Zion-Seed_51_第03話

Last-modified: 2007-12-12 (水) 20:12:22

 C.E.0070年2月14日、農業プラントのユニウスセブンが何者かによって核攻撃をうけた。血のバレンタイン
と名付けられたこの殺戮劇は24万3721人もの人々が犠牲となった。
 この事件に対し大西洋連合はジオン公国の仕業と主張。
 これにジオン側は、連合のMAが核ミサイルを発射する瞬間の写真を提出し否定した。そしてギレン総帥は
プラント及び地球圏全域に向けて以下の演説を行なったのである。


『罪なきプラント市民の死に涙するものはいるか!? 当然だ!!


 哀れみ深い我がジオン国民は彼らの為に泣き、彼らの為に祈るだろう!


 同時に我が国民は満腔の怒りを邪悪な地球連合に向けなければならないっ!!


 プラント最高評議会をそそのかし、我々を敵対させようとした連合こそが真の敵なのであるっ!!』


 この演説は市民の間で話題となり、プラントはいっそう親ジオンとなる。それは評議会議員達も同様で、
彼らはギレンの行う行為に何の疑問も持たなかった。
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――――第3話
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 2月22日、ジオンとプラントのトップ会談において、ギレンはプラント側に対して核攻撃をうけたユニウス
セブンを譲渡するよう要求した。使い道のないコロニーをどうするか聞いてもジオン側はユニウスセブンを
渡せと言うだけであった。
 この時、プラント評議会議長であるシーゲル・クラインもギレンに全幅の信頼をよせていた。その為に
あっさりとユニウスセブンを引き渡してしまう。
 しかしシーゲルの信頼は最悪の形で裏切られてしまうのだった。


『これは愚劣なる地球市民に対する裁きの鉄槌である。


 神の放ったメギドの火に、必ずや彼らは屈するであろう!!』


 C.E.0070年3月1日、ジオン公国は空前絶後の作戦を実行にうつした。ユニウスセブンを巨大な弾頭に見立て、地上に落下させようというのだ。目標は、北アメリカ大陸北西部にある地球連合軍本部アラスカ基地。
 落下軌道をとるユニウスセブンに対して、連合軍は残っていた全ての艦艇と地上からの核ミサイルによって
アラスカへの直撃だけは阻止することに成功した。
 翌3月2日、ユニウスセブンは軌道を外れ南アメリカ大陸に墜落した。これによって南アメリカ大陸の26%が
消滅し、無数の破片は地球全土に降り注いだ。そして二次被害として衝撃波や津波、気象変動などが発生し、
長年にわたって悪影響を及ぼし続けた。その瞬間を地上から見上げた者は「空が落ちてくる」と表現し、地上の住人にとって畏怖対象となった。
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C.E.0070年3月4日  プラント


 この事件によりプラントでは数多くの意見が飛び交うこととなる。
 ナチュラルを殲滅したジオンを支持する者、大量虐殺だと主張し非難する者、またナチュラルはどうなっても良いが地球を破壊することに懸念を表する者、そして――


「どういうつもりだシーゲルッ!!」
「パトリック落ち着け!」


 ギレンの行為に怒りを表にした男がいた。プラント国防委員長のパトリック・ザラである。


「待ってくれ! 今回の出来事は私にも想定外……」
「ふざけるなっ!! ジオン側はお前の同意を得たと言っているぞ!!」
「そんなバカな……私は同意などしていない! 誤解だ!」


 パトリックはナチュラルに関していい考えを持っていない強硬派でシーゲルの政敵である。今回の出来事は
彼にとって都合のいい事件であったが、ユニウスセブンの落下は彼にとって到底許せる出来事ではなかった。


「レノアが眠る地をっ! レノアの墓標をっ!!」
「冷静になれパトリック!!
レノアさんの眠るユニウスセブンを落下させる作戦などに、私が同意をすると本気で思っているのか!?」


 彼は血のバレンタインにおいて愛妻のレノア・ザラを失っていたのである。ザラ夫妻は、ナチュラルに
関する意見ですれ違いが生じるようになっていた。しかし血のバレンタインによってレノアを失ったことと、
彼女の眠るユニウスセブン落下が合わさって、パトリックは妻への愛情を再確認する結果となる。そして
それはジオンに対する怒りとなった。


「破棄だ! ジオンとの同盟を即刻破棄しろ!!」
「ま、待て、そんな個人的な感情に……」
「個人的だとっ!?」


 胸倉を掴み言葉を続ける。


「市民の多くはこの事件に否定的だぞ!! それでもお前は個人的と言うつもりか!!!」
「そ、それは……」
「これを見ろ!」


 パトリックは徐にテレビをつけると、画面には桃色の髪をなびかせた娘がジオンを批判していた。


「お前の娘も許せないそうだ!」


 画面に映っている娘はラクス・クライン、シーゲルの娘でありプラントで絶大な人気の歌姫である。


「ラ、ラクス……」


 親友と愛娘の追求にシーゲルは頷くしかなかった。 


 結局プラントは、同盟をたった1ヶ月で破棄すると同時にジオンへ宣戦を布告するのであった。
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「予想通りの反応だな」


 ギレンは自分の執務室で報告書を読み終えると呟いた。


「これが閣下のお考えになっていた事ですか」


 ギレンの言葉に秘書のセシリアが声をかける。


「そうだ。コーディネイターは感情的になりやすいからな」


 実はユニウスセブンに向けて核ミサイルを発射することをギレンは知っていた。
 大西洋連合は相次ぐ敗退をうけて何か打開策はないかとブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルに助言を
求めたのだ。そして彼はプラントを核攻撃しジオンと潰し合う案を提示したのだった。ギレンはこの詳細を
ブルーコスモスにいる穏健派から得ていたのである。
 この核攻撃を黙認し、証拠の写真を撮ることでプラントを信用させた。そして友好と言いながらユニウス
セブンを譲り受けて、それを地上に落下させる。ギレンはコロニー落としによりプラントが必ず宣戦布告を
してくると確信していた。


「それにユニウスセブンにはパトリック・ザラの妻がいたからな」


 これによりギレンのパズルは完成した。


「プラント側から攻撃を受ければ大義はできる……ガルマも良い所に気が付いたものだ」


 ジオンが大儀を失わずにすんだことに、ギレンは弟ガルマに対する認識を改めるのだった。


「さて、次は連合との休戦協定か……」