「ザ・タワー」のサウンドトラックだが、イメージアルバムのようなものと思った方がよさそうだ。もとよりゲーム中にBGMはなく、オープニングなどで少し流れる程度。加えて開発中のタイトルがあって、そこへ"使用収録予定の"楽曲も含まれているらしい。それがどの曲かは明記されていないが。東芝EMIのディレクター・西秀一郎も「このゲームに音楽をつけてみようと、ミュージシャンの遊びから始まったもの」とライナーノーツで語っている。プロデュースはBIG BOSS(現:COCKNEY GRAPHIX)の大谷秀政で、イベント運営とデザインが主業。1994年、社内に音楽レーベル「Living,Dining&KitchenRecords」を興すと早々に軌道に乗せ、1995年11月に株式会社LD&Kとして音楽部門を独立法人化させる。LD&Kはシンバルズ、つじあやの、打首獄門同好会、ガガガSPといったバンドを売った国内屈指のインディーズレーベルで、BEAT CRUSADERSの日高央(ヒダカトオル)が勤務していた会社として、その名を知った人も多いだろう。当時インディーズレーベルといえば、ケラの「ナゴムレコード」、エログロ路線の「殺害塩化ビニール」、下北系・古閑裕主宰の「KOGA RECORDS」、瀧見憲司の「クルーエル・レコーズ」ぐらいであった。大谷が初めて音楽プロデュースを手掛けたのは、LD&K創立より遥か前の、牧伸二「ヤンナッチャッタレゲエ」(1991)で、この時の東芝EMIの担当が西秀一郎だった。その西がまとめた企画を元に、大谷に声をかけて制作されたのがこのアルバムの走り出しで、起用されたミュージシャンは大谷、西それぞれにゆかりのある面々がズラリ。
ドリーミーなジャズオケタッチのM-11「去年の今日も~タワーのクリスマス~」は、PC版「クリスマスCD-ROM」用に金剛地武志が書き下ろしたもの。元・東芝EMIのディレクター高嶋弘之の娘、高嶋ちさ子が歌う「The Charm Of English Muffin」も金剛地提供曲。自身のユニットyes, mama Ok?『Perfect young ladies』(1996)でカバーしているが志向が大きく異なり、こちらはフレンチポップ風の軽快な編曲。バイオリンも高嶋が弾いている。福田裕彦が作編曲のM-10「荒野の通り雨」は田口トモロヲとみうらじゅんの歌唱で、モリコーネ風のマカロニサウンドが中盤ピアノハウスタッチになる仕掛けが面白い。
Tiger Mad & The Strange Classicsはブラスインストグループ「ザ・スリル」のバンマス・シキタ純(式田純/2017.9逝去)の単発ユニット。シキタはカセットマガジン「TRA」や日本初のCD-ROMマガジン「INTRO」の発行、有料BBSサービス「タイガーマウンテン」の運営などマルチメディアアーティストとしても活動していた。BBSサービスというと、今となっては「過去に存在した懐かしいサービス」だが、シキタがパソコン通信事業を興し、同サービスを始めた頃はインターネットすらなかった。つまり最先端の新しモノ好きなのだ。東芝はマルチメディア事業に手を出していた時期があり、シキタのような人材の出入りがあったことも頷ける。ちなみに「Tiger Mountain」の名称はブライアン・イーノ『Taking Tiger Mountain』(1974)からの拝借だそう。西と大谷はその後もよく組んでおり、「勝手に観光協会」など、みうらじゅん関連の仕事はこのコンビによる。また西は、みうらじゅんと共に「ゆるキャラグランプリ」の運営も行い、かつてはYMOの復刻や、1990年には鈴木さえ子、福田裕彦、赤坂東児、明石英紀らを起用したイメージアルバム『カナディアンワールド ・赤毛のアンのふるさと』なども制作している。
ゲームの企画は斎藤由多加の処女作で、リクルート在籍中に制作したもの。いきなりヒットを飛ばして独立、株式会社ビバリウムを設立し、「シーマン」(ドリームキャスト/1999)などを開発することになる。
当盤には「小山田圭吾が歌う主題歌」が収録されている、ということだが、該当曲はどれだろう。また、高宮永徹、朝本浩文、宮崎泉、寺田創一、吉澤はじめがリミックスした盤が存在すると大谷が語っているが、その存在も確認できない。アナログだけ切ったのだろうか。
アーティスト | 曲名 | 作曲者 | 補足 | |
1 | 椎馬司 | オープニング | 椎葉司 | Na:角田華子 |
2 | オノセイゲン | South Pacific~暁のテーマ~ | 作曲:オノセイゲン | |
3 | Tiger Mad & The Strange Classics | Miami 2023~スイートルームの野望~ | 作曲:Tiger Mad & The Strange Classics | 実体はザ・スリルのシキタ純[式田純] プロデュース:佐々木潤 |
4 | 戸川京子 | ふたり | 詞曲:斉藤由多加/編:金剛地武志 | サターン版/3DO版END。戸川が雑誌で「タワー」について語っていたのが縁 |
5 | チョコレートファッション(高嶋ちさ子) | The Charm Of English Muffin | 詞曲編:金剛地武志 | サターン版/3DO版OP曲 |
6 | サエキけんぞう&ルーガ | Top Of Tower~結婚式のテーマ~ | 詞:サエキけんぞう/曲:中野テルヲ+サエキけんぞう/編:中野テルヲ | chorus:CANDEE(高尾のぞみ?) |
7 | 暴力温泉芸者 | 地下駐車場のテーマ | 曲編:中原昌也 | ゲーム内映画「モダンタイム」より |
8 | 熱帯バンド | 熱帯ZONE | 詞曲:中島ラモス/編:熱帯バンド | ニッポン放送「秋葉原ヤング電気店」制作CD-ROM収録音源のリメイク |
9 | 東京タワーズ | Tower Of Love | 詞:加藤賢崇/曲編:伏黒信治 | プロデュース/エンジニア:山口優。このCDの為に再結成。 |
10 | ザ・ブロンソンズ | 荒野の通り雨 | 詞:ザ・ブロンソンズ/曲編:福田裕彦 | ゲーム内映画「西部砦のサムライ」より |
11 | yes, mama Ok? | 去年の今日も~タワーのクリスマス~ | 詞曲編:金剛地武志 | PC版「タワークリスマスCD-ROM」 |
- 椎馬司「オープニング」 Na:角田華子
- オノセイゲン「South Pacific~暁のテーマ~」 (作曲:オノセイゲン)
- Tiger Mad & The Strange Classics「Miami 2023~スイートルームの野望~」 (作曲:Tiger Mad & The Strange Classics=ザ・スリルのシキタ純[式田純]) プロデュース:佐々木潤
- 戸川京子「ふたり」(詞曲:斉藤由多加/編:金剛地武志)
- チョコレートファッション(高嶋ちさ子)「The Charm Of English Muffin」(詞曲編:金剛地武志) *サターン版/3DO版OP曲
- サエキけんぞう&ルーガ「Top Of Tower~結婚式のテーマ~」 (詞:サエキけんぞう/曲:中野テルヲ+サエキけんぞう/編:中野テルヲ) *chorus:CANDEE(高尾のぞみ?)
- 暴力温泉芸者「地下駐車場のテーマ」 (曲編:中原昌也) *ゲーム内映画「モダンタイム」より
- 熱帯バンド「熱帯ZONE」(詞曲:中島ラモス/編:熱帯バンド)
- 東京タワーズ「Tower Of Love」(詞:加藤賢崇/曲編:伏黒信治) プロデュース/エンジニア:山口優
- ザ・ブロンソンズ「荒野の通り雨」(詞:ザ・ブロンソンズ/曲編:福田裕彦) *ゲーム内映画「西部砦のサムライ」より
- yes, mama Ok?「去年の今日も~タワーのクリスマス~」(詞曲編:金剛地武志) *PC版「タワークリスマスCD-ROM」
表記:Sound of Tower
型番:TOCT-9341
発売:1996.3.13
ディレクター:西秀一郎
サウンドディレクター:大谷秀政(BIG BOSS/株式会社LD&K)
開発:ビバリウム
機種:mac/セガサターン/3DO
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