第九話 崩壊の大地で
焼け石に水でも、やらないよりはましだ。
そして弾の尽きたシルエットを排除、シルエットフライヤーの運んできたフォースシルエットへと換装する。
「よし……これでっ……」
アスランが駆けつけてくれたのが幸いだった。
彼がジンの部隊を引き受けてくれたおかげでシンは一時戦域を離脱し、インパルスを高速戦闘用のフォース装備へと換装することができたのだ。
オーブの民間人に助けられたということが癪ではあったが、感謝していた。
「はやく戻らないとっ!!」
いくら彼が前大戦の英雄と呼ばれる名パイロットとはいっても、やれる限度はある。
ゲイツ部隊の作業が佳境に入っている今ならなおさら、守りきるには手は多くなければ。
「……ん?二時の方向、三機……?っ!!こいつらは!?」
だが、彼らの戦う場所へ戻ろうとバーニアを噴射しかけたその時、センサーが三機の新たな機影を捉えシンへと警告する。
計器によってはじき出されたその三機の正体、そしてメインカメラが画面の隅に捉えたその姿は──
「カオスにガイア、アビス!?なんであいつらがっ!?」
邪魔しにきた?いや。決め付けるのは早計だ。
もし奴らが当初の予想通り地球軍なら、目的は同じということになる。
しかし。
「あっちにとってはどっちもザフト機ってか?くそっ」
見分けなど、つきはしないだろう。もし奴らがこれを止めにきたとして、
逆に自分達が落とそうとしていると思われかねない。そうなれば、間違いなく戦闘になるだろう。
「……ここで俺が、抑えておくしかない……!!」
破砕作業の完了まではまだ、幾許かの時間がかかる。
せめてそれが完了するまでは、奴らを現場に近づけるわけにはいかない。
そして迎撃が可能な位置にいるのは、今はシンただ一人。
三対一、かなりきついが───、それでもやるしかない。
時間さえ稼げば、ミネルバが近くにいるであろう奴らの母艦に話をつけてくれるかもしれないのだ。
「落とさせるわけにはいかないんだ、こいつをォっ!!」
幸い大気圏に近づいていることによる電波障害で、あちらはまだこちらに気付いていない。
フットペダルを踏み込み、フォースシルエットのバーニアを全開にしながら。
シンは三機の旧敵へと向かいインパルスの機体を飛び込ませていった。
『片方は落とそうとしてて片方はドリル打ち込んで!!こいつら一体、何がしたいってんだよ!?』
同僚のアウル・ニーダの耳障りな罵声が、通信機越しに聞こえてくる。
気持ちはわかるが、少し黙れ。地球連合軍特殊部隊『ファントムペイン』少尉、スティング・オークレーは強奪したグリーンの愛機、カオスのコクピットで一人そう思った。
『落とす……だめ……させない……』
『どーすんの、スティング?ドリル打ってる方援護したほうがよくない?』
「わかってる!!かといってあっちがこっちを歓迎してくれるわけも……!?横!!ステラ、来るぞ!!」
センサーの警告音が、敵機の襲来を告げる。スティングは同じく同僚のステラ・ルーシェへと叫び、彼女は俊敏に機体を操ってそれに応える。
「ちっ……!!」
無理もない。
こちらにどちらかを援護する意図があったとしても、あちらにしてみれば強奪された新型なのだ。
親の敵のようなもので、問答無用で攻撃を受けてもしかたがない。
まして、攻撃をしかけてきたあの機体は───!!
「こいつは……あの分離するストライクもどきかっ……!!」
『ちょーどいいじゃん、やっちまおーぜ!!』
『これ落とす……悪い奴……ステラ、倒す……!!』
ブルーの肉厚な機体、アウルの駆るアビスが変形し、回り込み。
漆黒に染め上げられた細身の機体、ステラの操縦を受けるガイアがビームライフルを乱射する。
───お前はこのでかい石ころを、どうする気だ──……!?
スティングもカオスを変形させ、二機に続く。
因縁浅からぬ機体はたった一機でありながら、彼らを相手に一歩も引かない大立ち回りを演じていた。
ユニウスセブン表層部において、そのような激戦が繰り広げられている最中。
その内部へと侵入したジェナスはマップによって指示されていたポイントを周り、あらかたの時限装置の取り付けを完了していた。
「よし……あとはこの先だけだな……。っと、これは……」
最後の一箇所。そこさえ取り付けてしまえばあとは脱出するだけ。
そんな状況で彼の目の前に現れたのは、広い通路を塞ぐ瓦礫の山。
とても通り抜けることは不可能で、またいちいち除けたり、別のルートを探している余裕もない。
「まずいな……。時間もないってのに」
悠長にことを構えていては、この巨大な宇宙を舞う廃墟ごと、地球に落ちてしまう。
はて、どうしたものか。
「……やっぱ久々に、アレをやるっきゃないか」
通路はここまで一本道で、加速をかける距離としては十分。
これならばおそらくいけるだろう。
来た道をわずかに引き返し、少しずつ振り返りながら瓦礫までの距離を図る。
「よし」
結構な距離をとってから、脇に抱えていたライドボードを下ろしその上に騎乗する。
「やっちゃる!!」
ライドボードを発進させ、一気にスピードを最高速に。
ぐんぐん目前に迫ってくる瓦礫を目の前に、タイミングを計り爪先のスナップを使ってボードを跳ね上げる。
回転し宙を舞うボードは無重力ということもあってかその動きが不安定だったが、
ジェナスはがっちりとその後部に設けられたグリップ部分を握り締め、前に突き出す。
彼の身体はボードの速度を維持したまま一発の弾丸となって突き進む。
「これでぇっ!!ブチ抜くっ!!」
ボーダ・タック。
ライドボードの加速力を生かした、アムドライバーのボードテクニックの中でも最高峰に位置する高難度の技。
彼の知る限りで彼を含め、たった二人しか使用することのできない、ひとつの奥の手だ。
その破壊力を以ってして、この瓦礫の山を突き抜ける。
彼の狙い通りボーダ・タックの衝撃は瓦礫を貫き、その勢いで彼は向こう側にあった広間へと身を躍らせる。
「───え?」
そして、着地した彼は目撃した。
深々と大地に突き刺さる、自らの相棒ともいうべき一本の剣を。
「そんな……嘘だろ、おい……こいつらまで、この世界に?」
まるで彼を待っていたかのように静かにそこに佇む、今は亡き友の形見たる鎧を。
彼と同じくやってきた、二つの存在に、彼は目を奪われていた。
「いや、けど……。こいつらがあれば、あるいは……!!」
ジャケットから内蔵されたチャージングチューブを伸ばし、それらへと接続する。
血を分け与えるように、フルゼアムの膨大な量のエネルギーが注ぎ込まれていく。
もの言わぬ鉄塊のようであったそれらに、生命の息吹にも似た何かが戻っていくのが、感じられた。
「よし、いけるぞ……っ!!」
思わず拳を握り快哉をあげたジェナスは、地面からそそりたつ剣を引き抜き、腰へと納め。
蒼く染まった流線型の機体へと跨り、操縦桿を握り締め、起動スイッチを力強く押し入れた。
これであのデカ物たちとも、やりあえる。
「借りるぜ、シーンっ……!!」
目指すは、ユニウスセブン地表。待っていろ、シン、みんな。
一筋の蒼い稲妻が、飛翔する。