Z-Seed_942_第11話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 13:03:25

第11話『遭遇』

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テレビのニュースはザフト連合間の衝突を絶えず流していた。
その背景には、先日のユニウスセブン落下事件の報復を強行した連合の核攻撃があったのだ。

「さて、どうなるか……」

どんなに発展しようとも、オーブが小国であるのは変え難い事実である。
すなわち、混乱の渦に飲まれれば行き着く先は想像に難くない。
しかし、オーブの頭は鉄より固く、そう簡単に膝を屈することはあるまいとも思う。
どちらに転ぶかは知る由もないが、連合に売り渡されるような事態は御免被りたいものだ。

「隊長、お待ちかねの人がいらっしゃいましたよ」
「通せ」

アビーがコンソールを叩くと、ブリッジの自動ドアが音を立て、一つの陰が姿を露にした。
「失礼します。この度、ジュール隊から異動になりました、ディアッカ・エルスマンであります」
「長旅、ご苦労」

浅黒い肌と金髪が印象的な男は、敬礼をして私の前に歩み寄った。
精悍な顔付きは歴戦の勇士を換気させ、私は少なからずディアッカという男に期待せずにはいられなかった。

「君にはMS隊の指揮、およびこの艦の副長の教育係をして頂く」
「……教育係ですか?」
「私の右腕は経験不足でな。ぜひ鍛えてやって欲しいのだ」
「……了解!」

突拍子もない命令にディアッカは戸惑いを隠せない様子であった。
彼は緑服、シンは黒服であるから、この上なく異様な命令であるのは間違いない。

「それと……」
「何か?」
「堅苦しいのはいらん」
「グゥレィトォ!」

彼を見ているとヤザンを思い出す。ヤザンは元気にやっているのだろうか。

「アビー」

私も物好きだ。

「黄色ベースの制服を本国に発注をしてくれ」
「……はぁ」

アビーはあっけに取られて作業を開始した。
そのうち、ティターンズ専用の制服を全員分発注せねばな。

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行政局から許可を出され、半弦上陸に入った兵たちは足取りも軽く、オーブの街に飲み込まれて行った。
私もディアッカにブリッジを任せ、疲れた体を休めるためにオーブの地に降り立った。
街の喧騒は休暇にふさわしくないと思い、私は郊外に車を走らせた。
流石に軍服は不味いので、信者から貰って以来、全く活躍しなかった真新しい私服に袖を通していた。
黒のレザーパンツに、黒のレザージャケット。そして黒のサングラス。
何故か分からぬが、道中に幾度か職務質問を受けながら私はやっとの思いで浜辺に着いた。
潮の香りは芳しく、胸一杯に新鮮な空気を溜め込んだ。
明日から篭った油臭い空気を吸って生きていくのだから、精一杯、美味い酸素を楽しんでおきたい所だ。

「すみませーん!ボール取って下さーい!」

声に反応し足元を見ると、サッカーボールの半分が砂に埋まっていた。
三人の子供たちが道路から手を振っていることから推測すると、勢い余ってここまで飛ばしてしまったのだろう。

「……ちっ」

本音を言うと子供は嫌いなのだ。甘やかせばつけ上がり、叱れば泣き出すといった鬱陶しさに苛立つからだ。
だが、私は大人である。無視するような子供じみた真似はしない。
足を振り上げ、一気にバンカーショット――!

波の音が響いた。
本来なら砂の炸裂音がするはずにも関わらず。

「………ぷぷ」

子供たちの失笑が屈辱感をあおり、私はいたたまれない感覚に襲われた。
そう、空振りしたのだ。

「どうしたのですか?」
「聞いてよ!あのお兄さんが空振りしたんだよ!」
「笑ってはいけませんわ」

保護者らしき女性が何処からともなく道路に現れた。

「どうぞ」
「すみません」

私はサッカーボールを手に持ち、女性に手渡した。
女性の背後にいる子供たちの浮わついた雰囲気が鼻につくが、気にせぬことにした。

「とても三人のお子様の母親とは思えませんな。お若い」
「ええ、私はこの子たちの母親ではありませんから」

女性はにこやかに答えたが、ジョークを肩透かしされるのはあまり好きではあまり好きではない。

「では」

私は女性を一瞥し、車に乗り込んだ。いたたまれないのもあったが、
女性から発せられるオーラのようなものが私の第六感を刺激して止まなかったからだ。

――危険だ――

車の中でも私の感覚はこびりつくように耳元で囁いていた。

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「こいつを見てどう思う?」
「すごく……欲しいです……」
「何の話だ?」
「パ、パプティマス様!」

勤務時間中のことである。ディアッカの教師ぶりを密かに拝見すべく、ブリーフィングルームのドアから様子を覗くと、二人は『何か』に夢中になっていた。
好奇心に駆られた私は、気どられぬように二人に近付き、身を乗り出して『何か』を覗き込んだのである。

「……これは!?」
「別にやましいもんじゃないですよ。俺の私物です」

ディアッカの弁明も耳に入らず、私は『何か』に釘付けになった。
そこにあったのは――

「へへ、いいでしょう?俺の宝物の『ラクス・クライン限定アルバム』ですよ」

――浜辺で会った女性の、きらびやかな姿であった。

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