コードギアスDESTINY
第7話 ヘブンスベース・・・ロゴス最後の日
ゼロはアスランのいる医務室から出る。
思った以上の収穫であった。連合軍に紛れ込み敵の何人かをこちらに引き込むつもりであったが、脱走するものがいたとは…。
おかげで混乱に乗じて何人かにギアスをかけることが出来た。
そして…このアスランという男も気がついたのだろう。デュランダルが危険な男であるということに。
この後、アスランとメイリンには別の潜水艇からオーブにと向かってもらうこととなっている。
このまま次の目的地に向かって暴れられでもしたらことだからである。
考えが変わらないうちに…アスランが好きな、守りたいオーブに行ってもらおう。
艦にある自室にやってくるゼロ=ルルーシュ。
『ご苦労だったな。このままヘブンスベースに向かうのか?』
画面に映し出されるC.C.はピザを食べながらゼロに問いかける。
「あぁ、そちらに戻る時間が惜しいからな。物資などの受け渡しの合流ポイントには書類どおり頼む」
『わかった。ところで、ラクシャータからなんだが…例の機体はどうだ?だそうだ。
ナイトメアフレームとMSの機体性能を合わせたようだからな…何かあるかもしれないということだろう』
「やはり、1人で操縦するには難しいな。だが防御力・戦闘力に関しては申し分ない。ラクシャータには感謝しなければな」
『後、例のアークエンジェルが落ちたらしいぞ。ミネルバという艦が落としたらしい』
「なるほど…。潰しあってくれたということか」
『こちらは私とカレンに任せろ。くれぐれも気をつけることだ。ヘブンスベースには思った以上の軍が向かうようだ』
「心配とは珍しいな」
『お前に死なれて欲しくないだけだ。通信切るぞ』
向こうは向こうで上手くやっているようだ。万が一に備え、C.C.にはゼロの代理も務めてもらうことになる。
カレンが上手くフォローするだろう。
ロゴスの暴露により内政を取り纏めるのも一苦労だからな。
まぁ、そこはセイラン家の知恵を拝借させてもらってはいるが。
あの家族、外交は無能だが…内政はなかなか…。己の器を見間違えたか、生まれる時代を間違えたな。
問題は、新型のほうだが…。
護衛としてステラを用意し、最悪の場合はステラとともにあの新型を操ることとなる。
テストでは問題は無かったようだ。
常にC.C.頼りというわけにもいくまい。
今度はカレンにも乗せてみるか。それに、他にも何機かテストしなくてはいけないものもあるのだが…。
「ゼロ、カレンたち元気?」
それはステラである、退屈そうに背伸びをしている。
「あぁ…なんだ?寂しいのか?」
ステラは首を横に振り
「ゼロがいるから…、平気」
これだけ見ていると、とても戦闘向きではないな。ただの子供にしか見えない。
それだけ不安になるというものだ。カレンの話ではシミュレーションの対決では5分らしい。
カレンと同じというのは驚きの数字だ。ナイトメアフレームとMSによる違いかもしれないが。
「…今度の作戦、お前にも出てもらうことになるかもしれないぞ」
「うん。ステラ頑張る」
―――
ブルーコスモス…最終拠点ヘブンスベース
夜が明け始めたころ…ロゴス代表者たちが集う中で、ザフト軍が動き出し、向かっていることから、迎撃の準備がとられていた。
ロード・ジブリールは、かなりの軍備をここに集わせていた。
ロゴスという力は経済界、産業界に生かされるもの…。
自分たちを失えば、それこそ世界経済は壊滅するだろう。
経済を混乱に落としいれ、その間に地球圏を自分の手で立て直すつもりなのか…デュランダルは…。
ジブリールは、様々なことを頭に浮かばせながら、この防衛線を守り抜こうと、
それとともに、月の施設の完成までの時間が稼げればと考えていた。
相手の戦力は未知数だが…。
「ザフト艦隊を確認しました。数は不明…我が軍のものも見られます」
「月面基地からも大気圏上に艦隊が集まっているという報告あり…」
側面だけでなく、頭上から。
だが、それでもジブリールは負けを知らなかった。
いや、こんなこと考え済みだ。
このヘブンスベースはそのようなことでは落ちることは無い。
「いいだろう、デュランダル。どちらが、上か…ここで勝負といこうじゃないか」
―――
ミネルバを中心とした対ロゴス艦隊は、目前に迫ったヘブンスベースを前にしてミーティングが行われていた。
アスランとメイリンを失ったことに対する、艦内の気分を変えるためにも必要だった。
MSのディスティニーの機体がシンに渡ったことで、ルナマリアはインパルスに乗り換えることになり、アスラン搭乗予定だったレジェンドはレイが引き続き使うこととなった。
『本艦は、ヘブンスベースを攻略する。敵戦力の数は不透明だが、相当の激戦が予想される。
だが、私は…この艦に乗る誰もが、それを乗り越えられると確信を持っている。総員の奮起を期待する』
そのタリア・グラティス艦長の言葉を格納庫で聞いたシンは、拳を握りディスティニーを見る。
自分はアスランを撃つ事ができなかった。
これは迷いだ。自分はフリーダムだって倒せたんだ。
アスランだって本当は倒せたはず。落ち着けば、きっと…。
「シン」
ルナマリアがそこにはいた。
「…ルナ、メイリンは?」
ルナマリアは、何も答えずシンに身を寄せる。
「今は…考えない。私、シンが妹を失ったこと…どこか人事だと思っていたの。
だけど、こんなに…辛いなんてね。ごめんね。シン、私は…何もわかって…」
妹…マユ。
もし、自分がアスランごと、メイリンを撃ってしまっていたら……。
ふと頭によぎること。
ルナにまで自分と同じ想いをさせてしまうところだったのか…。
「…いいさ。今更そんなこと…。それにメイリンはまだ生きている。取り返すチャンスはあるよ。ルナらしくないな?
もっと、いつものように、元気に怒鳴ってもらいたいのに」
「……シン!」
「わっ!」
シンは、そのルナマリアの怒鳴り声に思わず、目を伏せる。
だが次に感じたのは唇に当てられる温かい感覚。
ルナマリアは、そっとシンから身を離すと自分のMSに向かって走っていく。
シンが呆然としているところを、赤い髪をなびかせて、ルナマリアは振り返り。
「ありがとう、シン!お互い、頑張ろうね」
その言葉にシンはただ頷くだけだった…。
だが、こんなところで考え込んでいることはなくなった。
そう、今はこの作戦だけを考えればいい。その後のことは、その後考えればいい。
―――
『ヘブンスベースにいる連合軍に告げます。我々ザフトは、数々の罪状を抱えているロゴス代表者に引渡しを要求します。
引渡しに応じていただけるなら、それ以外の兵士等に関しては一切の罪状を不問とし、こちらは攻撃を行わないことを約束します。
なお、これは最後通告です。これ以上は…』
「ふざけるな!この私が、あんな連中に負けるはずが無い!」
その警告を通じる回線を聞いて、ジブリールは怒りに身を震わせ、攻撃の命令を下そうとした。
「待ってもらおう!」
振り返るジブリール。そこにやってくるのは黒き仮面の男。
ゼロである。
周りの将兵達が動揺する。なぜ、この男がこんなところに…。
そういった言葉が次々とでてくる中でゼロは堂々と隣に黒き制服と顔にバイザーをかけたステラを沿え、
騎士団の兵士と供にジブリールの元に歩み寄る。
「ロゴスの代表であるジブリールとお見受けするが?」
「…オーブのゼロがなんのようだ!?私を連中に売る気か?」
ジブリールは腰にある銃を抜こうとするが、ゼロの隣にいるステラが、それよりはやく拳銃を抜きジブリールに向ける。
だが、ゼロはそんなステラの前に手を出して、止める。
「待て。ジブリール…私は君を助けに来た」
「なんだと!?」
その言葉は意外であった。
まさか、この時点で自分たちを助けるものが現れるとは…。
「お前達のやっていることは決して褒められたものではないが、
残念ながら…これ以上の経済的な打撃をこうむれば、地球はザフトにすべてを委ねなくてはいけなくなる。 それは、地球圏をザフトに差し出すのと同じだ」
「…ほぉ、私のことを分かってくれるものが、いるとは嬉しいぞ。ゼロ」
まだ、信用はされてはいないだろう…ゼロは、まかりなりにも経済界のトップにたち、秘密結社であるロゴスを纏め上げた男を侮りはしない。
「私に指揮をとらせていただければ、オーブに脱出の手助けはしよう」
「ここが落ちるというのか?」
最初から敗北を示唆した言葉にジブリールは睨みつける。
「敵はあの、アークエンジェルを落とした者達もいるという。それに最終的に勝てればいいのだろう?」
その言葉にジブリールは少し間を置いて考えたが、確かに、ここで勝負を決めることはできない。
ここはゼロのいうとおり、オーブにとわたり、そこから月面に向かったほうが得策か…。
「いいだろう。ここは貴様の考えに乗るぞ…ゼロ」
「結構。時間はあまりない。最低限のスタッフと必要なものを持ち、脱出の準備を始めてくれ。ただし、この命令はここにだけ留める。
他のものには、作戦は時間通り行うと勧めてくれ」
「わかった」
本来ならば…ここまで手を下す必要はないのだが、ステラの身体の薬に関してはここの医療スタッフの力が必要だ。
それに上手く行けば、ステラと同じような者を戦力に加えることができる。
ここで無能な指揮官によりそれを潰されるのは勿体無いというものだ。
―――
「…おかしいな」
デュランダル議長は、敵が撃ってこないことに疑問を感じていた。
ジブリールという人間は、こちらの挑発には従ってくると思っていたのである。
「作戦時間です」
「…わかった。ラクス、お願いするよ」
デュランダルはマイクをラクスことミーアに渡す。
「ザフトのみなさーん…私達の力で、この戦いに勝利しプラントだけでなく地球の皆さんに平和な世界、平和な日常を取り戻しましょう! 頑張ってください、私も皆さんの勝利を、願っています」
デュランダルはラクス=ミーアの言葉を終えるのを待ち、作戦開始の命令を下す。
敵勢力はかなりのものだとは聞いている。
だが、静かだ、静かすぎる…。
「連合軍に先陣を任せ、ミネルバはこの場で待機」
『敵の先陣、こちらに向かってMS部隊を展開し迫ってきます。
その数は数十体、さらに増加…。大気圏からも敵の降下部隊が降下を開始しました』
ゼロの前に置かれてある戦闘画面には、敵と味方の色が識別され、敵がどのように動いているか見ることができる。
「連合軍を餌にし、自分たちは高みの見物か…、残酷な奴だな。デュランダル」
ゼロの手にはチェスの駒が握られている。基地司令部はジブリールの指示のもとで潜水艇を用い、MSとゼロの指示から強化人間のための薬品や医療品も運ばれている。
「所詮は時間稼ぎ…、せいぜいお前の手を見せてもらうぞ」
『連合軍先陣、ヘブンスベースに到達します』
デュランダルは何も言わず黙って前を見ている。
『…撃て』
ゼロの言葉が放たれた瞬間、今まで沈黙をしていた島に隠されていた砲口が鳴り響く。
巨大な閃光が夜明けを切り裂き、連合軍のMS、 艦艇を蒸発させていく。さらにはデストロイの出撃。
これに関してはゼロは持ち運びが出来ないがためなくなく、使用することとなった。
『連合軍先陣、消滅!!敵の攻撃は、ザフト軍の艦艇にまで届いています!きゃぁ!』
海面すれすれの閃光が、ミネルバにまで届きそうになるほどの威力。さすがはヘブンスベースか…。
さらには降下部隊も、島の中枢に仕掛けられていた巨大なレーザー兵器により消滅させられる。
「フハハハハハ、なんとも爽快じゃないか。己の手を汚さず綺麗に勝とうとしようとするのが、お前の愚かなところだ」
ゼロは高らかに笑うが…戦闘画面には接近するMS部隊が映し出される。
「愚かな、一気に蹴散らしてくれる」
再び攻撃を命令するゼロ…だが、敵のMSは海中面ギリギリに移動し、波しぶきをあげていることにより、ビーム兵器を遮断している。
さらには海中MSも多数接近。
「…くぅ、こちらのMS部隊も出撃させろ、接近させるな」
ゼロは、自分のMS戦闘における弱さがここで出ていたことを感じていた。ビーム兵器、そしてMSの戦闘・空中浮遊能力。
これからはナイトメアフレームではなし得なかったことだ。だが、それはそれでいい。
これはいわゆる実験だ。今後控えているであろうオーブでの戦いに備えて、様々なことを経験しておくのもいいだろう。
「ミサイル攻撃に切り替え、島上陸前、P-12からP-18までにめがけ発射。
ローエングリーン発射台はそのまま攻撃を続行。敵艦艇を近づけさせるな!」
一方、敵の攻撃の切り替えにより上陸が困難な部隊の中で、ミネルバは前にでてくる。
デストロイやローエングリーンなどの艦艇を撃破するものが沈黙し始めたのを機に、一気に勝負を決めようと、タリアは考えた。
そして…MSを狙われないようにするため…。
『ミネルバ、タンホイザー発射用意、発射後MSを出撃させ、ヘブンスベースを制圧する』
「シン・アスカ、ディスティニー…いきます!」
「ルナマリア・ホーク…インパルス、でるわよ!」
「レイ・ザ・バレルだ。レジェンド…でるぞ!」
ミネルバの主力機が、タンホイザーの発射の下で出撃する。
タンホイザーから放たれた光の威力から、海中に大きなうねりと供に道ができる。
その間を三機が一気に速度を上げてヘブンスベースまで突撃する。
「うおおおおお!!」
目の前のデストロイを一撃の下で真っ二つにするシンのディスティニー。
「落ちろ!」
多数のMSをビームライフルにより、一掃するレジェンド。
「こんなところで、やられてる場合じゃないんだから!!」
デストロイの腕を切り落とすインパルス。
その勢いに乗り、ザフト軍・連合軍のMSは次々と、島に上陸。
敵のMSも次々と撃破していく。
「こいつぅぅぅ!!」
そんなディスティニーの前に攻撃を食らわす新たなデストロイ。
それは…かつてステラ、アウルとともにMSを奪取しネオ・ロアノークの部下としてミネルバと戦ったスティングである。
そんな彼も度重なる強化により記憶を弄られてしまっており、今やその仲間たちのことは覚えてはいない。
「くたばれガンダム!」
「うわぁああ!!」
目の前で放たれる巨大な光を回避し、サーベルでシンは、コクピットを貫く。
「こんなマシーンがあるから!ステラみたい人が増えるんだ!!」
「!?」
コクピットでスティングは死の狭間で垣間見た。
アウルが白い世界にて、『ステラは無事だぜ』と笑顔で囁いたことに。
スティングはそれを聞くと、どこか安心したような顔をして、爆風の中消えていった。
「…」
ステラは顔をあげて、後ろを見る。
彼女は今、薬を点滴されているところだった。
彼に付き添うゼロはステラを見つめる。
「どうした?」
ゼロはステラに問いかける。この現象はオーブでも見られた。
幻覚とも最初は感じていたが、おそらくは…人とは少し感覚が違っているのだろう。
C.C.が介入して得た力かどうかはわからないが。
「また、私を呼ぶ声がした」
「…あの戦ったものたちの中で、お前を知っているものもいたのだろう」
おそらくはそうだろう。
だがその記憶はステラにはない。
戦闘により重ねられた記憶はC.C.が取り払ったからだ。
「……ゼロは、忘れない?私の事?」
ステラはゼロを見つめ、問いかける。
「忘れはしない。お前は…もう呪縛からは解き放たれた」
カレンと、そしてC.C.からの強い願いでもあった、ステラの完全な回復はこれで果たされるだろう。
そのためにわざわざ、ここまできたわけだ。
こちらとしても、当初の予定通り、ロゴスという戦力を吸収できたわけだ。
そんな折、ジブリールが姿を現す。
「ゼロ、今後のことで話しがある。オーブに行った先では、我々は…」
「…あぁ、そうだな。ジブリール…お前は、もう用済みだ」
ゼロ=ルルーシュは、ジブリールに対して言い放つ。
「なにっ!?」
驚くジブリールに対してゼロの仮面の一部が開き、目に宿るギアスの力が輝く。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。ゼロに従え!」
「あ、あぁ……わ、わかった」
ジブリールはそう告げると、元来た場所にふらふらと歩いていく。
「どうしたの?ルルーシュ?」
ステラには背中を見せていたことで、そのやりとりに不思議そうに声をかけるステラ。
「いや、なんでもないさ…。そうだ。カレンとC.C.からおめでとうというメッセージが届いていた。後で見ておくといい」
ルルーシュは自分でも気がついていなかったが、
ステラに対してカレンやC.C.と同じく愛着が湧いていること…彼女と同じく仲間という意識を持ち始めていた。
彼女の純粋な心がルルーシュをそうさせているのだろう。
それはルルーシュの愛する妹であるナナリーと同じ力…。
だが、その力は…今のルルーシュにとっては眩しすぎるものでもあった…。
艦艇はオーブにと向かっていく…。