◆BiueBUQBNg氏_GジェネDS Appendix・番外編_02

Last-modified: 2014-03-10 (月) 16:00:39
 

 <Chapter 4>

 

 突然だが、夕陽が見たい。
 夕食時にそういったら、トリエに不思議そうな顔をされた。そういえば、エゥーゴで転戦してる時地球にも長くいたが、トリエは、沈む夕陽そのものは眼にする機会がなかったことに気が付かなかった。そんな余裕は無かったからな。コロニー生まれの人は、グリニッジ標準時に合わせて機械的に昼と夜とが切り替えられる環境で生まれ育っている。だから地球の朝陽と夕陽のようなものは、発想からして思いもよらない。経験として知っているはずだが、思い出せなかった。
 まだ工学部の学生だった時、連邦軍士官学校に合格した後一人で貧乏旅行をしたことがある。カントー州のチョウシという岬の上にのっかった町に行き、冬の寒い夜を一人明かして、朝日を見た。なんでそんなことをといわれても知らない。自分が知りたいぐらいだ。要するに子供で、自分が歩むことになった道がさも素晴らしいものでもあるかのように勘違いして、自分で自分を祝福しようと思ったんだろうが。しかしまあ、あの朝日は今まで自分が見た中で2番目に美しいものだった。一番目は何かって?これを読んでいる人(誰にも見せる予定はないが)だったら、見当はつくだろ。
 朝日を堪能してから海岸線をさまよい、寂れたホテルの看板に入浴のみも可なんてことが書いてあったから温泉に入って冷えた体を温めた。そういえば、温泉にもしばらく入ってない。トリエは寒がりらしく、モーターバイク(前に盗んだものじゃない。あれはドサクサにまぎれてもとあった場所に返しておいた。元から持っていたヤツだ)でツーリングする時など、必要以上に強く俺の背中にしがみついている。体温は、高いのだが。きっと温泉を気に入ってくれるだろうと思う。
 予備役将校の身分証明書を見せればスペースノイド籍でも地球に旅行するぐらいはできるはずだから、今度トリエをつれて地球に行こう。色々と見せてやりたいものもある。子供には情操教育をしてやらないとな。

 
 

 <Chapter 5>

 

 言いだしっぺとしては責任を取らなければならない。俺はネェル・アーガマに移った。無論デンドロは横付け
してある。それに作戦のカギであるGXとZZも搭載させた。後のパイロットはそれで自動的に決まった。ガロード君は当然ティファさんと小隊を組むし、ジュドー君にはルー・ルカさんとエルピー・プルちゃんがつく。一隻の戦艦が運用できる戦力はモビルスーツ・モビルアーマー問わず6機である。(エターナルは快速巡洋艦であるため2機しか運用できない)これで枠は埋まった。
 トリエには、別に考えていることがあってキラ君とアスラン君の小隊のフロント(小隊の前に出て指揮する役)を割り振った。今にしてみれば自分の鈍感っぷりに呆れる思いがするが、ネェル・アーガマに移るシャトルに乗り込む際、トリエが俺と、仲睦まじそうなガロード君とティファさんをチラチラと横目で代わる代わる見ていた。
後者を見る時はうらやましそうで、俺を見る時は、なにやら訴えかけているようだった。で、当時の俺はトリエの気持ちなんぞ気づかず、食事の時に最後に一つだけ残ったデザートのコーヒーゼリーを取ったのが(後プリンとパフェがあった)いけなかったのか、などとアホなことを考えていた。列の前にいたルーさんが飛び出していってトリエに何事か言っていた。で、シャトルに乗っている間中ずっとジュドー君と二人で俺を怖い眼で見ていた。
 深き所より、神よ(といっても俺は特に何かの宗教を信じているわけではない。無神論者だと主張していても
いないが。とりあえず、誰だか知らないが、いるとしたら、これを読んでいる人か?)俺は阿呆だ。
 そのネェル・アーガマを先頭にマザー・バンガード、ラー・カイラム、エターナルの順で艦隊は進撃を開始した。既にミノフスキー粒子は十分に濃く、敵陣営の模様は艦の大雑把な位置位しか確認できない。敵もそうだとすれば、この作戦が図に当たる可能性はそれなりに高い。

 

 ところで今日の夕食はカレーだった。コロニーでも馬鹿みたいな値段で手に入る牛のスジ肉のカレーだ。長時間茹でなければ食えたものではないので、昼のうち(サートゥルヌスの一件のお陰で現在転用評価試験どころではなく、その上前使ってた旧ザクも故障してるそうで、現在は自宅の警備に従事してる)に市場にいった。
 帰りに突然トリエが俺に抱きついてきた。何があったんだと聞いたら、道の隅においてあった段ボール箱を指差した。
異常なまでに怖がっている。こんな顔も可愛い…何を書いてるんだ、俺は。清掃が行き届いているはずの公園内の大通りに段ボール箱があるのも不自然なので、近寄って箱を持ち上げてみた……中にガトーがいた。

 

 「何故ダンボールの中に隠れているのに見つけられるんだ、貴様は!」
 「知らねェよ!」

 

 金髪で水色のスーツの女はいなかったかと聞かれた。あいつも色々と苦労しているらしい。

 
 

 <Chapter 6>

 

 カラオケにはいい思い出があった試しがない。
 キースの奴が主催する親睦会だの合コンだのでしかいってないが、あいつは酒飲めないくせに無暗矢鱈にお調子者で、何度もデュエット付き合わされたりヤダっつってんのに無理強いされたりで、体に悪い。
 何でそんなことを唐突に書いたかというと、カラオケで乱闘になりかかったからだ。俺は雰囲気が悪くなった時点で逃亡したから詳しいことはよく分からないが。
 事の発端は、そのキースがジオン軍人と交流したいと言い出した辺りだ。ガトーだのシーマさんだのの予定を聞きだす役を押し付けられた。奴はモビルスーツパイロットに憧れているアースノイドの女の子(女子大の研修旅行と飛行機でぶつかったらしい)を連れてくるとかいってたが、そんなことが俺にとってどういう利益になるのだろうか?似たような機会は前に何度かあったが、いつもモビルスーツの話しかできなくて、結局隅でジン・トニックを傾けていた。つか遅くなるとトリエが寂しがるし。
 いつものことだが、酔った勢いで軍だのジオニックだのの上層部に対し「戦理を解せぬ愚か者どもが」とか「家柄がいいだけの何の内実もない奴らよ」とか毒を吐いたらしい。気が付いたら2次会で、ソロモンのボールを思わせるほど沢山いたはずの女子大生は、一人もいなくなっていた。キースは不貞腐れている。きっとビグ・ザムが来たに違いない。
 ガトーはというと、ケリィ・レズナー氏と肩を組んで軍歌を熱唱している。つかノリノリだ。二人ともいやに女の子にチヤホヤされていた筈だったが。

 

 「貴様と俺と~は~同期の桜~」

 

 クラシックだ。確か中世紀の、どこの国だったっけ…俺の母国の軍歌だ。さっきはジオン公国軍のを歌ってた。歌も終盤に差し掛かった頃、問題だらけではあるがそれなりに穏便に幕を閉めつつあった飲み会に、地獄の釜の中身がブチ撒けられた。

 

 「ズムの都の~ナイン・ステージズ~同じ梢に~咲いて会おう~」

 

 二人とも感極まった表情になっている。ロトゥウン・レイディー(女のオタクをそう呼ぶらしい)なら大喜びというところか?
が、腐ってないレディーにはお気に召さなかったらしい。シーマさんが持っていたグラスをガトーに投げつけた。ガトーは紙一重で避けたが、よほど強く投げられたらしく、ガラスが後ろにあった時代遅れの液晶モニターを破り、水分が中に入り、嫌な音を立ててモニターが死ぬ。

 

 「貴様何をするぅぅうううう!!!」
 「ウォークリの神殿なんかで咲くんじゃねぇぇえええええ!」

 

 逃げた。キースはあまりの状況の変化に戸惑っていたが、危険であることだけは理解できたらしく逃げ足の速さも鮮やかだ。当事者の一人であるはずのケリィさんも匍匐全身している。片腕なのに器用だ。通信機を持ち出して司令部に連絡か?とおもったら、

 

 「今から帰るよ」

 

 家に電話していた。
 背後からは絶叫、悲鳴、轟音、爆音、その他戦場では聞きたくないし戦場以外の場所ではもっと聞きたくない音の交響曲が奏でられている。こんな緊迫した状況は、バイクを盗んでトリエを迎えに行った時以来だ。

 

 「しかしあのシーマっておばさん、なんであそこでキレたんだろうな」

 

 カラオケボックスから逃亡し、やや人通りの少ない道を帰宅ついでにホテルまで送る途中、キースにそんなことを言われた。

 

 「ナインステージズってのはズム・シティの地名で、戦没者を称える神殿……たしかヴァルハラとか言う名前だったか?それがあるんだ」
 「で、なんで怒るの?」
 「ギレンとかデギンとかキシリアとか、戦死したザビ家の人間も”エインヘリャル”(ヴァルハラの本尊である所の戦死者の名前を記載した名簿)に名前が載ってるんだ。シーマさんだけじゃなく、一年戦争中ジオンに占領されていた地域の住人にはそれが不愉快らしく、ギレンの石像(なもんねーよ)を撤去しろとかいってる」
 「そういう考え方をされると軍人を辞めたくなるな……。俺たちだって勝ったからいいようなものの、負けたらレビル将軍なんか縛り首だろ?その後まで戦ったことを悪だなんて言われ続けたら、死んでった奴は浮かばれないぜ。なんだかんだいってジオンはよくやったって、士官学校でも教えてるしな」
 「俺もそう思うよ。だからサイド3に引っ越してすぐヴァルハラに花を手向けた。けどまあ、シーマさんはキシリアに騙されて民間コロニーに毒ガス攻撃をさせられたからな。納得できないのも、分からないでもない」
 「やれやれ。戦争って奴は、終わってからも厄介なもんだな」

 

 ここまで話した所でホテルの前に着いた。軽く手を上げて別れを告げ、そのまま商店街のほうまで歩いていった。遅くなった詫びに、トリエに好物のドーナッツを買ってやることにしたのだ。

 
 

 <Chapter 7>

 

 ハイスクールの世界史の時間、ある箇所にたどりつくと生徒がいつもいつも「うはwwwwwwwwアリエネェwwwwwwwブススギテキモスwwwwwwwww」と大騒ぎするのは、世界史の先生だったら皆知っているだろう。俺も騒いだ。
 その女こそローゼルシア・ダイクン。ジオン・ズム・ダイクンの正妻だ。宇宙世紀一の醜女に早くも決定しつつあるが、最近では、彼女の存在はそれなりに評価されている。
 彼女は晩年神がかった言動をするようになり、ダイクン家に坊主だの神父だの神主だの牧師だの陰陽師だのを呼ぶようになった。西暦時代、既に人間の生活における宗教の位置は、もはや宗教の名に値しないほど低いものになっていた。ジオンはスペースノイドのための新しい信仰を提唱していたらしいが、それを形にする前に死んでしまった。で、ザビ家による簒奪が進む中、ローゼルシアに主導された旧宗教の復活は、サイド3住人に驚くほど大きく支持された。
新しく寺やモスクや教会や神社や神殿が次々と建立され、ローゼルシアとその取り巻きによる後援はやがて一般大衆にも広がっていった。彼女自身は、自分を太陽神アマテラスだか地母神ガイアだかと思いたがっていたらしい……幸い、サイド3に宗教が根付きかかったところで心臓病で死んでくれたが。
 要するにサイド3式神道だ、とマツナガ閣下は論じていた(ジオニック社の各部署に彼の著書が配布されているのだ)。閣下自身は、それについてとくにいいとも悪いともいってはいないが。
 もっとも、クワトロ大尉はイマイチよく理解できないでいるらしい。エゥーゴにいた折、アムロ大尉と食事中こんな会話をしているのを見たことがある。

 

 「宗教なんて、信じたい奴が勝手に信じたいものを信じてればいいんだ。政治に口を出させるのはマズいが、かといって抑圧するのも不自然だろう」
 「だが、これから人間がニュータイプへと覚醒し、宇宙へとその生活圏を延ばしていく。今はそんな時代だ。過去の迷信に捕らわれたままではな」
 「人はそんな便利なものじゃない。体だって言葉だって、昔の人たちから受け継いだものだ。それともお前、何かいやな思い出でもあるのか?」
 「……子供の頃、教祖になったローゼルシアがな、よく私とアルテイシアに『あんた、地獄に落ちるわよ』と言ってたんだ……」

 

 児童虐待が性格形成に与える影響については、まだまだ研究の余地がある。あとセイラさんはともかく、クワトロ大尉が地獄に落ちないはずがないだろう。

 
 

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