「おい坊主!」
「ああ、マードックさん。なんですか?」
「手が足りないんだ。どうせ坊主しか乗れない坊主専用機だ。整備手伝ってけ」
「俺専用って……まぁそうなんでしょうけど。しょうがねーな」
整備を手伝いながら、奪われたGの事も教えてもらった。
げっ! アスランが乗ってたイージスって機体、重装備持ってないどころじゃねーよ! モビルアーマー形態でスキュラ撃たれたらモビルスーツなんて一撃じゃないか! 運がよかった……
俺がストライクの整備を手伝っていた時間は長いものではなかった。メビウスゼロの修理ができるとすぐ、俺はタンクベッドに放り込まれた。
…
ピピピピ、チチチチ……と鳥が鳴く音と柔らかな光に包まれて俺は目覚めた。
「ふぁーあ、よく寝た」
「やあ、シン、目が覚めたか」
「あ、サイ。お前もこれ使うのか?」
「いや、これは兵員用だとさ。兵隊さん達が順番待ちしている。俺はお前を起こしに来たんだ」
「そうか、サンキュ。寝てからどれぐらいたった? 何かあったか?」
「5時間位かな。安心しろ、今のところザフトに見つかった様子はなさそうだ」
そう言えば人間の睡眠周期は90分~120分らしい。それに合わせて起きればしゃっきり目覚められると言う。今の俺みたいに。
「よう、坊主、目が覚めたか」
「あ、ああ、ええと」
下着姿になって近づいてきた青年に声をかけられた。確か、メビウスのパイロットと言っていた……
「名前はまだだったな。ムウ・ラ・フラガ大尉だ。お前さんが起きるのを待ってたのさ。何しろ今この艦には戦えるのは君と俺しかいないんでね」
「戦う、ですか。投降する訳にはいかないんですか?」
そうだよ! そもそもオーブに攻めて来たのは地球軍じゃないか! 何をやってるんだ? 俺は?
「……エイプリルフール・クライシスの惨状を見ろよ。プラントの奴らは何かあるとすぐ血のバレンタインとか言うけどな、被害はエイプリルフール・クライシスの方が数もパーセントも段違いだぜ。いきなり中立国もなんもお構いなしに地球全土にニュートロンジャマーをぶち込む手際、前から計画してたとしか思えん。しょせんプラントの奴らは、空の高みから、自分たちは優性人種でございと俺達を見下してやがるのさ。そんな奴らに自分の身を進んで預けようとは思わないね」
「そう、ですか」
「お前さんが複雑なのもわかる。しかし、ザフトの連中は容赦しちゃくれんぞ」
「掛かる火の粉ぐらいは、掃いますよ」
そうだ。この艦を襲ってくる連中の中にルナやレイがいない事だけは確かだ。知り合いじゃなければ、遠慮なくやれる。アスラン……むしろ知ってるからこそ余計に遠慮なくやれる! 逆撃だ! OK!
気持ちの整理が付くと気分も明るくなるなー!
「じゃ、大尉さん、良い夢を!」
「ああ、ありがとさん。お休み」
そう言うとフラガ大尉は俺と入れ替わりにタンクベッドへ入っていった。
「じゃあ、お前シャワー浴びたら食堂に来いよ。地球軍のMRE、なかなかうまいぞ」
「ああ!」
……
俺がシャワーを浴びて、食堂に入ると、みんながいた。しかし、なんだ? 女性陣のこの視線は!? 俺が何か悪い事したみたいじゃないか!
「いいなぁ、シンだけシャワー浴びれて」
「キラだけずるいわ。私もシャワー浴びたいのに」
「え? あれ? お前、確かシン・アスカだよな? キラってなんだ? そういや前にもサイからキラって……」
「え? この子、キラ、じゃないの?」
あちゃーフレイには話が通じてなかったか!
「シン・アスカが本名だよ。キラってのは良く似たキラって奴がいてさ。面白がって時々そう呼ばれるんだ」
はは……苦しい説明だが、納得してくれよ!
「そういう事さ、地球軍がシンに余計な注意払わないように、シン、で統一してくれよ」
ナイスアシスト! サイ! 俺は目でサイに感謝の念を送った。
サイは俺に、にこりと頷くとさらに続けた。
「それに、シンが特別にシャワー浴びれるのには訳がある。負傷した場合に備えた準備だよ。不潔なまま負傷した場合、傷口からどのような菌が入り込むか知れたものではないからね」
「え? なんでこの子がそんな? 戦うの? 私たち民間人でしょ?」
「シンはコーディネイターだからねー。モビルスーツが操縦できるのさ」
「カズイ!」
「……うん。シンはコーディネイターだ。でもザフトじゃない」
「……」
「うん、あたし達の仲間。大事な友達よ」
「…そう…」
「ま、そんな所だ。さあ、地球軍のMREはうまいって聞いてきたんだがどんなだ? 腹が減っちまって」
「それがねー。当たり外れがあるのよね。シンはどれ選ぶ?」
「結構種類があるんだなー。うーん」
俺はサルサ風チキンとメキシカンライスを選んだ。香辛料が効いててなかなかうまかった!
食後にレクリエーションで腕相撲をやった。なんと優勝したのはカガリだった。なんでだよ! キラの野郎運動さぼってやがったな! 屈辱だ……今後トレーニングに励む事を俺は心に誓った。
◇◇◇
その頃ヴェサリウス艦橋
「なぜだ! 奴らの頭は抑えたはずだ! なぜ未だに見つからん! ガモフから知らせは無いのか!?」
「は、今のところありません」
なぜ見つからないって、そりゃあんたの読みが間違ったんだよと言いたくても言えない。だからガモフを保険にしましょうと言ったのに。クルーゼ隊長もわかっているのだ。諫言して余計に意地になられても困る。早くあきらめましょうよ、ねぇ。
「くそう、まさか本当に、素直に月基地へ向かったとでも言うのか! 地球軍の奴らは策の一つも使えないほどの馬鹿者だと言うのか!?」
『馬鹿者に してやられたの あんただよ』 アデス心の俳句。
「もしかしたら、我々の気づかぬ内にアルテミスへ入ったのかも知れない。確認せねばなるまい。アルテミスへ向かうぞ!」
「はっ」
やれやれ、動くか。やっと無為の時から開放される……
「隊長! 評議会から召還命令が来ました!」
「何? くそっ、しかたない。ゼルマンに確認させておけ!」
あーあ。
◇◇◇
『オーブ避難民の方にお知らせです。船外ポッドでの活動の経験のある方ご協力願います』
「船外ポッドだって」
「俺らも一応できるよなぁ」
「シンばかりに働かせてるのも悪いし」
「協力しよっか、トール」
「私もできるぞ!」
デブリ帯に着くと、オーブの避難民にポッドでの船外活動の募集がかけられた。結局、フレイってお嬢さんを除いたキラの友人とカガリは参加した。俺とフラガ大尉は交代で護衛に当たった。
「あれ? ミリアリア、その制服?」
「うふふ、驚いた? シン? アークエンジェル自体も人が足りないようだから、何か手伝えることは無いかって聞いたのよ。そしたらブリッジに配属されて」
「そしたら、ブリッジに入る時は軍服位着ろってさ」
「軍服はザフトの方が格好いいよなぁ。階級章もねぇからなんか間抜け」
「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな」
「こういう状況なんだもの、私たちだって、出来ることをしないとね」
「そっか。頑張れ。無理はするなよ」
「うん、じゃあ、またね」
俺は、キラの友人たちに友情を感じ始めていた。
時々出会う死体に驚いたりしながら、俺達は順調に物資を集めていった。
だが、どうしても水が足りない。
「!…うっ…!…水!水ー!」
「あーもう……」
「…うっ……うっ……水を!もっと水をー!」
「止めなよ、状況に合ってないギャグ」
「ギャグじゃねぇよ! …ったく~」
「……? なに? フレイ? どうして避けるの?」
「だって、水の使用制限だって、ここ2・3日シャワー浴びれなかったんだも~ん」
「シャワー浴びれるようならまだ余裕ある方だぞ。本当に余裕がなくなればシャワーなんぞ浴びれなくなるからな」
「カガリは逞しいねぇ」
「あ、シン、いつからいたんだ?」
「今来た所だよ。まったくまいるよなぁ。パーツ洗浄機もあまり使えないから、整備も手間ばっかりかかっっちまう」
「そうなんだよなー給水制限で辛いよ。思いっきり水が飲みたいよ」」
「まぁ、水が山のように……海のようにかな? あるデブリに宛てがあるみたいだから、もう少しの辛抱さ」
「そうか! そいつは助かる!」
「ちょっと待てよ! それってまさか、ユニウスセブンじゃ!?」
「さすがサイ、ご名答」
「やだぁ、ちょっと待ってよ、あのプラントは何十万人もの人が亡くなった場所で……それを……」
「まぁ、海の部分で死んだ人は少ないだろうさ」
「今までだって、墓場荒らしみたいなもんだったんだ、生きるためにはしょうがないだろうな」
「……鶴…」
「ミリィ?」
「慰霊のために鶴でも折ろうかなって」
「ミリアリアは優しいな」
折り紙、か。そう言えばマユも好きだったな。俺達は黙々と鶴を折り続けた。
……
「ユニウスセブンか……二度目だな」
俺は目の前の奇観を見てつぶやいた。
最初に慰霊のために花束と折鶴を放ってから、水の搬入は順調に続いている。暇な俺は思い出に浸った。
あの時は、アスランにイザーク・ジュールもいたんだよなぁ。だが、あいつらはザフトを、デュランダル議長を裏切った!
もし俺の前に出てきてみろ……
「あ、民間船?」
目の前のデブリの影からいきなりきれいな白い船が現れた。だが……
「撃沈されたのかこれ……まだ撃沈されたばかりみたいだぞ……無残だな」
ビー・ビー・ビー
ん? これは……救命ポッド!?
…
「つくづく君は、落とし物を拾うのが好きなようだな」
「はぁ。しかし放っておくわけにもいかんでしょう」
「開けますぜ?」
マードックさんがハッチを開く。
「ハロ、ハロー、ハロ、ラクス、ハロ!」
「「はぁ??」」
皆が、これはなんだと首を傾げる。だが俺は、俺はこいつに見覚えがあった!
「ありがとう。御苦労様です」
「「はぁ??」」
やはり! 救命ポッドから出てきたのは、ラクス・クラインだった!
あぁ…あ…あぁ……
「あんた……」
「どうした、シン?」
カガリが心配そうに俺に声をかける。
「あんたのせいでアスランもー!」
「え?」
気がつくと、俺は目の前のラクス・クラインを平手で張り飛ばしていた!