月の宿木 終

Last-modified: 2010-10-14 (木) 02:31:07

目次

注意書き



当SSはネちょ学SSです。
ご出演者の方のお叱りを受けた場合、謝罪と共に削除させていただきます。

Breathe





 ドックンドールは刹那を背負い、夜の闇を駆けていた。
 刹那の姿は血だらけだった。その血で、刹那を背負うドックンドールも血まみれの姿になっていた。
 だが、そんな事に構っている暇はなかった。
 刹那はかつてのドックンドールのように、死に瀕しているのだ。
 だから、ドックンドールはらいぶらり~の元へ駆けるのだった。
 そもそもの始まりは、今日の昼の事、魔力も安定してきたドックンドールは外出を許された事だった。
 部屋の中に押し込められ、ずっと、外出を禁じられていたドックンドールは早速、外へと出てみたのだった。
 今思えば、一人で外出した事が迂闊だったのかもしれない。しかし、そんな事を予測できるほど、完璧な存在などいない。過去を悔やんでも仕方がないのだ。ドックンドールはそう思い、より速度を強める。
 一人で外出をしたドックンドールは適当な散歩をして帰るつもりだった。近所の公園や遊歩道を歩く内に、最後の記憶の再生が始まったのだった。
 その記憶は壮絶を極めた。何せ、自分が殺される痛みや苦しみが鮮明に甦ってくるのだ。ドックンドールはその記憶の終わるまで、人気のない場所で腰を落ちつけて、ただ耐えた。
 その所為だろうか。それとも、ここ数日の記憶の復帰が忘れさせてしまったのだろうか。ドックンドールは以前に教われた事を失念していた。それも襲った相手はこちらの顔を確りと見ている上に、無傷で逃げていったのだ。その際に味わった恐怖が、その男を蝕み、その恐怖を、脅威を殺す為に動いても不思議ではなかった。
 ドックンドールがそこで何時間、最後の記憶を反芻した事だろう。何度も、思い出したくはない記憶なのだが、その感触が無理矢理にでも記憶を呼び起こした。その所為で、自分が危機に陥っている事にすら気付かなかった。
 刺される銀の剣。
 ドックンドールを狙った凶刃は、そこには届かなかった。
 代わりに、刹那の心臓に突き刺さった。
 吸血鬼の心臓は、力の核であった。だから、そこを貫かれると、吸血鬼は再生能力も封じられてしまうのだ。
 ドックンドールはその事を知らなかったが、とにかくまずい事だけはわかった。
 すぐさま、男を尋常ではない魔力の量で威嚇し、銀の剣を叩き折り、追い返すと、刹那を背負い、学園に向かうのだった。
 そして、今に至る。
 心臓は魔力を蓄え、血液に乗せて魔力を送る。
 公衆電話でドックンドールがらいぶらり~に聞いた話ではそういう事だった。それならば、血液を送る事によって、刹那を延命できる。らいぶらり~にそう指示されたドックンドールは自分の身体を傷付け、刹那に血液を飲ませた。それから、意識があるのか、生存本能のみでそうしているのかわからないが、刹那はドックンドールに背負われながら、その血を飲み続けている。
 ドックンドールは血液が抜かれていく感覚に安心しながらも、薄くなっていく意識に気を付けながら、らいぶらり~の元へ急いだ。
 ようやく、学園の姿が見えてくる。
 後一息、とドックンドールが全力で跳躍すると、屋上に術式の準備をするらいぶらり~の姿が見えた。


「おー、流石に吸血鬼だ。早いねー」


 ドックンドールが屋上に着地すると、感心したようにらいぶらり~がその姿を見る。
 正直、ドックンドールはそんなマイペースならいぶらり~の言葉に付き合っている余裕はなかった。
 しかし、刹那を助けられるのはらいぶらり~しかいない。嫌でもドックンドールは応対するしかなかった。


「それで、助かるんですか?」
「勿論。何せ、君を生きかえらせたくらいだからねー。できない事はないよー」


 そう、ドックンドールが最後の記憶で見たように、らいぶらり~はあの状態の、ほぼ死んだ状態のドックンドールを蘇生させている。ならば、まだ死んではいない刹那を助ける事も簡単にできるだろう。


「さて、その前にやらなきゃいけない事があるんだけど、いいかなー?」
「いいですけど……。早く施術しなくていいんですか?」
「まー、それは置いておいてだねー。話しておかなきゃいけない事があるんだよねー」


 らいぶらり~のマイペースな喋り方とは裏腹に、重要な話のようだ。
 ドックンドールはそう判断すると、真面目にらいぶらり~に向かい合う。


「力の核が完全に破壊されていて、このままじゃ、死んじゃうって事は説明したよねー?」
「はい」
「それでねー。力の核は破壊されても戻るには戻るんだけどねー。それは君で実証済みだしねー。君を甦らせる時に力の核を使ったからねー。うん、そこまではいーかな?」
「はい、というか、こんなにゆっくり話してる暇はあるんですか?」
「はいはい、焦るのはわかるけど、大事な話に水を差さないでねー」
「……わかりました」


 ドックンドールが黙るのを確認して、らいぶらり~は満足する。
 マイペースならいぶらり~は急かされるのが嫌いだった。


「で、君の時は君の力の核を使えたわけだけどー。今の刹那ちゃんには使う力の核がないのよねー」


 そこまで聞いて、ドックンドールはらいぶらり~の言いたい事がわかった。
 つまり、刹那を助けるのに、ドックンドールの力の核を使うという事だ。
 それは、ドックンドールが吸血鬼としての力をまた失う事を意味する。とはいえ、ドックンドールは元から、自分の力に封印をしてもらうつもりだった。力の核を刹那の為に使う事に何の躊躇いもない。


「わかりました。僕の力の核を使ってください」
「おー、決断早いねー。それじゃー、遠慮なくー」


 そう言って、ライブラリ~はドックンドールの胸をその手で貫き、心臓を掴む。ドックンドールはその痛みに発狂しそうになるが、背負った刹那を落とすわけにもいかず、ただ耐えるしかなかった。


「我慢強いねー。……と、ここかなー?」


 ドックンドールの心臓にある力の核、魔力の源を探るらいぶらり~。何度か、心臓を鷲掴みにし、握ったり、突ついたりと、その手に遠慮などない。その度に想像もできないような痛みに襲われ、ドックンドールは歯を食い縛るしかなかった。


「あー、あったよー」


 抜き出される力の核。それは膨大な魔力の結晶体であった。それが抜かれた事で、ドックンドールはその場に倒れる。魔術か何かを使用して胸に大穴を開けられる事はなかったが、心臓を触られ、移動中、刹那に血を吸われ続けていたのだ。吸血鬼としての力の大元を奪われたドックンドールが立っていられる道理などない。
 らいぶらり~が、刹那を術式の方陣の真中に置く。同時に、ドックンドールを隅に作っておいた、月の魔力を集める方陣に移動させておいた。力の核がなくなれば、吸血鬼としての機能は衰え、その急激な変化に身体がついていかない。それをわかっていたらいぶらり~は月の魔力を少しでも吸収させる事でドックンドールを楽にさせようとしたのだった。


「さーて、やろーかなー?」


 らいぶらり~が術式の方陣の中に入り、刹那の胸の上にドックンドールの力の核を置く。それから、幾つかの呪文を唱えていく。方陣にらいぶらり~の魔力が行き渡り、月の光に似た光を放ち始める。


「んー、流石に姉弟だねー。力の親和率が高くて、同調させる必要もないやー」


 隅で気を失っているドックンドールに笑いかけ、らいぶらり~は方陣を走る魔力を刹那に集約させる。
 瞬間、刹那の身体にドックンドールの力の核が吸収され、その胸の傷を凄まじい速度で再生していった。
 やがて、刹那が目を開けると、綺麗な満月が空に見えた。


「……あたしは」
「ん、もう目覚めたの? 早いなー」
「……いや、意識はあったんですけどね」
「なるほどねー。でも、何で助かったかはわかってないみたいだねー」
「そうですね」


 刹那がらいぶらり~を説明を求める眼差しで見る。
 らいぶらり~もそれに応じるように説明を始める。
 それを聞いていた、刹那は胸に手をあて、その鼓動を確かめた。
 そこには、確かにドックンドールの魔力の波長を感じた。
 同時に、回復を始めようとしている、刹那自身の力の核の波長もあった。


「……それで、これからが大変なんだけどねー」
「弟の術式ですか?」
「いやー。それは半分済んだんだけどねー。大変なのは刹那ちゃんだねー」


 それだけ言われて、刹那は何が大変なのか想像がついた。
 それはドックンドールの力の核を吸収した事により、刹那自身の力の核が二つになってしまった事だった。
 吸血鬼の魔力は無論、力の核から来る。恐らく、刹那自身の力の核が完全に戻る頃には、その膨大な魔力に刹那が振り回されてしまう。それこそ、ドックンドールが何度も暴発させたように。しかし、規模はその二倍だ。流石にそのでたらめな魔力をらいぶらり~は抑える事はできない。
 だが、刹那は喜んでいた。
 胸に感じる確かな、弟の力の息吹に。命の息吹に喜んでいた。
 託された命。繋がる命。これから別たれるであろう二人の道を繋ぐ、命の息吹が確かに刹那の中にあった。


「ふむ、ボクが心配する必要はないみたいだねー。取り敢えず、暴走しそうな時の為にも、そういう面倒見てくれる人を頼むけどねー」


 刹那の表情を見て、困ったような、笑っているような、よくわからない顔を作ったらいぶらり~は今日の本当の仕事に取り掛かるべく、気を失っているドックンドールを魔術でこちらに連れてきた。


「それで、どんな術式なんですか?」


 刹那がずっと気になっていたのはそれだ。
 ドックンドールは術式で力を封印し、吸血鬼から人間になるのだ。自らの弟がどうなるのか気にならない姉はいないだろう。


「んー、いや、人間にするのは諦めたんだよねー。力の核はどんなに頑張っても復活するしねー。だから、人間でも吸血鬼でもない存在になるのかな。まー、半端者だねー」
「えーっと、それはどういうことなんですか?」


 要領のえない説明に刹那は意味がわからず、質問する。
 らいぶらり~は溜息を一つ吐き、わかりやすく説明しようと、少し考える。
 たっぷり、一分かけてから、らいぶらり~は説明を始めた。


「あれだねー。全開の封印は、力を抑えこむ封印だったんだよねー。だからー、今度はー、抑えこむ封印は封印でも、吸血鬼というところを利用してだねー。月の力を借りた封印をするのさー。つまりー、吸血鬼と同じサイクルで封印する力を強める感じの封印なのさー。ここまではいいかなー?」
「はい」
「でー、それだと、新月とか晦の時に封印が弱くなっちゃうんだよねー。満月の時の封印効果は凄いんだけどねー。そこで、前回と同じく、二重封印する異にしたんだよー」
「二重、ですか」
「そー。封印というか、アースみたいなものだねー。封印できる容量を超えそうなの魔力を感知すると自動的に何らかの形で魔力を発散させるのさー」


 刹那はそれを聞いて安心した。
 つまり、前回の失敗点であった、魔力の回復による封印の内部破壊を念頭において、魔力を外に発散させるような仕組みをらいぶらり~は作ったのだ。
 それならば、封印は破られる事はないだろう。


「あー、記憶はそのまま残すことにしたからねー。これからは一緒に暮らすといいよー」
「……え、そうなんですか?」
「記憶や刷り込みは危ないって学んだしねー。アレルギーみたいなの起したんでしょー? また、頭を変に弄ったりしたら、まずいだろうしねー」


 その通りだった。
 刹那はドックンドールが刷り込みに寄る人間の倫理観によって、苦しめられたのを見ている。
 その記憶が新しい為、記憶の改竄が行われない事に刹那は一息吐いた。


「それじゃー、始めようかなー」


 それだけいうと、らいぶらり~は術式を開始した。





after





 ドックンドールに施した術式は成功した。
 それと同時に、刹那とドックンドールの他に家族と言える人間も増えた。


「お嬢様ー。遅刻しますよー」


 執事である和也が刹那を起こすべく、声をかけている。
 ドックンドールはその様子を眺め、少し笑いながら、朝食を作ろうとキッチンに入ろうとする。


「弟君は料理を作ろうとしない。味気のないものを食べて、一日が楽しく過ごせるわけないでしょう」


 和也は優秀な執事だったが、少し口うるさかった。
 だが、刹那もドックンドールもそれを受け入れ、和也を迎え入れた。
 今日も円満な生活が回っている。
 きっと、明日も明後日も、その後も、ずっとこの平穏が続いていくのだろう。
 そう思うと、ドックンドールは日常が楽しく思えてきた。それだけで、あの日々を過ごし、耐え抜いてきた意味があるというものだ。姉である刹那もそう思っているだろう、とドックンドールは笑みを強くするのだった。


「お嬢様ー。起きないと遅刻しますってばー」


 遂には叫び出す和也。
 こんな日常も悪くはないだろう。
 たった一つの、他から見れば、愉快でも、本人から見れば、迷惑極まりない問題を除けば、こんな日常も確かに悪くはなかった。
 ドックンドールはその迷惑極まりない問題を思い起こし、溜息を一つ吐くのだった。





後書き



完成ー。
誰も気にしてはいなかったであろう事の捕捉SSです。
捕捉事項はネちょ学大戦で吸血鬼である刹那さんの弟という設定を持ちながら非戦闘員の僕。
ネちょ学大戦では、無茶苦茶、刹那さん強いですからねー。
うん、まぁ、そういう訳です。


取り敢えず、今回は一気に全部上げたので、感想スペースも後書きも最終話にのみ置きました。


関係ないですけど、これの後に諏訪子の夫さんの所為で浮かんだ自虐SSがあります。
が、僕が自虐する意味がわからないので、永遠に日の目を見ることはないでしょう。


やっぱり、浮かんだものは書かねばならんと思ったので書きます。
というか、色々とみんなを好き放題書いておいて、自分はあれというのもねー。
と思ったので、書きます。
苦手方向になると思うので、まぁ、期待せずに待っていてください。


最後にご出演いただいた皆様に最大限の感謝を!
お読みいただいた方にありがとうを送らせていただきます!
ありがとうございましたー!




月の宿木晦へ



感想スペース

コメント欄:

  • マブイエグリーーーーー -- 鳥羽莉? 2008-10-19 (日) 09:28:45
  • 一番取られたーーー!!!← お疲れ様でした、幸せになれよ二人ともぉぉおお(泣) そしてらいぶらり~さんの冷静さに恐怖じみたものを感じましたww -- ? 2008-10-19 (日) 12:29:22
  • ドクちゃんの作品はどれもクオリティが高すぎる・・・妬ましい! -- ゆか眠? 2008-10-19 (日) 13:58:01
  • 相変わらず素晴らしいSSですね…一気読みしましたwらいぶらり~さんのマイペースっぷりがww -- リプトン『ルアンの紅茶花伝』? 2008-10-20 (月) 15:24:44
  • らいぶらり~さんはもはやなんでもできそうですね(゚д゚;) 知識とは力なり。 口調にイライラするくらい、物語に入り込んでましたよw 姉弟愛ってのを感じたSSでした。 平穏な日常が訪れる‥、いいラストだったと思います。 もし私が書いたら自己犠牲万歳のBAD ENDになってしまうorz -- オワタ☆残骸? 2008-11-10 (月) 18:12:11
  • PSPにぶちこんで(ry  兄弟っていいなぁ・・・っと思いましたw あー平和だねぇw らいぶらりー先生の口調がいい感じにでてよかったです。 -- 酒飲みスーさん? 2009-03-21 (土) 03:57:25