ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第20話後編

Last-modified: 2008-05-25 (日) 12:07:08

『アークエンジェル、ソラへ』後編

 
 

 翌日、カガリからアークエンジェルを宇宙に上げる許可が出た。これでカミーユ救出作戦が実行できるとあって、キラやレコアを初めとする面々は喜んでいた。
しかも、アークエンジェルが行動しやすいように、アルザッヘル基地の戦力に対してザフトが陽動を掛けてくれるように、カガリからデュランダルに頼んでくれたらしい。
デュランダルとしても同盟国の要求を無碍に扱うわけにもいかない様で、加えて折角手に入れたアークエンジェルを壊したく無いという事情もあった。カガリはそこを突いた様で、一言厭味を言われただけで承諾してくれた、とのことだった。
 しかし、こうして全てが上手く行っている状況で、バルトフェルドは逆に訝しがる。カガリなら、アークエンジェルをオーブから離すのに抵抗があるだろう。
しかし、それなのに許可を出したのは、きっと裏でセイラン家が何かをしたに違いないと思っていた。彼は、デュランダル同様にセイラン家の事も信用しきっていなかった。

 

 軍港で出港準備が整っていく中、新たに加わったノイマンやチャンドラの他にも、整備士であったコジロー=マードック他のメカニック達や、ミリアリアも協力を申し出てきた。
彼女は戦場カメラマンとして活動していたが、戦局が動いていく中で彼女も自分に出来る事をしようと考えたらしい。
 そして、ミリアリアが誘ってきた人物が居た。短髪のブロンド・ヘアーに色の入った眼鏡をかけた、インテリジェンスを感じさせるスマートな出で立ちの少年。
彼の名はサイ=アーガイル。他のメンバー同様、アークエンジェルのクルーだった一人だ。ヤキン戦役後は、彼もオーブに身を寄せていた。

 

「サイ!」
「キラ、俺もアークエンジェルに乗るよ。お前がまた戦うのなら、俺だって何かしなくちゃな」

 

 旧友の思わぬ参戦に、キラは驚きと喜びの表情を浮かべた。確かに民間に戻った彼を再び戦いに巻き込むのは気が引けるが、それでも同年代の男友達だけあり、嬉しい事には違いなかった。

 

「カズイも誘おうと思ったんだけど、彼、この国には居ないみたいだったから――」
「しょうがないよ。アイツは戦うの嫌いだったし、嫌な思いをさせてまで誘う事は無かったさ。アイツは、俺たちと違って戦いと関係ないところで普通の生活が出来る奴だ。そういう人が居なくちゃな、みんな戦う人だらけになっちまう」

 

 昔の仲間、カズイ=バスカーク。彼は悪く言えば臆病で意気地なしの少年だった。しかし、その感性は至極尤もなもので、普通の人というのは彼のような人の事をいうのだろう。それが、平和な世の中にあって一番まともな事だとサイは思う。
彼のように戦いを拒否する人が居なければ、誰が戦いの無い世の中を望むのだろうか。臆病でもそういう感性を持つカズイの事を、時々サイは羨ましく思うことがある。

 

「彼もアークエンジェルのクルーだったの? カミーユと同じ位の年じゃない」

 

 キラ達が久しぶりの再開を喜んでいると、それが気になったレコアが話しかけてきた。一同は振り向き、レコアを見た。サイがキョトンとした顔でレコアを見ている。

 

「この方は?」
「レコア=ロンドさん。今回救出するカミーユって人の……保護者って感じかな?」

 

 訊ねてくるサイに、ミリアリアが応える。サイは一言、よろしく、といって自己紹介をして握手を交わした。

 

「大変な旅になるかもしれないけど、よろしくね」
「こちらこそ、足手纏いにならないように頑張ります」
「サイなら大丈夫だよ」

 

 少し照れくさそうにするサイと、それを励ますキラ。レコアはそれを見て、微笑ましく思っていた。友情というものを、レコアは感じたことが無い。一年戦争時に孤児になり、ゲリラに参加して遂にはエゥーゴに参加した。
青春時代を激動の中で過ごしたレコアは、少しだけ彼等の関係に嫉妬しているのかもしれない。

 

「キラ、ちょっとこっちに来てくれ!」

 

 そんな風に会話に花を咲かせていると、バルトフェルドがキラを呼ぶ声が聞こえてきた。キラは一言だけ告げると、バルトフェルドの元に歩いていく。すると、そこではラクスも一緒に彼を待っていた。

 

「ラクス――? 何でしょうか、バルトフェルドさん?」
「キラ、俺は今回の作戦には参加せずにオーブに留まろうと思う。どうにもきな臭い匂いがして、お嬢ちゃん一人では不安なんだ」
「それって、デュランダル議長の――」

 

 デュランダルに対してバルトフェルドが不審を持っているのは知っている。だから、キラはその事で不安に思っているのだろうと思った。しかし、バルトフェルドは首を横に振って続ける。

 

「それも無いとは言えないが、今俺が問題に感じているのはセイラン家の方だ。俺達がオーブを留守にして、お嬢ちゃんを一人にするのは得策ではないと思う。彼女はまだ新米の政治家だ。惑うこともあるだろう」
「でも、ラクスに残ってもらえば――」

 

 チラッとラクスを横目で見やる。彼女はカガリの良き友人として、同年代で相談に乗れる唯一といってもいい存在だ。例えセイラン家に篭絡されそうになっても、彼女さえ居れば安心できるのではないかと思った。

 

「そうかもしれないが、彼女も一緒にソラに上がってもらう事になる。だから、それは出来ない相談だ」
「えっ!? でも、今回の作戦は彼女がついて来なくたって――」
「アスランからの連絡を聞いただろう? プラントにラクスの偽者が現れたっていう――それを確かめたいんだとさ」
「本気なの?」

 

 顔をラクスに向け、キラが問う。ラクスはいつもと変わらぬ表情で、しかし少し困惑したような表情で言う。

 

「はい。この間の訪問でデュランダル議長のお考えはある程度お聞きしましたが、途中で連合が宣戦布告を行ってしまわれたので、全部は聞いていないのです。だから、もう一度話をする為にプラントへ行きたいと思っております」

 

 デュランダルが偽者を用意しているのは知っていた。しかし、それがどういう意図でする事なのかは聞けて居なかった。何ゆえに自分の偽者を仕立てようと思ったのかを、ラクスは知りたがっている。
 不思議な気持ちだった。自分そっくりの偽者が、誰にも正体を悟られずに堂々とステージに立つのが、嫉妬とかそういう気持ちではなく、単純に不思議に思えた。
できればその偽者に会って見たいと思っていたが、そんなにそっくりなら、無闇に顔を合わせても混乱を巻き起こすだけだろう。だから、せめて仕掛け人のデュランダルから、その真意を聞きたかった。

 

「わかったよ。…じゃあ、アークエンジェルはプラントにも向かうんですか?」

 

 一言ラクスに言い、キラは再び顔をバルトフェルドに向ける。それにも首を横に振ると、腕を組んだ。

 

「いや、彼女にはソラに出たらプラントから迎えを寄越してくれる手筈になっている。だから、カミーユを救出したらアークエンジェルは直ぐに地球に戻ってくることになる」
「えっ!? ラクスを一人で行かせるんですか!?」
「大丈夫だ。ダコスタ君に迎えに来させる。ソラはザフトが優勢だし、心配する事は無いさ」
「そう…ですか……」

 

 ラクスの事が心配なのは間違いないが、彼女と別れなければならないというのが一番心苦しかった。いつでも支えてくれた彼女があったからこそ、立ち直れたといってもいい。しかし、暫くは一人で戦って行かなくてはならない。
 気落ちするキラは、顔を俯けて力なく声を出した。そんな彼を見て、ラクスは穏やかな空気を醸し出してそっとキラの手を握る。

 

「あ――っ」
「大丈夫です、キラ。ミリアリアさんだって、サイさんだって一緒に行ってくれるのです。キラは一人なんかじゃありませんわ」

 

 僕が言いたいのは、そういう事じゃなくて……そう言いかけてキラはハッとした。何も言わせない瞳で、ラクスは見つめてくる。彼女は気を遣ってくれているのだ。
 キラと心を通わせたラクスには、彼のちょっとした表情の変化からも、何を考えているのか分かる。だから、このような分かりやすい顔を見れば、即座にキラが何に不安になっているのか分かってしまう。
 ラクスはこうして、いつでもキラに優しい言葉を掛けていた。彼にとっては、それは途方も無い救いになっていたことだろう。

 

 別れる事になるとはいえ、宇宙に上がるまではラクスと一緒だ。それまでの僅かな時間を貴重に思い、キラはラクスを抱きしめた。それを見ていたバルトフェルドが迷惑そうな顔をして、ラミアスにオーブに残る旨を伝えに行く。

 
 

 やがて出港準備が整い、アークエンジェルはマス・ドライバーで宇宙に放り上げられる。加速が後方に重力を掛け、内臓を押し潰されるような感覚を味わう。
それが続いていたかと思うと、今度は逆に体の中まで浮遊感を覚える無重力帯に変わった。アークエンジェルが地球の重力を振り切り、宇宙に出たのだ。

 

 宇宙に出たアークエンジェルは、プラントからの迎えのシャトルと合流する為、ランデブー地点へと移動する。そこでダコスタにラクスを任せ、プラントへ送ってもらう手筈になっていた。
 しかし、アークエンジェルがランデブー地点に到着しても、まだシャトルの姿が無い。待ち合わせ時間は、既に過ぎているはずである。ラミアスは時間を間違えたのかと思い、時計に目を向けた。

 

「…おかしいわね。時間は合っている筈なのに――」
「あちらが標準時とプラント時間を間違えてるんじゃないですか?」
「アンディの部下なのよ? そんなイージー・ミスをするとは思えないわ」

 

 顎に拳を当て、艦長席に座るラミアスは首をかしげた。

 

「周囲に機影は?」
「やっていますが、どうやら連合に先を越されたのかもしれませんよ。ジャミングが掛っています」

 

 CIC席に座るチャンドラがレーダーと睨めっこしながら応える。サイに通信探索を頼もうかと思ったが、彼もインカムに手を当てて難しい顔をしている。彼の耳に聞こえてきているのは、恐らくノイズの不愉快な音だけだろう。

 

「どう思います、レコアさん?」
「ちょっとそれを貸してくれない?」

 

 ラミアスに意見を求められ、レコアはサイからインカムを受け取る。耳に当てると、滝の音のようなノイズが一定調子で流れていた。チャンドラの前にあるレーダーにも目を向けたが、同じく乱れている。
 レコアはインカムを外し、サイにそれを返すと険しい表情でラミアスに振り向いた。

 

「十中八九、ミノフスキー粒子の影響でしょうね。この乱れ具合を考えれば、戦闘濃度まで散布されていると見ていいかもしれない」
「戦闘濃度? じゃ、じゃあ――」
「お迎えは既に来ていて、敵に捕捉されている可能性があります。すぐに戦闘配置をした方がいいわ」

 

「――ん? 拾えました! ノイズが酷いですが、SOSです!」
「前方で光を確認! ビームの光と思われます!」

 

 レコアが言い終わると同時に、サイが声を上げる。それに振り向くと、続けてチャンドラが報告する。

 

「ブリッジ解放、カメラ射出!」
「了解!」

 

 本来アークエンジェルのブリッジは遮蔽されているのが普通なのだが、ミノフスキー粒子下では目視による索敵が最も確実となる。アークエンジェルのCICは優秀とはいえ、ミノフスキー粒子の下では性能を発揮しないのだ。だから前時代的な方法を取らねばならない。
 ラミアスが号令を掛けると、アークエンジェルのブリッジが解放され、光の瞬く場所を目掛けてカメラが射出される。すると、そこには弄ばれるようにして、シャトルが3機のウインダムから逃げているのが確認された。

 

「あれは――!」
「何とか確認が取れました。あのシャトルはダコスタさんのものです。救援を要請しています」

 

 ダコスタはアークエンジェルよりも先にランデブー地点に到着していたのだが、そこで運悪く連合宇宙軍の偵察部隊に出くわしてしまったのだった。

 

「了解。総員、第一種戦闘配置! キラ君のフリーダムは待機させてあるわね?」
「いつでも出せます」
「よし――!」

 

 ラミアスは瞳を閉じ、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。久しぶりのアークエンジェルの指揮に、緊張感が高まっている。ふくよかな胸にめり込む様に手を当て、心臓の鼓動を確かめた。
 そして、意を決して目を開き、少しだけ身を前に乗り出す。

 

「アークエンジェル全速前進! シャトルを避けつつ、5秒間の一斉射後、フリーダム発進!」

 

 アークエンジェルのカタパルトハッチが解放される。かつてザフトに足付と称された、特徴的なカタパルト兼ローエングリン部分である。
 アークエンジェルは加速を始めると、戦闘区域に向かって威嚇の艦砲射撃を放つ。

 
 

「始まったみたいだけど…大丈夫なの、ダコスタさんは?」

 

 カタパルトにフリーダムを設置させ、キラは呟く。宇宙での初めてのミノフスキー粒子下の戦闘で若干の緊張もあるが、それにしてもダコスタの運の悪さには同情を禁じ得ない。
せめてアークエンジェルが先に到着していれば、こんな危険な目に遭わずとも済んだのかもしれないのに、彼のこの間の悪さは素質なのだろうか。
 キラは苦笑しつつセッティングを続ける。

 

『キラ、お気をつけ下さい』
「ラクスも、気をつけて――」

 

 小さなサブモニターにラクスが映し出され、声が聞こえてきた。ラクスがプラントへ向かう前の会話は、恐らくこれが最後になるだろう。本当はもっと話をしたかったが、何を言えばいいのか分からなかった。
キラはそんな自分の不甲斐無さに自嘲し、思わずモニターの中のラクスから目を背けた。

 

『フリーダム、発進どうぞ!』
「了解。キラ=ヤマト、フリーダム行きます!」

 

 艦砲射撃で敵もアークエンジェルの存在に気付いただろう。ダコスタのシャトルもこちらに向かってきているはずだ。アークエンジェルから飛び出したフリーダムはフェイズ・シフト装甲を起動し、鮮やかに染まる。
 レーダーは相変わらず役に立たない。敵の数は多くないはずだが、これまでとは勝手が違う状況にキラにも多少の不安はあった。しかし、相手も同じ状況のはずだ。
対等の条件であれば、乗り慣れたフリーダムを駆る自分の方が有利かもしれない。
 そんな風に自分に言い聞かせ、キラは気持ちを強く持った。寂しい宇宙空間では、絶望を感じた者は動けなくなる。そして、動けなくなった者に待っているのは、死だ。

 

「……来た!」

 

 まだ距離は大分あるが、シャトルの姿を確認する事が出来た。ダコスタのシャトルが必死に逃げてくる後ろから、ウインダムが3機、追いかけてきている。
 キラはフリーダムにビームライフルを構えさせ、一番シャトルに接近しているウインダムに照準を合わせる。

 

「当れ!」

 

 ビームライフルから火線が伸び、ウインダムに向かっていく。しかし、それはギリギリの所で外れてしまった。

 

「外れた!?」

 

 それは、狙ったウインダムがかわしたというよりも、外れてしまったという方がしっくり来る。キラの百発百中の狙いが、外れたのだ。自信を持って臨んだが故に、軽くショックを受ける。
 しかし、それは尤もなのかも知れない。ミノフスキー粒子の影響で照準にも僅かな狂いが出ているのだから、目視で辛うじて見える距離では、飛び道具を当てるのは至難の業だ。
ましてや高性能な照準システムに慣れてしまっているキラでは、流石にいきなり合わせるのは難しかった。

 

『済まない、後は任せましたよ!』

 

 キラが軽くショックを受けていると、御礼の言葉と共にシャトルがフリーダムの脇をすり抜けていった。それを追ってくるウインダムの小隊を押さえなければならない。気を取り直し、襲い掛かる3機に対して身構えた。
 相手はノーマルのウインダム。特別な装備は無い。先程は攻撃を外してしまったが、ある程度接近した今ならもうあんなヘマをする事は無いだろう。それに、相手もこちらのフリーダムを見て少し萎縮している感がある。
連合側でも、フリーダムの戦績は、輝かしいのと同時に畏怖の対象となっていた。
 こうなれば、後の事はイージーに済む。フリーダムは、囲い込むように散開するウインダムの攻撃を掻い潜り、一番近くに居た一機のコックピットをビームライフルで正確に射抜く。

 

「ごめん……」

 

 パイロットが消失し、爆発するウインダムを見てキラは呟く。
 彼の戦いは人を殺さない戦いだった。しかし、その戦い方が許されたのは、あくまで圧倒的な力を持ったMSに乗っている時だけだと言う事を、オーブでの戦いで学んだ。
あの時、フリーダムに乗りながらも死を意識し、これまで自分に屠られてきた人の気持ちが初めて冷静に理解できた。そして、それまでの自分の戦いが、どれほど傲慢だったかを思い知った。
 人を殺さないのは確かに素晴らしい事だろう。普通は賞賛されて当たり前の事なのかも知れない。しかし、戦場で乗機が戦闘不能になるという事は、それ自体が死に繋がっていた可能性があったことを、キラは気付いていなかった。
動かなくなったMSの中でもがき苦しみながら死んでいった者も居たかも知れないし、帰還できたとしても生き恥を晒したと感じて屈辱に塗れる者も居たかも知れない。
 その全てが自分の傲慢のせいだとしたら――そう考えるとキラはいかに自分の事ばかりで、相手の事を考えていなかったのかを知った。

 

「これは戦い…仕掛けてきたのなら、落とします!」

 

 そして、これは戦争。自衛の為に懸命に戦わなければ、死ぬ事になるのは自分や仲間だ。
 かつて、一度死んだ事のある人間と出会い、キラの中の意識が変わった。エマやカツの死の経験を聞かされ、その時はピンと来なかったが、今なら何となく分かる。死は怖いし、寂しくもある。特にこの無限の漆黒に漂っていれば、尚更その思いを強く感じる。
 こんな気持ちが芽生えれば、キラとて必死にならざるを得ないのは確かだ。だから、もう彼は躊躇ったりはしない。仲間を、自分を守る為に、立ち塞がる敵は倒す。

 

 残りの2機のウインダムは、フリーダムが構えると慌てて身を翻して逃げようとしていた。こちらの力量を知り、勝てないと見込んで撤退をしようとしていた。
 しかし、ここで彼等を母艦に返すわけには行かない。出来るだけ敵に気付かれないように月まで行くには、偵察部隊である彼等には、例え僅かな情報であろうとも与えるわけには行かない。
それに、ダコスタのシャトルの事も知られていたのでは、尚更懸念が増えるだけだ。ラクスには無事にプラントへ辿り着いてもらわなければならない。

 

「レーダーは効かないけど、有視界戦なら――!」

 

 マルチ・ロックオンはミノフスキー粒子の影響か、まともに機能していない。しかし、目に見える相手ならば、手動で照準を合わせるまでだ。キラはターゲット・マーカーをマニュアルで合わせ、フリーダムが全ての火器を前方に集中させる。

 

「いっけえええぇぇぇ!」

 

 先程ビームを外した事も踏まえて、確実に落とす為に、ありったけの砲撃を逃げる2機のウインダムに向かって放った。圧倒的な量の攻撃が2機を襲い、それをかわし切れずに踊るように被弾しながら爆発した。
これで、少しは敵の情報伝達を遅らせる事が出来るだろう。

 

 キラは無事に撃墜する事が出来、安心してヘルメットを脱いだ。その下から出てきたキラの額には、大量の汗が噴出していた。割り切ろうと思っても、こういう戦いにはまだ慣れない。複雑な思いを噛み締め、この気持ちを糧にしようと深呼吸する。

 

「ラクス…行っちゃうんだな……」

 

 ヘルメットを膝に置き、体をずらして楽な姿勢になると、モニターが捉えるアークエンジェルを見た。そこでは、先程避難してきたダコスタのシャトルが接舷している。今、恐らくラクスがシャトルに乗り移っているのだろう。
 フリーダムをアークエンジェルに向かわせると、準備が出来たのか、シャトルはアークエンジェルから離脱していく。ほんの少しの差で、キラはラクスに顔を合わせる事が出来なかった。それを残念に思い、溜息をついた。
 しかし、シャトルは急にフリーダムへ進路を向けると、その周りを一周グルッと回って、それからプラント方面へ向かっていった。ダコスタが気を遣って、わざわざやってくれたのだ。

 

「あ……」

 

 フリーダムを回っている時、シャトルのコックピットからラクスの姿が一瞬だけ垣間見えた気がした。おぼろげだが、微笑んでくれている様に見えた。キラはダコスタに感謝し、フリーダムをアークエンジェルに帰還させる。

 

 これで、次はいつ彼女に会えるのだろう。確実なのは、カミーユを救出し、オーブへ戻ってもそこに彼女は待っていないという事だ。
 2年間いつでも一緒に暮らしていただけに、ほんの少しの間の別れでもこんなに寂しく思うのは、それだけ彼女に依存していたからだろう。そんな自分を知って、彼女は笑うだろうか、それとも、既に見透かされてしまっているのだろうか。
 とらえどころの無い、しかし自分のお尻を叩いてくれる面もある彼女を思い浮かべ、キラはかの歌を口ずさんでいた。