sin-kira_シンinキラ_第07話

Last-modified: 2011-12-10 (土) 20:58:06

「何をする! シン・アスカ!」
「みんな! シン君を押さえて!」

 

俺は、自分のした事に呆然とした。
女に手を上げるなんてな……マユ、お兄ちゃんは汚れちまったよ……

 

じりじりとみんなが、ちょっと怯えた表情を見せながら俺に近づいて来る。
俺は両手を広げて肩をすくめた。

 

「騒がないでも、もう何もしませんよ」
「後で、事情は聞かせてもらいますからね」
「了解です! 艦長」

 

「じゃあ、あなた、こちらへ。事情を聞かせてもらいます」

 

ラクス・クラインは、艦長に連れられていった。

 

「いきなり女の子を殴るなんて、どうしたんだ? シン。お前らしくないぞ」
「ごめんよ、カガリ。つい、感情が抑えられなくなってな。もうしないよ」
「深い事情は聞かないけどな。もし話したくなったら話せよ」
「ああ、ありがと。一つだけ。あいつの言う言葉には耳を貸すな。いくら耳触りが良くてもな」

 

 

「で、君がラクスさんを殴った理由を聞かせてもらうわ」

 

ラクス・クラインが、事情を聞かれ終わったのだろう、部屋から出てきて、あてがわれた個室に入れられた後、今度は俺が呼ばれた。

 

どう答えりゃいいかな。俺は懸命に考えた。

 

「……俺には、アスラン・ザラって月の幼年学校からの友人がいます」
「ザラ!? 続けて頂戴」
「でも、久しぶりに会った彼は、ザフトに入ってて、奪われたイージスでアークエンジェルを襲ってきました」
「なんですって!?」
「でも、でも、アスランは、あいつは優しくて、軍隊なんて、そんな事できる奴じゃないんだ! あの女に誑かされてるんだ! そう思ったら、身体が動いていました。反省してます。もうしません」
「何故、ラクス嬢に君の友人がだまされていると思ったんだい?」
「それは……二人が婚約者だからです。きっと、あの女が、アスランに軍に入るように勧めたんだ!」
「「……!」」
「やれやれ。もしかして、そのアスラン君のお父上は……」
「プラント国防委員長、パトリック・ザラです」
「……はぁ。」

 

マリューさん、ナタルさん、フラガ大尉の三人は困ったように顔を見合わせている。

 

「すまなかったな、坊主。事情を知らんとは言え、友人と戦わせるなんて事しちまって」
「いえ、ヘリオポリスを守りたかったのも本当ですし、ここにいる友人だって大切です」
「……事情はわかりました。もう女の子に手を上げるなんてしちゃだめよ? これでお終い」

 

俺はやっと解放された。

 
 
 

「嫌よ!」

 

……? なんだ?食堂の方でフレイの声が聞こえる。

 

「フレイたらー!」
「ミリアリアがいくら言っても嫌ったら嫌!」
「なんでよ~」
「おい、どうしたんだ?」
「……ん。あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持ってって、って言ったら、フレイが嫌だって。それで揉めてるだけさ」
「私はやーよ! コーディネイターの子のところに行くなんて。怖くって……」
「フレイ!」
「……あ! も、もちろん、シンは別よ。それは分かってるわ。でもあの子はザフトの子でしょ?コーディネイターって、頭いいだけじゃなくて、運動神経とかも凄くいいのよ? 何かあったらどうするのよ! ねぇ?」
「…えー…あぁ…え…」
「フレイ! シン泣いちゃったじゃない!」

 

え? 目元に手をやると、涙が……ステラの声で言われるとショックが大きかったらしい。
だめだ、意識すると余計に……

 

「ひっく…えっぐ……」
「もう、しょうがない子ねぇ。シンは別って言ったでしょ?」

 

おずおずとフレイの手が俺の髪を撫でる。
気持ちいいな。落ち着く……

 

「……気持ちいいな。もっとやってくれ」
「――! 調子に乗らないの!」

 

ぷいと、フレイは向こうを向いてしまった。ちぇっ。残念。

 

「でも、あの子はいきなり君に飛びかかったりはしないと思うけど……」

 

カズイ? それは俺に対する嫌味か?

 

「ははは、カズイもきついなぁ」
「……そんなの分からないじゃない!コーディネイターの能力なんて、見かけじゃ全然分からないんだもの。凄く強かったらどうするの? ねぇシン、代わりに持ってってくれない?」
「いいよフレイ。俺が持ってくよ。謝りがてらにね」

 

そう言えば、ラクス・クラインがフリーダムをキラ・ヤマトに横流ししたんだよな? 仲良くしておいて、フリーダムをもらう方がマユを守るのには好都合かもしれない!

 

「まぁ!誰が凄く強いんですの?」
「ハーロー。ゲンキ!オマエモナ!」
「「あっ!」」
「わぁー……驚かせてしまったのならすみません。私、喉が渇いて……それに笑わないで下さいね、大分お腹も空いてしまいましたの。こちらは食堂ですか?なにか頂けると嬉しいのですけど……」
「あれ? カズイ、この子の部屋って鍵とかしてなかったのか」
「いや、掛かってたと思ったけど……?」
「やだ! なんでザフトの子が勝手に歩き回ってんの?」
「あら? 勝手にではありませんわ。私、ちゃんとお部屋で聞きましたのよ。出かけても良いですかー?って。それも3度も」

 

あどけない顔しながらその裏で何企んでいるんだ? もうフリーダムを横流しする準備はできてるのか? いや、まだ完成してないか。はは。

 

「それに、私はザフトではありません。ザフトは軍の名称で、正式にはゾディアック アライアンス オブ フリーダム……」
「な、なんだって一緒よ! コーディネイターなんだから!」
「同じではありませんわ。確かに私はコーディネイターですが、軍の人間ではありませんもの」
「……」
「貴方も軍の方ではないのでしょう? でしたら、私と貴方は同じですわね。御挨拶が遅れました。私は……」
「……ちょっとやだ!止めてよ!」
「え……?」
「冗談じゃないわ、なんで私があんたなんかと握手しなきゃなんないのよ! コーディネイターのくせに! 馴れ馴れしくしないで!」

 

あー……。キラの記憶にはなかったが、このフレイって奴、ブルコスだったのか。キラも可哀想にな。

 

「フレイ! シンまた泣いちゃったじゃない!」

 

あれ? 泣き癖ついたのかな。頬を涙が流れるのがわかる。

 

「ええ!? ……しょうがないわねぇ。ほら、いい子いい子」

 

そう言うとフレイはまた10回ばかり俺の頭を撫でてくれた。ラッキー?

 

ラクスはちょっとびっくりした顔でこの様子を見ている。

 

「ああ、ラクスさん。先ほどはどうもすみませんでした」
「え、あ……い、いえ。お気になさらないでください」

 

俺が挨拶すると、ちょっと怯えた感じでラクスが答えた。まぁしょうがないやな。

 

「さあ、部屋に戻りましょう。怒られますよ。食事もお持ちしますから」

 

そう言って俺がトレイを持って歩き出すと、ラクスもしぶしぶと言った様子で付いてきた。

 

 

「またここに居なくてはいけませんの?」
「ああ、すまないけどな」
「つまりませんわー。ずーっと一人で。私も向こうで皆さんとお話しながら頂きたいのに……」
「これは地球軍の船だからな。さっきみたいにコーディネイターの事を好かん連中もいる。ここにいた方が安全だよ」
「残念ですわねぇ……でも! 貴方は優しいんですのね! ありがとう」
「……はぁ!?」
「ふふ」
「……最初の時は、殴って悪かったな」
「ふふ。その事はもう謝って頂きましたわ」
「そうか」

 

調子が狂う。だが、この女がいずれ世界を惑わす!

 

「怖い顔をして、どうなさったのですか?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「あなたも、コーディネイターはお嫌いですか?」
「ははは。いや。俺もコーディネイターさ。オーブのね。ヘリオポリス崩壊に巻き込まれて、いつの間にか地球軍のモビルスーツなんか操縦する羽目になってる」
「まぁ。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 

どうする? なんと答える?

 

「キラ・ヤマト。だが、今は訳あって地球軍の連中の前ではシン・アスカと名乗っている。そう呼んでくれ」
「はい。シン様ですね」
「様はいらないよ」
「はい、シン」
「よろしい」
「一つ、聞いてもよろしいですか?」
「なんだい?」
「最初の時、確か、アスラン、とおっしゃったような。アスランを知っていらっしゃるのですか?」

 

来たよ。この質問が。俺は悲しそうな顔を作って言う。

 

「……アスランは、月の幼年学校で親友だったんだ」
「それで、何故私を殴ろうとされたのですか?」
「俺のアスランが、女に取られちまったのかと思ったら腹が立ってね」
「……」
「冗談だ」
「まぁ! 腐ふふふ」
「ははは」
「で、本当はどんな理由ですの?」

 

しかたないから、俺はマリューさん用に用意した言い訳をここでも使った。

 

……俺達は打ち解けたと言っていいだろう。だがどうする? このままではラクスは月の地球軍本部へ連れて行かれちまうぞ? フリーダムが手に入らなくなる! いや、確か低軌道会戦前にアスランに救出されていたはずだ。でもこのままだとそれは無理か……どうする? 俺は迷いながら部屋を出た。

 

部屋を出ると、サイが近づいてきた。

 

「キラ! ミリィから聞いた」
「……? ああ」
「あんまり、気にすんな。フレイには後で言っとく」
「気にしてないよ。相手がブルコスだってんなら、最初からこっちも心の持ち様があるからな」
「フレイはブルーコスモスなんかじゃない! ……いや、すまん。そう思われても仕方ないよな」
「いいさ。気にすんな」

 

部屋の中から、歌声が流れてきた。ラクスが歌っているのだろう。

 

「あの子が歌ってるのか?綺麗な声だなー」
「ああ」
「でもやっぱ、それも遺伝子弄って、そうなったもんなのかな?」
「さあなぁ。でも俺が親なら、ピンク色の髪の毛にはしないぞ。コーディネート技術もそれほど万能じゃない証拠だろう」
「それもそうだな。お前もカガリに腕相撲で負ける位だものな」
「言ったな、こいつ!」
「さ、行こうぜ!俺達も飯食わなきゃな」
「ああ!」

 
 
 

食堂に戻った俺達に朗報が待っていた。
第8艦隊先遣隊と連絡が取れたというのだ!
避難民の人たちも、ほっとしてるようだ。給水制限が取れた事もあって、まるでお祭りで酒でも飲んでいるかのようだ。
みんな、ハイキングの前日みたいにうきうきしていた。
だが俺は……歴史を知ってる俺は、浮かれる事が出来なかった。

 

「…よっ……んっ…ほぉー……」
「なんすか?」
「いや、どうかなぁって思って」
「オフセット値に合わせて、他もちょっと調整してるだけだよ。まだ何があるか、わからんから」
「はっはっはっは。その通りだ! 坊主は感心だなぁ。やっとけやっとけ。無事合流するまでは、お前さんの仕事だよ。何ならその後の志願して、残ったっていいんだぜ?」
「はは…」

 

俺は、歴史を変えられるだろうか? このストライク一機で? ここしばらく、俺の眠りは浅かった。

 
 
 

『総員、第一戦闘配備!繰り返す!総員、第一戦闘配備!』

 

来たか! 俺は格納庫に走った! 目の前にラクスが!?

 

「何ですの? 急に賑やかに……」
「放送が聞こえないか! 戦闘が始まったんだよ! 中に入ってろ!」

 

俺はラクスを部屋に押し込むと、さらに走る。っと、フレイが出てきやがった!

 

「シン! 戦闘配備ってどういうこと? 先遣隊は?」
「知らんよ、どけ!」
「ご、ごめんなさい! パパの船、やられたりしないわよね? ね!?」
「だから急がんと手遅れになると言っている!」

 

そう言うと俺は呆けているフレイを押しのけて格納庫へ走った。

 

「遅いぞ! 坊主!」
「すみません!」

 

急いでコクピットに飛び乗る。

 

「敵は、ナスカ級に、ジン3機。それとイージスが居るわ。気を付けてね」
「シン、先遣隊にはフレイのお父さんが居るんだ。頼む!」
「……分かった!」
「カタパルト、接続! エールストライカー、スタンバイ! システム、オールグリーン! 進路クリア! ストライク、どうぞ!」
「シン・アスカ、ストライク、行きます!」

 
 

◇◇◇

 
 

『う、後ろに白い奴が! うわぁ……』
『助けてくれ! どこにいるんだ!? アスラン! 助け……』

 

なんて腕前だ! なぜお前がこんな腕前を持っている!? その事に最初から気づくべきだった! あっという間に2機のジンを片付けられた。俺がモビルアーマー形態になって接近しようと思うとすぐ方向転換して逃げる。子供のようにあしらわれている。もう残りの一機のジンもメビウスゼロに殺られた様だ。どうする!? どうしたらいい!? キラ! お前はいったい!?

 

「キラ! 話を聞け! キラ! 何故お前が地球軍なんかにいるんだ! いいかげんナチュラルに騙されるのはやめろ!」

 

俺がいくら通信しても、キラは答えず逃げるのみだった。
本当にキラなのか? そんな疑問まで湧いてくる。

 

『覚悟はいいか! 裏切り者のアスラン・ザラ!』

 

――! 突然通信が入る! 紛れもないキラの声だ! ストライクは今までが嘘のように逃げるのをやめると、いきなり両手でビームサーベルを抜き放ちながら斬撃を放ってきた!
……対応、できなかった。嘘だろ? モビルアーマー形態で手足の先を切り取られた俺には、もう攻撃手段はスキュラしか残っていなかった。

 

その時だった。天の声が聞こえて来たのは。

 

『これを見なさい! こっちはプラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの娘のラクス・クラインを保護しているわ! この艦を落とせば、この子も一緒に死ぬわよ! ザフトは戦闘をやめなさい!』

 
 

◇◇◇

 
 
 

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