キラ様第7話

Last-modified: 2009-10-31 (土) 14:58:16

俺は格納庫で手に入れた強行偵察型ジンのOS書き換えをしていた、元々俺の
趣味の機体なので戦闘で使う気はさらさら無かったが、一応暇なので。
しかし複座のMSとはめずらしい、パイロットと観測手の二人一組で運転する
わけだが観測手だけならナチュラルでも出来そうだ、もしこれで遊びに
出かける時は暇そうな奴を乗せて行こうと考えていた。俺はマードックに
機体の整備を頼んでおいた。敵軍の機体をマニュアル無しで整備する
マードックの技術は本当に凄いと思う、俺は「今度マリューとヤらせてやる」
とお礼をすると、マードックは何を冗談をという顔をしていた。
俺はそろそろ昼食の時間なので、食堂へ向かっていた。食堂に行くとフレイと
カズイが何やらもめていた。どちらがラクスの餌を運ぶかということらしい。
フト見るとミリアリアは二人が口論しているすぐ近くに座っていた、いつもながら
俯きブツブツと念唱中だ。そして隣にはサイが座っていた、俺は回りこんでサイに
「無くなった金玉の調子はどうだ?」
と挨拶した。しかしそこに座っていたサイは俺の知っているサイでは無かった。
頬が異常に痩せこけ、血走った目をカッと見開いている、一言で言えばとてもヤバイ。
危ない薬を3種類位乱用している様な人間の顔だ、人は一日でこんなに豹変する
ものなのかと俺はサイを見て思った。俺が話しかけてもサイは全く微動だにしない。
まっすぐ何も無い空間、つまり目の前の壁を注視している。やれやれ
こいつもバグで壊れちまったか・・・。カズイとフレイの口論は激化の一方だ
俺は自分の食事を注文した。食べながらこいつらの喧嘩を見物しよう
それにそろそろ・・・。
「こんにちわ」
その一声でフレイとカズイは口論をピタリと止めた、来たか・・・・・。
分かっていたが俺は一応振り返るとそこにはラクスが立っていた、足元にはハロ。
ラクスはつかつかと食堂の中へ入ってきた。
「まあ、驚かせてしまったのならすみません。わたくし、喉が渇いて。それに
笑わないでくださいね。だいぶおなかも空いてしまいましたの。こちらは食堂ですか?
何かいただけると嬉しいのですけど」

 

どーぞ、どーぞ、むしろお待ちしておりました。しかしカズイとフレイはその
ラクスの言葉に難色を示す。
「か・・・鍵とかしてないわけ・・?」
「やだ、何でザフトの子が勝手に歩き回ってるの?」
その言葉に反応したラクスは忠実に電波な答えを発する。
「あら?勝手にではありませんわ、わたくしちゃんとお部屋でお聞きしましたのよ
出かけても良いですかーって、それも三度も。それに私はザフトではありませんわ
ザフトは軍の名称で正式にはゾリアックアライアンスオブ・・・・」
すばらしき電波な解答にカズイとフレイは言葉を失った、もっともそれが普通な
反応なんだろうが。しかし我らがフレイ様、ここで電波などには怯まない。
「なっ・・何だって一緒よ!コーディネーターなんだから!」
「同じではありませんわ、確かに私はコーディネーターですが軍の人間では
ありませんもの。アナタも軍の方では無いのでしょう?でしたらわたくしとアナタは
同じですわね。ご挨拶が遅れました、わたくしは・・・・」
とラクスが手を差し伸べる、さぁ来るぞ、来るぞ、フレイ様の反撃が・・。
「ちょっと!止めてよ!」
フレイは少し後ずさると両手を引っ込めた、しかし・・この二大悪女同士の頂上決戦も
これが最初で最後なんだよなぁ、本編では。まぁここでもその通りに行くと思うな。
お前らの戦いは俺がしっかり盛り上げてやるからさ。
「冗談じゃないわ!何で私がアンタなんかと握手しなくきゃなんないのよ
コーディネーターのくせに馴れ馴れしくしないで!」
フレイのその一言で室内が静まり返り、ミリアリアの念仏だけが静かに聞こえる。
ラクスはフレイに罵倒されたにも関わらずあまり効いてはいない様だ、一方の
フレイはラクスを睨み付けている。やっぱりラクスの方が少しばかり役者が上かぁ。
じゃあここで援護射撃いきますかね。俺は叫んだ。
「そうだ髪の色がキモいぞ!!キ・モ・い!キ・モ・い!」
俺は手を叩きながらそう言い、ちらっとカズイに目をやる、カズイは俺と目が合い
頷くと自分も手を叩きながら参加してきた。
「キ・モ・い!キ・モ・い!キ・モ・い!」
流石は従順たる俺の僕だ。それを見ていたフレイも手を叩きながら
「キ・モ・い!キ・モ・い!キ・モ・い!」
と乗ってきた。しかしそれでもラクスには全く動じる気配は無かい。この自分に
向けられたキモいコールの中でもケロっとしている。俺はキモいコールを一度中断した。

 

やはり電波女・・・一筋縄ではいかない・・・。俺は立ち上がりラクスの近くに行くと
「こいつ何か変な臭いがするぞ!ヤバい臭い鼻が曲がる・・・ハイ!く・さ・い!」
とキモいコールから次は臭いコールへと攻撃を切り替えた、当然それに呼応しカズイと
フレイも「く・さ・い!く・さ・い!」と攻撃を再開し始めた。俺はさらにそこに
キモいコールを追加し、「き・も・い!」と「く・さ・い」のダブルアタックで攻めた。
しかしきもいとくさいの織り成す波状攻撃にもラクスはビクともしない。少し不快そうな
ため息交じりの顔で「ふぅ」とだけ言うと食堂から出て行こうとしていた。流石は
ラクス・クライン、神に選ばれし女よ。普通のいじめなど通用しない。しかし逃がさん!
このままお前を逃がしたとあってはキラ様の名折れだ。俺はラクスの後ろにいたハロを
思いっきり蹴っ飛ばした。ハロはボールの様に食堂の中を跳ね、入り口とは反対側の
奥のほうへ飛んでいった。それを見ていたラクスは
「あら?ピンクちゃん?」
と言ってハロを取りに再び俺達の方へと近寄ってきた。俺はラクスの髪飾りをさっと
取った。案外簡単に取れた。俺が髪飾りを見ているとラクスが「返して下さいませ」と
俺から強制的に奪い返そうとしてきた。俺はラクスを押しのけようとしたが、ラクスの
力は尋常では無かった。俺の左腕があっさりと跳ね除けられてしまい、髪飾りを
持っている右腕を捕まれる、痛い、ラクスの握力は半端では無かった。俺は少し恐怖を
感じラクスを蹴り飛ばした。迂闊にもかなり力を入れて蹴ってしまい、ラクスは5mほど
吹き飛び、そのまま食堂の壁に激突してその場に倒れた。やばいな・・・死んだかも。
しかし次の瞬間、それが杞憂であったと思い知らされる。ラクスはむくりと起き上がると
近くに転がっていたハロを見つけ「まぁピンクちゃん、こんな所に居ましたのね」と
喜んでいた。こいつは・・・・バケモノだ。俺の本気の蹴りを食らって平然としてやがる。
その時だった、それまで何も言わず静かに座っていたサイがいきなり立ち上がると
「あああああああああああああ!!!」
目を見開き叫びながらラクスへ突進して行き、飛び膝蹴りを食らわせた。ラクスは顔面に
それをもろに食らい倒れる、俺は一瞬何が起こったか分からなかったがとりあえず
チャンスだと思い、俺は近くにあった椅子を掴むとそれを思いっきりラクスへ振り下ろした。
それが倒れていたラクスの背中にヒットし「ぐえ」というラクスらしからぬ悲鳴をあげた。
「お前ら!続け!」
俺の掛け声と同時にフレイとカズイが特攻を仕掛けた。カズイは起き上がろうとする
ラクスの頭をこれでもか!という位踏み付けまくり、そこへフレイが「みんなどいて!」と
叫びながら、渾身の力で食堂の長テーブルを持ち上げ、縦向きにしてラクスの上に叩き付けた。
さすがにこれで・・・・。そこへとどめと言わんばかりに、どこからともなく笑いながら
現れたミリアリアが倒れていたラクスへナイフを振り下ろそうとしていた。

 

いや、それはマズイ・・。俺はとっさにミリアリアの右腕を掴みナイフを取り上げ
ようとしたが、ミリアリアの力も案外強く、ナイフを取り上げるのに少し手間取った。
ここでラクスを殺すとフリーダムが手に入らなくなる。しかし・・・俺は倒れている
ラクスを見下ろす、これだけの猛攻だ、流石に死んだんじゃないか?勢い余って
少しやり過ぎたか・・・?カウンターから食堂のおにいさんが何事かとこちらを見ていたが
俺が「見てんじゃねーぞコラ」と言うとすぐに引っ込んだ。そこへすかさずフレイが再び
長テーブルを倒れていたラクスへ振り下ろした。グキャという鈍い音が食堂内に響き渡る。
「おい!ちょっと待て!」
俺が制止したが、フレイは再度長テーブルを振り上げるとそれをラクスへ振り下ろす。
グチャ・・・という肉が潰れる音それを聞いたフレイは息を切らせながらとても嬉しそうに
ニヤニヤと笑っていた。サイは血走った目を見開き、微動だにせず倒れているラクスを
見ている、ミリアリアは「クスクス」と笑みを浮かべていた。
唯一この中でまともなカズイが言葉を発する。
「やりましたねキラ様!俺達の勝利です」
これは勝利なのか・・・?俺はカズイに何と答えようか考えていたら、ラクスがむくりと
起き上がった。
「痛いですわ・・・皆さん・・酷いですわ・・・」
少し涙目なラクスの顔を見た俺は驚愕した。い、生きてるぅ!?しかも「痛い」程度で
済んだのか・・・。これがラクス・クライン・・。なるほどプク田が何故この二匹の
雌犬を衝突させなかったかやっと分かったぞ。レベルが違いすぎる、まともにやりあえば
まずまともなフレイに勝ち目は無い、もっとも今の覚醒したフレイ様なら話は別だが・・。
フレイは長テーブルを捨てると今度は武器を椅子に持ち替え、それをラクスへ振り下ろした。
一撃目が頭部にもろに当たり、倒れた所へ乱打乱打乱打。大声で笑いながら激しい攻撃を
繰り出すフレイに触発されたサイがまた「ああああああ!!」と目を見開き、叫びながら
椅子を手にすると一緒になってラクスを滅多打ちにした。ミリアリアもクスクスと笑いながら
近くに落ちていたハロでラクスを殴っている、まさに異様な光景・・・。俺はフレイと
サイにそれぞれ背負い投げを食らわせ、ミリアリアからハロを取り上げるとラクスを
立たせる。俺に投げ飛ばされたフレイが俺を睨み付けた。
「ちょっと、痛いじゃない!何すんのよ!」
「お前ら!こいつが何をしたって言うんだ!もう止めるんだ!」
俺はそう全員に言うとラクスの手を引っ張り食堂を出た、ラクスは俺の手に捕まり
歩いてくる。やはりあれだけの攻撃を受けただけあり、相当なダメージを負ったのだろう
フラフラしている、もっとも普通はあれで死んでいなければおかしいわけだが・・。

 

ラクスの部屋へつくとラクスは椅子に腰掛けた。
「またここにいなくてはいけませんの?」
それはそうだ、お前が居るとそれだけで何故か全員凶暴化する・・・。
「つまりませんわ・・・一人で・・・。わたくしもみなさまとお話しながらお食事を
いただきたいのに」
本気で言ってるのか?あそこにはまともにお話できる奴はあんまり居ないぞ。
「残念ですわね・・・。でもアナタは優しいんですのね」
それも本気で言ってるのか?元々俺がみんなの凶暴化に火をつけたのが始まりだ。
だが俺がラクスをあの場から助けだしたのも事実、もっとも頃合を見てラクスを助け出したのは
その言葉を引き出す為なんだが。
「いえいえ、実は僕もコーディネーターですから」
「でも、あなたが優しいのは、アナタだからでしょう?」
・・・・あれだけの事が起こったにも関わらず話の流れは元に戻りつつある・・・。
すげぇ脚本に毎回恐れ入るよ。しかしある程度はすでに予想通りだ、ここでフレイに全ての
罪をなすりつけ、俺は最終的に「いいひと」に。ラクスの機嫌を損ねるとそれこそフリーダムが
手に入らなくなるからな。全てはあの機体のために、こいつを潰すのはその後でも遅くは無い。
「お名前を教えていただけます?」
「がもうひろしです」
「・・・・・・・・・・・」
「間違えました、キラです。キラ・ヤマト」
「そう・・・ありがとう、キラ様」
俺は部屋を出る、廊下を歩いているとラクスの歌声が聞こえてきた、とりあえず
スピーカーも無いのに何故廊下にまで歌が聞こえてくる?俺は不思議に感じた。
「静かな~この夜に~あなたを~待ってるの~・・・・」
ポケットに手を入れるとラクスの髪飾りが入っていた。これを返すのは最後でいい。
奴を凸に引き渡す直前、その方が印象深いはず。ラクスの歌声はまだ聞こえてくる。
しかしこの歌唱力で歌姫とはちゃんちゃら笑える、所詮はどいつもこいつもつまる所
親の七光りか、嫌だねぇ、どこの世界でも生まれた時から勝ち組は決まってやがる。
だがラクスだけは七光りと神の加護を受けている、補正という名の過剰なまでの加護を。
攻撃は基本的には当たらない、そして当たったとしても効かないの二枚腰。こいつは
かなり難儀しそうな予感がするなぁ・・・。俺はラクスの髪飾りをポケットにしまい
自分の寝室へ戻っていった。

○つづく