クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第010話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:26:20

第十話 『わずか二機の制圧作戦だ』
 
 
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数日後・・・・・

ガイアとインパルスの修理がほとんど完了したという知らせを受け、
ガロードとシンはMSを隠してある洞窟に向かった

すでに修理を行ったジャンク屋は撤収した後であり、
後には綺麗になったDX、ガイア、フォースインパルスが残されている

「DXのダメージがほとんどなかったのは助かったよな
  この世界の人間に修理できるかわかんねぇもん
  装甲も特殊だしさ・・・・」

ガロードはDXのコクピットハッチで機体の状態をチェックする
特に大きな問題はなく、いますぐにでも動かせる状態だ

「しっかし、しばらくGハンマーで戦わなきゃいけねぇのかな
  一応、バスターライフルは携行してるけど、エネルギーパックの予備ねぇし・・・
  なんかこの世界のMS、実弾兵器が効きにくいもんなぁ」

ガロードはだいたいのチェックを終えた後、Gコンを引き抜いてDXの動力を落とした

DXから降りると、同じようにインパルスから降りてくるシンの姿が見える

「ちょ、ステラ・・・・降りにくいからずっと抱きつくのは勘弁してくれよ」
「うぇーい、うぇーい♪」

なんか、いちゃいちゃしている。ガロードは軽くため息をついた

「おい、シン。他人の恋愛にどうこう言うつもりはねぇけどよ、
  ちゃんとインパルスのチェックはできたんだろうな?」
「あのな。俺だって、ザフトの赤服だぜ」
ステラに腕を組まれたまま、シンがやってくる。

ここ数日の、ステラのシンに対するなつき方は、ほとんど甘える子猫のようなもので、
暇があればシンのそばにいるのだ。今日も本当ならガロードとシンだけでチェックする予定だったが、
無理矢理ステラがくっついて来ている

「だいたい、仕方ないだろ。ドクターが、ステラは俺のそばにいた方が、
  精神的に安定するっていうもんだから・・・・
  それにほら、そのおかげで、インパルスやDX見ても、敵とか言わないじゃないか」
まるでステラがそばにいるのは自分のせいではないと言いたげなシンだったが、
その態度はまんざらでもなさそうだった

「へぇへぇ、見せつけてくれちゃって」
ガロードは軽く肩をすくめると、三機のMSを見上げた
「インパルスもガイアも、バッテリーのチャージは終わってる
  ・・・・・そういや、DXの動力ってなんなんだ?」
「え・・・? DXの動力?」
シンの質問に、ガロードはぽかんと口を開けた
「これ、言ったらいいかずっと考えてたんだけどさ。DXって核エネルギーじゃないのか?
  バッテリーのチャージもやらずにずっと動いていたし・・・・。」
「・・・・・・・・・ひょっとして、核エンジンってまずいのか?」
ガロードがあっさりした顔で言う
「おい・・・・おまえ、まさか、ユニウス条約知らないのか!?
  核使用の機体は、製造も運用も禁止されてるだろう!
  ま、まさかデュランダル議長は全部承知の上でDXを造ったのか・・・!?」

驚愕を浮かべるシンに、ガロードはゆっくり首を振った
「デュランダルのおっさんは関係ねぇよ。シン、いつか俺は、全部おまえに説明する。その時まで待ってくれ」
「・・・・・・・・わかった。どういう事情なのか、知らないけどな」
「とりあえず帰ろうぜ。どうやってマハムールにあるザフトの基地に行くか、考えなきゃな」

マハムールはペルシャ湾(現在のイラク・クウェート近海)にある基地である
それがここ、ガルナハンの町から最も近いザフトの拠点だった

「そうだ、シン」
「なんだよ」
「もう『肉』なんて書くなよ」

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ガロード、シン、ステラがジープで洞窟から診療所に戻ると、昼食が用意されていた
カレーのようだ

「三人とも、ご苦労だったな。MSは問題なく整備できていたか?」
カレーを配膳しながら、テクスが言う
「ああ、ばっちりだったぜ。ひょー、うまそー」
ガロードが手もみをしながら席に着く
「そうか。しかし食べながらでいい、悪いニュースを聞いてくれないか」

言って、テクスは新聞と、PCから印刷したであろう紙を何枚か置いた
シンはそれを手に取り、思わず立ち上がる
コップがこぼれ、床に落ち、ぱりんと割れた

「ドクター・・・・こ、これ・・・・・! ち・・・・地球連合がプラントに宣戦布告・・・・
  核攻撃を行った・・・・!?」
「なんだって!?」
ガロードがカレーを食べるスプーンを置き、シンの持っている新聞をのぞき込む
ステラだけが意味もわからず、きょとんとしていた

「幸い、プラントは核攻撃からの防衛に成功し、被害は出ていないようだ
  だがやっていることは無茶苦茶だな。有無を言わせず核を撃つなど、
  暴挙以外のなにものでもない」
テクスが苦々しく、しかし冷静さを失わないままの口調で告げた

「じゃあ・・・全面戦争ってことですか・・・・。プラントと地球の!」
「ああ。デュランダル議長はあくまでも積極的自衛権の行使であるとの声明を発表しているが、
  事実上の全面戦争だろう。すでにあちこちで、武力衝突が起きているらしい」
「・・・核を撃ってまで・・・そんなに戦争がやりたいのかよ、地球のやつらはッ!
  あれだけ前の戦争で血を流しておいて、まだ足りないのか!」

ドン!

シンが壁を殴りつける。ステラがおびえるような顔になった

「シン・・・・怖い・・・・」
「・・・・・・ごめん、ステラ」
シンは無理矢理笑うと、席に着いた

食事が終わり、食器を片付けると、テクスが部屋から大きな紙製の地図を持ってきた
中東周辺の地図と、この町の地図だ

「我々もぼんやりしている場合ではないのでな。ザフトと合流する作戦を考えるとしよう」
「へ・・・・テクスって作戦立てられんの?」
ガロードがすっとんきょうな声をあげる。シンは知らないが、
テクスはほとんど軍事作戦にたずさわったことがないのだ

「確かに私はジャミルのような指揮官ではない。だが・・・・
  心理戦は不得手ではないのでね」

テクスはふっと笑うと、まずは中東の地図を出し、マハムールを指差した
「マハムールの基地から、すでにザフトの部隊が出撃し、ここガルナハンの町にある
  ローエングリンゲートを目指して進軍しているらしい」
「え・・・・どこの情報ですか、それは?」
シンが聞くが、テクスは首を振った
「それは後で説明する。まずは作戦を聞いてくれ」
「あ、はい」

テクスは次に町の地図を取り出し、ガルナハンの町近くにある連合軍の要塞、
ローエングリンゲートを指差した
「ローエングリンゲートは、その名の通り、ローエングリンと呼ばれる陽電子砲が配備されている
  これは極めて強力な兵器で、戦艦など一撃で粉微塵にしてしまうほどだ
  それに加え、MSやMAも多数配備されている。まさに鉄壁の要塞だな」
「おい、ちょっと待てよテクス。俺たち、ザフトと合流するのが目的だよな?
  なんで要塞の説明してんだ?」
ガロードがあわてて声をかける

「ザフトのローエングリンゲート攻略軍は、間違いなくここで壊滅するからだ。それでは合流できまい」
テクスがなんでもないことのように言う。シンもガロードも、意味がまったくわからなかった

テクスが言葉を続ける
「私は戦闘に出たことはないが、軍医として戦争はよく見てきた
  こちらに向かっているザフトの戦力では、とうていこの要衝を落とすことなどできんよ
  戦艦7に、陸上空母3。加えてザフトは、この町のレジスタンスにも協力を要請した
  ・・・・・ザフトは万全の体勢で挑んでいるつもりだろうがな・・・・」
「ドクター、おかしくないですか。それだとザフトはMSを100機以上投入しているじゃないですか
  そりゃ損害は出るかもしれませんけど・・・・・」
シンが反論する

「陽電子砲が数の意味を無くす。近づく戦艦、空母をローエングリンで破壊すれば、数などなんの意味もない」
「・・・・・・・・」
シンが黙る。そしてテクスは、ゆったりと首を振ってガロードとシンを交互に見た

「さて、君たちにはこの要塞を、二機のMSで落としてもらわねばならないわけだが」

その思わぬ言葉に、二人のパイロットは目を丸くした

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ガロードとシンは、テクスから作戦の説明を受けたあと、
反連合レジスタンスのメンバーに引き合わされた
テクスはレジスタンスのメンバーを治療したことがあるらしく、
その縁でメンバーではないものの、レジスタンスとつながりがあり、
今回の情報もそうやって手に入れたものだった

紹介されたレジスタンスのメンバーはシンにとって見覚えのある女の子だった

「あー、あんた!」
「お、おまえ・・・・こないだのガキ!」
「ガキじゃない、コニールだ!」
女の子とシンが同時に驚く。なんと相手は、ステラが脱走した夜に出会った、
コニールと名乗る少女だったのだ

「おや、シン。知り合いだったのか」
「別に知り合いってほどじゃないですよ、ドクター。ちょっとした縁です」

シンが困ったように頭をかくと、コニールがシンを指差した
「ドクター、大丈夫なのかよこいつらで。今度の作戦が失敗したら、いっぱい仲間がやられる・・・・」
「心配ない」

テクスはぽんと、ガロードとシンの肩を叩いた

「こう見えて二人とも、ザフトの赤服だ」
「えー。あんたらが、エリート集団、ザフトの赤服ぅ?」
コニールが、シンとガロードを交互に見回す。明らかに不信の目だった

「んだよ、なにか言いてぇことがあるなら言えよな」
ガロードがぷぅっと頬をふくらませ、コニールに詰め寄る
「がっかり。ザフトの赤服って、もっと颯爽としてカッコいいイメージだったのに・・・・・こんな下品なやつらだなんて」
「この野郎、下品だとぉ・・・・!?」
ガロードがわなわなと両手をふるわせる

「フッ。シン、ガロード、いいじゃないか。本番で君たちの腕を見せてやれば」

それからテクスは、ガロードとシンの時計合わせを確認した

「ザフトの軍がここに到着するのは、おそらく明日正午
  その直前に、DXとインパルスでローエングリンゲートを制圧する
  頼むぞ、わずか二機の制圧作戦だ」

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翌日まで、MSを隠してある洞窟で待機した
朝になると簡易食品で腹をふくらませ、軽く体を動かしてほぐす

十一時を越えたぐらいになるとガロードとシンはそれぞれのMSに乗り込み、
洞窟から出撃する

「ガロード・ラン、ガンダムダブルエックス、出るぜ!」

Gハンマーを背負ったDXが勢いよく出撃し、飛翔する

『シン・アスカ、フォースインパルス、行きます!』

それに追従するように、シンのインパルスも続いた

「それにしてもテクスも無茶な作戦立てるよなぁ・・・・」
ガロードがインパルスに通信を入れる
『まーな。MS100機でも制圧無理な拠点を、俺たちだけで制圧しろだもんな』
「でも、俺はこういう作戦の方が好きだぜ。軍での集団行動なんてジンマシンが出らぁ」
『おい、ザフトの赤服が言うことじゃないぞ』

シンの苦笑が聞こえる。やがて、ローエングリンゲートに近づくと二機は飛翔をやめ、
地上に着陸した

「さて、作戦開始だぜ!」

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ローエングリンゲートを守る司令官は、無能な男ではなかった
開戦が決まると、こちらに対するザフトの侵攻をすぐさまキャッチし、
万全の迎撃体制を整えるとともに、ガルナハンの町のレジスタンスの動きも知り、
内も外も万全に固めていた

(ザフトのMSが何百機攻めてこようと、ここは落とせんよ)

それが指揮官の自負である。それは過信ではなかった
本当の『運命』なら、ザフトによる最初のローエングリンゲート攻略は、
無残な失敗に終わっており、レジスタンスも大量の死者を出したのだから

しかしその『運命』は、一つの奇妙な報告によって大きく捻じ曲げられた

「司令! その・・・入電がありまして・・・・・」
ローエングリンゲートの通信士が、奇妙な顔つきで司令官を見る
「なんだ? こんな時期に入電だと?」
「ええ・・・・よ、読み上げます。『ローエングリンゲートはすでに陥落した。これ以上の抵抗は無意味である
  とっとと荷物まとめてうせやがれ。炎のモビルスーツ乗り、ガロード・ラン』」
「なにを寝ぼけたことを・・・・。どこのバカだ、そんなことを言っているのは」

司令官は怒る気にもならなかった
だいたい、平穏無事のローエングリンゲートのどこが、陥落しているのか
子供のいたずらかと司令官が思った、その時だった

「司令! 所属不明の、MSを二機確認!」
「なんだと? 二機・・・? ザフトにしては少ないな・・・どこのMSだ?」
「モニターに出します・・・・こ、これは!?」

司令室のモニターに、映像が映し出される。そこには二機のMSが確かにいた。
一機はインパルス、そしてもう一機は・・・・DXだった

「「「ゆ、『ユニウスの悪魔』ッ!!??」」」

司令室にいたほぼ全員が叫ぶ。連日、マスコミはプラントを悪者にするため、
悪魔の兵器としてDXを紹介した。それは逆に人々の心に恐怖心を植えつける結果となる
ここローエングリンゲートの軍人たちも、例外ではなかった

「司令! もう一度入電です! 『三十分以内に基地を放棄しない場合、
  ローエングリンゲートを跡形もなく破壊するぞ』・・・・と!」

モニタに映るDXが、ゆっくりとした動作で、両肩のサテライトキャノンを背負っていく
その光景は要塞の人間にとって、逃げられない獲物をじっくりと追い詰める蛇の姿に見えた

「相手は・・・・相手はたった一機のMSだぞ・・・・!」

司令官が怒鳴り散らすも、その顔は恐怖に引きつっていた
なにしろDXがユニウスセブンを破壊する映像は、これでもかというほどTVで流れたのだから
DXがサテライトキャノンを背負う仕草が、
ユニウスセブンを破壊した凄まじいエネルギー波を放出する準備であることを、
要塞の人間は誰一人の例外なく知っていた

「司令・・・・あれはユニウスセブンをたった一機で破壊したMSです・・・・
  ローエングリンゲートは対ビーム装備もしていますが・・・・
  あんなものが放たれたら、いくらこの要塞でもひとたまりもありません!」
兵士の一人が叫ぶ。司令官は眉間にしわをよせ、机をこぶしで叩いた

「諜報部はなぜ『ユニウスの悪魔』の所在をきちんと把握しておかなかったのだ・・・・
  準備不足のまま無理矢理戦争をやるから、こういうことになる!
  全軍に通達・・・・我々は・・・・基地を放棄する・・・・ッ!」

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DXがサテライトキャノンを構えているうちに、インパルスが基地司令部の近くに降り立ち、
ビームライフルを向けた瞬間、勝負は決まった

一発の銃弾も放たれないまま、MS100機でも落とせないと呼ばれた要塞は陥落したのだった

あわてて撤退していく、連合軍の車両や航空機
DXはその撤退がすべて完了するまで、サテライトキャノンを下ろさなかった
要塞が空になるのを確認すると、DXはガルナハンの町に降り立つ

「へっ、大成功だ、ざまーみろ!」
ガロードはぱちんと両手を叩くと、コクピットハッチを開けた

わぁぁぁぁぁぁぁ・・・・!

DXの足元では、ガルナハンの住民が歓声をあげている
よほど連合軍の駐屯がつらかったのだろうか、涙を流している人間もいた

「イェーイ! 皆さん出迎えサンキュー!!」
ガロードがぶんぶん両手を振りながらDXから降りると、頭をさわれたり抱きつかれたり、
挙句の果てに胴上げされたりと、ガルナハンの住民の手荒い歓迎を受ける

「ガロード、よくやったな」
テクスが人ごみをかきわけて、歓迎を受けるガロードのところにやってくる
「ヘッ、二機であの要塞落とせって言われたときは、どうなるかと思ったけどよ」
「サテライトキャノンは撃たなくとも、こういう使い方ができる
  今回はこちら側はもちろん、連合軍の死者もゼロだ
  こういう戦いができたことを、誇りに思うといい」
「おう・・・・ま、半分はテクスの作戦のおかげだけどな。にしてもそんなにコイツが怖いのかねぇ」

ガロードがDXを見上げる。いつもと変わらず、頼もしい姿だった

「しかしガロード、これからが大変だな。地球連合軍はDXを必ず目の敵にするだろう
  なにしろこのローエングリンゲートを落とした機体だからな」
「仕方ねぇさ。サテライトキャノンを撃ったときから、覚悟はしてら」
「やれやれ・・・・。とんでもないことなのだが、気楽に言うな、ガロードは」
テクスが苦笑する

そうしていると人ごみの中から、一人の少女があらわれた
「ごめん。さっきはバカにしちゃって・・・」
レジスタンスのコニールだった。嬉しいような、気まずいような、そんな顔をしている
「気にしてねぇよ。それより町が開放されたんだろ? もっとぱぁーっと喜ぼうぜ!」
「うん!」

言って、コニールはいきなりガロードに抱きつき、その頬にキスをした

「え・・・!?」
「あはは、こんなに嬉しいときだからさ、大目に見ろよな!」
コニールは頬を赤くして、人ごみの中に消えていく
ガロードは呆然としたまま、自分の頬をなでた

「ティファには内緒にしておくよ」
テクスが意地の悪い笑みを浮かべる。ガロードの顔が、かぁっと赤くなった

ごぉぉぉぉぉ・・・

司令部の制圧を終えたフォースインパルスが降りてくる
ガロードと同じように住民の手荒い歓迎を受けていた

シンはそれをかきわけ、こちらにやってくる
いつの間にかその腕にはステラがくっついていた

「ガロード」
シンがすっと右腕をあげる
「おう」
ガロードはその手のひらを思いっきり叩いた

パン!

景気のいい音がした。そのハイタッチは、歓声に負けないほど、大きく澄んだ音だった

その時、東南の方から土煙をあげてやってくる、ザフトの陸上戦艦が見えた