code geass-seed_01話

Last-modified: 2009-01-23 (金) 19:13:15
 

コードギアスSEED
第1話 無力、故に……

 
 

「……枢木スザク、任務を終え戻りました」

 

 宇宙に浮かぶ、コーディネイターの生活拠点・プラントに戻ってきたスザク。
 そこは、ラクスの憩いの場であり、草原が広がり、様々な植物と花が広がっている場所。
 明るい人工太陽の日差しの中、地面に片膝をつき、スザクは、目の前にいるラクスに報告する。

 

「お疲れ様でした。スザクさん、私の我侭につき合わせてしまって申し訳ありません」

 

 今回のアスランとキラの戦いを止めるよう指示を出したのはラクス・クラインその人である。
 以前、ラクスはアークエンジェルに捕虜となった。
 その時優しくしてくれ、アスランに捕虜であった自分を返してくれたキラ・ヤマト。
 そして婚約者であるアスラン・ザラがキラと戦い、互いに傷つけあうことを恐れたラクスは、スザクに頼み、今回のこととなった。
 しかし、結果的には間に合わなかった。
 今はキラの命だけは…かろうじて救うことができただけでも、今はよかったと思うしかない。

 

「…いいえ、部外者である僕たちをこうして救ってくださったラクス様のお願いです。僕の力でよければ使ってください」

 
 

 スザク、ロイド、セシルの3人はこの世界に飛ばされた。
 気がついたときには、宇宙空間にて新造戦艦アヴァロンⅡとともに、この世界に飛ばされていた。
 動揺する3人の前に現れるザフト軍。
 こちらが応答をしたところで、向こうは一切耳を貸そうとはせず、攻撃が始まろうとした。
 そのとき彼女……ラクス・クラインが現れ、スザクたちを救ってくれたのだ。

 

『そのものたちは、私を守る騎士です』

 

 ラクスの咄嗟のいいわけだった。
 目の前で人が死ぬのを見たくはない。
 ラクスにできる唯一の手段だった。
 そのおかげで、スザクたちは今、こうして生きながらえている。
 しかも今の地位は、コーディネイターのアイドルである、ラクス・クラインの護衛となっている。

 
 

「……僕たちを助けてくださった、その恩がありますから」

 

 白き礼服を身に纏いスザクは助けてくれた恩を心に秘め、ラクスに告げる。

 

「ありがとう、スザク。あの、私の事はラクスでいいです。『様』なんでなんだか他人のようで……」
「で、ですが……ラクス様はザフトのアイドル。部外者である自分が、そんな気安く…」

 

 そういうスザクの手を握り、スザクと同じ視線にまでしゃがみこむラクス。
 スザクは、突然近づいて、しゃがみこみ自分の顔を見るラクスに驚く。

 

「…私は、あなたと普通のお友達としてお話したいんです。ダメでしょうか?」
「い、いえ…あ、あの……わかりました。ラク…ス、さ……いえ、ラクス」

 

 スザクは戸惑いながらも、ラクスの言われたとおり、『様』を取り払い、名前で呼ぶ。
 ラクスは嬉しそうに微笑み、スザクの手を持ったまま立ち上がる。

 

「私からのお礼は……紅茶をいれて上げることしか出来ないんですけど……いただいてくれますか?」

 

 ラクスの言葉に、スザクは笑顔で頷き、白いテーブルにある席につく。
 ラクスは紅茶をカップにいれて、スザクの前に差し出す。

 

「ありがとうございます」

 

 カップに注がれた紅茶を飲むスザク。そのスザクの様子を眺めるラクス…。
 その表情はどこか切なげだ。

 

「どうしたんですか?ラクス?」
「いえ。なんでもありませんわ」

 

 スザクの答えにすぐに、ラクスは表情を変えて答える。

 
 

 そんなとき、庭園にとやってくるものの影。
 ラクスはスザクの後のほうに視線をやる。
 スザクもすぐそれに気がつき、立ち上がり背後を見る。
 そこには、白いザフトの軍服を身につけた仮面の男。
 禍々しいオーラを感じる。
 まるで、それは宿敵・ゼロのようだ。
 いや、ゼロよりも、もっと破滅的な…。

 

「……どうかなさいましたか?クルーゼ隊長」

 

 そう呼ばれた仮面の男――ラウ・ル・クルーゼ――は、頭を軽く下げてラクスを見る。

 

「いえ、我が隊のアスラン・ザラが『足つき』……梃子摺っていた連合軍の戦艦のMSを撃破したという報告がありましたので、いの一番に、あなたに、そのことをお伝えしようと……」
「私は……戦争での功績などに興味はありませんわ」
「そうは仰いましても、彼は今後、我が隊から抜け、昇進し、本国の防衛任務にと就きます。これからは、2人で時間をすごすことが多くなるでしょう……」
「アスランが…」

 

 アスラン・ザラ…。
 ラクス・クラインの婚約者と名乗っていた人物。
 スザクは、まだそのものとは会ったことがない。

 

「ときに、スザク君といったかな?」

 

 突然、自分に話を振ったクルーゼにスザクははっとしながら視線をクルーゼに向ける。

 

「くれぐれも、お2人の邪魔はしないように……。騎士ならば騎士らしく、その身分相応に動くものだ。騎士は力を持たぬクイーンを守るのが仕事だからな」
「はい。心得ています」
「良い目だ。幾多の戦場を知っているような……。君とはまた時間があったときにゆっくりと話したいものだな。では、私はこれからオペレージョン・スピットブレイクがあるため、地球に降りますので失礼します」

 

 クルーゼは微笑むと、会釈をし、振り返り戻っていく。
 戦争はいまだ続くのか……確か、今度の闘いはかなりの大規模なものになるという話だったが……。

 

「……スザク?」
「はい?」

 

 ラクスはどこか哀しげな表情を浮かべながらスザクを見ていた。

 

「…私は、無力です」
「どうしたんですか?突然?!」
「……私には戦う力がありません。スザクや、そしてアスランのようにMSに乗ることも出来ない。私はこうして、皆さんの帰りをまっていたり、歌を歌ってあげることしか出来ない……。みなさんが血を流し、涙を流しているというのに……」

 

 ラクスは沈んだ声で唱える。
 常に考えていた。
 戦争が始まり、もう何人の人間が亡くなったのだろう。
 その度に、悲痛な声をあげる人々が自分のもとにやってくる。
 自分はそのものたちを慰めることしか出来ない。
 何も出来ない……。
 それが辛くてたまらないのだ。

 

「優しいのですね。ラクスは……」
「え?」

 

 スザクは笑顔でラクスを見つめ

 

「ラクスの、その優しさこそが力です。人にはそれぞれ1人1人にしか出来ない力があります。僕がそれがたまたまパイロットであっただけ。ラクスにはラクスにしか出来ないことがあるんです。それを誤解しないで欲しい」
「……」

 

 歌を歌い、優しさを授けることが自分の力…。
 ラクスは自分の手のひらを眺めながら考える。

 

「それに……過ぎたる力は、己の身を滅ぼします」

 

 スザクは、かつての経験からそれを知っている。
 ゼロ――ルルーシュ・ランペルージ――は、強制力=ギアスを用いて世界を変えようという、とてつもないことを考え出した。
 もし、ギアスなんかに出遭わなければ…。
 彼は、あのような道を歩むことは無かっただろう。
 ギアスが人の心を変える。精神を崩す。
 人が持つにはあまりにも強大な力なのだ。
 それが人を……変えてしまう。

 

「ラクス、力なら僕が幾らでもなります。だから、ラクスは帰りを待っていて欲しい」
「……ありがとうございます。スザク、貴方にそんなことを言われて、嬉しいですわ」

 

 スザクの言葉にラクスは頷く。
 残りの紅茶を一気に喉に通すと。スザクはラクスから離れ、敬礼する。

 

「枢木スザク、報告任務終了します」
「…もう少しお話していってくださいませんか?」

 

 どこか名残惜しそうにするラクスにスザクは首を横に振って

 

「すいません、これからランスロットのチェックにいかないと…」
「そうですか。また……一緒にお茶してくださいね?」
「よろこんでお供します」

 

 ラクスとスザクは見つめ合い微笑み合うと、スザクは花園を通りながら施設にと戻っていく。
 ラクスはスザクを見送りながら、どこか寂しさが募っていることを感じていた。

 
 

「えぇ~~?戻ってきちゃったのぉ?」

 

 開口一番、ランスロット・トラファルガーの整備に戻ってきたスザクを見るや、ロイドが溜息をつく。

 

「ロイドさんが、最初に言ったんじゃないですか!?機体の感想を言えって」
「そうは言ったけどさ~。折角のお姫様との仲良しの時間を割く必要はないんだけど~」
「え!?ロイドさん、そんなことを気にしていたんですか?」

 

 話の内容はともかく、ロイドさんが人に気を使うなんて……
 きっと明日は雪が、いや、ここは宇宙だから隕石群が落ちてくるんじゃないかという気持ちになるスザク。

 

「違うの、スザク君。お姫様と仲良くなれば、それだけ開発費を回してくれるんじゃないかって言うのよ……」
「あ、そうでしたか。一瞬、こっちの世界に来てロイドさんが別人になっちゃったんじゃないかと思いましたよ」
「……君達が、僕のこといつも、どういう目で見ていたのかよくわかったよ」

 

 ロイドはむすっと顔を膨らまし、いじけはじめる。
 スザクとセシルは苦笑いを浮かべて、ロイドの機嫌を直そうと必死になる。

 

 ▽ ▲ ▽

 

  キラ・ヤマトはベットで目覚め、自分がどうしてここにいるのかわからないまま、建物を彷徨い、外に出る。
 そこに立つラクスの姿。

 

「あら?起きられたのですね」
「君は……」

 

 ラクスは、キラに、紅茶を出そうと準備を始める。
 だが、キラは歩き出す。

 

「どこに行かれるのですか?まだ、あなたの身体では…」
「僕は、守りたい人がいるんだ。そのために、戦わなくちゃ…」

 

 キラは、ラクスに、そう言葉を吐き出す。
 ラクスはその言葉に険しい表情を浮かべ

 

「……そのために、あなたはザフトを討つのですか? ザフトにも貴方と同じように、守りたい人、大切な人がいる人間を、あなたは…」

 

 そこで思い出されるアスランのこと。
 自分がトールを殺されて哀しんだように、アスランもまたブリッツのパイロットを殺されて、怒りを露にしていた。
 だけど、それが戦争のはずだ。
 相手を倒さなくては自分も倒される。

 

「だけど、それが戦争だ。戦争は相手を倒さなくちゃ……」
「戦争に固執することが全てではないはずです」

 

 ラクスの言葉にキラは話が良く飲み込めない。
 彼女は何が言いたいのか…。

 

「双方が争い合うことが戦争の解決策ではありません。互いを憎しみ合う争いは、また別の争いを呼び込み、それは永遠と続いていくこととなります。本当に戦争をやめさせたいのであるならば、倒さなくてはいけないものは、人間の中にある『欲望』であると思います」
「……戦争を止める」

 

 戦争が全てを破壊した。
 ザフトと連合の戦い…それによって巻き込まれ犠牲となった人々。
 すべては争い合うことが原因で。
 戦いが人を狂わしていく。

 

「一緒にきていただけますか?」

 

 ラクスはキラにつげ、歩き出す。
 キラはラクスの後を言われたままついていく。

 
 

 ラクスは、自分なりの力を行使しようと決めた。
 自分はただ守られるだけのクイーンでありたくない。
 少しでも誰かの力になりたい。
 自分なりの力の行使……。
 スザクがいった言葉。
 ならば、今、自分ができることを行使しよう。
 この私が信じたアスランの友人であり、自分を守ってくれた方に……。

 
 

 2人が辿り着いたのは、格納庫が見える場所。
 窓を見るとそこには一機のMSが置かれてある。

 

「…ザフトの新型モビルスーツ・フリーダム。あなたに乗ってもらいたい機体ですわ」
「僕に?」

 

 キラは驚き、ラクスを見る。
 自分に最新鋭機を渡すというのか?
 敵であるかもしれないものに。

 

「僕は、これを使って、あなたの掲げるものとは違うことをするかもしれませんよ?」
「……私はあなたを信じます。この機体は手段です。あなたがこの手段を使い、何をなさるかは、任せます。ですが、私は信じています。あなたがこれまで経験したことを元に、手段を用い、どんな結果を求めるのか……」
「……」

 

 キラは、何も言うことは無く、格納庫にと向かう。
 ラクスは、そんなキラの背中を見送りながら、自分の行なったことが何かの力となることを信じた。
 クイーンはただ見ているだけじゃない。
 自分にでもできることがあるのだと。

 
 

『フリーダムに何者かが搭乗!逃げます!!』

 
 

 数分後、格納庫ではフリーダムが何者かに奪取されたという事件が飛び交うことになる。

 

「ご存知ですか?」
「いいえ、今聞きましたわ」

 

 スザクから話を聞いたラクスは、そう答えてみせる。

 
 

 ――キラ・ヤマト……私はあなたにこの世界の未来を賭けます。どうか、この世界の復讐の連鎖を断ち切ってください。私は、信じています――

 

 ▽ ▲ ▽

 

「……手引きしたのは、ラクス・クラインという話ですが」

 

 暗闇の中、唯一光る監視モニターに映し出されたラクスとキラの姿を見ながら話を聞くパトリック・ザラ…。

 

「シーゲル……恨むならば、お前の娘。そして…既に私達は退けないところまで来ているということを察することが出来なかった己の力量を恨むのだな」

 

 パトリックは、シーゲル・クラインを始めとするクライン派を国家反逆罪として指名手配することを、決定する。

 
 

 戦争を、そして現実がわからないラクス・クラインは…
 己の力を行使することが、全てプラスに影響することはないということをまだ知らないでいた。

 
 

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