file2「ザンテツ見参」後編

Last-modified: 2014-03-07 (金) 22:47:04

ヴェイガンの襲撃から1時間程して、アセム達はメリダ基地に到着した
小さな基地である為設備も揃わず、特務隊は輸送機の中で整備や調整をしていた
輸送機の格納庫ではではアセムがハロに戦闘データを分析させ、頭を捻る

 

(ゼダスタイプの改良機、ブレイドが強化されてビームも受けられる
 もしXラウンダー能力を使えるなら銃口から軌道も予測がつくだろうし)

 

「難しそうな顔をしているなアセム
 さっきの奴、戦闘データを見る限りXラウンダーのようだが?」

 

「反応はできるんだけど、それ以上に飛び込んでくる速度がかなり速かった」

 

「その速さなんだが、ちょっとハロをモニターにつないでくれるか?」

 

「いいけど、何か気になる事でも?」

 

「ちょっとな、あとこれも頼む」

 

メモリーチップを渡され、ハロと格納庫の壁面モニターをコードでつなぐ
モニターにガンダムの各カメラからの映像が映される
アセムが映像と同時進行でその時の自分の操作を思い返し、その操作以外の行動の選択肢を考えていると
フリットは何か納得したような顔をして

 

「ここだな、渡した映像データも開け、撃墜された味方の機体の戦闘データが有るはずだ」

 

そう言うとガンダムや味方の複数の視点から同じ時間の映像を同時に見始めた
そしてアセムもあることに気づく

 

「これは、ホバー?いや…違う」

 

「摺り足だな、足を地面に付けるかスレスレで運んでいる
 体の揺れが上下に小さいから仕掛ける側は切り込む姿勢を維持して前に出られる
 仕掛けられる側にはいつの間にか深く踏み込まれているように見える
 士官学校の戦闘教練で習った、極東武術の基本だ。」

 

「あの機動力のテクニックは分かったとして、対処法は?」

 

「そうだな、こちらも同じ土俵に立つか…こいつの癖を利用するのも手だな」

 

「土俵?」

 

「こっちの話だ続きを見ろ、脚部が湖に入った時バランスを崩しているな
 これは無意識に摺り足を不安定な地面でやって地面に突っかかっている証拠だ
 まさしく奴の癖だな、水面から脱してそのまま切り込んではいるが…」

 

「無駄に一度上昇してる、あの推力と装甲なら直接MS隊の間に入れたのに
無意識に摺り足動作をしているから過剰に地面を意識してるんだ」

 

「奴自身も調整が聞かないほどにその動作が染み付いている
 初見で破るのは難しいが分析さえできれば対策もそれほど難しくはないだろう」

 

 相手の基本的な動作から付け入る隙を探すが、もう1つ問題があった
武装の面での差は大きく、最悪相手が改造した武装で強引に押し切られてしまう可能性もある
ビームサーベル2本で受けても推しが効く程強化されたテイルブレードを破る方法
どうしたものかとアセムがハロのモニターに視線を落とすと、ブロック毎に分けられたガンダムの図と
ガンダムが現在使用可能な武装が表示され、その中に可能性を見つける

 

 安定性の問題から整形後のテスト以来使われなかったザンテツウェア用の武器「ザンテツブレイド」である
その威力は連邦軍機体の装甲は勿論、ヴェイガンの電磁装甲も容易に切り裂く威力を持つ
しかしその強大な出力の制御が難しく、両手で出力をコントロールしなければ刃の形成もままならない
乱戦ともなれば激しい機動や近接戦闘の応酬で「両手」のグリップが安定しなくなる為
アセムはザンテツブレイドの使用を控えていた

 

思案にふけっている所をクルーに声をかけられる、気づけばフリットの姿は無かった
「アセム隊長、よろしいでしょうか」

 

「ん?どうした」

 

「輸送機は無事なんですが、MS隊の損傷がいくつかありまして
 ここの設備も駐留軍の整備で手一杯です、予定通りに給油後すぐ出発というのは…」

 

「そうか、護衛が減れば少数の敵にも気を配らなきやならないしな
 出撃は明朝まで待ってもらおう、後で俺から基地の司令に言っておくから整備をしっかり頼む
 ついでにザンテツブレイドを使えるようにしておいてくれ」

 

「はっ!…え、アレを使うんですか?」

 

「また同じ奴が攻撃してきたら普通の装備では心許ないからな」

 

アセムはメリダ基地メリダ基地司令部を訪ねていた
事情を説明し出発の延期を伝えると基地の司令は苦い顔をしていた
メリダ基地は首都ブルーシアからそう遠くない位置だが連邦軍にとって
山や森に囲まれ、資源や人口の少ないこの地域の有用性は低く、駐留軍の実戦経験も演習のみ
ヴェイガンの降下した部隊もこの基地を放置していた
長らく戦いから隔絶されてきた為に士気・経験のないメリダ基地にとって
アセム達はヴェイガンを引き寄せる危険な存在であり、一分でも早く立ち去って欲しいものだった

 

「パイロット全員!今の内に食えるだけ飯を食うんだ!」

 

「「「了解!!」」」

 

「食べながら聞いてくれ、給油はすぐにできるが出発は明朝0600、日の出前まで延期だ
 で、今1900だから次に出る巡回MS隊と合流して2000から俺たちも巡回
知ってると思うが全機が万全というわけじゃない少数のMSを数人のグループで使いまわしてくれ」

 

 アセムの言葉に返事を返しながら素早く口に詰め込み特務隊のパイロット達は自室に駆けて行った
用意された食事を素早く平らげてアセムも準備に向かう
 空は暗く、基地内のサーチライトが数本に伸びている
警戒態勢を敷いているのが珍しいと言うのも戦時中ではおかしな話だがすれ違う基地の人員は
いつ来るとも分からないヴェイガンに緊張しているか、来ないだろうとたかをくくりダラダラとしていた
アセム達が巡回に加わるが何事もなく時間が過ぎていく、しかしただでさえ戦力の低いこの基地では
気を抜くことができず、深夜から明け方に架けても気が休まる事は無かった

 

 何事もなく出発1時間前になり、輸送機が滑走路前の準備位置に出てその周囲をMSが囲むように立っていた
丁度朝日が空を明るくし始めた時、基地管制塔から警戒警報が通達された
前回と同じ、視界に入る前にレーダーにとらえられているのにまるで気にも止めず少数で突っ込んでくる
識別信号の先頭にあるのは前回の赤いゼダス

 

「やはり奴が来たか敵は少数だが前回のように足場が悪くない
 各員基地のMS隊と連携して各個撃破に専念しろ!やばいと思ったらすぐに下がれ!」

 

『隊長はどちらにつきますか!』

 

「戦闘のエースはガンダムが狙いだろうから陽動を掛ける!
 輸送機の『重要物資』の事も忘れるなよ!あんまり下がると無視され兼ねないからな」

 

基地から一人離れた場所に移動するアセム、嗅ぎつけるように遠くに見える一団から一機こちらに向かうのが見える

 

『対空機銃射撃開始!ミサイルバギーは撃ったらすぐ戻れ!』
『2機づつで分散しました!ヴェイガン機も攻撃を開始!』
『MS隊射撃開始!機銃と合わせて基地内に入らせないようにしろ!』

 

 ガンダムのコクピットに通信が響く、戦いが始まったようだ
独自に飛行能力を持つヴェイガン機相手では足止めして輸送機を先行させる、というのは難しく
少数なら可能な限り地上に釘付けにして集中砲火で潰してしまうのがベターな選択である
通信を聞く限りではセオリー通り、損害は可能な限り抑えて展開できている
残る問題は目の前の敵、いつまでも睨み合ってるわけにはいかない
ザンテツブレイドを両手でグリップすると、ビームがまっすぐに伸びる

 

『今日こそ決着だガンダム!今回は邪魔も入らんぞ!』

 

前回同様フリーの回線で声を荒げるゼダスのパイロット・タンバ
改造されたセダスブレイドを右手に装着し、少し身を屈める

 

「そこだぁ!」

 

敵機が構えるのと同時にアセムはレバーを入れ、ガンダムが長柄の刀を振り下ろす

 

『な、なんだこれは!?』

 

咄嗟に腕を上げて手首から伸びる剣でザンテツブレイドを受ける
本来格闘武装では届きようのない距離で競り合いとなる
通常のビームサーベルの倍以上もある刀身とその高い出力で一合目からタンバを圧倒する

 

『間合いに踏み込ませないつもりか!だが甘い!』

 

ゼダスは素早く刃ザンテツブレイドを左に受け流しガイドに、ゼダスブレイドを盾にして滑らせながら接近する
想定していた通り地面にするように足を上げずに接近してくる
ここで後退するのは深い踏み込みからさらに追い詰められる、ガンダムはブーストして肩を当てる
自分の速度もあってゼダスは大きく後退する。

 

『手の内を読まれているのか!やるな、そうでないと甲斐がない!』

 

「戦いに何を求めてるのか知らんが、今は相手になってやる!」

 

 メリダ基地では徐々に戦況が悪化していた
既に対空砲はいくつか潰されMS隊も基地所属の隊はほぼ心が折れかけていた
輸送機では最悪の場合に備えて離陸の準備を始めており、フリットは急ぎブリッジに入って来た

 

「基地の部隊の指揮もこっちに回せ!私が動かす!」

 

「トム准尉!滅茶苦茶言わないでください!」

 

「准尉じゃない、私は…フリット・アスノだ!
 極秘任務でここにいる、特務隊の運んでた『重要物資』は私だ」

 

 帽子を投げ捨てるように取って機長席のクルーに言いつける
その場にいたクルー全員が驚き、中には声を出す者もいた
急いでオペレーターが管制塔につなぐと、フリットはヘッドセットを奪いすぐに回線を全体に繋がせた

 

「倉庫を盾にしてる奴がいるな!ジャンプすれば11時の方向の1機を直接狙える!
 今前に出てる隊が足を止めろ。2、3発でお前らに意識が行くはずだ!」

 

『盾がありませんよ!』

 

「上下に動いてる限りは当たらん!さっさとやれ!残り2機は固まってるな…
 ミサイルバギー隊は後ろに回り込め、スモークを撃ち込ませよう
 ん、今やられたのはどっちのMSだ?特務隊はラインを下げ始めてもいいぞ」

 

指示を出してる内に敵の反応が1つ消え報告が届き、フリットはすぐに次の命令を出す

 

「機長!滑走路に出ろ!近くのMSも呼び戻せ!」

 

「離陸なんてできませんよこの状況で!」

 

「滑走路に出るだけでいい!」

 

 ヴェイガンの機体が2機近い距離で攻撃を交互に繰り返す、既に施設の被害も無視できるものではない
ミサイルバギーが回り込む前に残った砲台からスモーク弾が撃ち込まれ2機は煙に巻かれ始める
そしてその2機から丁度見えるように輸送機が滑走路に出る
すかさず飛び上がり輸送機への攻撃を強行しようとするが背面のミサイルバギーに撃ち込まれ
威力は低いものの無防備な所を突かれてしまい、翼が折れてスラスターが変形、爆発し地面に叩きつけられる
そこからの指示は必要なかった

 

 アセムとタンバの戦いは続き、切り結んでいる所で基地から上がる黒煙にタンバは勢い付く
味方の被害か敵の被害か、どちらにせよ基地に与えたダメージは相当な物であるとそう考えた
一方アセムは実戦での敵の挙動を掴み始めていた

 

「よく喋るパイロット!喋りついでになぜ司令がここに来ることを知ってたか話してもらおうか!」

 

『司令?ふん!人間一人ならいつだって寝首をかけるわ!
 狙いは貴様の首だけだ!そのガンダムと言う機体は戦力的には勿論
 こちらとしては落とせば我らの士気に大きなプラスとなる!』

 

「そうか、それだけ分かれば安心だ」

 

『なんだと!?貴様舐めるな!』

 

 ゼダスは全速で踏み込みブレイドを構える、タンバの脳裏にXラウンダー能力で浮かんだのは
足元をザンテツブレイドが払おうとするビジョンであった
一瞬の踏み込みから素早く跳躍すると、ガンダムの長いビーム刃が地面を抉る
次に浮かんだビジョンはガンダムをザンテツブレイド毎派手に切り裂くものだった
通常では上から振られても電磁装甲とビームの反発で終わるが
飛び上がった今、体重を載せることで刃を押し切ることができる
予想通りガンダムはザンテツブレイドで振り下ろすゼダスブレイドを受ける

 

 徐々にゼダスブレイドがビーム刃に食い込み始めたとき
アセムはコクピットの操作パネルを少し弄り、エネルギー発生の設定を手動に切り替えレバーを強く握る
深呼吸し集中力を高め、ガンダムの片手をビームサーベルの持ち手から離す
瞬間ザンテツブレイドの刀身は消えゼダスブレイドが深く左の肩口から切り込まれ左腕が全て飛ぶ

 

『獲ったぞ!ガン…』

 

 バシュン!と弾くような音を立ててゼダスの頭部に溶解した穴が空き、通信が途絶える
右手だけではザンテツブレイドの刀身を維持する事は出来ないが、瞬間的に発生させる事はできる
アセムは片手のみでさながらビームライフルのように、剣を振り切って無防備なゼダスの頭部を打ち抜いた

 

片膝をついたまま動かなくなったゼダスを後にアセムは帰投した

 

『アセム、無事か?ガンダムを収容次第離陸する
 あと特務隊には私の事を話して置いた』

 

「自分からも報告があります、今回の奴らは指令を狙ってた訳じゃなさそうです」

 

『そうか、ならブルーシアまでの数時間はよく眠れそうだ』

 

敵の攻撃を凌ぎ一路ブルーシアへと向かうアセム達特務隊。
損壊したザンテツウェアは左腕がフレームから内部装置まで殆ど全とっかえが必要であるのと
効果的な運用に必要な技量からウェアの修理とアデルへの転用は見送られた
時A,G,142年この後、勇気の日襲撃事件を契機に、地球連邦の大改革が行われる

 
 

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