sin-kira_SEED_in_Sin_第02話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 03:27:26

「クソッ」
公園にGがひざまずいて駐機している。
その足下で悔しさに震えているシン。
ジンの誤射と自爆により民間人にかなりの被害が出ていた。
ビルの一角の影に隠れていた学生達、数名が唯一の生き残りだった。
「どうしたんだよ、シン。お前が勝ったんだぞ」
「勝った? 勝っただって? よくもそんなことが言えるな!」
吐き捨てるようにいうシン。
「な、なんで、怒るんだよ」
上目づかいにシンを見るカガリ。
泣きそうな顔になっている。
「何人、死んだと思ってる!」
「で、でも、お前のおかげで、助かった人だって」
「そうじゃない……俺が戦った所為であの人達は……」
言葉に詰まるシン。

 

――あのMSを引き渡していればザフトは大人しく引き上げてたかもしれないんだ……

 

「でも、おかげでコレを渡さずに済んだわ」
銃を構えたマリューが後ろに立っていた。
「目が覚めたのか」
振り返りながら両腕を上げるシン。
「ええ、お陰様でね」
「やめろ、シンがお前の傷の手当てをしてくれたんだぞ」
「そ、そうですよ、いきなり銃を突きつけるなんて、乱暴じゃないですか」
カガリの言葉に眼鏡の少年が脅えながらもマリューに言いつのる。
「シンが居なかったら、私たち今頃どうなってたか……」
シンに保護された学生達がマリューとシンの間に立ちはだかる。
「助けてもらったことには感謝するわ。でも、アレは連合軍の重要機密で、彼はザフトの人間よ」
「でも、あいつがアレを操縦してザフトと戦ったんだよな?」
「うん」
「黙りなさい」
銃を向け学生達を黙らせるマリュー。
「みんな、こっちへ並びなさい」
公園の中央を指して整列させる。
シンは学生達に目配せして黙って従わせ、自身も両腕を後ろ頭に乗せたまま列に加わる。
「一人ずつ名前を」
銃口を順に向けていく。
「サイ・アーガイル」
「カズィ・バスカーク」
「トール・ケーニッヒ」
「ミリアリア・ハウ」
それぞれがふて腐れたような声で名乗る。
連合軍の人間が中立国の民間人を撃つわけがないと高をくくっているのだろうか。
「カ、カガリ・ユラ」
カガリが少しどもりながら名を告げる。
どうやら、素性を隠したいらしい。
最後にシンに銃口を向けるマリュー。
「さっき名乗ったぞ」
「もう一度、確認よ」
「ザフト軍特務部隊戦術統合即応本部FAITH所属、シン・アスカ」
「その紅いパイロットスーツはザフトのエリートパイロットの証ね?」
「ああ」
「じゃあ、やっぱりシンはザフトなのか?」
「さっきから本人が言ってただろ」
「なんで、ザフトがザフトと戦うんだよ?」
「知らないわよ」
「シンはみんなを守ったんだ」
パーン
「黙って」
銃声にビビリ、口をつぐむ学生達。
「私はマリュー・ラミアス大尉。地球連合軍の将校です。残念だけど、
 あなた達をこのまま開放するわけにはいかないわ」
「「「「「ええっ」」」」」
「事情はどうあれ、軍の重要機密を見てしまった、あなた達はしかるべき所と連絡が取れ処置が決定するまで、私と行動を共にしていただかざるをえません」
「そんな」
「冗談じゃねーよ、なんだよそりゃ」
「従ってもらいます」
「僕達はヘリオポリスの民間人ですよ。中立です、軍とか何とかそんなの何の関係もないんです」
「大体、なんで地球軍がヘリオポリスに居るわけさ、そっからしておかしいじゃねーかよ」
「そうだよ! だからこんな事になったんだろう!」
口々に騒ぐ少年達。
パーン、パーン
「黙りなさい、何も知らない子供がっ」
柳眉をつり上げマリューが怒りをあらわに脅してくる。
「中立だと、関係ないと言ってさえいれば今でもまだ無関係でいられる、
 まさか本当にそう思っている分けじゃないでしょう? ここに地球軍の重要機密があり、あなた達がそれを見た。それがあなた達の今の現実です」
「そんな乱暴な」
「乱暴でも何でも、戦争をしているんです。プラントと地球、コーディネーターとナチュラル……
 あなた方の外の世界はね」
「ふざけるな!」
カガリが激昂して声を荒げる。
「ここはナチュラルもコーディネーターも関係ない、みんな平等に普通に暮らしているんだ、
 勝手にナチュラルだ、コーディネーターだと争ってるお前達が土足で上がり込んで、力でねじ伏せるのか!?」
「そうよ。今はなりふり構ってられないの。ザフトのMSは強力で、我々には対抗するための力が必要なのよ」
「な、力があればいいのか、そのために何人死のうがかまわないと言うのか!?」
シンはカガリやマリューの言葉に自嘲の苦微笑をわずかに浮かべる。
少し前の自分ならカガリ同様、激昂していたところだろう。
いや、カガリが先にくってかかった所為でタイミングを逸しただけだ。
力だけでも、理想だけでも、その両方があろうとも、踏みつけにされる者は必ずいるのだ。
結局は取捨選択するしかない、全てを守ることなど誰にも出来はしない。
これまでの戦いの中で漠然とそんなことを感じていた気がする。
シンはメサイアでの敗北でそれを明確に意識するようになっていた。
「オーブは本国の安全の為に、このヘリオポリスを連合に売っんだな」
「シン、どういうことだ?」
「連合がオーブに政治的圧力をかけたんだ、そしてオーブはそれに屈した」
「政治的なことは私には分からないわ、でも、おそらくそうでしょうね」
「そんな……」
愕然とするカガリ。
密かに唇を噛むシン。
全てを守ることなど誰にも出来ない。
しかし、それでも目の前に踏みつけにされる人がいれば怒りを抑えるこなど出来ない、悟ったようなことを思ってみても、恨みも憎しみも捨て去ることなど出来はしない。
硬く拳を握りしめる。
「あなた達は動かないで、私は本隊との通信を試みます」
「ラミアス大尉、一つだけいいか?」
「情報は一切教えられない」
「そんなんじゃない、今、何年何月だ?」
「……? CE71年12月よ」
シンを一瞥すると、マリューは銃を向けたまま後ろに下がり、Gのコクピットへと片腕と両足で器用に這い上がっていく。

 

――やっぱり……俺は3年前のヘリオポリスにいる……
――もし、ここが本当に過去だとしたら……
――力がいる、守るための力が、あんなMSじゃだめだ

 

(ねぇ、シン、さっき私たちにも同じこと聞いてなかった?)
(ああ、俺も聞かれた。今は何年何月だって)
(僕も)
(私も聞かれたぞ)
(あいつ、なんなんだろうな? ザフトなのに地球軍に味方してさ)
「こちら、X-105ストライク、本部、応答願います。
 こちら、X-105ストライク、本部、応答願います。
 本部、応答願います」
マリューが必死に通信を送るが、応答は無し。
その通信に聞き耳を立てていたシンは軽い驚きを覚える。
先ほどの戦闘では満足に動かないMSの所為で無用の被害をだしてしまったのだ。
そのMSがよりによってストライクだったとは思いもよらない衝撃だった。

 

――あんなのが伝説のストライク……?

 

「あなた達に協力を要請します」
ストライクのコクピットから銃を向けるマリュー。
「脅しじゃないか」
「そうね。でも、あなた達の安全にも関わることよ」
「どういうことですか」
「ザフトはまたすぐに来るわ。ここの機密を破壊するためにね」
「破壊って……」
「手に入らなければ破壊するのが定石よ」

 

――3年前のヘリオポリス……ストライクが崩壊させたらしいが……

 

「ここを守るためにはコレの戦力が必要不可欠だわ。
 コレを戦闘させるためのパーツを運ぶのを手伝ってもらいます」
「なんだよ、それ」
「さっきは機密だから見るなとか言ってたくせにさ」
パーン
「もう一度、言うわ。協力を要請します」
「おい、お前達、ここはあの大尉に従った方がいいかもしれないぞ」
「なんだよシン、お前まで」
「次に来るヤツら、このコロニーごとやるかもしれない」
「な、なんだよ、それ」
「シン、何か知ってるのか?」
「いや。けど、さっき戦って分かった。あいつら民間人の被害をなんとも思ってない」

 

――今のザフトはナチュラルへの憎しみで戦っている……
――ヘリオポリスの崩壊だって……いや、そんなことはない……

 

皆、先ほどの戦闘を体験しているだけに、シンの言葉に説得力を感じる。
「でも、アレ誰が操縦するんだよ?」
「あの人、怪我してるし」
「シン・アスカ、こっちへ来なさい」
マリューがシンに照準を合わせて呼びつける。
「まさか」
「シン・アスカ、あなたにはコレのパイロットをやってもらうわ」
「いいのか? 逃げるかもしれないぞ」
「それは無理ね、私が横で、こうしてる限りはね」
そう言って銃を見せつける。
「それに、あなたにあの子達を見捨てることが出来るのかしら?」
「わかった、従うよ」
シンの言葉を合図にサイを中心にした学生達がマリューの指示を受け動き出した。
『No.5のトレーラーこれで良いんですよね』
 サイがトレーラーから無線で公園の休憩所にいるマリューへ呼びかける。
『ええ、ありがとう』
 携帯無線を通してマリューの声が響く。
『それで、この後、僕達はどうすれば良いんです』
『パワーパックをストライクに接続して、そしたらもう一度、通信を試みるわ』
『わかりました』
 サイはトレーラーの外に出るとコンテナの横の操作パネルに取り付き操作を試みる。
「コンテナの展開は……これか」
 スイッチの名前通りに操作していくと、あっさりとコンテナの展開が出来た。
『どれだよ、パワーパックって』
 展開されたコンテナの中を見下ろしながら無線に呟くシン。
『武装とパワーパックは一体になっているわ、そのまま装備して』
『簡単に言われても、こいつでどうやって』
『ストライカーパックの装備はオートで出来るわ』
 そう言ってコンソールパネルからメニューを開くように指示するマリュー。
『3-2番のプログラムで専用トレーラーでの換装が出来るわ』
 マリューの指示どおりプログラムを実行すると、ストライクが勝手にトレーラーに腰を下ろしはじめる。するとトレーラー側のリフトが上がりストライカーパックが所定の位置に止まる。ガイドレーザーがソケット位置を測定し、背部ラッチにストライカーパックを精密に接続した。
『こういう所のモーションは完成してるのか』
『ええ。でも他はダメね。細かい挙動や戦闘機動なんかを学習させる為のパイロット達が今日、着任するはずだったのに、こうなってしまってね』

 

――戦闘用の機動やモーションはマニュアルで学習させないといけないってわけか

 

『それで俺にパイロットをやらせているのか』
『おかげでいいデータが取れているわ。さすがザフトレッドのパイロットね、普通、数十から数百回のモーションをサンプリングして初めて平均値から有効なデータに最適化にされるのだけど、一、二回の操縦でこれだけのデータが取れるなんてね……』
 マリューの表情が険しくなる。
『更に学習を積ませればレーダーと連動させて、攻撃や防御、回避のモーションもある程度オートに出来るはずよ』
『いいのかよ、そんなこと教えて』
『残りの4機が奪われた以上、この程度のことはすでに機密ではないと判断しただけよ』
 テストパイロットを経て実戦を経験し、ザフトのトップエースとまでなったシンにはストライクを操縦することで、開発過程、設計思想などが読みとることが出来た。
 OS自体の完成度は低いが設計思想や機体ポテンシャル、学習機能はかなりのモノだと感じる。
 実際、先ほどシンがマニュアルでストライクを歩行させた後、オートバランサーでの歩行が驚くほど滑らかなっていた。
 OSにしてもインターフェイスなどが未完成なだけで、機能それ自体は問題はない。
 むしろ、初期のMSとしては非常に多機能で、基礎フレームの柔軟性を十分に引き出せるだけの可能性を秘めていると言える。
 ただし、開発者達がマシンとソフトを並列に開発したためか、補助アプリケーションやツール類が建て増し式に積み上げられており、繁雑で整理されていない。
 研究所で一つ一つの機能を検証するには問題はないかもしれないが、戦場で戦闘をするにはマンマシンインターフェイスが複雑すぎる。
 銃一つ撃つのに一々メニューを開いて、銃の射撃姿勢を呼び出し、状況によっては下半身のモーションを呼び出し走らせる、左手のメニューから盾を構えさせる、などという繁雑な過程を踏まなければならない。
 現場を知らない頭でっかちな学者バカがやりそうなことだ。
 スペックを気にしすぎて、現場での使い勝手を考慮しないのだ。
 MSに人間と同じ挙動は必要ない。機能が制限されようとも、正確で素早い攻撃と機動が出来さえすればいいのだ。
 重火器を運用するプラットフォームとしての信頼性がなにより重視される。
『ストライカーパック接続完了』
 ストライカーパックの接続を確認していたサイから通信が入る。
『了解』
『これランチャーパックっていうらしいけど、シン、どうだ?』
『ああ、接続した後、なんか起ち上がった……砲戦用のアプリケーションみたいだな』
『ストライクを長距離精密射撃に特化させる為のモノよ』
『この状態だと……オートバランサーへ振りがキツいな。これじゃあ、走り回るのは無理だぞ』
 砲身を安定させるのを最優先とするためか、オートバランサーが機体の機動を鈍らせている。
『ヘッドレストの横の照準用カメラを引き出して』
 マリューの指示でヘッドレスト右横から精密照準用接眼カメラを引き出すシン。
 コンソールからキーボードを引き出す。砲戦アプリを終了してキーボードを弄り出す。
『アプリを終了させてもマニュアルで砲は使えるのか……』
『ええ。その照準機と連動して腕が砲身を制御するから』
『なんだこれ……ツールか?』
『GATの開発ツールよ。アプリケーションの設定が可能なのよ』
『ホントに実験機なんだな』
 ザフトでは各パイロットが各自がMSの設定を弄るので珍しくもないのだが、普通、量産タイプだと弄れないようなパラメーターまで表示されている。
『OS自体の改変やアプリケーションの開発も可能になってるわ』
『無茶苦茶じゃないか』
 呆れるシン。
 OSが複雑すぎるわけだ。不都合がある度にその場でOSに手を加え、必要とあればアプリケーションを追加していたのだろう。
 先ほど読みとったストライクの雑感に間違いはなかったわけだ。
『ソレでさっき取ったあなたのデータをマージしてモーションを補完すれば……」
『だいぶ、ましになるな』
『あとはあなたの腕でどうにかして』
『砲のキャリブレーションは取れてるんだよな?』
『ええ、そのはずよ』
『頭部CIWSは酷いモンだったぞ』
『あれは……制御アプリが起動してなかったからで……』
 マリューの言葉にコンソールを弄りメニューを閲覧するシン。
 画面に頭部CIWS制御アプリが表示される。
『これか、さっきのもこれが起動してなかったからか』
『そういうことよ。もっとも実弾を搭載してないのだけれど……』
「呆れるね。こんなんで戦おうだなんて」
『こんな、で悪かったわね。でも、こんな状態のストライクでザフトのジンを倒した、あなたには言われたくないわね。あたしから言わせれば、あなたの方がよっぽど呆れた存在……いえ、脅威ね』
『……』
 少しうち解けたように思えたが、やはり溝がある。
 学生達相手のように簡単にはいかない。
『とにかく、ヤツらが戻ってくるまでにこのストライクを少しはましにしないとな。
 さっきみたいのはもうごめんだ』
 さすがに戦闘中に各機能を統合するOSの改変は無理だったが時間があれば問題ない。必要なアプリやツールは揃っている。あとは戦闘用のモーションパターンを学習させるだけだ。凄腕の開発者ならモーションもデータ上だけで作り出すのだろうが、そこまではさすがに無理だ。
『こいつのOS、弄っても問題ないのか?』
『え? ええ、バックアップは取ってあるから。ただし、あなたにしか動かせない、なんてことにはしないでよ』
『当たり前だ、誰がそんな非合理的なことするんだよ。インターフェイス回りを統合するだけだ』
『なら好きにしなさい。どうせ必要なのは、あなたのモーションデータだけですからね』
『そうかい』

 

――――モーションに関しては実戦の中で学習させていくしかないだろうが……

 

――――時間をかけて弄れば俺好みのMSに仕上がるか

 

 話しながらも、作業は進んでいく。
 突如、轟音と共に2つの影が頭上を飛んでいく。
『ヤツらもう来たのか!?』
 レーダーを作動させて警戒するシン。
 モニターに人型の影を捉える。
『シグー!?』
『メビウス・ゼロ!?』
 シンとマリューの声が重なる。
 見る間に二機はコロニーシャフト付近へと舞い上がり、ドッグファイトを繰り広げる。
 しかし、シグーがメビウス・ゼロの背後をとりMS特有の機動で回り込むと重斬刀でメビウス・ゼロのレールガンの砲身を寸断しあっさりと決着がついた。
『サイ、早くトレーラーの影に隠れるんだ』
 外部スピーカーでサイに警告を告げる。
「あ、あぁ!」
「あなた達も、早く伏せてっ!」
 マリューがミリアリアとカガリを引きずり倒す用にして伏せる。カズィもそれに倣う。
 シグーが急降下して公園に砲弾の雨を降らせる。ストライクを狙ってのものだろうが、このままではサイ達が死ぬことになる。
「させるかよぉっ!」
 PS装甲を起動し立ち上がると、ストライクを盾に砲弾の雨に身を晒す。
カンッ カンッ カンッ
 PS装甲で弾かれた砲弾が砕け、散弾となってあたりに飛び散る。
「しまった!」
 真っ青になって足下を見るが、幸いにも誰も当たらなかったようだ。
「クソッ」
 毒づき、シグーを睨みつける。その時、コロニー全体が揺らいだ。
 港口から閃光と爆煙が広がる。その中から、白い巨大な艦が姿を現した。
「あれは……アークエンジェル」

 
 

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