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エピローグ 歩いていく、未来へ

Last-modified: 2018-12-03 (月) 22:08:28

エピローグ 歩いていく、未来へ。

 

「お客さん、そろそろ上空ですぜ!」
後部座席に乗る一組の男女にそう怒鳴る、観光遊覧飛行機のパイロット。
彼は不機嫌だ、せっかくの飛行なのに乗客が二人だけなら不機嫌にもなる。
しかも希望観光コースはよりによってココとは・・・空港から距離もある割に飛ぶ価値も
ロクにない、辛気臭い場所。

 

 -あれから2年-

 

 一年前に終戦を迎えた戦争は、地球各地に未だ爪痕を残している。
懸命に復興を成そうとしている人にとって、この地はあまり訪れたくない場所なのかもしれない。
 オーストラリア、シドニー・シティ跡。
まるで戦争の開幕の花火のように、この地で悲劇は起こった。サイド2のコロニーを落下させるという
狂気の作戦により、実に1億人以上が命を落とし、ひとつの都市がそっくり消失した。
今、そこには巨大なクレーターがあり、中には海水が満たされてひとつの湖のような形を成している、
そのクレーターの大きさが、当時の爆発と悲劇のすさまじさを物語っていた。

 

「ああ、ありがとう。」
そう言って客の男が立ち上がる。そして隣に座る女性から、大き目の花束を受け取る。
「じゃあ言った通り、うしろのハッチを開けてくれ。」
「そりゃいいですけど、落っこちないでくださいよー!ちゃんと安全帯は付けてくださいねー!」
「分かった。」
そう言って花束を小脇に抱え、安全帯をベルトに付ける。反対側のフックを外に通じる手すりにかける。
と、座っていた女性も隣に並び、安全帯を付ける。意外そうな顔の男に、女性は笑顔を向ける。

 

「いいのか?面白いもんじゃないぞ、ツバサ。」
「うん、いいの。ちゃんと見たいから。だってジャックの故郷なんでしょ?」
「・・・そうか。」
その受け答えが終わると同時に、飛行機の後部がゆっくりと開いていく。この遊覧機はオープンデッキ仕様。
飛びながら機体の後部を開き、まるで船の舳先のように開放した部分に出られるようになっている。
もっとも事故の無いように、手すりに沿って、その手すりには安全帯を掛けるのが義務になってはいるが。

 

 ジャック・フィリップス。彼が故郷であるこの地と、居場所であるサイド2、アイランド・イフィッシュを
同時に失ってから、ずいぶん色々なことがあった。
軍に志願し、ジオンとの戦争の中、様々な人と出会い、葛藤し、戦い、そして別れていった。
一年戦争を駆け抜けたその先にあったのは、悲劇を思い出にできるだけの強さと、新たな人生の道筋。
そして、自分のそばにいてくれる愛おしい人、隣に寄り添う女性、ツバサ・ミナドリ。

 

 手すりを伝い、機の最後部に立つ。眼下には巨大なクレーター湖。かつての賑わいも、雲を切り裂く塔も
彼の記憶にしかない。そこに暮らした人たちも・・・
さすがにここに来ると涙腺も緩くなる。いくら目を拭っても、止まることなく涙が滲む。
そんなジャックを見て、ツバサはこう提案する。
「ね、ジャックがここにいたころのお話、聞きたいな。」

 

「え?あ、ああ。そうだな・・・」
 思い出を吐き出すのは、あるいはジャックにとってはより辛いことかもしれない。
しかし一人で抱え込むより、その痛みも、思い出も、少しでも共有できれば、ツバサのそんな配慮が
今のジャックにはよくわかっていた。
 ジャックは話す。ここで暮らした少年時代、悪友のキムやチャンの話、口うるさい委員長ミアの話、
サイド2にいたメカの師匠、気の合う悪童スティーブやその取り巻き、初恋の女学生の話、そして・・・

 

「なぁ、プライマ・・・小学校の頃から、今の俺たちよりアツアツなカップルがいた、って信じるか?」
「え?」
きょとんとして目を丸くする。小学生なんてそもそも恋の意味すら知らない年齢だ、そんな頃から
ラブラブなカップルなんてツバサには想像もつかなかった。
「最初に転校してきたのは男の方だったよ、トオルっつってな、お前と同じ日本人で、人を笑わすのが
上手いヤツだった。」
「日本人?へぇ。」
「で、半年後くらいに彼女、セリカが来たんだ。とにかく天才肌でな、負けず嫌いなトオルが
しょっちゅう勝負を挑んでは無残に負けてたよ。」
「ぷっ、何それ~。」

 

 シドニーの風に揺られながら、二人の馴れ初めを話すジャック、時に笑い、時に羨ましそうに
顔を赤らめて相槌をうつツバサ。
二人三脚、3年かけて出発しようとした時のばったり再会、海岸でのプロポーズはジャックが
盗撮、盗聴担当だったこと(笑)、初めて訪れたコロニーの雄大さと、そこでイチャイチャを
見せつけられ、彼女を作ると強く決意したこと。

 

 ふと、彼に言ったセリフを思い出して、目を細めてつぶやくジャック。
「・・・まったく、結婚式には呼んでくれよな、って言ったじゃねぇか。このままじゃ俺のほうが-」
そう言って、手に持っていた花束をそっ、と虚空に放つ。揺れながら落下していく花束を目で追う。

 

 -その時だった。眼下に景色が出現した-

 

 クレーター湖に覆われていた光景が、あの懐かしの大都市に。
その中心にそびえる天高い塔、クラウド、カッティングも健在だ。
そして、その頂上の先から、まるで出来の悪い巨大オブジェのように斜めに立つ建造物、
これは・・・自分が2年暮らしたコロニー、アイランド・イフィッシュ!
しかもその外壁に大勢の人がたむろしているのが見える、懐かしい人たち、懐かしい喧噪。
声が聞こえる、姿が見える。間違いない、キム、チャン、ミア、スティーブ、そして・・・

 

 その坂道を駆け上がっていく一組のカップル。タキシードに身を包んだ黒髪の少年と、
ウェディングドレスに金緑色の髪が映える少女、ジャックは知っている、その二人を。
シドニー・シティの上空で、アイランド・イフィッシュを、二人三脚で駆け上がっていくそのカップルを!

 

「ジャック!ひょっとして、あれが・・・?」
「ああ、ああ、ツバサにも見えるのか!あの二人だ、そうだ、あれがトオルとセリカだよ!」
二人の格好も、周囲の祝福も、それが結婚式以外の何物でもないことを物語っていた。
幸せと、祝福と、そして一瞬の輝きに満ちた晴れやかな光景。
「うわぁ・・・ホント仲よさそう。」
ツバサが言う、初見の人が見てもホントにこの二人には『お似合い』という単語しか出てこない。
凸と凹がぴったりハマるような、暖色と寒色が合わさって名画を構成するような、
アダムとイブの男の子と女の子バージョンのような、そんな二人が駆け上がる、終わりある坂道を。

 

 頂上に立つと、トオルがセリカをお姫様だっこする、そして、二人はジャックとツバサを見上げて
にっこりと微笑む。
「あ・・・」
声が出ない。トオルもセリカも明らかにこっちを見ている、こっちに気付いてる。何か、何か言わないと!
今の感情を言葉にできない。そんなジャックの心情を察するかのように、トオルはジャックにびっ!と敬礼。
その仕草でようやく肩の力が抜けるジャック、すーっ、と息を吸い込み、眼下のバカップルに向けて叫ぶ。
「おめでとおぉぉぉぉぉぉぉっ!永遠に爆発してろおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そのセリフを聞いたツバサが笑いながらジャックの後頭部をひっぱたく。
「誰が上手いこと言えと!」
トオルとセリカも笑っている、聞こえたようだ、よかった。

 

「そーれっ!」
セリカが持っていたブーケを放り投げる。それはほどなくばらばらに分解し、無数の花びらとなって
シドニーとアイランド・イフィッシュを包む、今一瞬の幸せのカタチとなって。
そんな中ただ一輪、蒼いバラだけが花の形のまま、舞い上がっていく、天高く、まっすぐに。
そう、ジャックとツバサの立つ、飛行機のデッキに向かって。
 それは、ジャックの隣、ツバサの目の前を上に抜けると速度を失い、ゆっくりとツバサの前に落ちてくる。
ツバサは両手を出し、その花を受け取る。幸せのバトンとして。

 

 最後に、トオルとセリカの『にかっ』とした笑顔を見て、景色は消える。
後に残されたのは巨大なクレーター湖と、ツバサの手の中に残った一輪のバラ。
しばし見入っていた二人は自然に向き合う。バラを胸に当て、ツバサはこう言った。

 

「ねぇ、蒼いバラの花言葉、知ってる?」
「え?いや・・・。」
「願いが叶う、神の祝福、そして・・・奇跡。」

 

 なんという言葉なのだろう、今自分が経験した現象を具現化したような言葉。
最後に彼らは僕らを結婚式に招待してくれたんだ、ありがとう。そして、おめでとう。
願わくば、彼らに永遠の幸せが訪れんことを。

 

 ふと我に返る。ツバサが蒼いバラを抱いたまま、目を潤ませてジャックをじっ、と見ている。
蒼いバラの花言葉・・・願いが叶う。ああ、なるほど。

 

 姿勢を正し、ツバサを正面に見据え、その言葉を伝える。ツバサが願う言葉を。
「俺と、結婚してくれないか、ツバサ。」

 

 シドニー上空。その天空(セリカ)は、あの日と同じ、透き通るような青だった。

 

 -おわり-

 
 

最終話 幸せの資格 【戻】 あとがき-HAPPY WEDDING-

 

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