code geass-seed_08話

Last-modified: 2022-04-26 (火) 12:34:29

 第8話 メンデル攻防戦~混沌する宇宙~

『このまま進むと、廃棄コロニー付近に進みます。
 暗礁宙域もあるここでは、敵の待ち伏せが予想されます。
 さらには連合軍のドミニオンも依然として本艦の追跡を敢行しており、
 最悪の場合は、この双方と戦闘にはいることが予想されます』

 マリューからの言葉にラクスは頷く。

「……わかりました。私達もアークエンジェルを援護し、
 あくまで逃走経路の確保を前提とした攻撃支援を行ないますわ」

『感謝します。ラクスさん』

 通信が切れる。
 ラクスは、ただ暗い正面の宇宙を見つめる。
 ロイドとセシルは、アークエンジェルのほうが、
 だんだんとこちらに痺れを切らしているのではないかと思い始めていた。
 本来ならば、ここにいるクルーが全員、そう思ってもおかしくはないはずだが…。

「……スザク」

「はい」

 ラクスは、スザクのほうを見ずに、
 言葉をかけ、スザクはラクスのほうを見て答える。

「私は……みなさんに迷惑をかけているんでしょうか?
 私は、私の理想を掲げるために、プラントを出てきたというのに、結局…何も変えることが出来ない」

 力なく、ラクスは弱弱しい声でつぶやく。
 スザクは、そんなラクスを見ながら

「…ラクスは勘違いをしている」
「え?」
「仲間、友人という絆はそんな簡単に切れるものじゃありません。

 そして、平和というものは、決して目に見えるものでもない。
 ラクスがマリュー艦長や、
 ドミニオンにいるナタル艦長に告げた言葉は決して無視されたものではないはずです。
 ラクスには、ラクスにしか出来ないことを、行なっていけばいいんです。
 僕は、そのための剣となります」

「……ありがとう、ございます。スザク」

 そう…。
 そうなんですね、私は急ぎすぎているんですね。
 あの声に、あの囁きによって。
 今日…アスランがきたとき、
 私の心は、身体は…彼女に乗っ取られてしまいました。
 私の意識は深い闇に落ちて…。
 記憶が曖昧になってしまって。

 これがギアスの力の代償……。

 私は…その力に溺れたくない。この力はあくまで非常用の手段。
 平和をつくりだすための手段であって、この力で人類の意志を一つに纏めるわけにはいかない。
 それでは、力で人々を統一しようとするザフトのパトリック・ザラや、連合とかわりない。

 だけれど……、
 本当に私の声で世界に平和が訪れるのだろうか?
 復讐の連鎖、暴力の応酬が止められるのだろうか。

 ラクスは、赤くオン・オフが出来なくなってしまった己のギアスの効力を防ぐために
 使用するコンタクトをつけながら、
 悲しみに満ちた表情を浮かべうつむいた。

 スザクは、ラクスと別れて格納庫にと向かう。
 その長い廊下の先、ロイドとセシルが立っている。
 壁に寄りかかるロイドとスザクを見つめるセシル。
 その表情は険しいものとなっている。

「……スザク君、話があります」

 スザクは2人の前で立ち止まる。

「ここでなら監視カメラ等もないからね」

 ロイドは、スザクを見つめこちらに身体を向ける。

「お姫様の行動が、わからなくてね。
 やりたいことはわかるんだけど、
 それに対して彼女自身が余りにも理想を追い求めすぎている感じがしてさ。
 そして、それに対して艦内にいる誰もが、疑問も何も浮かべない。
 彼女に意見する人が誰もいない」

「……ザフトのアイドルであって士気があるのはわかるけれど、だけど…少し異常な気がして」

 セシルもロイド同調するが、その言い方はスザクに配慮したものとなっている。
 スザクは、そんな2人の話を聞きながら頷く。

「ラクスは理想を現実にするように求めているんです。
 そうじゃなきゃ、こんな無茶な行動は出来ないですよ」

 戦いをなくす。
 そのために戦うという矛盾をラクスは作り出したくないだけだ。
 だから最低限、どうしても回避できない戦い以外は回避したい。
 誰も傷つけたくなくて、そのためにできる限りの努力を行なう。
 それが連合軍とアークエンジェルの回線に割って入り意見を述べた行動に当たる。
 それ自体は、ラクスの理想に基づくものであると思う。

「僕は、彼女を信じます。彼女の理想に殉ずる気持ちは本物ですから」

 スザクはそういって歩き出す。すぐに戦闘が始まる。
 ランスロットに搭乗し戦闘準備を行なわなくてはいけない。
 ロイドとセシルの間を通り過ぎるスザク。

「僕たちは、君のおまけだから…君のやることにケチはつけないよ?
 だけど、忠告はしたからね?
 ラクス・クラインは君の言う理想のためなら、どんな手段も使いかねないっていうことを……」

 ロイドの言葉にセシルも息を飲む。
 スザクの言うとおり、平和に対する気持ちはラクスは人一倍だ。
 だからこそ、その覚悟のために、誤った手段を講じる可能性があるとロイドは告げる。

「……ラクスは、そんなことはしないです。彼女はゼロとは違う」

 それは自分に言い聞かせる言葉だったのかもしれない。
 スザクは格納庫にと消えていく。
 ロイドとセシルは、スザクに忠告は告げた。
 後は…彼次第であると考える。

 コロニー・メンデル宙域

「…敵戦艦確認、以前戦闘した新造戦艦『アヴァロンⅡ』です」

 ミリアリアの言葉を聞き、
 マリューは後方にあるドミニオン…
 ナタルがこのタイミングを逃すまいと確信した。
 漁夫の利を狙うか。それとも双方を潰しにかかるか。

「第一種戦闘配置、MSを発進させて」

 その言葉を聞きMSに移動するアスランとカガリ…。
 キラは様子のおかしい2人に声をかけようとしたが、
 どうにも無表情のままで声がかけられない。
 こんな状態になったのは、エターナルにいってからだ。
 何かあったというのだろうか?
 アスランとカガリはぶつぶつと何かを告げながらMSにと乗り込んでいく。

 前方に現れるアークエンジェル、エターナル、クサナギ……。
 これらを落せば、おそらくは自分たちがこの世界に導いた存在の狙いは達成されるのだろう。
 格納庫にて、己の操る改良型の機体、ギャラハッド・ボーグに乗ったビスマルクは、1人頷いた。

「いうことを聞かなくてはいけないというのは尺だが、仕方が無いか……。
 モニカ、ドロテア、準備はいいか?」

『問題ありません。必ずや今度こそ反逆者のクビをとります!』
『……私もこれ以上ラウンズに汚名を着させません』

 少し力んでいる感じがするが…問題は無いだろう。
 自分たちは神聖ブリタニア帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズだ。
 それがここまできて、遅れを取ってしまっては、それこそ皇帝、帝国の名を汚すことになる。
 それだけは避けなくてはいけない。

「いいだろう。私達の狙いは枢木スザクだけだ!他のものには目をくれるな」

 ビスマルクは、回線を開き、ルキアーノを呼び出す。

「お前のやりたいことをさせてやるための作戦だ。我々はランスロットを狙う。
 お前はお前のなすべきことをしろ」
『了解しました。お任せください…』

 ルキアーノ・ブラッドリー……。
 奴の行動が吉と出るか凶と出るか。
 ルキアーノの行動に心配をするビスマルクに、今度は別の回線がこちらに開かれる。

『……こちら、クルーゼ隊、隊長ラウ・ル・クルーゼだ。
 今回の作戦は我らも協力させてもらう。あのコロニー、そしてあの艦には知り合いもいてね』

 ラウ・ル・クルーゼ…。自分達に、敵から奪取したアヴァロンを渡したもの。
 自分たちが何者であるのか、そういったことを問い正そうと彼はしなかった。

「好きにすればいい。我らの邪魔をしなければ」
『あぁ、そうさせてもらう』

 この戦い……様々な思惑が交錯する場所となるか。

 ビスマルクはこの世界に渦巻くものを感じながら、出撃する。

「…我が艦も攻撃を仕掛ける。狙いはアークエンジェルのみだ。ザフトの相手はするな」

 ナタルも、漁夫の利を狙ってもいいのだが、
 やはり敵に撃墜されるよりかは、自分の手で決着をつけたい。
 それが…『友人』としてのせめてもの…。

「火中の栗をあえて拾いますか?まーそれでもかまいませんけどね。
 折角戦場に来たんだ。戦争をしなければ意味が無い」

 アズラエルは、ナタルの隣で笑いながら答える。
 虫唾が走るその言葉。
 だが、それもアークエンジェルが撃墜されるまで、自分の命令はそこまでだ。
 乗員をみんな殺せとは言われてはいない。
 軍規に従えば、己の心情から外れることは無い。

 こんな考え方に至ったのも、あの人のおかげか…。

 ナタルは自分の心を笑いながら、ブーステッドマン三機に量産型MS部隊を出撃させる。
 そんなナタルの前、既に戦闘は開始させられていた。

「枢木スザク、覚悟!」

 ドロテアの鋭い攻撃がスザクのランスロットを狙う。
 スザクはその回転するランサーの攻撃を避けるが、真上からモニカのライフルの攻撃を受ける。

「くっ!」
「ハハハハ…。お前を倒せば私は満足だ。ここで宇宙の塵となれ!」

 スザクは、向かってくるドロテアに、
 強力なハドロン砲を打ち出せるライフルをむけ、ドロテアに放つ。
 それをなんなく回避し距離をつめるドロテアのアグラヴェイン。
 手首を回転させたランサーをスザクに向ける。
 瞬時、スザクの瞳が輝く。

 それは、かつてゼロ=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがあたえた彼に対するギアス。

 『生きろ』というギアスの力。

 それは彼の意識に関係なく、生存のための最良な方法をとり、行動する。
 そして、それはスザクがコントロールすることもできるようになっていた。
 スザクは、ドロテアの眼前にてワイヤーをだし、
 それを上で砲撃を繰り返しているモニカの機体に巻きつけると、
 ドロテアから後退する反動を使って、
 巻きつけたワイヤーを引っ張り、モニカの機体をドロテアに目掛け振り落とす。

 

『機体の制御が取れない!!』

 

『何っ!?』

 モニカの機体がドロテアに衝突する。頭部を潰し合った二機はバランスを失う。

 

『くそぉぉぉ!!』

 ドロテアはやけになり、ランサーをスザクに向けて撃ち出す。
 スザクはその放たれたランサーをワイヤーで切り払う。
 スザクはやはり、そこで二機に止めを刺さず、その場から離れる。
 ドロテアはあまりにも容易く扱われたことに、プライドを大きく傷つけられていた。
 モニカはそんなドロテアは放って脱出を図ろうとするが、
 衝突した影響で絡み合ってしまい、バランスがとれない。
 そこに見えてくる連合軍のMS。

『あ、あぁ……こ、こんなところで!』

 ブーステッドマンはまるでゴミといわんばかりに、
 フォビドゥンが強力な射撃をそこに目掛け食らわして二人を纏めて焼き尽くす。

 スザクは戦場を駆け、艦を狙う敵を次々と撃墜していく。
 そこに現れる黒き影。

「あれは!?」

『枢木スザク!』

 かつてのナイトオブワンであり、ギアスユーザーでもあるビスマルクである。
 スザクは、その強力かつ巨大な剣を受け止めるが、
 パワーでは大きくスザクのランスロットを凌駕するギャラハッドは、スザクを押していく。

 
『貴様、なぜこの世界に飛ばされた。お前も、この世界に呼ばれたというのか!?』

 
「この世界は未来の扉が閉じようとしている!それを止めるために、僕らは呼ばれたはずだ!」

『そうだろう、そうだろうな…。だが!私はそのようなものに身を捧げたつもりは無い!

 私が敬愛し、唯一命令ができる方は、シャルル皇帝陛下とマリアンヌ様だけだ!』

 

「あなたも未来を見ずして過去に生きる人かぁ!!」

 スザクは、剣を押し返し、離れるとライフルを撃つ。
 ビスマルクはその目を輝かせ、相手の攻撃パターンを予測し回避していく。
 その射線や敵の動きは『未来線のギアス』をもてすれば、回避など造作の無いこと。

 

『一度は貴様の腕を見誤ったが二度目は無い!!』

 

「くぅぅぅ!!」

 スザクはギャラハッドの猛攻に押されている。
 ビスマルクは、それでいても作戦は忘れてはいない。
 ラウンズの2人を失ったが……ランスロット、枢木スザクの目は完全にこちらにむいた。
 後は…奴次第だ。

 

「敵接近!まっすぐこちらに向かってくるぞ!」

 
 バルドフェルドの声とともに姿を現すのは、
 ルキアーノが操る専用ナイトメアフレームのパーシヴァルである。
 防衛を行なうのはオーブからカガリとともに訓練を受けたM1隊である。
 ルキアーノを通すまいとライフルを撃ち込むが、それらはシールドによって防がれる。

 

「アハハハハハ、お前達弱いよ、弱すぎる!」

 ルキアーノは、一気に二機のM1アストレイをドリルのよう回転させ、
 コクピットから串刺しにして爆破させる。恐怖に怯えるもう一機。

 

「怖いか?怯えているか?ならば、悲鳴をきかせろ!俺に心の奥底に響くような悲鳴をぉ!!」

 そのまま機体を真二つとするルキアーノ。
 圧倒的な強さを前に、
 マリューは、ビーム機銃で敵を近づけないように指示する。
 ルキアーノは笑いながら、
 アークエンジェルではなく、その隣にあるエターナルに目をつける。
 エターナルの機銃を回避し、
 そのブリッジに接近したルキアーノは、ドリルをむけてそこで制止する。

 

『ナイトオブワン、エターナルを抑えました』

 ビスマルクは、その声を聞き口元を歪ませる。

『枢木スザク、クイーンの命は我らが抑えた』
「しまった!」

 
 スザクはそこで、自分がギャラハッド…
 ビスマルクとの戦闘に夢中になっていることに気がついた。
 だがそれはもう遅い。
 キラやアスランたちが、エターナルを見る。

 
 そこでは高らかに笑い声を上げるルキアーノの乗るパーシヴァルがあった。

『フフ、フハハハハハハ!!武装を解除しやがれ、お前達はここで終わりだ!』

 ラクスは、そんな声を聞きながら、黙って前だけを見つめていた。
 その声を聞き、勝利を確信したビスマルクだったが、
 そこに現れる黒き機体…。
 シルエットとしては、まったくの最新鋭機である。そ
 れに搭乗するものが、ラクスのエターナルにと近づき回線を開く。

『……ラクス・クライン、あなたを招待しよう。全ての真実、この戦いの全てを……』

 ラウ・ル・クルーゼは最新鋭機であるナイトメアフレームと、ザフトのMS技術を組み合わせ開発させたプロヴィデンス・インビジブルに乗り、微笑む。

 
 

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