Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第49話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:47:48

第四十九話「落陽のオレンジショルダー」 後編

一方、廃艦から脱出したハイネとルナマリアは二機でオーブ・連合軍と交戦していた。
 
「ハイネ…アスランの事……」
『忘れちまえ!あんな奴、お前の言ったとおりの腑抜け野郎だ!今更引っ掛かる事じゃない!』
「うん……」
 
ルナマリアが心配しているのはそんな事ではなかった。アスランと会話をしたルナマリアはアスランが追い詰められているのを感じていた。
だから、先程は怒りでインフィニットジャスティスを放置してきてしまったが、それで本当に良かったのか、今更になって不安になってきた。
普段真面目な彼だけに、その箍が外れてしまえば何を仕出かすか想定できない。
 
『ルナマリア…今のうちに言っておく!』
「え……?」
 
唐突なハイネの言葉にルナマリアはロマンチックな想像をしてしまった。
戦場でこんな事を考えるのは不謹慎と思いつつも、ハイネの口から出る次の言葉に何となく期待してしまう。
 
「な、何?」
『俺は…そろそろザフトを抜ける!』
「えぇっ!?」
 
期待外れもいい所だとルナマリアは思う。しかし、ハイネの言葉はそんなルナマリアの落胆を遥かに上回る衝撃を与えた。
 
「ど…どういう事なの、それは!?」
『これはこの戦いが始まる前から決めていた事だ。デュランダル議長のデスティニープランには賛成できない!』
「じゃ、じゃあ……」
『だからと言ってオーブに付く気は無い。オーブとの戦いが膠着状態に陥ってきた今、ここからは俺とカミーユがデュランダル議長もオーブも止める!』
「そ、そんな!無茶……はっ!?」
 
言いかけたルナマリアは凄まじいスピードでこちらに接近してくる反応に気付く。
 
「この反応…まさか!」
『反応?…こいつは……!』
 
セイバーとインパルスが固まっている所へフォルティス砲のビームが通過する。
アスランのインフィニットジャスティスが二人を追ってきたのだ。
 
「アスラン=ザラ!」
『ハイネ…ルナマリア……君たちの言う事は分かる……。俺には誰かを説得する権利なんか無いと言う事、君たちに言われてやっと気付く事が出来た……』
「だったら、もうあたし達の前に姿を現さないでよ!目障りだわ!」
 
激昂するルナマリアはアスランに対して怒鳴りつける。

『けど…分かってしまったんだ……俺に何も残されてない事が……。だから、俺は最後にオーブの…カガリの邪魔をするお前達を止めなければならない……』
「何を…何を言っているの、アスラン!」
「それが惚れた女に対する最後のけじめって奴か?」
『二人には分からない……けど、お前達はこのインフィニットジャスティスで止める!』
 
言うなりインフィニットジャスティスはビームライフルを構えてセイバーとインパルスに向かってビームを連射する。
 
「来たっ!」
「避けろよ、ルナマリア!」
 
距離は十分あったため、二人は難無くそれを回避する。
 
『もう、悩める悩みなんて俺には無い……本気で行かせて貰う!』
 
ビームサーベルを両手に保持させ、インフィニットジャスティスが襲い掛かる。
 
「ルナマリア、挟み込むぞ!」
「了解!」
 
セイバーとインパルスは散開し、突撃して来たインフィニットジャスティスの両側からビームサーベルで切りかかる。
 
『甘い!』
 
それをインフィニットジャスティスは両手を拡げて双方からの斬撃を防ぐ。
 
「なっ!?」
「何ですって……!?」
 
渾身の力で振り下ろされたビームサーベルがインフィニットジャスティスの片腕でいとも簡単に防がれた事に二人は驚愕する。
インフィニットジャスティスはそのまま弾くように無理やり二機のビームサーベルを吹き飛ばす。
迷いの無くなったアスランは機体の利点を生かしてパワープレイに出ていた。純粋なパワーならバッテリー稼動のセイバーやインパルスに、核とバッテリーのハイブリットであるハイパーデュートリオン動力のインフィニットジャスティスが負けるはずが無い。
ビームサーベルを失った二機は慌ててビームライフルを構え、牽制するように連射する。
 
『見えている!先ずはルナマリア…君からだ!』
 
覚醒したアスランにルナマリアの射撃が当る筈も無く、インパルスのビーム攻撃をロール回避で接近しながらかわす。そのまま手にした二本のビームサーベルを連結し、バトンを回すように切りかかる。
 
「うわああぁぁぁぁ!?」
『これで大人しくしていろ!』
「ルナマリア!」
 
振り回されるビームサーベルはインパルスの両足を無残に切り刻む。その様子に混乱するルナマリアは狂ったようにビームライフルを目の前のインフィニットジャスティスに連射するが、全て回転するビームサーベルに弾かれてしまう。

『まだ抗うのなら、少々痛い目を見る事になるぞ!』
「こんな…こんな奴にぃ!」
『止めろ、アスラン!』
 
続けざまにインパルスの腕を切り落しに掛るインフィニットジャスティスに、セイバーからのビームが邪魔をする。
 
『ハイネ=ヴェステンフルス!』
「そうかい、そういうつもりか、アスラン=ザラ!」
 
ビームライフルを連射するセイバーに対し、インフィニットジャスティスはフォルティス砲で迎え撃つ。飽くまでビームサーベルに拘るのはアスランの決意の表れか、直接攻撃で二機を破壊したがっていた。
 
「ルナマリア、お前は退避していろ!」
『でも!』
「足を失ったインパルスでは無理だ!こいつは俺が倒す!」
 
機体を横に流れるように移動させ、ビームライフルを連射する。
 
『ハイネ…お前に俺は倒せない!』
 
ビームシールドを展開させ、インフィニットジャスティスはセイバーのビームを全て防いで、プレッシャーを与えながら接近を続ける。
 
「くそっ!馬鹿みたいに固い奴だ!」
『そんなMSではこれに勝つ事は出来ない!』
 
距離を保ちつつ砲撃を続けるセイバーだが、出力の違うインフィニットジャスティスの機動には敵わない。その距離は一気にインフィニットジャスティスのビームサーベルの射程圏内に入ってしまう。
 
「そうかな?MSの性能なんて、パイロットの腕次第で何とでもなるものさ!」
『カミーユの事を言っているのなら、それはお前の筋違いだ!お前にそれ程の腕は無い!』
「言ってくれて!馬鹿にするなよ!」
 
ビームライフルの砲撃をかわしながらビームサーベルを振りかぶるインフィニットジャスティスに、唐突なタイミングでセイバーは回し蹴りを放つ。ドンピシャのタイミングに、普通ならもろに直撃を受ける攻撃だった。
しかし、瞬間アスランの目が鋭く光る。
 
「何だと!?」
 
ドンピシャのタイミングの回し蹴りに合わせて、インフィニットジャスティスも回し蹴りを放ってきたのだ。更に、インフィニットジャスティスの爪先にはビームサーベルが仕込まれている。
同じ条件の蹴りなら、結果は見えていた。
 
『これが現実だ、ハイネ!』
 
繰り出されたセイバーの回し蹴りはインフィニットジャスティスのビームサーベル蹴りに脆くも砕かれる。

「おのれぇ!」
 
それでも無理やり繰り出された回し蹴りにバランスを崩したインフィニットジャスティスに向け、セイバーは至近距離からのビームライフルを放つ。
今度は確実に当てられる状態の…筈だった。
そんな完璧な一撃も、素早い反応でインフィニットジャスティスがビームシールドを展開して防がれてしまう。
 
「これも…通じないのか!?」
『終わりだ、ハイネ!』
『駄目よぉ!』
 
二本のビームサーベルを振りかぶり、今正にセイバーに止めを刺そうかというその瞬間、インパルスがシールドを構えて二機の間に乱入してくる。
力いっぱいに平行に振り下ろされた二本のビームサーベルはインパルスの右腕の肘から先を切り飛ばし、もう片方はシールドを貫通してマニピュレーターを焼き切った。
 
『ああああぁぁぁぁ!』
「ルナマリア!?」
『無理をして間に入って来るからそうなる!大人しくしていれば、痛い目を見ずに済んだものを!』
「アスラン、貴様ぁぁぁ!」
 
四肢を破壊されたインパルスには胸部のチェーンガンだけが武器として頼りなく残されている。後はフォースシルエットのバーニアスラスターで動き回る事しか出来ない。それも、腕や脚によるAMBACが出来ない状態で、である。
それに激昂するハイネはシールドを突き出してインフィニットジャスティスに突撃
する。
 
『無駄だ、ハイネ!諦めて大人しく寝ていろ!』
 
シールドの上から出力を上げたビームサーベルを突き刺す。アンチビームコーティングがされているセイバーのシールドも、高い負荷を掛けられたインフィニットジャスティスのビームサーベルに耐えられずに貫かれてしまう。
シールドを突き破ったビームサーベルはセイバーの左肩に突き刺さり、インフィニットジャスティスがそれを振り上げた事によってセイバーの左腕は引き千切られてしまう。 
 
「くっそぉぉぉぉっ!」
 
それでも何とかしようと、ハイネはセイバーにビームライフルの先端を突き出しつつ渾身の右ストレートを繰り出す。至近距離でビームを浴びせようとしていた。
 
『何度も言う!無駄だ!』
 
インフィニットジャスティスの左足がビームサーベルを突き出し、側転するように横に回転して、セイバーの右ストレートをかわしながらそれを切り飛ばした。
 
「これも…これも駄目なのか……!」
 
セイバーも戦闘能力を奪われ、状況は万事休す。いくらMSの性能に差があっても、二人で挑んで全く歯が立たなかった事にハイネは深く絶望する。
圧倒的な威容を放って、インフィニットジャスティスのモノアイが一つ瞬く。

『変な情けを掛けてジャスティスを壊していかなかったのがお前達の運の尽きだったな。さあ、どうするハイネ?まだ続けるなら、俺は容赦しない……!』
 
ビームサーベルをセイバーのコックピットに突きつけ、アスランは勝ち誇った様子でもなくハイネに訊ねる。
 
「あ、あたしが…あたしがジャスティスをそのままにしようって言ったから…」
 
絶望的な状況にルナマリアは震えた。自分の勝手な感情のせいで不覚を呼び込んだ事に責任を感じていた。
 
『ルナマリア、君の情けだったのか。なら、自分の甘さを認めるんだな』
「勝手にルナマリアのせいにするなよ、下衆男。ルナマリアに憎しみを抱かせたのはお前のせいなんだぜ?」
『憎しみ……』
「同情と勘違いしているなら教えてやろうか?ルナマリアはな、お前に苦しんで欲しい為にワザとジャスティスを残したんだぜ」
『分からないな。こういう事になると分かっていて俺を生かしたのなら、それは甘さ以外の何者でもない。同情と違うのか』
「まだ分かってないみたいだな。つまり俺達の感情としては、"お前は苦しんで死ね"って事さ」
『ハイネ…まだ続けたいようだな……!』
 
ハイネの痛烈な言葉がアスランの感情に火を点ける。対してハイネは冷静だった。
 
「続けるも何も…俺にはやらなければならない事がある」
『議長の妄想に殉じようというのか、お前は?』
「逆さ……」
『逆……?』
 
アスランにはハイネの言っている事が何か分からない。言っている事とやっている事の矛盾がアスランを戸惑わせていた。
 
(カミーユ…気づけ……!お前なら、分かるはずだ……!)
 
ハイネはカミーユの不思議な感覚に期待する。ニュータイプの話は聞いてないが、ハイネはカミーユが特別な感性を持った人間である事に薄々気付いていた。
そんなカミーユに、意識を飛ばすように心の中で呼び続ける。
 
 
「…ハイネ!?」
 
三人が対峙している現場からそう遠くは無い宙域で、アカツキを戦闘不能にした直後のΖガンダムはステーション・ワンに向かおうとウェイブライダーに変形しようとしているところだった。
そんな時にカミーユはハイネから飛ばされた意思をキャッチする。
 
「この感覚は…動くのか?それにしてはシンの動きがキャッチできないが……俺たちだけでやれるのか?」
 
軽い頭痛と共にΖガンダムから光が飛び散る。
 
「ハイネが危ない……?くっ!」
 
ウェイブライダーに即座に変形し、カミーユは現場に急行する。

『ハイネ…何を企んでいる……?』
「別に。お前に話すことじゃない」
『強情なら相手を間違ったな?今の俺はお前を殺す事など造作も無いんだぞ』
「オーブの犬に、俺が口を割ると思うか?」
『いい加減にしてもらおう。これ以上の侮辱は耐えられない。死にたくないなら大人しくミネルバに帰ればいいものを……!』
「なら、いつまでも俺達の前に居るなよ。さっさとレクイエムを止めなきゃならんのだろ?ほら、行けよ!」
『く……!ハイネ……!』
 
インフィニットジャスティスのメインカメラが正面からセイバーを外し、その様子を監視するように漂うインパルスを捉える。
 
『……ルナマリア、もう一度聞こう。俺達と共に来い』
「寝ぼけてんじゃないわよ、いつ聞かれても答えは同じ、あんたと一緒には行かないわ」
『……』
 
どうしてもアスランはルナマリアに来て欲しかった。
アスランに何も残されていないとは言え、何も要らなくなったわけではない。少しの可能性でもあるのなら、それに最後まで賭けてみたかった。
しかし、そのアスランの想いはルナマリアに届く事は決してない。彼女には守るべきものがあるからだ。
 
「いい加減、いつまでもビームサーベルを突きつけられていると、不愉快だ。止めを刺す気が無いなら、目の前から消えろよ」
『……!』
「オーブの理想…何だか知らないが、俺はお前達を信用できない」
『何故そこまで俺達を拒否する?平和を掴もうとする意思は素晴らしい事じゃないのか?それとも……お前もルナマリアもデュランダル議長の毒電波に侵されてバイオレンスな衝動を吹き込まれたか?』
「違うな。アークエンジェルの行動は俺達にしてみれば単なるテロ行為だった。それはお前も理解できていたはずだ」
『そうだ。しかし、今は違う。こうして恐怖政治を敷こうとしているデュランダル議長を止めようと必死に戦っている。何故これが分からない?』
「馬鹿なアスラン…アークエンジェルを匿っていたオーブは、そのテロ行為の温床になっていたんだぞ。そんな国に、正義や正当性があると思えるのか?」
『ザフトに比べればマシだろう。何故俺達の言い分を分かろうとしない?』
「いい加減に気づけよ。オーブが本当に正しいのなら、ザフトは攻め込んだりはしなかった。オーブが本気で平和を目指しているのなら、こんな風に攻め込んできたりはしなかった」
『……』
「そして、オーブに従うお前は考えるのを放棄した人形と同じって事さ。それが答えだ、人間がおしゃべりする人形の言う事を聞くか?」
『デュランダル議長の人形のお前達が、俺に対して人形とは言えない。…そして、今この状況に於いて俺は人間でお前達が人形である事を理解してないのか?』
 
ビームサーベルをセイバーに突きつけたまま、左腕でビームライフルを持ち、それをインパルスに向ける。
 
『この俺の意思一つで、お前達の運命が決まるんだぞ』
「癪だな、お前みたいな駄目男に運命を握られるなんて」
『減らず口は命を縮める事になる……!』

セイバーのコックピットハッチにインフィニットジャスティスのビームサーベルが触れる。コックピットの中に居ても、外装が焼かれる音が聞こえる。
 
(ハイネ……何を待っているの……?)
 
頭に血が昇っているアスランは気付いていないが、ルナマリアはハイネが挑発的な言葉を繰り返す事に疑問を抱いていた。
絶望的に不利な状況であるのにワザとアスランを怒らせる言動は、彼をこの場に留める為の時間稼ぎであると分かったが、それが何を呼び込むのかまでは分からなかった。
ただ、それがアスランに気付かれないよう、ルナマリアに出来る事は口をつぐむ事だけである。ハイネが殺されぬよう、成り行きを黙って眺めていた。
 
「どうする、アスラン?俺達を殺してレクイエムに向かうか、それとも優しいラクス=クラインの意思を汲んで俺達を見逃してレクイエムに向かうか…どっちを選ぶ?」
『俺に質問をするな……!本当に殺すぞ……!』
「そのつもりじゃなかったのか?……ん?」
『ん……?……この反応は……ハイネ、お前!?』
 
急にアスランの声色が変わったのをルナマリアは聞き逃さなかった。
何かに気付いてアスランは慌てている。それはハイネが仕掛けた罠の事だろうか、ルナマリアは辛うじて生き残っているコンソールを操作し、何が起こっているのかを探る。
 
「え……?この反応は……!」
 
レーダーに画面を移した時、レーダーに映る反応の文字にルナマリアは鳥肌が立った。この世界には決して存在しないMSの型式番号…手打ちで入力したMSZ-006が、彼等が対峙する宙域に真っ直ぐ向かってきていたのだ。
 
『お前は…ハイネ……これは……!』
「ははっ、本当に来やがった!どうする、MSの性能の差を腕でひっくり返す奴が来たぜ?」
『カミーユがここへ来るのか!』
 
「ハイネ…一体何時カミーユを呼んだの……?」
 
ハイネがカミーユを呼んだ素振りは一回も無い。気付かない内に呼んでいたのかと思ったが、アスランがそれを見逃すはずが無い事は彼と戦っていて良く分かっていた。
思い返せばカミーユはいつでも不思議な出現をしてきていた。最近のレクイエム攻略戦でも、ピンチのルナマリアを救ったのはカミーユのお陰だった。
決戦前のカミーユとの会話を思い出す。
 
「そうか、これがカミーユが言っていたニュータイプの…」
 
『何て事を……!』
「動揺が声に出てるぜ!」
 
アスランはカミーユの接近にうろたえる。アスランはカミーユの存在を危険視していた。
それは彼がミネルバに居た頃、カミーユの実力を知ってしまっていたからだ。
彼のデータを見た時、アスランはどうしようもないカミーユに対する劣等感を無意識に植え付けられた。それがアスランを狼狽させている要因だった。
Ζガンダムの反応は直ぐそこまで迫ってきている。
 
『くそっ!こうなればハイネ!お前だけでも……!』
「くっ!?」
 
インフィニットジャスティスがビームサーベルを構えた腕を後ろに引き、セイバーを貫こうと勢いをつける。

「ハイネェェェェ!」
『インパルス!?まだ動けるのか!』
 
インフィニットジャスティスがビームサーベルを突き出した所へ、インパルスが背中のバーニアスラスターを精一杯蒸かして乱暴にセイバーに体当たりする。
フラフラと滑稽にバーニアを蒸かすインパルスがセイバーの代わりにその刃を右肩に突き刺される。
 
「あうっ!」
『邪魔するなら……!』
 
襲う衝撃にルナマリアは呻いた。
インフィニットジャスティスは一旦ビームサーベルを引き抜き、再度インパルスに向けてビームサーベルを突き立てようとする。
 
(や…やられる!?)
『手ぇ出すな!』
 
ルナマリアが観念した時、吹っ飛ばされたセイバーが戻ってきてその身をインパルスの楯にした。
 
……瞬間、世界の時間がそこだけ止まったように静寂が支配する。
インフィニットジャスティスが突き出したビームサーベルは綺麗にセイバーのコックピットを貫いていた。その余りにもの綺麗な突きに、セイバーは爆発を起こさない。ただ、それに乗っていた者が居ないだけである。
まだ動けそうな、そして、今にも動き出しそうなセイバーだが、MSの命の光にも見れるモノアイの光が、静かに消える。
インフィニットジャスティスがビームサーベルを引き抜くと、セイバーは思い出したように爆発を始めた。
 
「ハ…ハ…ハイネェェェェェェェェ!」
「うあああああぁぁぁぁぁぁ!」
 
ルナマリアがハイネの名を絶叫する。
目の前で貫かれ、それを間近で目撃してしまったルナマリアの目からは大量の涙が止め処なく溢れては頬を流れる。
同時に辿り着いたΖガンダムのコックピットの中でカミーユは咆哮を上げて頭を抱
える。間に合わなかった、助けられなかった…その絶望感がカミーユを怒り狂わせる。
そのカミーユの感情はマシンのシステムを通してΖガンダムに反映される。カミーユの感情が力になり、それがΖガンダムを不思議な光で包んだ。
 
「何故だ!?何故殺した!?お前がハイネを殺す理由が何処にある!?」
 
両手で銃剣を構え、インフィニットジャスティスに切り掛かる。それをインフィニットジャスティスは二本のビームサーベルで防いだ。
 
『こ…殺すつもりは……殺すつもりは無かったんだ!』
 
カミーユの耳に聞こえてくるアスランの声は涙声だった。彼自身、かなり混乱していたのだろう。
 
ルナマリアは必死にインパルスをミネルバへ向かわせる。Ζガンダムがインフィニットジャスティスを押さえ込んでいる隙に、少しでも安心できる場所に逃げたかったのだ。
ハイネが死んだ事でショックを受け、その反動でルナマリアもパニックに陥り、藁にも縋る気持ちで振り向かないように逃げる。
その表情は青ざめ、今にも発狂しそうな声で呟く。

「こ、こんな…こんな事になっちゃうなんて……!あたしの…あたしのせいでハイネがぁ……!」
 
混乱と悲しみで涙が止め処なく溢れてくる。アスランに対する憎しみは、恐怖へと変わっていた。
 
「に…逃げなくちゃ…あたしも…アイツに…あの悪魔に殺されちゃう……!」
 
ルナマリアは逃げると同時にミネルバのメイリンの下に通信回線を繋げようとするが、中々上手く繋がらない。気が触れたようにスイッチを連打し、必死に呼びかける。
 
「メイリン!メイリン!助けて、お姉ちゃんを助けて!メイリン!」
 
叫び続けながらインパルスはバランスの悪くなった機体をフラフラと進ませる。
バーニアから吹き出る火が、まるで当ても無く彷徨う人魂のようであった。
 
 
「ハイネは…ハイネは元仲間だったじゃないか!?それを…殺すなんて!」
『殺すとは言ったが、本気で言ったわけじゃなかったんだ!俺は…ただ脅しをかけただけで、殺そうと思って殺したんじゃないんだ!』
 
二人はチャンバラを繰り返して絶叫しあう。喉を枯らすほどの大声が、時折裏返ってより悲壮感を際立たせていた。
 
『本当に弾みだったんだ!ルナマリアも、致命傷は避けて動けなくさせるつもりで…それでやったらアイツが!』
「そんな言い訳を口にしたところで事実は!」
『違う!あれは事故だったんだ、俺のせいじゃない!』
「それで…それで免罪符を受け取った積もりか!?」
 
Ζガンダムの光が一層強くなる。
インフィニットジャスティスのビームサーベルを弾き、ビームライフルを投げ捨ててビームサーベルに持ち替える。
 
「自分でやったことも認識できないのか、お前は!」
『で…出来ない!俺は…俺はそんなのにはもう耐えられない!』
「そうやって逃げるから誰もお前に見向きもしなくなったんだ!それを分かるだけで、世界が変わることを知るべきなんだよ!』
『もうたくさんだ!カミーユの言うとおり…それだけじゃない!ハイネにも言われたとおり、俺は無責任で全てから逃げているだけの卑怯な男なんだ!だから…勘弁してくれ……!』
「そこで何とか頑張れるのが…人間じゃないか!」
『俺は…俺はもう駄目なんだよ!これ以上俺を責めないでくれ!苦しめないでくれ!』
「駄目だ、アスラン!ここで又逃げちゃ…同じ事の繰り返しになるんだぞ!同じ苦しみが繰り返されるんだぞ!」
『止めろ止めろ止めろ!これ以上責めるなら…俺はぁ!』
 
インフィニットジャスティスがフォルティス砲を放ってビームサーベルを連結させる。そのままΖガンダムが回避するであろう方向に向けて加速を掛けようとした。
しかし……
 
「!?」
 
Ζガンダムはフォルティス砲のビームを避けなかった。それどころかビームは不思議な光に弾かれてしまう。
 
「あの光は……!?」
 
まるでファンタジーの中の出来事のような光景にアスランは激しく動揺する。夢なら夢で早く醒めて欲しいとも思った。
しかし、目の前の現実は確かに存在していて、アスランには拒否するべくもない。

「くそぅっ!」
 
ビームサーベルを保持させたままビームライフルを構え、フォルティス砲と同時に何発も打ち込む。しかし、全て不思議な光に阻まれて無効化されてしまう。
 
「カ、カミーユ…お前は一体何者なんだ!?」
 
恐怖を全身で感じながら、アスランはインフィニットジャスティスを後退させる。こんな化け物を相手にしていたのでは命が幾つあっても足りないと感じたからだ。
 
「アスラン……!そうやって自分に言い訳して逃げるから!」
 
諦めの表情を浮かべ、カミーユは逃げるインフィニットジャスティスを睨む。
Ζガンダムを包む光は更に輝きを増し、ビームサーベルを構える。
すると、ビームサーベルが太くなり、その長さはグングン伸びていく。
そして、距離が大分開いているというのにΖガンダムはビームサーベルを振りかぶって勢い良く振り下ろした。
 
「お前だけが苦しんでるんじゃないんだよぉぉっ!」
「な……!?」
 
振り下ろされた巨大なビームサーベルは鞭の様にしなり、逃走を続けるインフィニットジャスティスの脚部をスカートアーマー部分の根元から切り飛ばす。そして、そのまま衝撃でデブリに衝突し、アスランは気を失い、インフィニットジャスティスは彼方に流されていった。
 
カミーユはそれを見届けるとビームライフルを回収し、Ζガンダムをウェイブライダーに変形させてステーション・ワンへと進路をとる。
カミーユはアスランに止めを刺さなかった。今は一刻も早くレクイエムを止める事が優先される目的だったからだ。そして、それは散っていったハイネと交わした誓いでもある。
憎しみに身を焦がれそうになりながらも、カミーユは必死にそれを抑えてウェイブライダーを加速させた……