Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第48話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:45:14

第四十八話「落陽のオレンジショルダー」 前編

戦況は未だ五分に渡り合っている。
戦力数で言えばオーブ・連合の方が少ないのだが、一部の高性能なMSの存在がザフトとの決戦を互角に渡り合わせていた。
 
ストライクフリーダムを追っていたシンは途中でそれを見失ってしまった。
焦るシンはストライクフリーダムを捜したが、その途中でアカツキを見つける。
 
「居た…馬鹿元首!」
 
未だにアカツキのパイロットがカガリだと思っているシンはアロンダイトを構えて彼の友軍と交戦しているアカツキに突撃する。
 
「む……!」
 
それをムウはひらりとかわす。
 
「馬鹿元首のくせに生意気な!」
『はぁ?馬鹿元首?』
 
シンは耳に聞こえてくる声がカガリのものでない事に気付く。
 
「な…!誰だ、あんたは!?」
『失礼な奴……ん?お前……』
 
シンの声にムウの方が先に気付いた。
 
『お前はステラを連れてきた……!』
「あ、あんたは……!」
 
シンの心臓の鼓動が一つ大きく脈打つ。ステラを戦いに駆り立てたネオ=ロアノークだ。
 
「お前はぁ!俺との約束破って…それでオーブ軍に入って!俺に対する嫌がらせのつもりか!?」
『子供だな!』
「何がだ!」
 
アロンダイトを振り回すデスティニー。それをアカツキは嘲笑うように舞い落ちる紙の如くヒラリヒラリとかわして見せた。
 
『若いな!そういう自分勝手な感情任せの動きが、子供の証明だって言ってんだよ!』
「何だと!」
『現に言い返せないだろ?』
 
ムウにそんな事をシンに説教する道理はない。しかし、相手はザフトのエースパイロットで、かつてはキラをも撃墜した成績を持つ凄腕である。シンを少年と知っているムウは、言葉で動揺を与えられるならそれに越した事はないと考えた。
アカツキは残りの六機のドラグーンを展開させる。

「ぐぅ……!」
『落ちな!』
 
シンはドラグーンをかわす技術は持っていない。だからデスティニーの機動を最大にしてドラグーンが追いつけない速度で逃げるしか出来ない。
それは確実にシンの体に負担を掛け、既に何度か最大機動を繰り返していたシンの体は軋みが出始めていた。
胃の中は変な感じがし、体に食い込むベルトは骨を軋ませる。目まぐるしく変わる視界は情報過多で脳に負担を掛け、それを焼き付ける瞳は開きっぱなしである。
体中が痛い。
シンはそれでも戦いを終わらせる為に自分の体に鞭打って戦い続ける。全てが終わった後のステラやその他諸々を考えて、それに邁進する。
 
『すばしっこい奴だ、逃げるしか能が無いのか!』
「うるさい!」
『やはり、子供だな!そんなんで俺やキラに勝てると思うなよ!』
「うるさい、うるさい、うるさい!」
『うるさいのはお前だろうが!もっと色んな事を学ぶんだな、少年!』
 
追随するドラグーンと平行してアカツキ本体からもビームライフルの砲撃が飛んでくる。デスティニーは更にスピードを上げて振り切ろうとする。
 
「あんたみたいなのが大人だってんなら、俺は子供のままで居たい!あんたみたいに約束を破ってステラを戦争の道具にしか考えられないのが大人の思考ってんなら、俺は青臭いままの子供の思考で居たい!心を失うのが大人なら、俺は心を持ったままの子供で居たい!」
『それも子供の理屈だな!心を失くしたのが大人じゃないぜ!大人にそういう人間が多いってだけだ!心を持った大人は居る!』
「あんたが言っても説得力が無い!」
 
ドラグーンのビームを振り切るようにかわし、デスティニーは急旋回からアカツキに猛スピードで接近する。
 
「俺もステラも裏切ったあんたに、心があるもんか!」
『敵対組織の君の言葉を、司令官の俺がすんなり聞き入れるとでも思っていたのか!』
 
ビームの効かないアカツキには接近戦を仕掛けるしかデスティニーには手が無い。
その接近戦に最大の効果を発揮するアロンダイトを振りかぶり、デスティニーは切り掛かる。
 
「だから、それはあんたが心を失っているからだ!ステラを見ていれば分かるだろ!ステラは戦いなんかする子じゃないって……それを無理やり戦いに引きずり込んだあんたを、俺は許せない!」
『あれは…仕方なかったんだ!』
 
アロンダイトをビームナギナタで受け止め、いきり立つシンの言葉にムウは苦しげに言い返す。
当時連合軍特殊部隊ファントムペインの指揮官だったムウに、上層部からの命令に逆らう事は出来なかった。ステラを起用する上層部に疑問を抱きながらも、ムウは従うしかなかった。

「仕方ないで済ませるな!あんなものに乗せてステラに人殺しをさせて……!下手したらステラはフリーダムに殺されてたかもしれないんだぞ!」
『キラが……?馬鹿野郎!アイツがそんな事するかよ!』
「キラって言うのか、フリーダムのパイロットは……!仲間だからって庇うな!本当の事だ!」
『お前の言う事が信じられるかって!』
「分からず屋め!」
 
純粋なパワーではデスティニーの方が勝る。シンはデスティニーの出力を更に上げ、アカツキをデブリに押し込んで圧し掛かるように迫る。
 
「押し潰してやる!」
『待て!ステラは…ステラは生きているんだろ!?なら、俺にも会わせてくれ!彼女に謝りたい!』
「…誰に聞いた?」
『異邦人の少年からだよ、何処に居るかは結局教えてもらえなかったが』
 
ムウの懇願に少しシンの言葉が穏やかになった。それに安心してか、ムウにも多少の余裕が生まれる。
 
『頼む、きっとステラは俺に会いたがっている筈だ。お前がステラを大事に思ってくれているなら、この申し出を断る理由が無い筈なんだがな……』
「……断る」
『は?』
「残念だったな、ステラはお前のことなんて微塵も覚えてないぜ!」
『馬鹿な……!』
「何の根拠があってそんな自分勝手な妄想をしてたのか知らないが、あんたの下に戻ってこないって事がその証明になってんじゃないのか?もう消えてくれ!」
『俺だってなぁ!また死ぬわけにはいかねぇんだよ!』
 
 
ミネルバのシンの私室の中、ステラは揺れる船体に不安になりながらシンの無事を祈っていた。震える体は彼女の不安の表れ、ステラを介抱した医師が危惧していた状態になりつつあった。
いくらステラでも、これだけ激しい戦闘になれば、これがどのような状況であるかは察しがつく。いつまで待っても帰ってこないシンを怯えて待つしかない自分の不安定さを誤魔化すように耳を塞ぐ。
 
「シン…シン……早く帰ってきて……」
 
もしかしたらもうシンは自分の下に帰ってこないかもしれないと思う度に、そんな事は無いと言い聞かせる。その繰り返しだけが、今のステラに正常な精神を保たせている要因だった。
その均衛が崩された時、ステラは精神の安定を失い、再び崩壊への途を辿ることになる。
 
「シンは大丈夫…シンは大丈夫……」
 
気が触れたような形相で、ステラは自分に言い聞かせる。
インパルスでフリーダムから守ってくれた時も、フリーダムと戦った時も大丈夫だった。それだけが、ステラにシンが無事であるという確証をもたらしてくれる記憶だった。
居た堪れないステラは何から身を守るというのか、シーツを頭から被る。そうする事で少しでも安心を得ようとしていた。
 

「あんた、ステラの何なのか知らないけど、あんたの存在が俺は鬱陶しいんだよ!」
『それはお前の我侭だ!俺にだって生きる権利はある!』
「そうだ、あんたにも生きる権利はある……けど、あんたはステラの権利を無視したじゃないか!エクステンデットだって?はっ!そんなものにステラを仕立て上げといて、それで自分の権利を主張するのか、あんたは!?」
『だから、その件でステラに謝りたいと俺は言っている!』
「あんたがステラに贖罪の心を持っているのなら、あんたに出来る事はもう二度とステラに会わない事だけだ!まともに生きられないステラの気持ちになってみろ!あんたにステラと会う資格は無い!」
『くそぅ……!子供にここまで言われちゃ……!』
「まだ俺を馬鹿にするのか!」
 
デスティニーは更にバーニアスラスターの出力を上げる。ビームナギナタでアロンダイトを支えるアカツキの腕が悲鳴を上げて軋む。
 
『まだだ…ぁ……!』
 
ムウはアカツキのドラグーンを射出し、ばれない様に背後からデスティニーの背中を狙う。
 
(この距離…かわせるか……?)
 
アカツキのドラグーンが火を噴こうかとしたその瞬間、別方向からのビームがドラグーンを破壊する。
 
『何ッ!?』
「何だ!?」
 
背後の爆発にシンは慌てて振り向く。すると、彼方からウェイブライダーがやってくるのが見えた。
 
「カミーユ!」
『今だッ!』
 
気を取られたシンの隙を突いてアカツキが体を滑らせてデスティニーの前からすり抜ける。
 
「待てよ、あんた!」
『しまった!?』
 
アカツキの動きに気付き、反転すると同時に振り回されたアロンダイトがアカツキの右腕を薙ぎ、切り飛ばす。
更にデスティニーは返す刃でアカツキの頭部を吹き飛ばそうとするが、アカツキから残り五機のドラグーンが射出され、砲撃がそれを阻害する。
 
『チクショウ……!』
 
片腕を失い、ドラグーンは残り五機。更にデスティニーだけでも手強いのに増援としてΖガンダムも接近してくる。囲まれているわけではないが、ムウの頭には四面楚歌の文字が思い浮かぶ。
 
『カミーユ、金色を落とすぞ!』
「待て、まだ何か来る!」
『何かって…来るのか!?』
 
驚くシンだが、カミーユが警告した通り、レーダーに見慣れた反応が映る。ストライクフリーダムだ。

『レイがアイツを追ってんじゃなかったのか!?』
「分からない…レイは……」
 
ストライクフリーダムから射出されたドラグーンがデスティニーとΖガンダムを囲って襲う。そして二機が固まった所に連結ライフルの強力なビームが襲ったが、間一髪で散開してかわす。
その隙にアカツキはストライクフリーダムの側へ退避してしまう。
 
『助かったぜ、キラ!』
「それよりもムウさん、彼等は危険すぎます!ここで何とかしないと、レクイエムの発射に間に合わないかも知れません!」
『ああ、そうだな……』
 
アカツキとストライクフリーダムは全てのドラグーンを展開する。ストライクフリーダムの八基とアカツキの五基、合計十三基のドラグーンがデスティニーとΖガンダムの周囲を飛び交って砲撃する。
それをデスティニーは逃げるように、Ζガンダムはシールドと回避で凌ぐようにやり過ごす。
しかし、ドラグーンの攻撃に加えて、一番厄介なのがストライクフリーダム本体による手数の多い攻撃だった。二丁のビームライフルはそれぞれを狙い、腹部のカリドゥスは二機が接近した所を狙い撃ち、レールガンは引切り無しに飛んでくる。
シンとカミーユはキラに踊らされていた。
 
「く…はぁっ……!」
 
シンの体力も限界に近い。幾度と無く負担を掛け続けてきた体が遂に悲鳴を上げ始める。それを気力で何とかカバーしているが、それも時間の問題になりつつあった。カミーユはそんなシンの気の乱れを感じ取る。
 
「シン!大丈夫なのか!?」
『だ…大丈夫だ、カミーユ……!まだ、持たせて見せる!』
「持たせるって……!」
 
そんなんじゃ無理だ、とカミーユは思った。口では強がっているが、その声は既に大丈夫な人間の声ではない。
 
「何とか振り切れないか?」
『…やって…みる……!』
 
デスティニーはΖガンダムから離れるように飛翔する。
 
『デスティニーは逃げたか……?Ζに的を絞るか、キラ!』
 
ストライクフリーダムのドラグーンがデスティニーを無視して、留まり続けるΖガンダムに全砲撃を集中させる。キラとしても逃げたデスティニーよりも、目の前に留まって抵抗の意思を見せているΖガンダムを何とかしようと考えるのは必然であった。
ムウもそれに倣ってドラグーンの砲撃をΖガンダムに集中させる。
 
「シンへの攻撃は止んだけど…予想以上にきついな、これは……!」
 
二機の攻撃を避け続けるΖガンダムは反撃の手を出せない。
しかし、そんな困窮した状況であるのにも拘らず、カミーユは冷静にその攻撃を読んでいる。宇宙に出た事により、カミーユのニュータイプ能力が広がりを見せ、その勘の鋭さに更に磨きが掛かる。

簡易サイコミュのバイオセンサーがカミーユの思惟を拡大し、それをサイコフレームからなるコックピットフレームが駆動系その他に伝達し、反映される。それはMSを動かす上での理想形に限りなく近い、人馬一体の一体感を体現する。
カミーユが脳で体に伝えるより早く拡大した思惟をサイコフレームが汲み取り、操作した瞬間にタイムラグが殆ど無しにMSの四肢が反応する。
加えてキラやムウの息遣いを読み取れるカミーユは、彼等が行動を起こすよりも先に対応する。それは、簡単にはΖガンダムに攻撃を与えられない事を示していた。
後は体力勝負となるが、それに付き合っていられるほどカミーユは御人好しではない。タイミングを見計らい、Ζガンダムはドラグーンに向かってビームライフルを撃つ。しかし、ファンネルよりは大型とはいえ、十分小さい的に命中させるのは容易ではない。
 
「数が多い!ならば、ビームコンフューズ!」
 
直接射撃では要領が悪いと悟ったカミーユは、左腕にビームサーベルを握らせ、適当に放り投げた。回転の加わったビームサーベルはデスティニーのフラッシュエッジのように高速で回り続ける。
そこへビームライフルを数発撃ち込み、ビームサーベルと干渉させる事でビームが衝撃波のように幅広い効果範囲を持ち、それがドラグーンを薙ぐ様に飛ぶ。
 
「なっ!?」
「ドラグーンが!」
 
カミーユの機転による攻撃が、ドラグーンを悉く撃ち落していく。アカツキは全て失い、ストライクフリーダムに残されたドラグーンはたったの一基であった。
そして、その残った一基もすぐさまΖガンダムのビームライフルによって撃ち壊される。
 
「邪魔なビットは全て落とした!これなら!」
 
続けてストライクフリーダムにビームライフルを撃とうとするが、いくらトリガーを引いても発射されない。こんな時になってビームライフルのエネルギーが切れてしまったのだ。
二機を目の前に、流石にカミーユも焦った。
 
「弾切れ!?エネルギーパックを……!」
 
慌ててビームライフルのエネネルギーパックを取り外し、腕部のスペアを取り出す。
その様子のおかしいΖガンダムに気付いてか、ストライクフリーダムがビームサーベルを片手に仕掛けようとしたが、そこにデスティニーの高エネルギー砲が遮るように邪魔をする。
 
『君は!』
「何か言いたい事があるのか!?」
 
シンはキラの何が言いたいのか分からない、口癖のような言葉が嫌いだった。
 
『こんな戦い、君に何か得する事があるのか!?議長のデスティニープランは、人が人として生きて行けない世界を創るんだぞ!』
「かと言って、あんた達に…世界を決める資格があるとは思えない……!」
『僕達はそんな傲慢な考えを持ってない!ただ、これから先の未来の為にも、議長のデスティニープランを止めなくちゃいけないって思っただけだ!』

キラがシンの接近戦を嫌っている事を知ってか、デスティニーはフラッシュエッジを投げつけ、ストライクフリーダムに回避行動をとらせて注意を逸らした後、デスティニーの代名詞とも言える大剣アロンダイトを構えて突撃する。
それに対し、重量感溢れるアロンダイトを、ストライクフリーダムは二本のビームサーベルを交差させて防ぐ。
 
『君はそれでいいのか!?』
「……!」
『君はそうやって重要な事から目を逸らしているだけじゃないのか!?』
「だから嫌いなんだ……あんたは……!」
 
シンの意識は途切れそうになっているのを気力で繋げているに過ぎない。
しかし、声は遠くから聞こえる感覚だが、内容ははっきり分かっていた。何故か分からないが、途切れそうな意識とは正反対に、頭の中はすっきりしていた。
シンの瞳からは光が失われ、無意識のうちに覚醒状態に入っていた。
 
(様子が…おかしい……?)
「そうやって…自分を正義と決め付ける……はぁっ!……自分を疑わないから、他の人が…間違っていると思い始める……それが、あんた達の罪だ……!」
 
キラはシンの様子がおかしい事に気付く。明らかに息の上がった声で、時々大きく息を吐き出す音が聞こえた。
しかし、言っている事は分かる。キラも間違っていると言われれば反論する。
 
『違う!君の方こそ間違っている!ラクスは、そんなに傲慢じゃない!』
「何故そう言い切れる…?ラクス=クラインだって間違う事があるかもしれないじゃないか……彼女だって、俺たちと同じ人間だろ……!」
『そ…そうだけど……!…でも、彼女はそんなに自分の事が見えてないわけじゃない!』
 
それはキラの言うとおりだった。
ラクスは確かに象徴として担がれる事に不安を抱いている。自分が原因で散っていく命があることを彼女は知っている。
しかし、それはキラ達だけが知り得る事で、いくら彼がそれを力説した所で誰もそれを信用する事はないだろう。
傍から見ればラクスのしている事は戦い以外の何物でもない。
 
「あんた…何でそこまでラクス=クラインに拘るんだよ……?」
『それは……ラクスが目指すものは僕と同じだから……』
「それだけか……?」
『そ、そうだ!』
「だったら、何でそこまで熱くなる……?あんた、ラクス=クラインが好きだからそこまで拘るんじゃないのか?」
『ぼ、僕は……!』
 
そこでキラは気付く。先程まで途切れ途切れだったシンの言葉が、いつの間にか繋がっている。荒い息遣いだった声も、今は呼吸が落ち着いているせいか、やけに滑らかに聞こえる。
ふと思い返せば、デスティニーとストライクフリーダムは鍔迫り合いをしたまま少し前から殆ど動いていない。

『君は…まさか……!』
「お陰で少しは楽になったぜ……!」
 
慌てたキラはストライクフリーダムにアロンダイトを弾かせ、デスティニーとの距離を開ける。
 
「彼に付き合わされたのか……!」
 
シンに休憩する時間を与えてしまった事にキラは愕然とする。
 
「あんたが甘い奴で助かったぜ、これで俺はまだ戦える……!」
 
気分は楽になったが、しかしそれでも、体の疲れは誤魔化せない。未だに体のあちこちは悲鳴を上げている事には変わりはない。
だからと言ってへこたれるのではなく、シンはその痛みも気合で我慢する。
戸惑うストライクフリーダムに対し、デスティニーは再びアロンダイトを構えた。
 
 
場面はΖガンダム対アカツキ。
片腕とドラグーンをを失った事によってアカツキには唯一回収できたビームライフルしか残されていない。圧倒的に不利な状況でも、ムウは生き延びる為に目の前の障害を振り切ろうとする。
 
「せっかく拾った命!ここまで来てまた失くして堪るか!」
 
精度とか戦術的なことはどうでもいい。今はただ、目の前に立ち塞がる障害を排除する事だけを考えて、ひたすらにビームを撃つ。
 
「く……まだ抵抗するのか!何、これは……!」
 
カミーユを軽い頭痛が襲う。しかし、不愉快な痛みとは逆に、より鮮明なイメージが頭の中に浮かび上がる。
そして、この頃からΖガンダムはコックピット付近からサイコフレームの光を撒き散らし始める。噴出すように漏れる碧の光が、Ζガンダムの機動に合わせて散る。
それはさながら蝶が鱗粉を撒いているかのようであった。
 
「女……!」
 
カミーユの脳裏に浮かんだのは女性である。それは無意識に意識しているムウのイメージだった。
 
『マリュー…俺は必ず帰って見せるぜ……!だから、だから俺にこいつから逃げ延びる力を!』
 
遠くからのビームならアカツキの装甲であれば怖いものは何もない。唯一怖いビームサーベルの斬撃も、離れてしまえばどうって事ない。
後はΖガンダムが諦めて正面から消えてくれれば、アークエンジェルまで辿り着ける自信があった。
 
だがその時、後方のステーション・ワン付近で艦隊戦が行われている宙域に巨大な光が迸った。
突然の出来事にムウもカミーユもその光に目を奪われる。
ムウはその光を見た事があった。

「あれは…ガンマ線の光……!まさか、ザフトはジェネシスを使ったのか!?」
 
それはメサイヤから放たれた光。デュランダルがステーション・ワンを防衛する為に味方をも巻き込んで放った一撃だった。
ジェネシスの光からは爆発の光が破裂するように瞬いている。敵も味方もお構いなしだった。
 
「まさか…マリューはあそこに居たりはしないよな……?」
 
ムウは無線をアークエンジェルに繋げようとしたが、ジェネシスの影響からか、電波障害が起こっていて繋がらない。ムウは焦る。
 
「そんな…馬鹿な……!せっかく思い出したってのに…またお別れなのか、俺達は!」
 
絶望に押し潰されそうになり、ムウはΖガンダムを睨む。
 
「お…お前が……お前等ザフトが……!」
 
震える手で操縦桿を硬く握り締め、一気にブーストを掛けた。左腕に残ったビームライフルを投げ捨て、ビームナギナタを掲げてΖガンダムに襲い掛かる。
 
『見たか、カミーユ=ビダン!お前等の…ザフトのする事は、こういう事だ!』
「落ち着け!彼女は生きている!」
『彼女……?何を言っている!』
「想う人が居るのなら感じてみろ!」
『訳の分からん事を言って誤魔化すな!俺はお前達ザフトを絶対に許さん!』
 
これが先程まで逃げ腰だった男の動きだろうか。凄まじい勢いでビームナギナタを振り回し、Ζガンダムはそれに合わせるしかできない。
しかし、カミーユとていつまでもムウだけに構っていられない。ここで時間を浪費する事はデュランダルに塩を送る事になる。
レクイエムの発射が行われてしまえば、そこでカミーユのやってきた事全てが灰塵に帰してしまう。
 
「分かるんだ、俺には!彼女は辛うじて助かっている!それが分からないか!?」
『何が俺には分かるだ!お前の言う事が、信じられるかってんだよ!』
「分からず屋め!女の下へ帰れ!」
 
カミーユは先程イメージに出てきたラミアスの気配を感じ取り、その方向に向けてアカツキを投げ飛ばす。
 
『貴様!』
 
ムウはアカツキにブーストをかけて再びΖガンダムに接近しようとするが、Ζガンダムから放たれたグレネードがアカツキのバーニアスラスターを破壊する。
 
「うおおおおぉぉぉぉぉ!」
 
下手に推力を加えたばかりにアカツキはキリモミしながら吹っ飛ばされる。
そこへΖガンダムが追い討ちで蹴りを入れてアカツキをアークエンジェルが存在するであろう方向へ追いやる。
ムウ自身は生きているが、その衝撃で気を失い、アカツキには戦う力が残されていない。金色の残骸が、慣性に流されて大天使の下へ帰っていく。

その頃レジェンドはメサイヤの付近で防戦をしていた。思った以上に突破してくる敵が多く、それを心配したレイはストライクフリーダムを放ってメサイヤの守りに就いていたのだ。
ミネルバ隊の隊長に任命され、その責任に使命感を持ってはいたが、彼の中の優先順位は先ずデュランダルが一番だった。
しかし、射線上に味方部隊が残っているのにも関わらず、ネオジェネシスを発射したデュランダルの行為にレイは戦慄した。
 
「ギル…これは……!」
 
確かに敵は少なくなったが、同時に守らなければならない味方も多くが消えた。
これには流石のレイもデュランダルの行為に驚いた。
 
「しかし…これがギルの望みなら……」」
 
しかし、それでもレイはデュランダルを信じる。この戦いに勝利し、デスティニープランを発動する事が彼の望みであるのなら、それに殉じてでも協力するのがレイの生き甲斐なのだ。
その時、メサイヤの司令室から通信回線が開かれる。
 
『レイ、何故ここに居る?』
「ギル……」
 
デュランダルからの回線にレイは身を強張らせる。
 
『お前にはミネルバのMS隊長としての任務を与えた、こちらは御覧の通り大丈夫だ』
「でも、ギル……」
『キラ=ヤマトの存在…彼が今一番警戒せねばならぬ相手だ。分かっているな、レイ?』
 
言い聞かせるようなデュランダルの声。プライベートならもっと慣れ親しく出来る間柄だが、今はそんな状況ではない。
デュランダルはプラントの総責任者で、自分はその軍に属する兵士なのだ。戦場で馴れ合いは出来ない。
レイは顔を引き締め、応える。
 
「はい、直ちに討伐に向かいます」
『それでいい。私の理想にもあと一歩の所まで来ている。彼の事は任せたぞ』
「はい……」
 
立場を弁え、本当は少しでもいいから励ましの言葉を受けたかったが、我慢した。
ここで甘えていてはキラを倒す事はできないし、デュランダルにも迷惑を掛けてしまうだろう。
自分に厳しいレイはそのままストライクフリーダムを倒しにレジェンドを向かわせた。