納屋くんとしりとり

Last-modified: 2021-07-18 (日) 22:34:02

小さい頃、幽霊だとか何かそういう類のものが見える時期があった。ふとした瞬間にくすくすと笑い声が聞こえてきたり、家に帰る時に姿の見えない何かに後をつけられたり。それが恐ろしくて恐ろしくて、どうしたらいいのかわからなくて、でも誰にも理解してもらえなくて、いつも1人で泣いていた。(※) 


そういう時、決まっていつも僕のところに現れるお兄さんがいた。「どうしたんだい?怖い事でもあった?じゃあ、ぼくとしりとりでもしようか」「…しりとり?」「そう。林檎」「ご、ごま」「毱」「りす」「推理」「りか」「狩り」「…また"り"?ずるいよ…あ!りょうり!」「わ、やられたなあ」(※) 


大人気ない言葉選びをする彼に手を引かれて歩いていると、どうしてかそういう気配はスッと消えていった。1度も教えたことのないはずの僕の家まで迷いもなく歩を進め、決まって彼の「"ん"がついちゃった。僕の負け。ばいばい」という言葉と共に家に着く。気が付けば彼の姿は見えなくなっていた。(※) 


「わ、やっぱり冬は暗くなるの早いね…怖いなあ…しりとりでもして帰ろうか」「マサは昔からこういう時決まってしりとりするよね」「え?そうかな」「それにしても…随分古典的な方法を知ってるんだね」「どういうこと?」「あれ、知らないで使ってたの?言葉の力って結構馬鹿にできないんだよ。」(※) 


"尻取り"ってね、言葉を繋げて結界を張るんだ。古い護法のひとつだったと言われてるんだよ」「…」「さ、それより早く帰ろう。しりとりするんだろう?そういえばマサは昔からしりとりだけは強いんだよねえ」「…ふふ、小さい頃、意地悪で優しいお兄さんと鍛えてたからね!」(※)