深海怪獣アッシュ、宇宙寄生獣サイクロメトラ、凶悪怪獣ギャビッシュ、特別捜査官ヨップ 登場
─浜辺─
ごみ一つない浜辺から動物の鳴き声が聞こえる。波音の間をすり抜けるそれは、助けを求めているようだ。
「キュー、キュー」
いやそれは確かに助けを求めていた。彼は透明な壁、いやカプセルに入れられており、その動きを封じられていた。
「キュー、キュー・・・・・・!」
そのカプセルに近づく一つの影。気配を感じ取ったのかカプセルの中のモノがじたばたと暴れ始める。
「これで二つ目だ」
そう言うと影は手に持った銃をカプセルに向けた。中のモノが牙を剥くがもう遅い。次の瞬間、それはカプセルごと灰と化した。
そこから遠く離れた砂浜。輪になって遊ぶ子供達の横で、一人海を見つめている少女がいた。
「・・・・・・・・・・・・あれ?なんだろ・・・」
少女の眼が何かを捉える。
水面に浮かびキラリと光るそれは、先ほど消滅したカプセルと同じ形のものだった・・・
─オーブ・オノゴロ島戦艦ドック・ミネルバ艦内─
世界を震撼させたユニウスセブン落下事件から三日。地球は何とかいつもの日常を取り戻していた。
「ちょっとシン!早く来なさい!」
シンの自室にドカドカと上がり込んで来たのはルナマリアだ。当のシン本人は見ていたテレビから眼を外して面倒そうに応対する。
「なんだよルナ・・・外出ならしないぞ」
オーブに着いてから今まで、シンはミネルバからほとんど出ていない。折角もらった休みの大半を部屋で潰している。
「馬鹿!今日は参謀がこの艦を見に来るって言ってたじゃない!」
狭い部屋で大声をぶちまける。しかしシンはハテ?と言った風に首をかしげた。
「ちびくろ?」
「それはサンボ!あーもう、いいから来なさい!!」
「ちょ、ちょっと待てよ!まだタラバマンが終わってな、うわああああー!」
襟首を掴まれ強引に引き摺られる。
ルナは戦車部隊のほうが向いてるなあとしみじみと思うシンであった。
二人がディレクションルームに着いた時、既に他のクルーたちは一列に並んでいた。
「遅いぞ二人とも。早く並べ」
あたしのせいじゃないと反論するルナから離れ、列の端に行くシン。ちょうどその時ドアが開き一人の女性が部屋に入ってきた。
「敬礼!」
背筋を伸ばして敬礼する。女性はタリアに歩み寄るとにこやかな笑顔で握手をした。
「申し訳ございません、タリア艦長。本当ならもっと早くに伺うはずだったのですが・・・」
「いえ、お陰でこちらも綺麗な艦を見せることが出来ます」
先日の勝利パーティーの掃除で丸一日潰すことになった記憶がメンバーの脳裏に浮かぶ。
「ではそろそろクルーを紹介しましょう」
レイから順に挨拶をしていく。そしてシンの番。
「マリュー・ラミアスです。よろしく」
「シン・アスカです!・・・あの、失礼ですけど前に会ったことありましたっけ?」
「ふふ・・・これからはあまり勝手に出歩かない方がいいわよ」
その言葉にハッと驚くシン。しかし会話はそこまでだった。
「ではそろそろ艦内の案内をしましょう。参謀こちらへ・・・」
アーサーに促されてタリア達と部屋から出て行くマリュー。ルナに小突かれシンもそれを追った。
─オーブ沖・深海─
海。それは地球にありながら宇宙と同じ程の謎と不思議に満ちた神秘の世界である。その海の底を移動する巨大な生物が一つ。
「どこだ・・・?ネオからはここら辺だって聞いたんだが、ん?あれは・・・」
何かを見つけ動きを止める。光りすら届かない深海で、何を発見したというのか。
「へへ・・・こりゃネオに報告しないとな・・・!」
─戦艦ドック─
「それでは、二週間後のサミットでまた会いましょう」
終始笑顔で車に乗り込むマリュー。煙を出さず去っていく車を見送り、シンは大きな欠伸をもらした。
「・・・いたな。おい、シン!」
しかしまたもやシンを呼ぶ声が。気だるそうに声のしたほうを向くとそこにはこの前助けた男が立っていた。
「・・・体はもう大丈夫なんですか?アスランさん」
戦いの後、アスランはオーブの病院へ運ばれた。怪我は大したことなかったのだが煙を吸いすぎて倒れたのだ。
「ああ、お陰さまでな。しかしあの時は格好悪いところを見せたな・・・」
「そんなこともないですよ。で・・・今日は何の用で?お礼だけですか?」
珍しく慰めの言葉をかける。助けられた手前、酷いことも言えない。
「ん?ああ、本当はお礼だけだったんだ・・・シン、もし暇なら今日は俺に付き合ってくれないか?」
「・・・悪いけど今日はタラバマンとダガレンジャーのビデオが溜まってて・・・うわっ!?」
「お久しぶりですアスランさん!どこか行くんですか?シンなんかより私を誘ってくださいよー」
突然横槍を入れてきたルナのタックルを食らうシン。アスランは密かに後ずさった。
「い、いや・・・怪獣災害で親を亡くした子供達の住む孤児院へ行こうと思ってな。ひ、暇なら君も・・・」
「本当ですか?じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね!」
予防線すら突破しかねない勢いに押され、渋々連れて行こうとする。が
「待てよ!俺はまだ行かないなんて言ってないぞ!」
シンがいきなり呼び止めた。驚く二人。
「あんたビデオが溜まってるんじゃなかったの?」
「そんなのいつだって見れるさ。それより、行くなら俺も連れて行ってくれ」
うってかわって乗り気なシン。アスランも断る理由は見当たらなかった。
─アカツキ島─
オーブは島国である。オーブ本島やオノゴロ島の他にも小さな島が多く点在している。そしてこの島はその一つであった。
「この島は軍事施設がない。おかげで自然が沢山残っている」
海岸沿いの道路を走る車の上、運転席のアスランが孤児院の説明を始めている。
「今から行く孤児院はカガリの別荘を利用したもので、マルキオという導師が中心になって子供達の世話をしているんだ」
「じゃあそのカガリと来ればよかったんじゃないのか?」
「何言ってんのよシン。アスハ参謀なら昨日ドミニオンに乗って一足先にサミット会場へ行ったじゃない」
「あれ、そうだっけ?ふーん、じゃあ無理だな」
助手席からルナに注意され納得したのか黙って水平線を眺めるシン。しかしアスランは違っていた。
(・・・カガリには俺が前線に出たことは言ってない。だから俺がオーブ来てる事も知らない。心配させたくなかったから・・・)
しかしそれは本当だろうか。アスランは自分の気持ちがよくわからなかった。
─海辺の孤児院─
「わー!ザフトの隊員さんだー!」
孤児院に着くや否や大勢の子供に囲まれるシン達。それも当たり前、シン達は隊員服を着たままここに来ていたのだ。
「お、おい!やっぱり失敗だったんじゃないのかこれ!」
これを提案したアスランに叫ぶがアスランは無責任にも顔の前で手を合わすのみだった。
「皆、そんなに集まっては折角来てくれたザフトの人たちに失礼でしょう」
シン達が動けないでいると保母だろうか、女性が駆け寄ってきた。さらにその後から一人の男性が眼を瞑ったまま歩いてくる。
「シン、あの男の人がマルキオ導師だ」
アスランが耳打ちする。マルキオがゆったりとした歩みシン達に近寄ってくると騒いでいた子供達はスッと離れた。
「皆さん、ようこそ来てくれました。私はここの孤児院を治めているマルキオという者です」
続いてもう一人の女性も挨拶をした。カリダという名前らしい。シン達も慌てて自己紹介をした。
「・・・では、いきなりですみませんが子供達の相手をしてやってくれませんか。皆遊びたくてウズウズしているようです」
「わかりました。よーし、皆何して遊びたいんだー?」
意外にもシンが真っ先に子供達の輪に入っていく。
ルナマリアはやれやれといった顔でそれに加わった。
「いいか、ドッジは強い奴をまず外野にするんだ。あとあまり強くない奴はフェイントをかけて・・・」
ドッジボールのコツを熱心に教えるシン。
相手チームに入ったルナマリアも負けじと子供達に指南をしている。
バランスが崩れるというので一人あぶれたアスランはその光景を座って見ていた。
すると、視界の端に一人の少女が映る。
「あの子は・・・」
木陰から遊ぶ子供達をじっと見ている少女。その胸には何かを抱えている。
「・・・確か、エルちゃんだったよね。皆と一緒に遊ばないのか?・・・あれ、その持っているのはなんだい?」
近づいて話しかけるアスラン。
しかし少女は抱えた何かを抱き締めるとさっと走っていってしまった。
「嫌われちゃったのかな・・・」
昼頃になり、遊びも一段落したシンは孤児院の中で体を休めていた。そこへマルキオがやってくる。
「シンさん、今日は来てくれてありがとうございます。おかげで子供達も本当に嬉しそうでした」
「いや、俺はアスランに呼ばれただけだし・・・」
「・・・実は、私がアスランさんに貴方を連れて来てくれるよう頼んだのです」
「え・・・?」
不思議そうな顔をするシン。マルキオは構わず話し続ける。
「訳は聞かないでください。ただ貴方を一目見たかっただけなのです」
「一目って・・・」
「確かに私は眼が見えませんがだからと言って暗闇のみを見ているわけでもありません・・・私の眼、瞼を見てくれませんか」
「はあ。じゃあ眼のあるところを見ればいいんですね?・・・・・・・・・!」
言われるままに顔を合わせる。
途端にシンは強烈な視線を感じた。
自分の心までも覗かれているような、そんな息苦しさに襲われる。
「・・・やはり、貴方もSEEDを持つ者・・・ありがとうございます」
意味深な言葉を呟くと視線を外すマルキオ。シンはどっと息を吐き出した。
「あの、今のは一体・・・」
何だったのか。そう聞こうとした矢先、隣の部屋から悲鳴が上がった。
「きゃああーっ!」
「何だっ!?」
こういう時は流石に反応が早い。立ち上がると同時に銃を引き抜くとドアを蹴破り隣の部屋へ急ぐ。
「・・・!誰だお前は!その子から離れろっ!」
部屋に入ると同時に、少女に銃を向けている一人の男が目に入った。少女は恐怖のあまり目をつむって丸くなっている。
「離れろって言ってるだろ!くそ、離れないのなら撃つぞっ!・・・ってあれ?」
そこでシンは重要なことに気付いた。彼らが携行しているザフトブラスターはカートリッジ式。
そして今は安全の為それを抜いている。カートリッジは車の中だ。
「・・・こーなったらあ!!」
銃をかなぐり捨てて男へ飛び掛る。男もまさかこんな動きは予測してなかったのか一瞬反応が遅れた。二人は縺れて床を転がる。
「くっ!この・・・うわあああっ!?」
押さえ込んだかに思われたシンだが、いきなり痛みを感じてのけぞる。まるでスタンガンを押し当てられたような感触だ。
「シン!どいて!」
その場へ銃を構えたルナが飛び込んでくる。そして言うが早いかブラスターを撃ちはなった。
「ぐっ・・・!?」
それは男の首に命中し、男は動きを止める。どうやら麻酔弾の一種だったようだ。
「ふう。それでしばらくは動けないはずよ・・・シン、しっかりして!」
「うっ・・・ああ、ルナか。こいつは誰なんだ・・・って皆こっちへ来ちゃだめだ!」
騒ぎを聞きつけたアスランと子供達が次々と集まってきた。マルキオが人払いをし、カリダが少女を他の部屋へ連れて行く。
「・・・どうしたんだ、この・・・寝不足そうな男は?」
と言ったのはアスランだ。アスランの言うとおり男の目の下には大きなクマがあった。
「おい!お前の名前はなんだ!?」
男を縛り上げ怒鳴るシン。その目は怒りに燃えている。しかし男は沈黙を守ったままだ。
「・・・そうか、言わない気なら・・・!」
ルナから受け取ったカートリッジをブラスターに込め、男に向ける。
これはれっきとしたビームカートリッジだ。
「!・・・わたしは・・・バースせいうんダイスせいのとくべつそうさかん、ヨップだ」
まるでカンペを読み上げたような棒読み。しかし宇宙人というカミングアウトに三人は驚いた。
「バース星雲?じゃああなたはエイリアンなの!?」
「この星ではそういうらしいな。いかにもわたしはこの星のものではない」
少しはマシになってきた。とはいえまだまだ聞き取りづらい。
「・・・なんで女の子を襲った?特別捜査官という割には乱暴だな」
「私がねらったのはこの星の住人ではない・・・ギャビッシュだ」
「ぎゃびっしゅ?」
「そうだ。逃げた奴を追って私はこの星へ来た。そしてあの子はギャビッシュを抱えていた」
「だからそのギャビッシュってのはなんだ!詳しく話せ」
「ギャビッシュ・・・宇宙を荒らしまわる凶悪な怪獣。その体内にサイクロメトラという寄生獣を飼っている」
「また訳のわからない言葉が・・・そのサイクロなんたらってのも怪獣か」
「そうだ。サイクロメトラは生物を寄生し操り凶暴にさせる危険生物・・・しかしギャビッシュとは共生関係にある」
「つまり、あなたはサイクロメトラが寄生しているギャビッシュを追いこの星に来た。そしてギャビッシュは少女が持っていると」
ルナのまとめに頷くヨップ。そこまで聞き終えた時、カリダが再び部屋に駆け込んできた。
「大変です!さっきの女の子が、エルちゃんが孤児院を出て一人で森へ・・・」
「なんだって!?・・・あっヨップが!」
シン達の注意がヨップから外れたその一瞬、彼の姿は消えていた。
見ると窓の外を森へ向かって走る人間が。
「あいつどうやって!くそっ、追わなきゃ!」
窓から飛び出していくシンとルナマリア。アスランも同じく走り出た。
「アンタまで来ることないのに!・・・って、なんだ!?」
砂浜を横切って森へ向かうヨップを追う足が海の前で止まる。追いついたアスランも目を見張った。
「これは・・・海が盛り上がってる?」
アスランの言葉通り、海の一点がまるで下から押し上げられたように盛り上がってきていた。
そしてその中で何かが光ったかと思うと大きな水飛沫を上げ海から何かが飛び出す。それは地鳴りと共に砂浜に着地した。
「これは・・・怪獣!」
巨大な体に両腕のハサミ。紛れもない怪獣だ。
そしてそのピンクに光る一つ目が孤児院を捉えている。
「シン!私は皆を避難させるわ!早くヨップと女の子を!」
「あっ、ルナ!くそっ・・・避難させるって、こんな近くじゃどうしようもないだろ!おいアスラン!」
「な、なんだ?」
「アンタはヨップを追いかけて女の子を連れ戻してくれ!怪獣は俺が引きつける!皆が逃げたらすぐ追いつくから!」
言って怪獣に向かっていくシン。アスランは一瞬迷ったが武器を持たない身では何も出来ない。
仕方なくヨップを追うことにした。
─ミネルバ─
「艦長!おねえちゃ・・・ルナマリア隊員から緊急通信!アカツキ島に怪獣が出現したとのことです!」
「何だと!オーブ軍にスクランブルを!」
「アカツキ島には基地がありません!到着には十分はかかるそうです!」
「それでは遅すぎる!・・・・・・・・・あれは、ウルトラマン!」
─アカツキ島─
「ハアッ!」
砂を舞い上げ現れたインパルスは孤児院の前に立ち塞がると怪獣アッシュを押し止めた。
怪獣も両腕のハサミで攻撃する。
「ディッ!」
それを受け止め、がら空きとなった腹部に蹴りを入れる。アッシュは倒れ、水の中へ沈んだ。
ウルトラマンも海へ入ろうとするが膝が漬かったあたりで踏み止まる。
(だめだ、これ以上は深すぎる!海の中は奴の独壇場だ。迂闊に入るのは危険すぎる・・・うあっ!?)
しかしもう遅かった。いきなり足を掴まれると海に引き摺り込まれてしまう。
「ウワアアーーーッ!!」
そのまま海底に叩き付けられる。周りを見るがアッシュはもういない。
どうやら開けた場所に連れて来られたらしい。
(息!息が!・・・って宇宙でも大丈夫なんだから水中でも平気に決まってるか)
と、馬鹿なことを考えているところへ水中形態となったアッシュが突進してくる。
動きの鈍る水中ではかわしきれない。
「クッ!グアッ!ワアアッ!」
連続で突進を食らって倒れるインパルス。水中に慣れてないせいか、あまりにも動きが鈍すぎる。
「グウ・・・ウアッ!」
起き上がろうとするがそこへハサミの間から撃たれた光線が命中する。
今度は倒れなかったがカラータイマーが点滅を始めた。
「ッ・・・・・・」
もはや反撃する気力もないのか動かなくなったウルトラマンを見たアッシュは、これ好機とばかり最後の突進をかける。
「ゴボゴボ・・・!」
ハサミを突き出し首を狙うアッシュ。あまりにも早い必殺の攻撃。それが命取りとなった。
「ウルトラメタモルフォーゼッ!」
ウルトラマンが動いた。そして、アッシュの体に突き刺さる剣。
インパルスの体はいつの間にか赤く変わっている。
「ダアアーッ!」
突き刺した剣をそのまま横に裂き、更にもう片方の剣で真二つに斬り下す。
その体を斬り刻まれたアッシュは爆発四散した。
「・・・シェアッ!」
ルナマリア達に見せ付けるかのように再び水飛沫が上がる。
そしてウルトラマンは空に消えていった。
ギャビッシュを倒すべく動くシン達。
しかし怪獣は倒せても少女の心は救えないのだろうか。
次回「箱の中のトモダチ」