
 

ビームが飛んできた方向に目をやると、ムラサメそっくりなフォルムのMSが見えた。
しかし、色がトリコロールカラーで纏められている上、細部の形状が違うので別物であると
いう認識は出来た。
Ζガンダムである。

 

「そこのMS!お前は一体何がしたいんだ!?」

 

遊んでいるようなフリーダムの動きに怒りを露わにしたカミーユはウェイブライダーで接近を
試みる。それに対してキラは素早くノズル部分に照準を合わせ、迎撃する。
フリーダムの戦い方を見ていたカミーユはそれを直感で察知し、砲撃をすり抜けてフリーダム
の近くまで接近する。
そして変形を解いて後ろから組み付いた…かに見えたが、キラの超人的な反応速度が
それを許さず、素早い操作で反転しようとした所にΖガンダムが横から組み付くという形に
なった。

 

「何てことしてくれてんだ、あの人は!?これじゃ手が出せないじゃないか!」

 

近くで機を窺っていたシンは不平を口にする。

 

『貴様、戦場を混乱させておいて何を企んでいる!?』
「何をって……!?」

 

接触回線からカミーユの声が聞こえてくる。これならわざわざ周波数を合わせる必要は無い。

 

「あなた達がオーブを討とうとしているから、それを止めたいだけだ!」
『なら何故MSで出てきた!?そんな物振り回してるからオーブに誤解されるんじゃないか!』
「あなた達だってMSを使っているでしょう!僕達はただこの戦いを止めたいだけなんだ!」

 

そう言うとフリーダムはΖガンダムを無理矢理引き離し、腕や足を目掛けてビームを放つ。

 

「まだ戯れるか!」

 

分かりきった攻撃に、カミーユはあっさりと攻撃をかわす。
今までの敵と違い、全く攻撃の当たらないΖガンダムにキラは驚愕する。キラがここまで手こ
ずった相手は、二年前のラウ=ル=クルーゼ以来だったからだ。
カミーユは先程のやり取りだけではまだ足りてないらしく、再度フリーダムへと接触を試みる。

 

「まだ来るの!?うわっ!」

 

意表を突いたように今度は正面からぶつかってくる。

 

『貴様がこうして戦っているのはオーブのためだって言うのか!?』
「くっ……そうだ!カガリがそうしたいから…僕もそれに協力したいから戦ってるんだ!」
『なら、ザフトと連合なら戦争してもいいって言うのかよ!』
「そんなことは言っていない!」

 

フリーダムは再びΖガンダムを引き離す。
しかし、Ζガンダムが三度フリーダムに組み付く。

 

「何なんですか、あなたは!?このままずっと纏わり着くなら、本当に撃墜しますよ!」
『出来る物ならやってみろ!こっちは遊びでやってんじゃないんだよ!』
「僕達が遊びだって……!?僕もカガリも遊びでやってるつもりなんて無い!」
『ふざけるなよ!オーブの事ばかり気にして、女の名前も出して……!』

 

カミーユが言い終わる前にフリーダムのクスィアフィスが前方を向く。
それを直感したカミーユが最速でフリーダムから離れると、放たれたレールガンが空気を震わ
せて明後日の方向に飛んでいった。
これもかわされたキラは仕方ない、と精神を集中させる。キラの潜在能力が覚醒し、本格的な
戦闘モードに入った。

 

……以前シンがこの覚醒に成功しているが、彼には無意識のうちにやっていた事なので
自在に行う事は出来ない。
更にはアスランも以前は出来ていた事であったが、これまた彼も自在に出来ない。
この現象はキラだからこそ自由に出来る事で、それがキラが最強と謳われる所以であった。

 

フリーダムがカミーユに向けて攻撃を仕掛ける。
その動作は組み付く前とは全然違うスピードだった為、カミーユはこの世界に来て初めて
シールドで攻撃を防いだ。

 

(こいつ……さっきまでと明らかに動きが違う!今までは手加減していたのか!?)

 

いきなり変貌を遂げたフリーダムの動きにカミーユはすぐさま対応できなかった。
しかし、キラの勝手とも思える言葉を聞いてしまったカミーユは、その怒りをプレッシャーに
して撒き散らし始める。
それを感じたキラも一時動揺する。

 

(な、何だ…この感じ……息苦しい……!?)

 

その一時の動揺はカミーユがキラの動きに慣れる時間には十分であった。
二人の戦いは再び五分に戻った。

 

(こ、この感じ……あの人か……!?)

 

忘れようの無いカミーユのプレッシャーを感じたシンは二人の戦いに近寄る事が出来ず、
ただ眺めているだけになってしまっていた。

 

(くそぅ……俺にもっと力があれば……)
「……!?」

 

ふとモニターの片隅に何かの影が目に入る。

 

「あれは…アスラン!?何だって今更ノコノコと……!」

 

そちらへ目をやると、アスランのセイバーがいつの間にか近くまで来ていた。

 

「周波数はいくつだ…!?くそっ、キラと連絡さえ取れれば……!」

 

この時、アスランが取るべき行動はフリーダムの通信機に周波数を合わせる事ではなかっ
た。本来ならカミーユに繋げて間接的に連絡を取ってもらえば済む問題だったのだ。
しかし、フリーダムの登場に、カガリが出てきた事がアスランを焦らせていた。
ハイネとの語りなど何処吹く風状態である。
だが、アスランの決意の中にオーブの事が含まれていた時点でこれは仕様がない事だった。

 

『オーブは俺達に仕掛けてきたんだぞ!それを迎撃して何が悪い!』
「だから僕達はそれを止めたいだけだって言ってるでしょう!」

 

中距離からの砲撃戦では決着がつかないと踏んだ二人はサーベルによる接近戦に切り替え
ていた。

 

『お前のやり方で戦争を止められるものか!お前のやっている事はただ余計に被害を大きく
しているだけだろう!?あんな中途半端に攻撃しておいて……!』
「僕は誰一人死んで欲しくないだけだ!」
『お前が落とした奴らが戦場でそのままで済むわけがないだろ!』
「!?」

 

キラはハッとした。
ちらっと周りを見回してみると、そこかしこから煙が上がっているのが見えた。
キラが落としたMSが海面に衝突した際に、打ち所悪く爆発したものもいたのだ。
それはオーブのムラサメも例外ではなかった。
キラの心に迷いが生じる。

 

「でも、僕がこうしなきゃもっと多くの人が死んでいたかもしれない……!
仕方が無かったんだ……!」
『人の命に多いも少ないも無いだろう!貴様は仕方ないで済ますつもりなのか!?』

 

ミネルバのタンホイザーからは未だに白い煙が上がっている。火災は何とか防げたとはいえ、
その爆発に巻き込まれて命を落とした者もいるだろう。

 

『じゃあ、あなた達なら人の命を奪ってもいいって言うんですか!?それこそ襲われたから
仕方ないって…そう言うんですか!?』
「俺達は死ねば良かったと言うのか、貴様は!?人の命を何だと思ってるんだ!」
『ち、違う!』
「何が違うんだ!そう言うことだろう!お前達はこの戦闘に直接関係無いのに、勝手に乱入
しておいてふざけた事を言うな!」
『関係はある!カガリはオーブの国家元首なんだ!だから、それに協力している僕にもこの
戦闘に介入する権利はある!』
「そうやって自分以外に理由を求めるんじゃないよ!」

 

その時であった。これ以上の戦闘は連合、ザフト双方に無理があると判断したネオが撤退
信号を上げたのだ。

 

「くっ!」

 

それを確認したフリーダムはΖガンダムを振りほどき、アークエンジェルへと戻っていった。
残ったウインダムやムラサメも撤退していく。

 

「……何とか…なったみたいね……」
「よ、よかった~……」

 

ミネルバのブリッジは安堵感に包まれていた。

 

「艦長、タンホイザー…使い物にならなくなっちゃいましたね……」
「確かにそれは痛いことだけど、命あってのモノダネよ。今は無事乗り切った事を素直に
喜びましょう……」

 

これまでミネルバの危機を幾度と無く救ってきたタンホイザーを失った不安はあるが、
今はただ体を休めたかった。