アム種_134_052話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:50:57

第五十二話 フェイス・トゥ・フェイス



『この要求が聞き入れられない場合、貴艦をザフトとみなし、撃滅する。

 できることならば同胞を撃ちたくはない、即刻我々に帰順せよ』



──さあ、ボールは投げた。君たちはどのように返してくる……?



 通話機を手に、ユウナは白亜の艦を睨む。

 彼らがやれるのは、そこまでが限界だった。



 国民を納得させるため、オーブ軍の派兵理由は

 強奪され、中立の理念を逸脱した行動をとっている自国艦、アークエンジェルの奪還・もしくは撃破のためとなっている。



 それを利用し、ユウナは彼らにメッセージを投げた。

 無駄な戦闘で、血を流すのをオーブは望んでいない、と。

 果たしてそれが伝わるか、どうか。

 トダカが、彼の副官であるアマギが同じようにアークエンジェルを見つめる中、次なる行動を、とユウナは通話機の回線を変更し、デッキ上に待機するMSへと繋ぐ。



「さて、準備はどうだい?」

『……いつでも行けるよ。問題ない』

「一応、状況次第だが……いざというときはキミたちとジェナスの特殊回線がたよりだ。

 あれは、こちらの技術ではそうそう介入はできないからね。その時は頼むよ」

『了解』

『『がんばりまーす』』

「ん、元気でよろしい」



 カードは、準備している。

 大丈夫だ、やれる。



 ユウナは甲板デッキに並ぶムラサメ部隊へと目をやった。

 彼はアークエンジェルが起こすであろうなんらかのアクションを、待ち続ける。







 ユウナの声が海峡に響き渡る中。

 ジェナスは二機の紫の機体が連合の空母から飛び立つのを確認し、歯噛みする。



「く……またあの二機だ。あれに乗ってるのは、ダークさんたちなのか?やっぱり」



 だとしたら、どうする。

 皆にそれを言ったところで、やりにくくするだけだ。かといって、放ってもおけない。

 エッジバイザーを二機へと向けようとした彼の進路を、バルドフェルドのムラサメが塞いだ。



「バルドフェルドさん?」

『待て。まだ、戦闘がはじまったわけじゃない』

「けど、オーブ軍が。やつら増援部隊を」

『大丈夫だ。オーブ軍は俺達に任せろ。……そのために、キラがいる』

「え?」







『オーブ軍は、我々に任せていただけないでしょうか』

「……本気ですか?オーブ軍が都合よくそちらだけに向かうとは……」

『来ます。間違いなく』

「?……随分と、確信がおありですのね?」



 二人の艦長が、モニター越しに話し合っていた。

 ユウナからの勧告を受け、マリューからタリアへと通信が繋がれたのだ。

 たしかに彼女の言うとおり、オーブ軍をアークエンジェルだけで引き受けてもらえるのならば、ミネルバとしても連合の相手のみに集中することができるが。



「本当に、よろしいのですね?」

『はい。バルドフェルド隊長とアムドライバー達も、そちらに回します』

「?……ストライクとセイバーの二機で?」



 大した自信だ。だが言うからには、それなりの根拠があるのだろう。

 だが、あの大軍を相手に、二機のMS。それに飛べない直衛のニルギースだけで?



「……それはつまり、投降はない、ということですわね?」

『はい』

「わかりました。互いの健闘を」

『ええ。では』







「オーブ軍……ユウナ・ロマ・セイラン!!あの人たちと戦わなきゃいけないのかよ!?」



 シンは激昂し、叫びをあげた。

 彼らのために出て行った自分を、アークエンジェルを。

 今度は彼らが撃とうとしている。

 そして自分が撃たねばならないその事実に。



「なんで、こんな……」

『シン、あいつらも連合なんだ。ここは堪えろ』

「わかってます!!けどっ……」

『……換装しろ。ブラスト装備で、艦の直衛に回れ』

「えっ!?」



 ハイネから飛んだ指示に、目を丸くする。

 何を言っているのだ?相手に多数の飛行可能なMSがいる以上、フォースで迎撃にまわるのがセオリーのはず。グフ一機とグゥルによって動きの制限されるザクでは、対応しきれないだろうに。



『いいから、早くしろ!!俺を部下に同胞を撃たせる男にする気か、お前は!!』

「っ……!!」



 それがハイネなりの気遣いであったことに気付き、シンは口を噤む。

 感謝すると同時に、やるせない思いが心に広がっていく。



『……大丈夫。シン、きみにオーブ軍は撃たせない』

「キラ?」

『ミネルバ所属MSの各パイロットに通達。戦闘は、連合の二隻とのものに集中せよ。

 オーブ軍はアークエンジェルで対応する!!ミネルバは連合の部隊を撃つ!!』



 そんな彼の心を安心させるようにキラが言い、シンが疑問に思った瞬間、タリアからの通達が各パイロットに届く。



 あれだけの数を、アークエンジェルだけで。

 しかも送られてきた指示では、ジェナスやバルドフェルドもミネルバ指揮下にある。

 たった二機、キラとアスランだけだなんて。

 サブモニターに映ったキラの姿に、シンは怒鳴った。



「死ぬ気ですかっ!?」

『……』

「キラ!?」

『……まだ僕は死ぬわけにはいかないよ』

「っ……!!」

『僕はまだ、償いきれていない』



 シンは、気付いていない。

 自分が殺したいほど恨んでいた相手のことを、心配しているということに。

 仲間、戦友として彼のことを認めはじめているということに。



『乗り切って、みせる!!死にはしない!!』

「キラ!!」



 ソードインパルス同様に海面から上半身だけを出していたストライクノワールが、二枚の翼を広げ舞い上がる。アークエンジェル前方へと向かい、そこで滞空する。

 回線が、全開に開かれる。



 ユウナがやったように、今度はキラが語る番であった。



『こちら、アークエンジェル所属。オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハの弟、キラ・ヤマト』

「……なっ!?」



『その要求は、受け入れられない。何故なら───』



 青年のよく通る声が、海域の全パイロット、全将兵たちの耳に届く。

 全ての者が、彼の声に聞き入り、その動きを止めていた。







 小惑星やジャンクの破片が漂うデブリの海を、二機のMSが疾走する。



「急げ、ディアッカ!!」

『わーってるよ!!お前こそ急ぎすぎでぶつかんなよっ!!』



 イザーク・ジュールは急いでいた。

 地球からあがってくる最高評議会議長・デュランダルとラクス・クラインの乗ったシャトルの護衛に配備した部隊が消息を絶って、半刻ほども経とうとしている。

 部隊になにかがあったとすれば、何も知らない議長一行が無防備にそこに向かうのは危険すぎる。

 だが動ける部隊は間の悪いことにほとんどなく。

 もっとも近い位置にいた彼の部隊が回されたものの、デブリを挟み反対側に位置する会合点には普通に行ったのでは時間がかかりすぎる。



 故に、たった二機での強行軍。

 小回りの利くMSでデブリベルトを最高速でつっきるという、荒業を彼らは敢行していた。

 図体の大きい戦艦や生半可なパイロットではデブリに激突し、自滅するのが落ちである。



「もっと飛ばすぞ!!」

『了解っ!!』



 水色とグリーン、それぞれのザクの背に装備された高機動用のブレイズウィザードが、推進剤の爆発的な勢いを放ち、二人の機体は更に加速していった。







「……な」



 これほどに心の底から驚いたことが、あっただろうか。



『プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダル氏のシャトルとお見受けする』



 護衛部隊との会合点において突如として現れた、ザラ派と思しき襲撃部隊。

 既に屍ばかりと化していた護衛部隊の残骸から見てわかるように、彼らの戦力はけっして、小さなものではなかったというのに。



 今となって窓から見えるのは、残骸。

 ジャンクとなり自分達が屠り去った護衛部隊と同じ道を歩んだ、彼らの成れの果て。



『乗船許可をいただきたい。こちらに害意はない』



──『アムジャケット』の性能が、これほどとは。



 ユニウスでの戦闘のモニタリングは見ていたが。今目の前で行われたのは戦闘ではなく、むしろ虐殺。



(ジェナス達も、これほどの力を秘めているというのか……?いや、しかしこれは異常すぎる)



 デュランダルたちの危機が、去ったのは間違いない。

 たった一人の男。窓の外の宇宙空間に浮かぶ、奇妙なノーマルスーツを身に着けた男の介入によって。



 そう、虐殺はただ一人の、MSにも乗っていない男の手によって行われたのである。



『私は、ガン・ザルディ。ギルバート・デュランダル氏との会見を望む』



 助けてもらった相手だというのに、禍々しいイメージをデュランダルは彼のノーマルスーツ……いや、『アムジャケット』から抱いた。

 ブルーとパープル、銀で構成された有機的なフォルムのボディースーツ。

 彼の名乗った名は、かつてジェナスから聞いた覚えのある名前であった。



 その彼が今、デュランダルとラクスの前に、姿を現した。


 
 

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