なのはクロスSEED_第11話前編

Last-modified: 2007-12-28 (金) 00:37:55

"母さん……私の、母さん……"
 
それはフェイトが見ている過去の出来事。
広大な草原の中の花畑で、プレシアと二人で、座っている。
フェイトの目の前に座るプレシアは花を繋ぎ合わせていた。
その表情は、穏やかで、優しい母親の表情だった。
 
"いつも優しかった、私の母さん……私の名前を優しく呼んでくれた母さん……"
 
繋ぎ合わさった花の髪飾りをフェイトへと見せるプレシア。
「ねぇ、とても綺麗ね、アリシア」
 
"アリシア? 違うよ母さん、私はフェイトだよ……"
 
「さあいらっしゃい、アリシア」
フェイトへと差し出される右手。それは優しく迎える母親の温かい手。
そして近付いてきたフェイトへと作った髪飾りをのせる。
「ほら、可愛いわ、アリシア」
 
なぜプレシアが自分の事をアリシアと呼ぶのか。
不思議な表情を浮かべるフェイトだったが、目の前の優しいプレシアに向かって微笑む記憶の中の過去フェイト。
プレシアが、ただ自分に向かって優しく微笑んでくれていた。
フェイトにとって、それだけでよかった。
 
"まぁ……いいのかな"

 

 
海鳴臨海公園。
 
 
目を開くフェイト。
眼前には白い服を着たあの子がこちらへデバイスを向けている。
お互いのジュエルシードを賭けて勝負しようと言ってきた。
こちらもそれにのった。
それが一番手っ取り早くて、確実な方法だから。
 
(アスラン……)
隣にいる自分のパートナーへと念話を飛ばす。
向こうもこちらの意図に気付いたのか、首を縦に振り、
 
(……こっちは任せろ、お前の邪魔はさせない)
(うん、わかった……ありがとう)
(その言葉は、お互いに勝ってからにしよう)
(うん、そうだね……)
両者、お互いの戦うべき相手と視線を交差させる。
 
 
そして、最初に動いたのは、
 
「!!!」
 
宙を蹴るように一気に加速し、接近するアスラン。
「イージス!!」
『Right Arm Sabre.』
右手に出現する紅い魔力刃。
その右手を左から右へと薙ぐ様に、横一閃をキラに見舞う。
「ッ!!」
とっさの事に反応が遅れたキラ。
シールドでどうにか防いだが、衝撃で海の方へと吹っ飛ばされていく。
 
「キラ君!!」
飛ばされた方向へと視線を向けるなのは。
(……大丈夫! 僕は大丈夫だから、なのはちゃんはあの子を!)
姿は見えないが、念話を飛ばして自身の安全を伝えるキラ。
そして紅き翼を背負った魔導師は蒼き光を散りばめつつ水平線の向こうへと飛んで行った。
それを追う様に紅い服を纏った魔導師が空に上がり、追いかける。
 
(……うん。キラ君、気を付けて)
聞こえているかどうかはわからないが、キラへ向けて念話を飛ばす。
キラの事は心配だが、今は彼の言葉を信じるしかない。
前を向き直し、フェイトと対峙する。
そして、空中へと舞い上がりバルディッシュを構えるフェイト。
『Flier Fin.』
両足に出現する桜色の小さな双翼。
地を蹴り、なのはも宙へと舞い上がっていく。

 

 
アースラ・管制。
 
眼前に映る二つのディスプレイ。
それぞれに映るのは、なのはとフェイト、キラとアスラン。
両者、それぞれの一対一に持ち込めたようだった。
「戦闘開始、みたいだね……」
「ああ……」
エイミィの言葉に応答するクロノ。
「でもちょっと意外だよね、クロノ君が二人の申し出を許可するなんて」
「ああ、その事か……まぁ、二人が勝つか負けるか、どちらに転んでもあんまり関係ないからね……」
「なのはちゃんとキラ君、二人が時間を稼いでくれる内に、あの子達の帰還先、追跡の準備をして置く……てね」
「頼りにしてるんだからね、逃がさないでよ」
「おう、任せとけっ!」
ガッツポーズを取りつつ返事をするエイミィ。
「でも、あの事、なのはちゃんとキラ君に伝えなくていいの?」
前を向き、少し表情が暗くなるエイミィ。
「"プレシア・テスタロッサの家族の事"、"あの事故の事"……」
「……勝ってくれるに、越した事はないんだ……」
数歩前に進み、ディスプレイを見上げるクロノ。
「今は、二人を迷わせたくないから……でも、」
「?」
クロノの途中で遮られた言葉に疑問を抱くエイミィ。
「気になるのは、アスランの方だ……彼は、"あの事"を知っているんだろうか……
 だとしたら、彼は一体……」
「あ、そろそろいいんじゃない?」
「ん? ああ、そうだな。」
そしてエイミィはコンソールを叩き、いつでも出来るように準備をしておく。
「……頼んだぞ、なのは、キラ……」
 
 
 
吹っ飛ばされた事をうまく利用し、なのは達と距離を取るキラ。
(とにかく離れないと……!)
チラッと後ろを見ると、一定の距離を取りつつこちらを追いかけてくるアスランの姿。
そしてある程度距離を取る為、遥か先の水平線を目指すように飛翔し続ける。
 
(……この辺まで来れば……いいかな……クロノ君!)
こちらの動きをアースラの管制で見ている筈の執務官に向けて念話を飛ばす。
 
一瞬にして変わる雰囲気、辺り一面に広がっていく広域結界。
「!!」
急ブレーキをかけるキラ、それにつられるように止まるアスラン。
(しまった! 誘いに乗ってしまったか!?)
身構えるアスラン。そしてこちらへと振り返るキラ。
 
「……ここなら、あの二人の邪魔にはならないだろうからね」
 
実は、最初からこのつもりだったのだ。
それぞれの戦いの邪魔はしたくない、それをすでにアースラにいるクロノと連絡を取り合っていて、
距離を取ったのを見計らって、外部からの干渉を防ぐ結界を張ってもらう。
クロノ自身はアスランを捕縛を優先する為に内部からも干渉できない結界を使いたかったのだが、
キラの気持ちを汲み取り、この作戦に賛同した。
 
だが、それはアスランにとっても好都合だった。
最初の一撃はわざと吹き飛ばす為の一撃で、二人を離す為だったのだが、
皮肉にも相手も自分と同じ事を考えていたのだった。
 
右手のライフルをマウントし、背中のサーベルに持ち替えるキラ。
「……行くよ」
「……」
無言で右手を構えるアスラン。
 
そして、同時に宙を蹴り、目の前の相手に向かって一気に加速する。
 
「「はあああああっ!!!!」」
 
同時に振り被った互いのサーベルは、互いのシールドによって防がれる。
交差する場所から飛び散る蒼と紅の魔力。
 
「「ッ!!」」
 
同時にその場から離れ、互いにライフルに持ち替えようとする、
そして先に持ち替えたのはアスランだった。
トリガーを弾き、ライフルの銃口から放たれる紅い魔力弾。
 
「くっ!!」
反動で離れたとはいえ、お互いの距離はそんなに離れていない。
何とか体を反転させつつ、シールドを駆使し、防ぐキラ。
だが、アスランの正確な射撃は、キラを自身に近づけさせる事はなかった。
一定の距離を取りつつの攻防戦が繰り広げられる。

 

 
空中で交差する二人の少女。
互いのデバイスとデバイスが、それぞれを押し合う。
「「ッ!!」」
互いに弾き合い、密接した距離が開く。
反動で崩れた体勢を立て直し、デバイスを構えるフェイト。
『Photon Lancer.』
バルディッシュの声と共に出現する複数の雷球。
「!!」
同じく体勢を立て直したなのはがそれに対抗すべく、レイジングハートを構える。
『Divine Shooter.』
自分の使える魔法で同系統の魔法を選び、桜色の球体が現れる。
その数は、互いに4つ。
準備はできた。とばかりに互いに視線を交わす少女達。
 
「ファイア!!」「シュートッ!!」
 
言葉と共に同時に標的へと向かっていく球体。
すれ違うそれぞれの球体は相殺することなく標的へと接近する。
全身を翻すように回避し、前方へと進むなのは。
対してフェイトは後方、上空へと退避し、一気に防御壁を張って相殺させる。
「!!」
攻撃を防いだフェイトは、なのはへと視線を向けると、彼女はすでに次の攻撃態勢に入っていた。
先程と同じ複数の魔力弾による遠隔攻撃。
「シュートッ!!」
こちらに反撃の暇を与える間もなく、発射される5つの魔力弾。
「ッ!!」
『Scythe Form.』
迷っている暇はない。フェイトが取った手段は防御ではなく攻撃。
一瞬にしてバルディッシュから発生する黄色い魔力刃。
それを振り被り、魔力弾を叩き砕く。
一つ、二つと正確に、確実に撃墜し、最後の一つを回避した瞬間に、一気に加速をつけ迫る。
「!!」
右手を掲げるなのは。
『Round Shield.』
掲げた右手から発現する桜色の円形魔法防御陣。
振り下ろされたバルディッシュの魔力刃を受け止める。
ぶつかり合い、弾け飛ぶ魔力の欠片。
「……!!」
このままでは防戦一方だ。
しかし、今の自分には接近戦に用いることが出来る手札は無かった。
だが、まだ手はある。
なのはは目を閉じ、意識を集中させる。
その先にあるのは、先程フェイトが最後に避けた魔力弾。
それをシールドを展開しつつ、コントルールし、こちらへと向かわせる。
急遽、方向転換した魔力弾はフェイトへと一直線へ向かう。
「ッ!!」
視線を後方へと向け、左手を掲げ、その前に発現する黄色の円形魔法防御陣。
魔力弾はそのままシールドへと突っ込み、弾け飛ぶ。
それを確認したフェイトはシールドを解除し、視線を元に戻すが、
「!?」
いない。さっきまで目の前にいたはずのあの子が。
首を振り、左右を確認するが、その姿はなかった。
体を動かし、全身で移動しつつ姿を追う。

 

 
『Flash Move.』
 
「せえええええええええいっ!!!!」
 
咆哮と共に上空から一気に高速で接近する何か。
「!!」
声に反応し、顔を上へと向けるフェイト。瞳に映るのは高速で接近するあの子の、なのはの姿。
きっと接近してきてから一気に魔力弾を打ち込んでくるのだろうと思った。
だが、両手に握られたデバイスから放たれるのは魔力弾などではなく、
"デバイス"そのものを振り被って来た。
「ッ!!?」
反応が遅れたが、どうにかこちらもデバイスで受け止める。
だが、上空からの加速を付加させた魔力を付与させたデバイスの一撃は重く、
一面、白い光へと包み込まれる。
その光の中、自身をすり抜けて下降していくなのはの姿を、フェイトは見逃さなかった。
今しか、チャンスはない。
 
『Scythe Slash.』
「あぁぁぁぁっ!!!」
 
先程自分がされたのをそのままし返すように、バルディッシュを振り被り、両手に力を込める。
距離は短い、絶対に当てると確信したフェイトは一気になのはへと迫る。
 
キィン……!
 
だが、なのははそれに臆することなく、空中で反転し、バックステップで間一髪回避するが、
完全に避けきれずに、バルディッシュの魔力刃がなのはのバリアジャケットをかすめ、胸元のリボンが一部欠ける。
構うことなく反転し、距離を取ろうとしたなのはの眼前に映るのは、
「ッ!!」
先程と同じ複数の魔力弾。
『Fire.』
バルディッシュから発せられる声と共に静止していた魔力弾が一斉になのはへと向かう。
一瞬の出来事だったので自分で防御魔法を展開する暇もなかったが、
レイジングハートによる自動防御陣によりどうにか全て弾く事が出来、
弾かれた魔力弾は海へと突っ込んでいく。
 
「「はぁ、はぁ、はぁ…………」」
 
息を切らしながら向かい合う二人の少女。

 

魔力弾を回避しつつ、前へ前へ行こうとするキラだったが、一向に距離が縮まらなかった。
(このままじゃ……何とか流れを変えないと……!)
キラの表情に段々と焦りの色が浮かび上がってきていた。
アスラン自身もキラの射撃を避けつつ、回避行動をとりながらの射撃だったのだが、
彼もC.E.ではザフトの赤を着ていた男。それにアカデミーでの射撃の腕の成績はトップクラス。
MSの操縦よりも自身の指でトリガーを弾く方が、命中率が断然違ってくる。
 
(近付くことが出来ないんだったら!!)
ブレーキをかけ、バックステップで弾を避けつつ、一気にアスランとの距離を取る。
「ストライク! ランチャージャケット!!」
『OK. change, LauncherJacket.』
上着の赤いジャケットが緑色へと変色し、左肩の背中に巨大な砲台『アグニ』が具現化する。
『Combo Weapon Pad, Gun Launcher.』
左肩のショルダーガードが開き、10発の魔力弾が射出される。
弾は広範囲に広がるようにアスランへと向かっていく。
 
「ちぃっ!!」
範囲が広い為、回避するのは無理と判断したアスランはライフルを構え、
後方へ下がりつつ、トリガーを弾く。
紅の魔力弾が蒼の魔力弾を相殺していく。
『Fire.』
だが、半分ほど撃墜したと思ったら、次の魔力弾が射出される。
(物量で攻めるつもりか! ……だったら!!)
左手に展開する魔法陣、収束する魔力。それを前方へと掲げ、
『Skylla、Burst!!』
紅き砲撃が、蒼の魔力弾を巻き込む形で消滅させていく。
だが、
「!!」
それと平行し、こちらへと向かってくる蒼の砲撃。
「ッ!!」
間一髪、スキュラの砲撃をキャンセルし、左手のシールドで防ぐ。
だが、巨大な砲撃の勢いに押され後方へと下がっていく。
「こ、のぉっ!!」
体勢をずらし、どうにか反らせて回避した。
 
――刹那。
 
『Master!!』
太陽の光が差し込むはずの空から光ではなく影が差し込む。
「!!」
顔を上げ、そこには見えるのは、蒼き大剣を掲げたキラ。
先程とは違ってジャケットも緑色から青色へと変色し、装備も変わっている。
そして、キラが右手に大剣を持ったまま、左手を突き出していた。
『パンツァーアイゼン』
ストライクの声と共に発射される左手のシールドに収まっているアンカーがアスランの右手へと絡みつく。
「な!?」
何重にも絡みついたワイヤーとアンカーは容易には外す事が出来ない。
そして巻き取られるワイヤーの加重に引っ張られ、縮む距離。
 
「はああああああああっ!!!!」
「くぅっ!!」
 
そして距離が数メートルになった瞬間、右手に構えた『シュベルトゲベール』を振り下ろす。
右手に絡みついた『パンツァーアイゼン』のせいで逃げる事すら出来ない。
眼前に迫る蒼の大剣。
だが、アスランは咄嗟に空いている左手を前に突き出す。
その左手の前方に展開する紅の魔法陣。
 
『Skylla、Burst!!』
「!!」
 
紅い砲撃に飲み込まれていくキラ、そして砲撃の直撃を食らった彼は、後方へと飛ばされ、降下していく。

 

 
――く、そぉっ……!!
 
キラがそれに気付いたのは、その魔法陣から紅い砲撃が発射された後だった。
振り下ろし切るまであと何センチだっただろうか。
作戦では振り下ろした大剣を食らってアスランにダメージを与えられると踏んだ。
遠距離での砲撃は最初から当てにしていない。
だから、複数の誘導弾を数で攻めれば、きっと隙が出来る。
そしてその隙は来た。数を一気に殲滅させるにはあの砲撃ぐらいしかない。
だから、その砲撃をさせるのが、まず第一段階。
そして、こちらも『アグニ』による隙を突いた砲撃の第二段階。
だが、それも全ては近距離に持ち込む為の布石に過ぎなかった。
そして、画策した計画は思い通りに進んでいた。
だが、最後の最後で、自分から砲撃に突っ込んでいくとは、想像もしていなかった。
 
――僕じゃ、勝てないの、かな……。
 
やっぱりアスランは強い。
僕なんかが勝てる訳無い。子供の頃からずっとそう思ってきた。
いつだってそうだ。アスランは何だって出来た。
勉強も、運動も、何を取っても、僕はアスランに勝てなかった。
そんな昔の事を思い出し、諦めという言葉が脳裏を過ぎった。
だが、それと同時に湧き上がってくる感情。
 
――負けたくない、諦めたくない。
 
それは、キラの本心。
子供の頃に忘れていた感情。
いつだったか、アスランが自分より上でもいいと思い始めたのは。
だけど、最初の頃は湧き上がっていたこの感情。
 
――僕は……
 
負ける訳にはいかない。
あの娘が、なのはちゃんが頑張っているのに、
僕が負ける訳には、いかない!
僕は、アスランに……
 
 
――勝ちたい!!
 
 
キラの願いが、心に響き渡る。
 
 
――――そして、キラのSEEDが弾けた。

 

 
降下していく身体の感覚が伝わっていく。
閉じていた目を開き、神経を全身へと繋げる。
体勢を修正し、海面スレスレで空中に停止する。
 
「ストライク! クロスジャケット!!」
『OK. Cross Jacket, Aile cross Sword.』
 
キラとストライクの言葉の後に輝くジャケット。そして輝きが消え、そこに現れたのは新たなる力。
ジャケットの色も、上から下にかけての紅から蒼へのグラデーションを思わせるカラーリング。
背面の紅い翼も若干大きくなっており、右手に握られていた『シュベルトゲベール』は、
先程の砲撃で破損していたのが修復されており、先程よりも蒼の輝きが増している。
左手にはライフル、そして左側面にはシールドが浮遊した状態で待機している。
そして右肩にあった筈の『マイダスメッサー』は左肩へと移動していた。
 
「……魔力稼働率は?」
『The magic utilization rates and 75% are maintained.(魔力稼働率、75%を維持)』
「うん、そのくらいだね……どれくらいいける?」
『Operating time is about 10 minutes.(稼働時間、およそ10分です)』
「10分……それだけあれば、充分!!」
その言葉を皮切りに、キラは宙を蹴り、加速していく。
 
 
「あれは……!!」
キラの変化を感じ取っていたアスラン。
先程までとは違う魔力の流れ。まるでさっきまでのキラとは別人みたいに思える。
そう思っていたアスランに急速に迫ってくるキラ。
「くっ……! 早い!!」
左手に握られたライフルからアスランへと発せられる数発の魔力弾。
『Right Arm Sabre.』
それを右手に発生した魔力刃で弾く。が、
「!!」
いない。視線を戻した瞬間にはすでにキラの姿はなく、
視線を左右に泳がす。
『Master! Left!!』
「!!」
イージスの言葉通り左を見ると、どこから迫ってきたのか蒼い光を纏ったブーメランが迫ってくる。
「ッ!!」
とっさに左手のシールドを構え、弾くつもりだった。
だが、ブーメランの勢いは予想以上に重く、押され始めていた。
「くっ……! ああああああっ!!!」
左手に全力を込めてブーメランを弾いた瞬間、
「!!」
アスランの視界に飛び込むのは、大剣を大きく振り被ったキラ。
「はあああああああああっ!!」
先程と違い、もう反撃する暇がない。
『Left Arm Sabre.』
左手にも魔力刃を発生させ、両手の魔力刃をクロスさせ、振り下ろされた『シュベルトゲベール』を受け止める。
 
だが、
 
ピシ……! ピキ……! パキィンッ!!
 
悲痛な音を立てながら砕け散る紅い魔力刃。
 
「な……!!」
 
驚きを隠せないアスラン。無理も無い、受け止められると思っていた魔力刃が受け止めれたのは、ほんの数秒。
驚愕の表情のまま、反応する事も出来ずに、大剣はアスランの左肩へと差し込まれる。
 
「ぐはぁっ!!!」
 
一瞬の痛みが走り、打ち込まれた身体は叩きつけられるように海へと一直線に沈んでいった。