敵・・・正確には一人の地球連合兵は、人型の装甲服を着用していた。
パワードスーツと呼ばれるそれは、モビルスーツ ジンが宇宙を駆ける以前より地上を闊歩していた兵器であった。
機種は、大西洋連邦の主力パワードスーツ ゴライアスである。
そのゴライアスは、3機のジンの前方の道路の中央にただ1体のみで屹立していた。
モビルスーツが戦場の主役となりつつある現在、歩兵の上位互換に過ぎない機甲兵が
1体で3機のモビルスーツの前に立つのは、無謀を通り越して蛮行に近かった。
そしてその姿は、機体の由来となった巨人を投石器で倒したヘブライ人を思わせ、
皮肉な情景でもあった。
「・・・・・」一瞬3人のザフト兵は、目の前の光景が信じられず、茫然となった。
「機甲兵、1体だと、罠か?」警戒するラースン
「へっ、モビルスーツの猿真似か!」
「ナチュラルの玩具が!」そんな彼と対照的に部下は、哄笑を隠さない
モビルスーツをまねたナチュラルの玩具と彼らは発言しているが、
無論これは、間違いである。
パワードスーツは、コズミック・イラ以前、まだ彼らコーディネイターが学術論文やSF小説の中の存在であった頃
から戦場を闊歩していた。
またモビルスーツ自体、パワードスーツからの技術的影響を大いに受けていた。
現に世界初のモビルスーツ「ザフト」を開発した技術者のジャン・カルロ・マニアーニは、
ユーラシア連邦の某企業の民生用パワードスーツ開発部門の出身であった。
「さあ、楽しい人形劇を始めるとするか!」ゴライアスの着用者・・・機甲兵中隊指揮官のハンスは、不敵な笑みを浮かべた。
「たった1機でモビルスーツが倒せるものかよ!死ねぇ」
カートのジンは、重突撃機銃を目の前の敵に向けて撃ちまくった。
銃口から爆音とマズルフラッシュと共に76mm弾が次々と吐き出される。ウェルのジンもそれに続いた。
76mm弾がゴライアスの周囲の放置車を粉砕し、着弾した路面のアスファルトを引き裂き、
道路脇の歩道のコンクリートを打ち砕く。
「気の早い奴だ」降り注ぐ76mm弾を回避しつつ、ハンスのゴライアスは、
脚部ローラーで路地に後退した。
「ちっ仕留め損ねたか!」2機のジンは、路地に逃げ込んだゴライアスの追撃に向う。
指揮官機のバルクのジンが孤立する形となった。
「待て!罠かもしれん!深追いするんじゃない!」バルクが部下を制止しようとした直後、
彼ら小隊の後方左右のビルの基礎部分で爆発が起こった。
工兵部隊によって目的通りに的確にセットされた爆薬は、その与えられた役割を果たした。
基礎部分を破壊されたビルは、それぞれ道側に向かって倒れ込んだ。
モビルスーツすら押し潰しかねない質量を持った怪物の様なコンクリートの塊が轟音を立てて倒れ込んだ。
小隊の真後ろの道路は、瞬く間に瓦礫に覆い隠された。
立ち上った瓦礫の粉塵が一瞬、付近にいたバルクのジンを包み込んだ。
「なに!」
「下手くそが!」ウェルは、それを見て嘲笑した。
「馬鹿野郎!退路が塞がれたんだ!」バルクが野太い怒声を張り上げた。
彼らは、都市に突入して5分と経たぬうちにその退路を塞がれたのであった。
爆薬と地球の重力によってバルクのジンの後方に瞬間的に現出した巨大な灰色の塊は、
ジンの装備する重突撃機銃如きでは排除できないであろうことは明らかであった。
「ウェル!カート!絶対に離れるな!」
「りょ了解!」
流石に自分たちの置かれている状況を理解した2人は、指揮官の元に合流を図ろうとした。
この時点では、指揮官のバルク含め、地球連合軍の戦力を過小評価していた。
だが、彼らは既にハンスの策中に落ちていた。そのことを間もなく彼らは認識させられることとなる・・・・・
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