Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第50話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:48:09

第五十話「伝説の終焉に……」

交戦を続けるデスティニーとストライクフリーダムはその場をレクイエムの近くに移していた。ストライクフリーダムは遠距離からの砲撃を心掛け、デスティニーはそれをかわして執拗に接近戦を仕掛けようとしている。
 
『君は…なんでいつも!』
「あんたが居るからだろ!」
 
アロンダイトによる接近戦を諦め、シンはビームライフルを構えさせる。
デスティニーはそれを連射して空いている腕でフラッシュエッジを投げつける。
ストライクフリーダムはビームをかわし、飛んで来たフラッシュエッジをビームサーベルで叩き落す。
ストライクフリーダムは反撃でカリドゥスを放つが、デスティニーの残像に当てるのが精一杯だった。
 
『議長はレクイエムをオーブに向けてるんだぞ!君はそれが本当にプラントの為になると思っているの!?』
「そ…それは……!」
『だったら、ラクスの言う事をちゃんと聞いて、その上で君自身で考えてくれ!僕達は本当は戦わなくてもいいのかもしれないだろ!?』
「俺は……!」
『シン、騙されるな!』
『!?』
 
二人の戦いに四機のドラグーンが紛れ込んでくる。レジェンドから放たれたそれはストライクフリーダムに照準を絞り、少ないながらも斉射を浴びせる。
 
『君はっ!』
「ふん…キラ=ヤマトか……いかにも人を殺しそうな名前だな!」
『何だって!?』
「お前は殺してないつもりだろうが…実際には間接的に殺していると言える!」
『君は…僕の戦い方の事を言っているのか!?』
 
レジェンドは展開したドラグーンを自機に呼び戻し、それを周りに固定してビームライフルと一緒に一斉に放つ。キラのお得意のフルバーストアタックを擬似的に真似た攻撃だ。
 
『クッ!』
「お前は創造主のエゴによって生み出されたわけだが、成る程な?創造主のエゴもきっちりと受け継いでいると見える!」
『何を言っているんだ!?』
「お前を造った男の話だ。完全な命を造れると思い上がった男のエゴ…キラ=ヤマト、それはお前そのものじゃないか!」
『僕は…そんなものじゃない!』
「いや、キラ=ヤマト…お前も俺と同じ、人形だ」
『!?』
 
レジェンドはビームサーベルを片手にビームライフルを連射してストライクフリーダムに接近をかける。ストライクフリーダムはそれを阻むように二丁のライフルとクスィフィアスを同時に撃つ。

「シン、お前はラクス=クラインの下へ向かえ!こいつは俺が仕留める!」
『ラクス=クラインって……!』
「奴が全ての元凶だ!この男も、あの女の言葉に従って行動しているに過ぎん!ラクス=クラインさえ倒せば、この戦争は終わる!」
『そ、そうか!』
 
シンは疲労からか、まともな思考が出来ずにいた。レイに言われた事も殆どその意味を理解できていない。
レイはストライクフリーダムに、キラに私情を挟んでいた。彼が最も望む結末は、自分の手でキラを倒し、デュランダルの理想を実現させ、その後で自らは去るというものだった。
感情がどうしても優先されてしまう激情家のシンには、この状況でそれを語ってしまえば自分の言う事は聞かないだろうと推測し、多くを語らなかった。
そんなレイの想いは露知らず、言われるがままにシンはデスティニーをエターナルが存在する宙域へと向ける。
 
『そうはさせない!』
「キラ=ヤマト!お前の相手は俺だということをまだ認めないか!」
 
デスティニーを食い止めようとレジェンドに背を向けたのはキラにまだ余裕が残っている証拠だった。
その余裕がレイにとっては隙になる。レジェンドはストライクフリーダムの背後から組み付き、ビームサーベルを突き出す。
 
『ぐぅっ!』
「何!?」
 
ストライクフリーダムは背後のレジェンドに肘鉄をかまし、引き剥がす。
 
『ラクスは!』
「お前の御主人様だろ!」
 
レジェンドがストライクフリーダムの腹部に蹴りを突き入れる。ストライクフリーダムは姿勢制御し、ビームライフルを撃つ。
 
「戦場で敵に背を向けるのは、お前が遊びで戦争をしている証拠だ!」
『僕は本気だ!』
「お前が何時戦争に本気になったと言うのだ!?」
 
ストライクフリーダムのビームをかわし、レジェンドはドラグーンを展開してストライクフリーダムの背後を埋める。横にしか逃げられないストライクフリーダムは、レジェンドのビームライフルの連射から最大加速で逃げる。
 
『君がラウ=ル=クルーゼの様なクローンだとしても!』
「それが何だと言うのだ!」
『僕は君を殺せない!』
「殺せだなんて頼んでいない!お前は俺と共に滅ぶべきだと言っている!」
『君だって……!死ぬ事は無いじゃないか!何でもっと素直に世界と向き合わないんだ!?それだけで、君は別の人として生きていけるってのに……』
 
逃げるストライクフリーダムをドラグーンが追いかけて一斉射する。
レジェンドもそれに追随する。

「お前は、自分がどのような存在か見えてないから呑気な事を言う!本当の自分を見つめてみろ!その呪われた運命に、お前は耐えられるのか!?」
『僕は出来る!君みたいに絶望して逃げたりなんかしないし、諦めて世捨て人になったりしない!だから僕は再び戦場に戻ってきたんだ!』
「俺は逃げてなどいない!事実を認めた上で、こうしている!なら、お前の罪はどうなる!?ラウを殺した事、戦禍を無駄に拡げた事、それを認めないでお前はのうのうと生きるというのか、キラ=ヤマト!?」
『それは僕が生きていく限り償っていく!覚悟はある!』
「何も理解できていない男だ!」
 
ストライクフリーダムは急旋回から二丁のビームライフルを連結させてレジェンドを狙う。
レジェンドはドラグーンのビームを前面に雨のように撃ち、身を隠して本体だけ離脱する。
放たれた連結ライフルのビームはドラグーンを二機巻き込み、即座に連結を外した二丁ライフルで残りの二機を撃ち落す。
 
『君が君に自信が無いのなら!』
「戯言を言うな!」
『それがラウ=ル=クルーゼの怨念によるものなら、それは間違いだ!』
「ラウが…関係あるか!」
『君は君だろ!?彼じゃない!』
 
レジェンドを捕捉したストライクフリーダムは全砲門を向ける。ドラグーンは無くとも十分な威力を誇る。
 
「世迷言を……!俺はギルの為に戦っている!」
 
ストライクフリーダムの一斉射撃をかわし、ビームライフルを連射する。
 
『議長にも囚われないで!議長は君を利用しているだけだ!』
 
言われた瞬間、レイは急に表情を一変させる。

「貴様なんかにギルの何が分かる!?」
 
レイは目を見開き、彼らしからぬ大声で怒鳴る。
彼が一番我慢ならない事、それはデュランダルを中傷することだった。キラの言葉はレイの感情の琴線に触れたのだ。
 
『!?』
「誰なのかも分からない俺は、ギルが居なかったら生きられなかったんだぞ!?それなのに、お前は俺がギルの為に戦っちゃいけないって言うのか!?」
『議長は…!』
「お前だってラクスの為に戦ってるじゃないか!?それと俺の事は違うって言うのか!?」
 
レジェンドが困惑して固まっているストライクフリーダムにビームサーベルを構えて突撃する。
 
『けど、やっぱりデュランダル議長のやっていることは間違っている!僕達はそれを正す為に!』
「俺にとってギルは間違いじゃない!」

 
エターナルへ向かう道すがら、シンは考えていた。レイにストライクフリーダムの相手を任せてきてしまったが、彼だけで大丈夫だろうかという不安があったからだ。
ストライクフリーダムと対峙していた時のレイは少し雰囲気が違った。普段の冷静な彼からは想像できない憎しみが込められているように感じられた。
そのせいで無理をしすぎるのではないのか、心配だった。
尤も、無茶が専売特許のようなシンに心配される筋合いはないのだが、今のレイは何か違うような気がした。嫌な予感がシンの脳裏を過ぎる。
 
(……やっぱりレイの事が心配だ、戻ろう!)
 
レイは、デュランダルの為なら命を賭してでも戦うであろう。相手がストライクフリーダムであるのならば、それを確実に仕留める為には残り短い命をも削って無理をするだろう。
しかし、シンはレイを親友だと思っていた。アカデミーからの長い付き合いでもあるし、ミネルバのパイロットの中では同年齢の同性相手でもあった。
そんなレイだからこそ、シンは無理をしないで欲しかった。そして、出来るならこの戦いが終わった後もいつもの様に厭味を聞かせて欲しい。
そう願ってシンはデスティニーを反転させ、先程のレジェンドとストライクフリーダムの交戦現場へと戻る。
 
 
ストライクフリーダムはレジェンドのビームサーベルをかわし、レクイエムから離れる。それを追うレジェンド。
 
「キラ=ヤマト!お前はやっぱりこの世に存在してはいけない!」
『く……!』
 
追随するレジェンドはビームサーベルを振り回し、ストライクフリーダムはそれをあくせくかわしながら戦場を駆ける。
 
『僕だって…生きたいんだ!君だって生きたいんだろ!?議長の為に!』
「お前と一緒にするな!ラウの事を知らないのか!?」
『彼の事を……!』
「クローンの俺達はな!テロメアの短さから寿命が極端に短いんだよ!だから、たったの十六年しか生きていないのにもう老化が始まっている!」
『そ…そんな……君も……!』
「これが俺の運命だ!どうしようもない…それで好きに生きて何が悪い!?」
『だからって、誰かを巻き込む事は無いじゃないか!』
 
レジェンドのビームサーベルが空を切り、ストライクフリーダムは背後の絶好の位置でレジェンドを据える。この瞬間、ストライクフリーダムの腹部のカリドゥスにエネルギーが集中し、レジェンドを照らした。
 
「しまった…キラ=ヤマト!」
『これで!』
 
このまま発射すれば、上手くレジェンドのバーニアだけを破壊できるはずだった。
 
『レイィィィィィィィ!』
 
しかし、その時デスティニーが二機に猛スピードで接近してくる。
 
『デスティニー!?』
「は……!」

シンの声に気を取られたキラは、カリドゥスの発射が一瞬だけ遅れてしまう。
その一瞬を突き、レジェンドがストライクフリーダムに振り向いて、ビームサーベルをカリドゥスに向けて突き刺そうと腕を引く。カリドゥスに直撃させれば、溜まったエネルギーが行き場を失い、ストライクフリーダムは爆散する筈だった。
しかし……
 
『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!』
「あぁっ……!」
 
絶叫をするキラ、呆然とするレイ。
カリドゥスの発射がほんの一瞬早く、レジェンドはビームサーベルをあと少しのところまで伸ばしながらも、カリドゥスの光を頭部からモロに浴びる。
出力を強化されたその一撃は太く、その光の中でレジェンドが爆散を始める。
 
「あ…あ…ぁ……レ…レイ……?」
 
シンの目の前でレジェンドが崩れていく。
特徴的なドラグーンを収納する大型のバックパックは剥がれ、レジェンドというMSを形作っていた全ての要素が砂が崩れるようにバラバラに砕けていく。
 
「レイィィィィィィィィィィ!?」
 
一度発射してしまえば、後はエネルギーを放出し終わるまで止まらない。
カリドゥスがレジェンドを粉々に砕き、残骸となって宇宙に散らばって爆発する。
 
「は…あぁ……あ……!」
『あ…あぁ……く……!』
 
激しく動揺する二人。
シンはレイが殺された事に、キラは殺してしまった事に深く絶望する。
 
「あ…あんたなんかに……あんたなんかにレイを殺す権利があったのかよ!?レイは…レイはぁっ!」
『ぼ…僕は……』
 
二人は涙を流せない。現実だとしても余りに唐突過ぎた。
 

「レイの気配が消えた……?あの向こうで……くっ!」
  
ステーション・ワンへ向かうウェイブライダーの中、カミーユもレイの死亡を感じ取っていた。
 
「ルナマリアはミネルバの近く……他には…シン!」
 
先程から大量の情報が頭の中に流れ込んでくる。戦場は、カミーユにとって地獄のような憎しみや悲しみが渦巻いている。それは、ミネルバやアークエンジェルだけではない、他のザフトやオーブ・連合兵も同様だった。
心配事は山ほどある。しかし、ハイネの意思を継ぐカミーユは、レクイエムの発射阻止を優先する。中継基地は、直ぐ其処まで迫っていた。

 
「何?…インパルスが戻ってくる!?」
 
MSデッキで無線に出たマッドがブリッジからの報告に驚きの声を上げる。
 
「ちっ…左舷は使えん、右舷のハッチに誘導しろ!」
「了解っす!網張って!」
 
ミネルバもアークエンジェルとの戦いと、他の多数のオーブ・連合軍の攻撃によって半壊状態になっていた。対するアークエンジェルも先程流れてきたアカツキを回収したが、こちらも同様に損傷が激しく、特徴的なカタパルトの右側が見事に無くなっている。
 
「タリア艦長、これ以上は……!」
「ギル……!これがあなたの出した答えだというの……!」
 
ジェネシスの問答無用の一撃を目の当たりにし、それに対してタリアは激しい憤りを覚えていた。
幾らなんでもこれは酷すぎる。
 
「お姉ちゃん…大丈夫なの……?」
「インパルスはボロボロだが、コックピットの中は無事だ!心配するな、メイリン!」
 
バートがメイリンを励ます。
ミネルバにボロボロになったインパルスが帰還し、フラフラと頼りなく揺れる機体をワイヤーで絡めとリ、引き込んで網に引っ掛ける。コックピットハッチがぎこちなく開き、焦燥しきった顔をしたルナマリアが体を預けるように雪崩落ちる。
 
「ぅおっと!」
 
体の力が抜けたルナマリアをヴィーノが受け止めた。
 
「大丈夫か、ルナマリア?」
「ハイネが…あたしのせいでハイネが死んじゃったの……」
「えっ!?た…隊長さんが!?」
「だ、誰に殺されたんだ!?」
 
ルナマリアの衝撃の言葉にマッドが会話に割り込んでくる。
 
「あの裏切り者に…でも、あたしがジャスティスを残そうって言ったから……そしたらアイツが追って来て……!」
 
パニック状態が続いているルナマリアの言葉では状況が上手く伝わらない。しかし、"裏切り者"と言う言葉が誰を示しているのかは直ぐに分かった。
 
「アスランだと……!そ、それでお前は何とか逃げられたんだな?」
「うん……」
 
力無くルナマリアは頷く。

「あの野郎……!劣等感の塊みたいな奴だったが、ハイネを殺すとは……!」
 
マッドは歯を食いしばり、指を鳴らした。しかし直ぐにルナマリアを気にし、表情を改める。
 
「で、奴はどうした?」
「カミーユが戦ってたけど、どうなったかは分からないわ……。あたしはもうあの人が怖くなって…逃げる事しか考えられなかった……!」
「…ん、それは……いいんだ。お前さんにはメイリンが居るからな、生きてやらなくちゃ。……ヴィーノ、ルナマリアを頼むぞ」
「はいっす!」
 
マッドはルナマリアの肩を抱いて慰め、二回肩を叩くとヴィーノにルナマリアを休ませるよう指示する。
 
「あいつめ……ヨウラン、インパルスの修理は…」
「駄目です、チェストとレッグの予備はこの間ので使い切ってしまいました。フォースの予備はありますけど、これじゃもう使い物になりませんよ?」
「換装とエネルギーの補給だけでもいい。動くのなら、まだ何かの役に立つかも知れん」
「応急処置にしかなりませんが…張りぼてみたいな物ですよ?」
「万が一に備えてだ。使えるものは使わなきゃ、この戦いは生き残れないぞ」
「はい」
 
ヨウランが他のメカニックを集めて即座にインパルスの修理に掛る。
 
「……カミーユが負けるとは思えねぇが……」
 
虚空の宇宙を見つめてマッドは呟いた。
戦況はザフト、オーブ・連合の戦力がジェネシスに大半を削られた事により、多少の落ち着きを見せていた。しかし、所々では未だに激しい戦争の火が瞬いている。
 
同じ頃、ミネルバのシンの私室の中、先程から怯えていたステラは何かを感じていた。
 
「シン……?」
 
シンの叫び声が何故か聞こえた気がした。
ステラはシーツを放り投げ、部屋を飛び出してMSデッキへ向かう。過度の緊張感とストレスから居た堪れなくなったステラは、もうじっとしていられなかった。
 
通路を駆け抜け、MSデッキへ到着する。そこで丁度ヴィーノに連れられたルナマリアとすれ違った。
 
「ス、ステラ……?」
 
半ば放心状態のルナマリアはそれに驚いて即座に振り向く。
ステラは無重力の中を器用に体のバランスをとって修理中のインパルスに取り付い
た。それにマッドが気付き、慌ててステラを注意する。

「こらっ!お前は何しにここに来たんだ!ノーマルスーツも着ないで…ここは空気が漏れているんだぞ!」
 
そんなマッドの怒声も無視して、ステラは外からインパルスのコックピットハッチを開いて、中に乗り込んでしまう。
 
「お…おい、ステラ!」
 
すぐさまマッドがステラを引きずり出そうとコックピットに向かったが、同じ系統のガイアの操作を覚えていたのか、あっさりとハッチを閉められてしまう。
 
「おい、何やってんだお前は!?早く降りて来い!」
『駄目!シンのところへ行くの!』
「子供の遊びじゃないんだぞ……!」
 
インパルスが起動し、機体がアイドリングする。
 
「くそっ!ヨウラン、応急処置はどこまでだ!?」
「か、換装とエネルギーの補給を少しだけ…」
「何だと!?これじゃ行っちまう……!」
 
マッドの備えがステラの予想外の行動により、裏目に出てしまった。本来なら最後の最後、もっと重要な場面で威嚇としてインパルスを使う予定だった。しかし、それも意味を失う。
 
「シン…待ってて、ステラが行く!」
 
インパルスがMSデッキでバーニアを蒸かす。その衝撃波にマッド達は吹き飛ばされてしまう。
その様子はブリッジでも確認されていた。
 
「MSデッキ、何があったんですか!?……えっ、ステラが!?」
「止めさせなさい!」
「駄目です!ステラはもうインパルスに乗り込んで……カタパルトハッチを突き破るつもりです!」
「ハッチ開け!」
「アーサー!?」
 
突然アーサーがハッチオープンの命令を出す。それに驚いてタリアはアーサーを睨む。
 
「どういう事かしら?」
「分かってます、艦長。目の前にはアークエンジェルです」
 
視線は戦場を見つめたまま、アーサーはタリアと視線を合わせずに応える。
アーサーは分かっていた。タリアがどのような心境で、どのような行動をとることが彼女の為になるかを、長い間副官を務めていて経験として理解していた。
その上で、アーサーは最も適当であると思われる命令を行ったに過ぎなかった。

「先程、艦長に権限は頂いたはずですが?」
「言ってくれるわね……でも、助かったわ」
 
小声でアーサーに感謝するタリア。
彼女はアークエンジェルを相手にするのに余計な隙を与えたくなかった。
ステラがハッチを破壊すればクルーは混乱するし、アークエンジェルにもその事が伝わってしまう。
それならハッチオープンの命令を出せば済む話なのだが、ステラの様な小娘に振り回されるのはタリアのプライドに障る。艦長としては当然下すべき内容であるが、タリアがステラの我侭を聞いたという事実はクルーの士気の低下を引き起こす可能性もある。
その事を理解していたアーサーが彼女の身代わりになり、命令を出したのだ。アーサーが勝手に下した命令であれば、彼の気性を理解している気心の知れたブリッジクルー故に、違和感を持たないだろうと踏んだのだ。
 
ミネルバのカタパルトハッチを突き破ろうと構えていたステラだったが、急に開いたハッチに目を丸くした。
しかし、即座に気を取り直して口元を引き締める。
 
「シン、今行く!」
 
ミネルバのカタパルトから達磨状態のインパルスが飛び出す。
 
「ミネルバからMSの出撃を確認!」
「…あれは?大佐の回収は終わっているわね!」
「迎撃しますか?」
「待って、仕掛けてこないのなら放っておいて!」
 
アークエンジェルでもインパルスの出撃をキャッチしていた。
しかし、アークエンジェルにも既に余裕は無く、半壊状態のインパルスの相手をしているほど暇ではない。
インパルスはそのまま何かに導かれるように飛んでいく。
 
ステラにはシンがどこに居るのかが何となく分かっていた。何故かは分からないが、シンの存在をステラは感じ取っていた。