コードギアスDESTINY
第6話 アスラン脱走~黒き誘惑~
ジブラルタル基地
対ロゴスに備え、連合軍との合流ポイントである。
様々な戦艦が港に到着する中…そこにミネルバもあった。
シン・アスカ、レイ・ザ・バレルはアークエンジェル撃墜の功績を得てFAITHの称号をデュランダル議長直々に得ることになった。
デュランダル議長は、さらにシンとアスランを呼び寄せる。
「これは…」
格納庫に呼び出されたシンとアスラン。
そこにはデュランダルと、そしてラクス…アスランだけは、それがラクスの偽物であるミーア・キャンベルであることを知っていた。
デュランダルは2人を呼び出すと、格納庫の電気をつける。
そこに現れるのは、二体の最新鋭MSの姿。
「君達に対する私からのお礼のようなものだ」
新たなMS…ディスティニー、そしてレジェンドである。
シンの発達するMS技術に対してインパルスではそれを賄うことができなくなってきているがために、新たに作り出されたMSがこのディスティニーである。
「これから、私はロゴスを討ち、戦争を終わらせる」
デュランダルはシンとアスランに向かって語りかける。
「はい!それで、戦いは終わるんですね?」
シンの目は輝きに満ちていた。その先にあるであろう平和を信じて。
デュランダルは、シンからアスランに視線を移す。
「キラ・ヤマト君だったか…彼は運が悪かった。自分自身のやるべきことが彼にも十分わかっていれば、戦争をもっと上手に生きられたかもしれないのに…」
デュランダルはアスランの気持ちを察しながらそういう。
「…戦争を上手に生きることなんか誰にも出来ないですよ」
「アスラン…」
議長に対する言葉にミーアがアスランを抑えるように言葉を出す。
「勿論、戦争は悲劇しか生み出さない。私は戦争を止めるためには、人が自分の役割を知ることが大切だと思っている。
自分の役割、自分の可能性、それを導けるようになれば、人は己の業の領域から外には出ない。
戦争は己の業、欲を未来に求めるからそうなる。だとしたら、最初から未来を提示しておけばいい。
人は、その未来の中で世界をつくりだし、地球圏全体が大きく成長し続けることとなる」
デュランダルは、アスランを見つめながら言葉を続けた。
シンにとって、デュランダルの言葉は新たな原動力となる。
未来…人類の可能性、自分の隠された才能を生かすことで、戦争は無くなり、さらには…自分の力を伸ばせる。
ステラやマユだって、あんな生き方をしなくても、自分の可能性を導き出せる。
それは、誰にとっても夢のような話だ。だが、そんな夢のような話も、議長にならできるかもしれない。そう考えられた。
アスランも、そう考えられた。
だが…それをすべて受け入れられない。議長の言葉の内容は優しく、そして世界の平和を導き出せるかもしれない…。
しかし、どこか釈然としないのだ。
「未来は、才能は自分の力で勝ち取るものではないのですか?」
「アスラン!才能を、そのままにしておくなんて勿体無いじゃない!自分の力を最大限に生かすことは誰にとっても素敵なことよ」
「…ラクス」
ミーアもまた、議長の言葉に賛同していた。
自分の歌の才能、ラクスとなれる才能を導いてくれたのは議長に他ならない。
もし、ミーアとして生き続けることになっていたら。
そう考えると絶望的な気持ちになるのだ。
「すぐには理解は難しいだろう。だが…人は、それが一番幸せなことだと思う。少なくとも、もう悲劇は生まれないだろう」
「アスラン、どうしてあんなことを言ったの?」
ミーアはアスランを連れ出してそういった。
アスランは、自分の考えをわかってくれるものが、もうここにはいないと感じ始めていた。
自分は、この世界を救いたいという気持ちはシン、デュランダル議長と同じだろう。それには協力していく。
だが…その先にある未来に関しては大きく違っている。
「俺は、議長の言っていることが正しいとは思えない」
「どうして?あなたが、こうやってMSに乗ることも、傷つくこともなくなるのよ?」
「それが間違っているのだろうか」
「そうじゃない!アスランは、戦う必要なんかない。アスランは、優しいもの。戦いにはむかない…」
「…少し考えさせてくれ」
アスランは、ミーアから離れて部屋に戻る。
自分はこんなことのために戦っていたのか。キラはそのために犠牲となったのか。
デュランダル議長の考えは…どこまで先にあるのか。
ミーアはアスランを見送り、議長の部屋に戻る。
アスランの先ほどの言葉を変わりに謝りにきたのだ。
アスランがこのままザフトにいるなら、自分とも関係は続いていくことになる。
自分がラクスである限り…アスランがここにいる限り…。
それが途中でなくなるのはいやだから。
部屋に戻ったミーア…だが、議長の話し声を聞いてミーアは立ち止まる。
「…なるほど、やはりアスランはダメか」
ミーアはその言葉に目を見開く。話し相手は…誰だろう。
そう思いながらも怖くて動けなかった。
「アークエンジェルの者達に対する考えが強すぎだと思います。
このままではミネルバクルーに影響を与えるかもしれません、いや既に与えていると考えるべきでしょう」
レイ・ザ・バレルはデュランダルにはっきりと報告する。
「彼も、己の生き方、立場がわからないものの一人ということか。己の領分を越えようとするものは必ず不幸を起こす。
不幸を生む芽は先に摘み取っておく必要がある。あの計画を実行させれば、彼のようなものもいなくなるだろう」
「いよいよ…だね、ギル」
「あぁ…。そのためには、ロゴス、そして…あのゼロという男には、それなりの場所を用意し退場してもらわなくてはいけない」
ミーアはもう、その部屋にはいなかった。一刻も早く、アスランに伝えないといけない。
そう、アスランが…手にかかる前に。
「アスラン!」
部屋をノックする音にアスランはドアをあける。
「逃げて!議長が、あなたを…」
その言葉を聞いたとき、アスランは、いよいよそのときが来たと感じた。
議長は自分の意にしたがわないものを排除するつもりだ。
所詮、自分は人形であるということ。利用されていただけなのだ。
ミーアの誘導もあり、アスランは兵士たちに気づかれること無く移動する。
『アスラン・ザラが脱走した。至急拘束せよ!』
放送が建物内で鳴り響く。
「くっ…」
暗闇に満ちた外…雷鳴が轟く中で、雨が降り出す。
建物内では武装した警備が慌てて動き始めている。
その放送を聴いて驚いたのはシン、そしてルナマリアたちだ。
詳しい説明を求めようにも誰も答えてはくれない。
アスランは、警備の強いエリアの建物の階から、一度外に出て、雨に打たれながらも逃げようとする。
「ミーア!君も来るんだ!」
「イヤよ!私はいけない!」
アスランの差し伸べられた手を拒むミーア。
「議長は、自分に従わないものは容赦なく潰すぞ!君もいつかは…」
「私は、私はラクスがいい!ラクスでいたい!!」
「…ミーア」
ミーアは大きく声をあげて、アスランを拒む。
アスランは唇を噛み締め、ミーアを連れて行くことを拒み、逃げていく。
アスランは、廊下を走っていくが、兵士を見て思わず目の前の部屋に入ってしまう。
「あ、アスラン?一体どうしたんですか?」
それは、メイリンである。
放送を聴いており、アスランが追われていたことは知っていたが、アスランが一体なにをしたのか理解できない。
「すまない、メイリン。すぐに出て行く」
「待ってください」
メイリンはアスランをお風呂場に押し込むと、バスタオルを握りお風呂場から出る。
扉をノックする音に、メイリンはシャワーを浴びていたかのような雰囲気を出しながら、扉を開けた。
「アスラン・ザラが脱走した。ここにはきていないか?」
「知りませんけど、なにかあったんですか?」
「ちょっと!貴方達なにしてるの!」
大きな声をあげて、駆けつけるルナマリア。
その声に兵士達は敬礼し立ち去っていく。
メイリンはルナマリアを見て何事もなかったように振舞うが…
姉妹であり、彼女のことを知っているルナマリアには、メイリンが嘘をついているように感じた。
「お姉ちゃん、まだ着替えてるから…後で…」
「メイリン?」
「…なに?」
ルナマリアは自分の背を向けているメイリンを見つめる。
「…うぅん、なんでもない」
ルナマリアは自分の思ったことに確信を持てなかったことと、
まさか…という思いが、妹に対する気持ちを押しとどめてしまった。
メイリンはドアを閉める。
「すまない、君を巻き込んでしまって」
「大丈夫です…、私が格納庫まで案内します」
アスランはメイリンの優しさを感じながらも、巻き込んでしまったことを悔いた。
雨の中、外にある格納庫まで走っていくアスランとメイリン。
銃声。
「アスラン!見苦しいですよ!」
振り返ったアスランの前に、銃を握って、立つレイ。
「レイか…」
「メイリンを離せ!」
レイとともにやってきたシンもまた大きな声をあげる。アスランはシンの言葉にメイリンを離そうとした。
メイリンはアスランに首を横に振り拒絶する。
そしてレイも…。
「彼女もアスランと同罪だ」
「そんな!」
さすがのシンも、その言葉には驚くが、レイにとってはメイリンもこの時点では用済みとなっている。
アスランは、レイが放つ銃声を回避しながら、格納庫にて空いているMSであるグフ・イグナイデットに乗り込む。
「シン!追うぞ」
「…な、なんで、なんでこんな!!」
レイに言われるがままに、シンはMSに乗り込みに向かう。
ここで逃がすわけには行かない…レイは新型のMSであるレジェンドに乗り込み起動させる。
すべては…ギルのいう新たな世界のために。
「くそ!シンめ、議長のいうことを、鵜呑みにして!」
アスランは振り続ける雨と鳴り響く雷の中で、飛び続ける。
すぐに狙われている警告音が響きわたる。
新型のMSレジェンドとディスティニーだ。
この機体で、さらにはメイリンを気づかいながら勝てる相手ではない。
「逃げるな!戻れ!」
シンの放ったビームライフルが機体を霞める。
「くっ!やめるんだ!シン、お前は踊らされている!」
「なにをいって!」
アスランの操るグフのマシンガンをシールドで防ぎながら、シンは巨大なサーベルを構える。
「議長の言うことは…聞くと、心地よく正しいことかもしれない!だが、いずれそれは世界を殺す!」
「何を言っているんだ、あんたは!」
「耳を貸すな、シン。アスランは錯乱している」
レイのレジェンドがアスランを攻撃する。
アスランはレジェンドのビームライフルを受けながら、機体を保つだけで精一杯である。
「きゃあ!」
メイリンの悲鳴が響く中で、アスランは、自分の無力さにコクピットを叩きつける。
「シン!とどめを刺せ!」
「くそ、くそぉぉぉおおおおおおお!!!」
レイに促され、サーベルをグフに向け、突撃するシン。
自分は守れないのか、キラやカガリ…ラクス。
そして今ここにいるメイリンも、誰も守ることが出来ないのか!?
ここで…俺もキラと同じく撃たれるのか。俺に力があれば…もっと守れる力があれば…。
「俺に、俺に力を、この運命に抗う力をっ!!」
アスランは大声で叫ぶ。
『いいだろう…、その力、私が授けよう』
「!?」
アスランはその声に驚く。
シンのサーベルが目の前で弾かれる。
アスランの操る、グフの前でサーベルを食い止める漆黒の機体。
「なんだ、こいつは!?」
シンは距離をとる。
レイとシンの前に立ちはばかるように、空中に浮遊する機体。
それは既存するMSとは明らかに形や、スペックが異なっている。
両腕を水平に左右に伸ばした、その機体はアスランを守るように浮いている。
「こいつぅぅぅぅ!!!」
「無駄だ!」
肩から赤黒い色をした巨大な閃光が噴出される。
シンは、それを慌てて避けようとしたが、サーベルが溶け爆発する。
さらには、そのビームを海中に照射する。爆発と水蒸気により、一瞬視界が見えなくなる。
「これは…?!」
「こんな、こんなことでぇぇ!!」
レイの動揺の中、シンはサーベルをムチャクチャに振るう。
だが、水蒸気が消える頃には、既にアスランもそして謎の機体の姿もなくなっていた。
「うわああああああああああああ!!!」
シンの絶叫が嵐の中…響きわたる。
この後、捜索は別働隊によって行われることになった。
謎の機体による攻撃、そしてアスランたちは…。
今回のことに不服を感じたタリアと、レイ、シンはデュランダルの元に呼ばれ説明を受けていた。
デュランダルはアスランが自分たちを信用せず、そして以前からアークエンジェル側と接触を図っていたことを説明。
さらには、問いただそうとしたところ逃走をはかった。
メイリン・ホークはそれに巻き込まれたということ…。
「すまないと思っている。君達に説明もせず、撃墜命令を下してしまったことを…。
だが、連合軍との合流が完全でない以上、今回のことは可及的速やかに処理しなくてはいけなかった」
誰も何も答えられはしなかった。
今は議長を信じることしかできないのだから。
部屋をでたとき、そこにはルナマリアが立っていた。
レイはシンを見て、頷くと彼女の前を通り過ぎていく。
シンはルナマリアを見つめ立ち止まる。
「あの子…なんだか、様子がおかしかったの。私、気づいてたのに…どうして…」
「ルナ…」
「シン、私、1人になりたくない!」
ルナマリアはシンを抱きしめ、肩に顔を埋めて涙を流す。
シンはやりきれない思いの中でただルナマリアを包んでやることしか出来なかった。
アスランが、気がついたとき、そこはどこかの室内にあるベットであった。
動いているようで、なんだか酔っているようだ。頭がくらくらする。
「ここは…」
隣を見ると、カーテンを境にしてメイリンが眠っている。
彼女も無事なようだ。だが、一体、どうして自分は助かったんだ。
いや、なぜ助けられたんだ。
「始めまして。ミネルバの…アスラン・ザラ君」
アスランの前に現れたのは黒き仮面の男…。
こいつは!?オーブの新しき指導者である、ゼロ。
なんで?どうして彼がこんなところに…。
「様々なことが頭に浮かんでいるだろうが、まずは私の質問に答えてもらいたい。君は、あの場から逃げ出した…。
今の地位、待遇、仲間を捨てて。この後、君はどうするつもりだ?」
「この後…」
考えていなかった。
アークエンジェルがいなくなったというのに、このまま逃げ出したところで、どうしようも出来ないじゃないか。
そう、今や自分は世界で孤立してしまっているということか。
「もし、君がよければ…君がいたというオーブを共に守らないか?」
「オーブ…」
「そうだ。君がアークエンジェルにいたこと…そして戦後、カガリ・ユラ・アスハと共ににオーブに身を隠していたこと…。君が本来いなくてはいけない場所は、そこなんじゃないか?」
アスランは迷った。
この黒い仮面の男の内は議長のように、暗く底が深い。
だが、今の自分にはこれを断ることが出来ない。
オーブを守るということは、確かに今の自分にとって出来る唯一のことなのかもしれない。
「いいだろう。だが、俺はお前を完全に信用したわけじゃない。オーブを守るということに対しては協力するということだ」
「フ…いいだろう。新たに生まれ変わった合集国防衛軍、黒の騎士団は、君を歓迎しよう」
悪魔の手なのかもしれない。
悪魔の囁きなのかもしれない。
だが、今は…この手を握るしかない、この声を聞くしかない。
カガリ、キラ…俺はオーブを守る。
そして…世界を救えるのなら、救ってみせる。