Zion-Seed_ガルマ_第01話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:08:50

「我々にはZAFTと正面から戦って勝つだけの戦力は無い。ならば正面から戦わずにいれば良い」
地球方面軍指令である、ガルマ・ザビの考えは明快である。
本来、ジオン公国が戦うべき相手は連合であり、プラントは横槍を入れてきただけの相手である。
互いに独立を望むスペースノイド同士が殺しあうことほど馬鹿げたことは無い、と
ガルマは考えていたのであった。
しかしながら、実際に武器を構えて対峙している以上、そんな理想論が通ると思うほど
ガルマは楽天的ではなかった。何より、彼は地球に降下したジオン軍人の命を預かる立場である。
己の理想にこだわり、いたずらに兵を殺すこともまたガルマの望むところではなかった。
それにしても、とガルマは思う。
かつてジオン・ダイクンが唱えたジオニズムは、同じく宇宙に出た人類であるコーディネイターにも
当てはまるのだろう。彼らもまた、宇宙に上がったことで得たものがあるはずだ。
だが、今やジオン公国とプラントは不幸なことに戦いを始めてしまっている。
彼もまたブリティッシュ作戦に関わった者として、戦争の勃発と無関係ではない。
ガルマにとって―と言うよりもジオン国民にとって―、ユニウス7を地球に落としたことにより、
プラントの市民があれほど激昂するとは思っていなかった。
ジオンでは、死者は宇宙葬されるのが普通であり、血のバレンタインの犠牲者もまた、
宇宙葬にふされたと考えられていた。
破壊されたコロニーを墓標に見立てるような行為など、思いもよらなかったことなのである。
「……やはり、互いを理解しあうというのは難しいことなのだろうな」
そう考えたところでガルマは思索を打ち切り、今後の戦略を考えることにした。
今の時点では戦い、殺しあうしか互いを理解する手段がないことが、皮肉に思えてならなかった。


現在、ユーラシア方面軍は順調に侵攻を続けている。
皮肉なことに、ZAFTの投下したニュートロンジャマーがジオンの侵攻を容易なものとしたのである。
予定よりも少ない被害と短い時間で、ジオン軍はユーラシア大陸北部を占拠しつつあった。
長大な補給線を維持しなければならないが、これについては当面宇宙からの投下で補うしかない。
幸い、穀倉地帯であるウクライナを押さえたことで食料については不安は無くなり、
レアメタル等の金属資源についても、オデッサの鉱山からの採掘は安定している。
「問題はエネルギーか」
大都市ならば核融合発電所を建設すれば事足りる。だが、今必要なのはそれとは比較にならない
小型の(小型とはいえAD世紀の原子力発電所並みの発電量が必要だが)もの、それも多数である。
「それなら、火力発電所を建設すればよろしいでしょう」
ガルマに相談を受けたマ・クベはそう答えた。キシリアがガルマの補佐として送り込んだ男である。
もともとシベリアやウクライナは石炭や石油、天然ガスが豊富である。
石油資源こそ枯渇したが、石炭資源はまだ十分な量が埋蔵されているはずであった。
だが、コロニー国家であるジオンは火力発電所の建造技術のノウハウを持たない。
占領した地域から技術者を徴用して建設するにしろ、公害が発生することは明らかだった。
そんな発電所を大量に建設しなければならないのだ。
「背に腹は変えられないとはいえ、地球をまた痛めつけることになるな」
「ジオンの勝利のためです。致し方ありますまい。
MSのバッテリーの補給だけを目的になさるのでしたら、宇宙から投下すれば十分ですが…」
「その案は却下すると前に言った。それでは占領地の住民にエネルギーを供給できない」
シベリアの冬は過酷だと聞いている。放っておけば多くの住民が凍死してしまうことは明白であり、
それを見過ごすことなど、ガルマには出来なかった。
マ・クベに言わせれば甘い考えではあったが、結局は彼もガルマの考えに賛成した。
もっとも、それはガルマのように人道からではなく、冷徹な思考の道筋の帰結である。
ジオン公国の兵士の数はプラントよりは多いが、連合に比較すれば遥かに少ない。
発電所の建設とエネルギーの供給によって親ジオン住民を増やすことで、
マンパワーをある程度増強できると、彼は踏んだのだ。
いずれにせよ、こうして建設された発電所は、多くの住民の命を救うことになったのである。