Zion-Seed_51_第02話

Last-modified: 2007-12-12 (水) 20:09:15

C.E.0070年1月13日  L1宙域  世界樹


 この日、月のプトレマイオス基地より宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将が指揮するジオン軍艦隊がL1宙域に
向けて出撃した。その戦力は戦艦4隻、重巡洋艦26隻、軽巡洋艦51隻で更に後方には45隻の輸送空母が付き従い、3000機近いMSと400機の航宙戦闘機を輸送した。
 対する連合軍の戦力は、旗艦である宇宙母艦『メネラオス』以下、戦艦25隻、巡洋艦47隻、掃海艇等の小型
武装艦艇64隻、輸送艦及び補助艦45隻、という第8艦隊。これに同規模の艦隊である第1、第2艦隊が合流し、ジオン艦隊の約3倍の戦力を有していた。特に第8艦隊はハルバートン提督が司令官を務める艦隊で、練度、士気ともに高く、連合宇宙軍において最強と言われている艦隊である。
 戦力差は1:3――この数字に、誰もが連合の勝利を信じて疑わなかった。
 そしてC.E.0070年1月15日2240時、後に世界樹戦役と呼ばれる戦いの幕が上がった。
 序盤は連合艦隊がその圧倒的な火力をもってジオン艦隊に艦砲射撃を行い優位な立場に立った。これは多数の戦艦を有している連合に、対抗できる艦はムサイ級巡洋艦が有効射程距離に達するまでグワジン級戦艦4隻しかないためである。そうでなくても戦力差は大きい。この時にジオン艦隊が受けた被害は甚大であった。
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――――第2話
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 第2艦隊旗艦ルーズベルトの艦橋で、サザーランドは戦況を確認すると安堵の表情を浮かべる。


「ジオンも所詮はこの程度か……」


 連合軍上層部のジオンに対する認識は低い。それはサザーランドも同様であったが、彼にはひとつだけ気が
かりなことがあった。それはジオンにいるコーディネイターである。
 ジオン公国はダイクンの思想によりコーディネイター至上主義ではない。だからといってコーディネイターを締め出していることもなかった。その為にダイクンが共和国を建国した頃、彼の思想に共感した一部のコーディネイター達がジオンに亡命していたのである。
 ダイクンは元ブルーコスモスであったが、あくまで自然にナチュラルへ回帰してくれればよいという考えで
あり、コーディネイターの殲滅は考えていなかった。
 亡命してきた人々の多くは地球、プラント双方から差別されてたハーフコーディネイターやコーディネイターとナチュラルの夫婦だった。その為にジオンは他国に比べるとハーフもしくはクオーターが多く住んでいる。
ハーフとは言ってもその能力はナチュラルと比べれば十分に優秀だ。サザーランドは彼らがジオン軍に所属するとなると苦戦は免れないと考えていたのだ。


「杞憂だったか……?」
「艦長! 艦隊後方より接近する機影があります。これは……ジオンのMSです」
「何だと!!」


 数に勝る連合に真正面から戦うのはジオンにとって不利である。この事態にドズル中将は腕の立つパイロットを集め特別機動大隊を編成したのだ。この部隊は月を迂回し奇襲を成功させた。
 サザーランドは即座にメビウスを迎撃に向かわせるが、MS『ザクⅡ』によって突破を許してしまう。しかもジオン艦隊がミノフスキー粒子を散布すると戦況はさらに動く。突如連合のレーダー、センサー類の多くが使用不能となり、誘導兵器の類が使えなくなる。また通信システムに障害が発生し連合艦隊は大混乱に陥ったのだ。
 この混乱に生じてジオン艦隊からも多数のMSが発進するのだった。
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 第8艦隊旗艦メネラオス艦橋。
 前線を突破されてしまった連合は、既に戦力の50%以上を喪失していた。


「ロー轟沈!!」
「バーナード沈没!!」


 そして決定的な破局が訪れる。


「提督! 『アガメムノン』が……撃沈しました」
「なっ!!」


 その時ハルバートンは戦慄した。連合艦隊総旗艦である『アガメムノン』が突撃機動軍に所属したランバ・
ラル小隊こと「青い巨星」によって撃沈されてしまったのである。クルー達に動揺がはしる。


「……ここまでだな」


 連合艦隊は戦力の50%以上を失い艦隊旗艦も撃沈され、ハルバートンはこれ以上の戦闘継続は無意味と判断、統制を失い壊乱しつつあった残存艦艇の撤退を決断した。この際ハルバートンは艦艇を地球、L4、アルテミスの3方向に分けて撤退させた。これはジオン軍の艦艇数が少ないことを利用して、仮に分散させた艦隊の一つが追撃されても他の二つの艦隊は逃げおおせられると判断した上での撤退作戦であった。
 この目論みは成功したものの、その意図を察知したドズル中将は全艦隊の撃滅を諦め、撃滅する一艦隊を素
早く絞り込んだ。その目標とされたのは地球方面に逃走した第8艦隊であり、その中にはハルバートンの乗艦であるメネラオスの姿もあった。
 0455時、ハルバートン提督は殺到するジオン艦隊へ向けてメネラオスを反転させた。彼は自らを撤退する
味方艦隊の盾としたのである。メネラオスは主砲が熱で融解するまでビームを乱射させ、その鬼気迫る抵抗に
よりムサイ級巡洋艦を3隻撃破する。しかし0514時、メネラオスの主砲および対空火器は破壊され、戦闘能力を
失いジオン軍に拿捕されてしまう。結局ハルバートン提督は捕虜となってしまうのだった。
 ちなみにハルバートンを捕まえたのはエンデュミオンでの戦いで名声を上げていた黒い三連星である。


 こうして世界樹戦役は連合の敗北をもって終結したのだった。


 この一週間後の1月20日。世界樹での戦いにおいて敗北した連合宇宙軍はその戦力を30%にまで低下。事態に
焦った軍上層部は、禁じられた最終兵器ともいえる『核ミサイル』の使用を決定する。温存していた第6及び、第7艦隊によってジオン本国を破壊しようと試みたのだ。
 しかし、この艦隊はキシリア少将指揮する突撃機動軍艦隊によって阻止されてしまう。
 さらに一週間後の1月27日、ジオン軍はL4宙域にある東アジア共和国管理下の資源衛星「新星」を占領。
この衛星を宇宙での最前線基地、宇宙要塞ソロモンに改装することとなる。
 もはや、連合の宇宙における戦力は微々たるものであった。
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C.E.0070年2月7日  ジオン公国  公王府


 世界樹におけるジオンの勝利は、未だに民衆を酔いしれさせていた。そんな中、公王府ではデギン公王に
ギレンが驚くべき提案をしていた。


「お前は本気で言っているのかっ!」
「もちろんです父上」
「プラントに毒ガスを使用するなど……」


 世界樹での勝利によって、連合を含む多くの勢力がジオン公国への認識を変えることとなる。その中でも
開戦前から同盟の打診を受けていたプラントは即座に親ジオンを名乗り同盟を宣言した。しかし、勝ち馬に
乗ろうとするプラントの行為はギレンを不愉快にさせていた。


「本来使用するコロニーをメンデルからユニオスセブンに変更しただけです。問題ありません」
「ギレンよ、そんなことをすればどうなるか分かっているだろう」
「プラントは一滴の血も流しておりません――」


 ギレンの頭の中では、世界樹戦役はジオンとザフトの同盟軍が行なうはずであった。しかし、プラント側が
回答を保留にしたのだ。おかげでジオン艦隊は予想よりも大きな被害を被ることになったのである。


「奴らはジオン国民を犠牲にし、独立を果たそうとしています」
「しかし……これではコーディネイター達の反感を買うぞ」
「これはこれはっ! ブルーコスモスで手腕を発揮していた父上の言葉とは思えませんな」
「……言葉が過ぎるぞ」
「待ってくれ! プラントを攻めるのは構わないが、兵達は度重なる連戦で疲れている」
「私としては従来のブリテッシュ作戦を決行するべきと思いますが……」


 ドズルにキシリアも意見を述べるが、議論はまとまらない。収集が付かないとみたデギンは、今まで一言も
話さなかったガルマに声をかけた。


「わ、私がですか……」
「構わん。お前の考えを聞かせてくれ」


 突然の指名にガルマ・ザビは驚いたが、深呼吸するとゆっくりと口を開いた。


「……私はプラントへの攻撃に反対します」
「何故だ?」
「それは……大儀がないからです」
「大儀だと?」
「ジオンはスペースノイドの独立を掲げて今日まで戦ってきました。その我々が親ジオンを名乗り同盟を受け
入れたプラントを攻撃すれば大儀を失います」


 ガルマはこれに加えナチュラル、コーディネイター、ハーフおよびクオーターといった民衆もその共通の
目的のために団結してきたことを主張した。


「つまり大儀があればプラント攻撃に賛成なのだな」
「は、はい!」
「兄上、何かお考えが?」
「大西洋からおもしろい情報を得ていてな……」


 ギレンは不敵な笑みを浮かべ席を立った。


 ――そしてこの日の会合から一週間後の2月14日、その悲劇は起こる。